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「昆虫食は未来の食糧問題を解決する」という話を巷でよく聞くようになりました。

「日本の風邪には」「ルルが効く」みたいなもんで、
「未来の食糧問題に」「昆虫食」とよく言われます。ゴロがいいですね。

うん。わかりやすい。

この文章はキャッチーですが、昆虫食に対する優良誤認を与えかねない文言なので、慎重に使っています。「昆虫食が未来の食糧問題を解決?」のような疑問形で言い切りを回避することが多いです。これも一時的な責任回避であって無責任と批判されても仕方ありません。当然ながら、「それって本当?」という質問や問い合わせも増えてきていますので、その説明責任を果たすべく、この記事を書きました。

さて、このキャッチフレーズには二つの大きな問題があります。

1つは、食糧や人口予測に対し、昆虫食が影響する根拠がまだまだ弱いこと。

もう1つは、解決すべき「未来の食糧問題」の設定があやふやであることです。


1、食糧や人口予測に対し、昆虫食が影響する根拠がまだまだ弱い

地球規模の未来予測には数多くのパラメーターが関与していますが、いまのデータが揃っていない昆虫食では、それらに影響できるほどの確たる根拠がありません。昆虫の中では一番データが揃っているコオロギですら、まだ技術的未来予測を含む段階です。ひとまずこちらにまとめましたのでお読みください。

コオロギ食について整理してみないか 1
コオロギ食について整理してみないか 2
コオロギ食について整理してみないか 3

温室効果ガスのデータがあるコオロギでこのまま突き進めばいい、というわけでもありません。コオロギの餌の組成が、人の健康に適した栄養バランスである以上、コオロギの餌となる穀物、大豆、魚粉などの供給が人の食料と競合しかねないからです。また、コオロギ養殖の主な環境負荷要因が、コオロギの餌の生産(ニワトリ用配合飼料の生産)であるとの指摘もされていますので、そもそも食用と競合しかねない飼料を生産すべきか、という前提まで検討する必要があります。他の昆虫、特に「人には十分足りている栄養成分のバイオマスを餌とする昆虫」あるいは「人が食べても栄養にならない餌を食べる昆虫」を検討し、単純な効率ではなく、機能としての養殖昆虫を検討しないといけないと考えています。

表題の煽り文句をちょっとマイルドにするならば、
現段階のデータでは、「未来予測に必要な昆虫食のエビデンスが揃ってない。」といったところでしょうか。食糧危機の根拠によく使われている、世界の人口増加予想も、出生率が変わるだけで、大きく発散する可能性もあれば、小さくおさまってしまう可能性もあります。

https://population.un.org/wpp/Graphs/DemographicProfiles/ から引用

現状では、この世界的な出生率に影響しそうな、あるいは出生率に応じた世界的な食料増産につながるような、強いエビデンスはまだありません。昆虫食の戦いはこれからだ!といったところです。


2、解決すべき「未来の食糧問題」の設定があやふや

こちらの方が問題は大きいでしょう。世界人口の増加から予測される「未来の食糧問題」は総量を想定していますが、総量が足りなくなってから訪れる未来の食糧問題、という想定は、現在の食料問題を反映していません。
現在の食料問題は総量不足ではなく分配の不均衡ですので、「未来」と「現在」の問題を切り離してしまった結果、「食料が適切に分配される社会システムが整った未来において」という、無理のある設定を「未来の食糧問題」に込めてしまっているのです。

このような都合のいい「未来の食料問題」に対して、昆虫食が貢献する可能性を積み重ねてしまうのはむしろ、実現性を怪しくするでしょう。総量がほぼ足りている現在ですら、分配の不均衡から栄養の問題が発生していますので、総量が足りなくなる未来になれば、その不均衡はさらに悪化すると考えるのが順当でしょう。現在の昆虫食マーケティングによって富裕層に昆虫を食べ始めさせることが、かえって貧困層の食用昆虫を将来的に奪ってしまう可能性すらあります。ではどうすればいいか。


