オオミノガ Eumeta japonica
Eumeta variegata 2011年より学名が統一されたそうです。
以前の記事で、地域によっては絶滅が危惧されているものの、
味見をして後悔していたのですが、
その後オオミノガ自体が移入種らしいとのこともあり
専門家同士でも保護すべきか意見が別れるらしいとお聞きしました。
保全の意思決定は専門家に任せるのはもちろんですが
私のようなアマチュアは「必要以上に採集しない」
「採集した場合は学術的価値の高い状態で保存する=ラベル付きの標本にする」
ことをきちんと自覚しておくべきだと思います。
そのためオオミノガについては、
味見以降食べる予定はありませんでした。
ところが
その後、虫cafe2014にて鱗翅目の味見について発表したところ、
ミノガの専門家、新津修平博士がお声をかけてくださいました。
「オオミノガメス成虫の味見をしてもらえませんか」
なんと共同研究(?)の申し出。わくわくします。
オオミノガの興味深い生態を教えていただきました。
1,ミノガのメスは一生ミノから出ず、オスがフェロモンに引き寄せられて交尾に来る
2,メスの羽化は蛹の上部が外れるだけで、殻を脱がない。外れた上部からは頭部が顔を出す。
3,メスの交接孔は頭部付近にあり、オスはミノの下部から交接器を挿入し、ミノの上部で
折り返し、交接孔へとアクセス、交尾する。
4,交尾後のメスは数日後にミノの中に卵を放出して、ぺちゃんこになってしまう。
いやー理解するのに時間がかかった。(というか何度も間違えた。)
ミノを切り開いたところ。右が上部
中を取り出してみた。右が頭部。頭を上にしてミノに入っている。
羽化。オスが下からアクセスするので、下部だけ開くものと勘違いしていた。
予想外に上部が開いたので、ミノに戻す時間違えたかと。
正しくは左が頭。 ミノは右が上部なので羽化時は逆方向。
尾部だと思っていた頭部。大量の毛が出てくるが頭っぽくない。
交接器に見えていた。
蛹の殻の残りを切り開く。皮が薄く、傷つけてしまった。
左が頭部。
茹でた後。内部がぎっちり卵だということがわかる。
ホタテと比較。精巣と食感がよく似ている。
味見
蛹の殻を取り去った表皮はきわめて薄く繊細。歯をあてたときのプチッと感はほとんどなく、香る木の香りとわずかな収斂味。上質な栗のような素朴な甘み。卵のつぶはいずれもやわらかく、口の中でほぐれ、スクラブ感のある食感ととも広がっていく。抜群。栗スイーツとして商品化したいぐらい。これは美味い。オオミノガヤドリバエの気持ちがわかってしまう。
今回は新津修平博士に詳しいアドバイスを頂きました。
2011年に学名が更新されていたことも教えていただきました。
ありがとうございました。
さて、
今回は味見、という形で研究者とつながることができました。
やはりヒト一人の常識では、昆虫を理解することは困難です。
オオミノガ一種をとっても、その発想と実践は、
ヒトの想像力を易易と越えていきます。
しかも、
昆虫は100万種という膨大なアーカイブとして存在し、
それらにきちんとアクセスするには、一人の力ではどうにもなりません。
つまり、
「昆虫アーカイブにアクセスするには、目的に応じた人的ネットワークを構築するしか無い」
といえそうです。
つまり「ある地域で、ニーズに応じた昆虫食を提案できるネットワークを構築した者」
が、いわゆる昆虫食研究者、といえる存在になるのではないでしょうか。
これは今までの
「研究者不在」の養殖昆虫ベンチャーを見ていて気づいたことです。
彼らは「効率」をウリ文句に、多くの投資を集め、投資が多いほどその効率が
上がることを示すことで、会社を維持しています。
ところが、
その規模が十分に巨大になった時、
既存の昆虫食文化はどうなるでしょうか。
生態系はどうなるでしょうか。莫大な投資を蹴ってそれらを守る経営者は
いるのでしょうか。
昆虫食を進めるにあたって、
やはり、昆虫研究者を手放すべきでない、
と思います。
それは
タイでのコオロギ養殖を軌道に乗せている
応用昆虫学の教授を見ていても思います。
研究者を通じて、生態系に考慮した形で、
更に社会の昆虫への偏見を減らしていくような
「研究者ネットワーク型・課題解決型の昆虫研究体制」を作るべきではないか、
と考えています。
その時、
日本という教育の行き届いた、膨大な標本をもち、多くのアマチュア昆虫研究者を
抱え、しかも昆虫食文化のある、特異な国の真価が発揮されるのではないでしょうか。