Twitterでクローズアップ現代+の感想が流れてきました。
カワウソの密輸人を捕まえた警察、「どこで手に入れたの?」「いやちょっと……」と言いよどむ密輸人に対して「自分で産んだのか!?」と畳み掛けていて想像力を感じた
— kentz1 (@kentz1) 2019年3月27日
ここでカワウソの密輸について論じるつもりはありません。またの機会にしましょう。ふと「本当に産んだらどうなるのか」と私の想像は進んでいきました。
「分娩主義」という法律用語があります。昔は親子関係を推定する方法がほとんどないことから、「母から分娩された」という事実を持って、母子関係を認定していました。ところが受精卵を使った代理母出産などでは、遺伝的な親子関係を持たない「母」が生まれることでその制度の限界が指摘されています。
さて、今回はこの限界についても論じません。制度は変更される必要があるのですが、私の想像は「本当に産んだらどうなるのか」です。そうするとある一つの作品が頭に浮かびました。
AI hasegawa さんの「私はイルカを産みたい」です。
Ai Hasegawa - I Wanna Deliver a Dolphin… これも実子になっちゃう。分娩によって実子が決まる法制度だとイルカが実子に。アニマルライツがひっくり返るなと。 https://t.co/WVRYOU82Th
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2019年3月28日
子宮という女体を持って生まれた人しか持たない臓器を、主体的に用途を決める、という発想の延長でしょう。残念ながら私はその臓器を持たずに生まれたことから、これまでいまひとつピンとこない作品でした。
ところが、他哺乳類の、あるいは多脊椎動物の「分娩」が行える技術ができてしまったら。それこそ先の事件のカワウソを「産んだ」と言い張ってしまえる技術レベルに達したら。
実子であるカワウソを無賃乗車させたことは怒られるけど密輸とは言えなくなっちゃう。虐待の疑いで児相?わからなくなってきた。分娩していないことを立証しないといけない。 https://t.co/nA4wAdHFc7
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2019年3月28日
アニマルライツの世界は大きく変革するしかありません。「実子」なのです。つまり分娩主義、という時代遅れの法律と、時代の最先端の技術が融合することで、アニマルライツを大きく破壊する存在が生まれてしまうのです。
すると、アニマルライツが大きく変革した先の未来、という映画があったことを思い出します。ズートピアです。
ズートピアに昆虫食は出てこない、で考察しましたが、ズートピアが出来上がるためには、動物園にいる動物たちに大きなアニマルライツの変化があったことが想像されました。これでようやくその謎が解けました。二足歩行で頭が大きく、人間に近いプロポーションは、つまりは人間に分娩されやすくなるためのものだったのです。そして分娩主義の法律によって人間の「実子」として二足歩行で人語を解する哺乳類が生み出されたのでしょう。つまり卵生の鳥がおらず、昆虫に人権がなさそうなのも、「分娩」されなかったからです! うーむこれは新しい発見だ。そしてさらにこの作品が思い出されました。分娩(出産)を暴力として使う女性の話。
表題作を読了。すごい。著者が女性のためか、腕力というわかりやすい暴力を選択せずに、社会的な暴力が時代の変遷とともに表出する様子が余計にグロテスク。脇役として登場する昆虫食の描写も緻密ですごくいいです。→村田沙耶香 の 殺人出産 https://t.co/EBptW3te7N
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2017年6月27日
昆虫食が絡むSF、というのは男女問わず様々な著者が書かれていて、「殺人出産」もとてもいいものですね。これまでSF作家というグループが男性に占められていたせいで失われてしまった、多様な発想があったのだろう、ということを想像させてくれます。ジェンダーイコーリティが達成されることで死なずに済むアイデアが増えていくことを私は期待します。