私からの提案は昆虫食の未来予測をするためにも、

「昆虫食は、現在の食料問題を解決できるか」から始めませんか、です。

私は、ラオスの栄養問題に対応すべく、ここに来ています。
栄養問題といっても一般的に思いつきがちなガリガリのお腹の空いた子供たち、のような「飢餓による痩せ」はラオスでは大きな問題ではなく、お腹は空いていません。「カロリーは足りているが他の栄養素が足りない」という低身長の子供達が多い状況です。
では他の栄養素にアクセスできるにはどうすればいいか。単純に栄養のあるサプリをプレゼントしても、彼らが自力で栄養を得る手段にはつながりません。足りていない栄養を補う技術として養殖昆虫食を提案しているところですが、同時に教育や貧困対策も複合的に関わってきます。ではどのようにアプローチできるか。これは国際協力における「地域保健」と呼ばれる分野になります。貧困と栄養は分けて考えられがちですが、「洪水により作物がとれなかったときに現金で市場に買いに行ける」といった具合に、現金収入の向上は間接的に栄養改善にも影響します。なので、我々の技術提供によって養殖された昆虫が直接農家に食べられなかったとしても、複合的に栄養改善につなげるサポート体制を整えようとしています。
そして、この活動は現場の生のデータがとれる「昆虫養殖場」がラオスに誕生することでもあります。地域の自給自足のバイオマスを使い、廃棄物は土地に還元し、村で利用されてこなかった余剰のバイオマスから、栄養バランスのいい食品へと濃縮する機能性が、昆虫に求められています。その第一目的は、交通の便が悪く、現金収入のほとんどない村落において、都市部に遜色ない昆虫養殖のランニングコストを達成するためですが、それは同時に、持続可能な昆虫農業の新しいモデルを作ることでもあります。


昆虫食文化のある地域において、その地域にあるバイオマスを使い、僻地であっても持続可能な農業が栄養を補っていく、あるいは地域外に向けて現金収入になる生業を普及させていくというアイデアは、昆虫を使うこと以外はまったく王道の、オーソドックスな国際協力といえます。そしてそのような「現場」が生まれることは、昆虫食に足りない様々なエビデンスの源泉といえるでしょう。
ラオスには昆虫食に対する偏見はありません。苦情を言ってくるご近所もいません。私の今の借家の大家さんも寛容で、環境は整っています。つまりこれまでの昆虫食普及論で言われがちだった「これから社会の偏見を減らす必要があるだろう」と締めくくることはできないのです。とても責任を感じてヒリヒリします。
昆虫食は「採集から養殖へ」という大きなポテンシャルがありながら、昆虫養殖を使って栄養を届ける国際協力プロジェクトはこれまでほとんどありませんでした。なぜなら先進国に昆虫食の概念がなかったために、他の家畜や農業に比べて知識や技術も乏しく、成功例もなかったからです。
一方で、すでに栄養の足りている先進国の間で「昆虫食には栄養がある!」「未来の栄養!」と(私を含めて)声をあげてビジネス化を急いでしまうことは、今まで昆虫以外の生物で起こってきた、遺伝資源の搾取や文化の盗用につながりかねない、危なっかしい状況と感じています。

あなたが食べている昆虫、本当に持続可能ですか。
あなたが誰かに食べさせている昆虫、本当に持続可能ですか。

私は月に3から4回、村に出張して最初の昆虫農家を指導しながら、都市部の拠点では3種類の昆虫について、卵の安定供給のための技術開発をしながら、村にあるバイオマスをつかって餌を完全自給できるよう、組成を改良する実験もしています。当然ながら、人材と資金が足りません。
未来の話をするためにも、「現在の食料問題に」「昆虫食で」できることはありませんか?

