日本に戻ってラオスに行けないうちに、本が出ることになりました。
近頃ブログ更新が告知ばかりだったのはこの原稿を書いていたからです。
これまでいろんな昆虫食本の手伝いをしてきましたが、単著は初めて。
どうぞご予約を。
「ブログで書いた文字数に比べたら10万字なんて」と思って引き受けたことですが、めちゃめちゃつらかった、、、
一つの書籍として整合性を持たせるためには、数千字の「記事」を100個並べたところで本にはならないんです。(連載をまとめた書籍という体裁はありますが)そのため以前に指摘したことをあとから言及したり、まだ説明していないことを先に出してはいけなかったり、時系列をあえて逆順にすることで理解をなめらかにしたり、と今まで使ったことのない脳の部分を酷使する経験でした。
情報の整合性をとるため、ブログの記事単位で勘違いしていた過去のことを掘り返し、時系列を整理した年表を作り、そしてラオス編を放置していた味見スコアリングを整理し直し、それまで380種までまとめていた味見が、結局419種まで味見していたことが判明。その中から厳選10種を紹介しています。
(今回は図鑑ではないので、味見の全情報はまた別の機会に。)
締め切りも自分で設定することが難しく、一日何文字、という見積もりも当てにならず、編集の方々に尻を叩いてもらいながら、えんやこらせと書き続けました。こんな地獄を本を書いたみなさんは超えてきたのか、、、
そして本として仕上げるために、どうしても避けられなかったのが
「ブログで書いてこなかったこと」です。
このブログは私が書きたいこと、書いて楽しいことを垂れ流すことで、私の気分を良くすることが目的の文章たちです。そのため「何やってるかわからないヒト」と言われていました。昆虫食以外、何をやっているか。まぁ何もやっていなかったわけです。恥ずかしいのでそれを隠してきました。
大学院でのドロップアウト、就職の失敗、論文にならないだろう衝動的な昆虫食の試行錯誤、いろいろな理由でラオスに行くまでがなかなかしんどくて、思い出すことすらつらくて、書き続けることが大変でした。
そして私の喜怒哀楽。「興奮」と「好奇心」ぐらいしか認知できる感情がないもので、その時の情景を描写しても、いっこうに私の感情が思い出せないのです。なかなか困った性質をもっていることが、いまさらわかってきました。
しかし一般書ですから、著者の失敗、喜怒哀楽こそが物語のエッセンスです。ですが「ついに大成功」というカタルシスは、この本にはあまりないです。
12年、まるまる20代と30代のちょっとをかけてようやく、私に居場所のようなものが、徐々にできたかもしれないぞ、というささやかな変人の社会復帰のお話です。
2020年当初、書籍のお話をいただくちょっと前、こんな目標を掲げました。
「弱さを表明する」
2020年の抱負は「弱さを表明する」にします。
— 「おいしい昆虫記」という本が出ます!蟲喰ロトワ(むしくろとわ)@ラオスから緊急帰国中 (@Mushi_Kurotowa) January 5, 2020
今年前半、この書籍によって、やりきったとおもいます。
あつ森の記事でも、その「弱さの表明」の部分は意識して書いたつもりです。
やはり弱さを表明するには、失敗を表明しないといけない。弱さを表明できることがすなわち社会的強者の証明、みたいな使い方もしたくない。そのため弱さの表明が成功への「前フリ」ではなくて、人生そのものは、どちらかというと失敗のほうにある、ということが伝わればと思います。
私自身は結果的にヒトに恵まれたのでこの書籍ができたのですが、才能があったわけではなく、ただやり続けて止めるタイミングがなかっただけです。
あまり、みなさんに成功のカタルシスを届けることはできないのですが、失敗の続くほの暗い人生を続けるに当たって、
「よくわからないけれどやめそびれたこと」が、弱い依存先の一つになるかもしれない、という話になっているかと思います。
当初の初稿はあまりに卑屈で暗すぎて、編集のみなさんによって読みやすく、薄曇りぐらいの明るさに調整していただきました。そういう意味で「単著」といいながら私はあくまで責任著者であって、様々なクレジットによってこの本が完成したことを強調しておきたいと思います。
おもしろかったらクレジットのみなさんのおかげ、つまらなかったら私のせいです。
そしてなんと、イラストにじゅえき太郎さんが参加してくださいました。まだ直接お会いできていないのですが、生粋の虫好きで、昆虫食もOK、そしてリアルよりの虫も描きつつ、「ゆるふわ昆虫図鑑」という作風もできちゃうという、多才な方です。
ぜひまたお会いできることを楽しみにしつつ、ひとまず入稿が終わりました。実は結構前に予約できる状態だったのですが、入稿するまで自分自身が信じられず、告知をする勇気がありませんでした。
3月の帰国時は、7月にはもうラオスに帰っていると思っていたのですが、ラオスの国境制限と、次のJICAプロジェクトの開始の遅れから、8月後半から9月以降になってしまうのではないか!と戦々恐々としながら日本での時間を過ごしています。
発売日を日本で迎えることになるかもしれません。販促イベントなどへのお誘い、お待ちしております。
ラオスのほうも、今後のプロジェクトのあと、私がいなくてもシステムが回ることを目標の一つとしていたのですが、プロジェクト開始前に私の不在の数ヶ月が挟み込まれることになり、いろいろと不具合が見えてきました。
ラオスに戻れたら、ラオス人スタッフを育てつつ、そして外から新たな人材を取り入れながら、オンラインとオフラインのメリハリのついたプロジェクトに仕上げていこうと思います。
予約してください! おそらく当分の間、電子書籍化の予定はありません!
書籍の予約、というのは「商品である文章を読む前に買うことを決める」という意味でギャンブルでもあります。
Twitterで「予約しました!」とリプライがあるたびに、おもしろくない文章を売りつける詐欺を働いてしまうのではないか、とお礼を言いながらヒザがガクガク来ています。
そうか書籍を出すヒトはこんな気持ちなのか、と、新しいタイプのストレスを味わうことができました。
心の平穏はまだまだ先ですが、自ら招いたいろんなストレスを、自分なりにじっくりと味わい、おいしく人生をすすめる準備は、20代のころより整ってきたように思います。
先の害虫展のレセプションで、おそらく4年ぶりぐらいに絵本作家の舘野さんにお会いしたのですが、「なんか雰囲気がよくなった」と言われました。
昔はもっと張り詰めていたとのことです。自分では変化したつもりはないのですが、周囲が存在を認めつづけてくれたおかげかもしれない、と思っています。
ブログ共々、私の文章を今後ともよろしくお願いいたします。