これがうまいこといったら、
「現在の食料問題には昆虫食が効く」ので
「未来の食料問題にも昆虫食が効きそうだ」ということが
ようやく言えてくると思います。

様々な背景を持つ、みなさんの参入を歓迎します。

ラオスに来てしばらく見守ってきたマンゴーイナズマ。以前にイナズマチョウの仲間でありながら毒がないことを確認しましたので、
私は調子に乗っています。

お、いっちょまえに毒のある虫っぽいムーブをするやんけ、かわいのうかわいいのう。

借りている家の庭にマンゴーがたくさん生えており、大家さんからも自由にマンゴー食っていいと言われているので、確認してはいないですがマンゴーイナズマも自由に食べていいはずです。

彼らは大食漢なのですが、他のイモムシのようにひと枝まるごと丸坊主にすることはありませんでした。擬態の背景として欠けのない葉も残しておく必要があるためでしょう。頻繁に場所を移動しながら食っているようです。そしてあの擬態のうまさですから、食痕がみつかるわりには、なかなか見つからないのです。見つけた時にはもう蛹になっていることもよくあります。お見事。

Euthalia aconthea 蛹。なめらかな内部と適度な噛みごたえの外皮がおいしく、渋みも苦味もまったくないスッキリした味わい。
マンゴーから豆腐がとれたようでうれしい。
美しい多面体でどこから見てもエッジが美しい。

ようやく2頭の成熟した幼虫を見つけ、冷凍し、料理開発に備えていました。

私は考えていたのです。マンゴーイナズマの擬態を生かす、美味しい料理をつくりたいと。

大葉の天ぷらのように、マンゴーの葉ごと天ぷらにしてしまう、ということも考えたのですが、マンゴーの葉をかじってみると苦味と渋みがあり、風味がなくあまりマンゴーイナズマを載せるものとしていい味とは言えません。

すると、ふと目についたのがまだ熟れていない青いマンゴー。

マンゴーは他の果物とは異なり、熟れていない状態でも渋みがありません。
酸っぱく、すっきりとした味わいですので、完熟マンゴーの甘さに飽きた時にオススメです。
ラオス人も青いマンゴーが好きで、皮をむき野菜スティックのように切った青マンゴーに塩や唐辛子の粉をちょいちょいとつけて食べています。

このとき、ふつう皮は食べないのですが、ふと「チップスにしてみたらどうだろう」と思い、実験してみました。
青マンゴーのフルーツチップスです。めんどくさいので皮ごとスライスしてみたところ、この皮がパリッパリになって、
身の部分はナスの揚げ物のようにしっとりしなやかになり、なんともおいしい酸味の爽やかなフルーツチップスができました。これはおもしろい。

青いマンゴーをスライスします。
揚げると青マンゴーチップス。

身の部分が柔らかでパリパリにならないので、長期保存はできなそうですが、食べた後酸味ですっきりするので、焼肉のお供なんかにいいと思います。

基本の青マンゴーチップスができたので、次はマンゴーイナズマ擬態チップスです。

スライスした青マンゴーに
軽く衣をつけておきます。
解凍したマンゴーイナズマを載せて

ジュー。

この分岐した毛がサクフワな食感でめちゃめちゃ美味しいです。体は適度に水気がのこってホックホク。
おいしく揚がりました。擬態チップスですので普通のと一緒にしておきましょう。

マンゴーイナズマは加熱すると美しいグリーンが消えてオレンジになるのですが、それもマンゴーっぽくていいですね。

それでは実食
毛がサックサクでコクも旨味もあって、青マンゴーの皮の部分がカリッカリで酸っぱくて食べた後すっきり。マジ美味しい。売れる。これはマンゴーの新しい恵みだ。

本当に美味しいです。これは養殖するしかない。

食べてみて感想を書いて気づいたのですが、「カリカリでふわふわ」という美味しさが、今までの食品ではおそらく存在しないのではないかと思います。というのも分岐を必要とするからです。
マンゴーイナズマのしなやかな毛から揚げ調理によって水分が抜け、毛先はふわふわ、根元はカリカリになることで
同時にカリフワが達成します。ところが、分岐によるテクスチャをもつ食材は普通見当たりませんし、連続整形できないので、
加工品でも見ることはないと思います。(もしあったら教えてください)不均一な混合物ではなく、単一の食材が、異なるテクスチャを口の中で演出する、という面白みを感じました。これはもっと拡張性があるので考えたいところです。3Dプリンタ食品なんかも、分岐が得意な形成技術なので今後登場するかもしれません。

一つの夢が叶いました。

勘違いする人がいるといけないのであらかじめ断っておきますが、日本産ヨナグニサンを採集できるところはありません。
沖縄にしか分布せず、沖縄の条例で県全域で採集が禁止されてしまっているからです。

なにしろ翅の面積が世界最大と言われていた蛾(どうやら第二位らしいですが)、
日本最大は揺るぎません。コレクション欲求から開発で減ってしまった彼らにとどめをさすこともあり得る、との判断だったのでしょう。

某所保護施設では養殖ヨナグニサンがあるとのことですし、研究という形であれば許可を得られる可能性もあるらしいとの噂も聞きました。「味見をしたい」が果たして研究として認めてもらえるのか。悶々としていましたが、ここで大きな誤解をしていたのです。

和名ヨナグニサンというぐらいですから与那国の固有種だと勘違いしていました。東南アジアに広く分布するとのことです!

話はそれますが、同じように東南アジアに広く分布するタイワンタガメ、タイワンツチイナゴ、タイワンダイコクコガネなんかも
和名が誤解を招きそうです。ルール化をしていくといいんだろうなぁと思います。特に海外種の和名付けのルール。

ということで、私もラオスに滞在することになり、いつかヨナグニサンに出会えたらいいなと思っておりました。

そしてついに、その日が来たのです。

その日というのはラオスに工場をもつ日本の会社の社長さんがこちらに来られるとのことで、街の日本人に声をかけて夕食会をする、というものでした。社長さんに我が家で育てた焼きゾウムシを食べてもらえたので、これはこれで満足なのですが、
まぁ他にやることが溜まっていて、飲み会に参加するのもしんどいなと思いながらの帰宅だったのです。

レストランを出て家に帰る途中の、大きな街路樹のある道路。自転車で帰りつつ、右目の隅に、枯葉がふわりとはためくのを、ヘッドライトが照らしたような気がしたのです。

もう一度振り返ると、またふわり。

いたーーーー!!!!!!!

ヨナグニサン Attacus atlas

感動ですよ。というか飲み会帰りという日常の一コマにやってきたヨナグニサン。心臓に悪いほどびっくりしました。夜中に道端でウオオオッて吠える変な外国人が誕生してしまいました。近所の犬に少し吠えられました。犬は正しい。

Attacus atlas
Attacus atlas
Attacus atlas
Attacus atlas
Attacus atlas

さて、茹でていただきましょう。
腹部に残るバシッバシっとはじける卵のコクとすこし苦味と木の香があるが気にならない。
ヤママユガの普通の味。翅の面積にくらべてさほど体は大きくないので、
タサール蚕のほうがボリュームがあった。ぜひ次は幼虫を。食樹を探そう。

成虫になると翅の面積にもっていかれちゃって、やはりボリュームがあるのは幼虫だと思うんです。

トウダイグサ科がいけるらしいんですが、探してみます。

もうあまりに嬉しくて、翌日この写真を見せながら、一緒に仕事をするラオス人スタッフに言ったんですよ。
「あぁこれよく街灯に集まってよくいる。もっとでかいのもみたことあるよ」

…そうだけど!東南アジアに広く分布する普通種だけど! わたしにとっては幻の虫で嬉しいんだよ!

外国人がマイマイカブリにはしゃぐ気持ちが少しわかりました。