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あの終わり方がハッピーエンドだと仮定した場合、

どう考えても食べてる。少なくとも間接的に利用している。と考えるしかないんですあの世界は。
さらにいうと、「昆虫食」という発想すらないかもしれない。「持続可能なカガステル農業」を考えたとき、すでに唯一の食料源がカガステルになっている可能性すらあります。

さて突然、無茶ぶりでトクロン先生から振られていたネタを、一年ぶりぐらいに回収します。頭の隅に引っかかっていたのが、ついに結論を得ました。

カガステルの考察の難しさは、公式設定としての「語り部」がいないことです。(進撃の巨人では現在公開可能な情報、という第4の壁を破るような公式設定が、読者を誘導する役割を果たしていましたが)
そして一見すると、ポストアポカリプス的な世界ゆえに、語られる状況がもうすぐ滅亡することを示しているのか、それとも再生の途上なのか、それとも持続可能な定常状態なのか、判断する要素が少ないことです。

またその原因が「大戦」と「カガステル」という2つの破局を経験した後なので、今の状況がどちらの破局の結果なのか、判別しにくい。さらにもう一つ、ラストまで「総括」がなかったことで、なんとなくいい雰囲気のラストシーンのあと、どんな未来が待っているのか、暗示されていないことです。コレは困った。

劇中のカガステルは、モンスター・パニックの要素と、ミリタリーアクションの要素、そして(人間がモンスターに変わるという意味での)ゾンビものの要素を併せ持つわけですが、そこに「食」と「生殖」がからまってくると、ジャンル別だったものが、全体のシステムの関係性や持続可能性について読者が気になってきてしまう、という状況にあります。私もフードシステムが気になってしまって、本命のストーリーが頭に入らなくなることがありました。

これはうまく整理しないと、モンスターの要素とゾンビの要素が文字通り「食い合って」しまうという意味で、どっちつかずになってしまう、やややこしい作劇の問題です。おそらく作中において、あえて濁すような言い回しもありますので、野暮に明快にしないほうがいいのかもしれません。しかしSDGsを定義した2030アジェンダにもこう書いてあるわけです。「すべてのゴールは統合され不可分」のです。せっかくですので、ハッピーエンドに終わるための持続可能なカガステル農業の未来に向けて、ここはSDGs的な最適解を目指しましょう。

カガステルが誰かにデザインされた、目的を持った生物であるかどうか、は結局濁されています。これもまためんどくさいです。しかしカガステル研究者だった親子、エメト・キーリオとフランツ・キーリオ父子が「人類の進化では」との仮説で20年以上、研究を進めてきたわけで、彼らの遺志をつぐことにしましょう。

カガステルは人類の進化であり、この物語はハッピーエンドである。と仮定します。

こういう先に未来(ゴール)を決めて、
今何すべきかを逆算していく、というのをフューチャーデザイン
、といったりしますね。
下の図はここから引用です。

さて、SF批評のマナーとして、最小の補助線でもって、この世界を解釈してみましょう。シンプルな仮説でよく説明できることが、解釈の正解かどうかは作者しかわかりませんが、それはそれとして良い考察である、とは言えるでしょう。

読後の雰囲気からしても、物語はハッピーエンドで終わってほしいものです。なのでラストシーンのあとは「持続可能なカガステル農業」がある、と願望をこめて想定してみます。

大フィクションとして
「カガステルは人体に窒素同化とリン回収濃縮、そしてセルフ防犯機能をもたせた農業のためのデザイナーズ感染症」という仮説をぶっこんでみます。つまり発症者は「農家へ強制的に転職させられた」のです。ウイルスによる染色体のリコンビナント、遺伝子導入、いろいろ想像できそうですが、「戦時下のため、カガステルへの発症リスク情報が粛清の対象になってきたことから、かなり情報の精度が低く、調査分析が荒い」ということが示されています。いろいろ考えつつも、作中で示される不確定な情報を鵜呑みにしすぎず、最小限の理解にしておきましょう。

性質の一部は(キーリオ父子研究者の予測に反して)遺伝するらしいということもふくめて、なんらかの変異原性をもつことが示されました。そして全員がカガステルになってしまえば(コルホーズやソフホーズのような?)それもまた一つのハッピーエンドなのですが、人間の遺伝子を再編・利用する性質から感染や発症に対してかなり個人差がある、と言えそうです。また「昆虫」とは無関係なこと。「野生」と「虫籠」の2パターンの生活史がありそう、とも語られています。

それでは参りましょう。まずはカガステルの生態について。

一読した当初、わたしは「人間はカガステルにとって遺伝資源」ではないかと考えていました。しかしデザイナーによって目的をもって作られたとすると、それは奇妙です。人間の不確かな遺伝資源をカガステルがわざわざ摂取し、利用する意義は見えません。もう一段階シンプルに考えましょう。人体は単純に、「リン資源」なのではないでしょうか。つまり劇中、かなり存在や描写が隠されていた「農業」および「弾薬」に、その理由を求めてみるのです。

壁で覆われた集落、集落間の移動に武装した隊列を組む、などなど、人口が密集した集落が点在していながら、農業、電気、上下水道など、インフラに関わる設定は、徹底的に情報が明かされませんでした。ポストアポカリプスもので、そのようなシステムが設定に明示され、ストーリー展開に利用されるのは、映画でいうとスノーピアサーブレードランナー2049マッドマックス怒りのデスロード(ここでは弾丸農場バレットファームで人間のウンコから弾薬を製造しているという公式設定がありました)など2010年代中盤から後半にかけてですので、2005年開始というカガステルにおいて、それを求めるのはズレてしまうかもしれません。オーバーテクノロジーになりすぎないよう、誠実に想像で補いましょう。

カガステルは人間を襲う、という設定から、すべての農業が無人ロボット化していた、と考えることができるかもしれません。そうすると古い兵器で戦闘していたり、コンピューターが古い、最先端なはずの研究所内があまりにアナログであることから、これは整合性が薄いと思われます。カガステルがいないにしても、人間が襲いに来てしまうでしょう。またアンチョビやサバなどの海産物らしきものが出てきていましたが、これが海が利用可能な状態にあるのか、それとも缶詰として備蓄されていたものを、人口が減った人類が掘り出して使っているのか、明確な描写はありませんでした。海の幸も期待しないでおきましょう。

また、カガステルが昆虫とは類縁関係がないとはいえ、「昆虫食」という言葉は劇中に出てきませんでした。あったのは第一巻106ページの商店街シーン、右下「BUG」という看板。これも昆虫食なのか、それとも虫対策用品店(つまり武器屋)なのか、わかりません。もう一つあったのは「ミートボールとヨーグルトソースと雑穀ピラフ」さて、何のミートでしょう。そうですね、カガステルです。「首の後ろに神経毒を打ち込む」と殺せるという意味でも、食利用のしやすい生物といえるでしょう。

そうすると単に人類同士が共食いするのと、どう違うのでしょうか。考えられるのは、何らかの付加的機能です。人類には到底できないことが、カガステルにはできる、ということです。「野良カガステル」の卵から孵った幼虫についても、人間より大きかったことから考えると、おそらく単なる従属栄養生物ではなく、独立栄養生物の側面も持ち合わせていた、と考えられないでしょうか。「発症」によって変形していった人間も、カガステルになるにつれ固く巨大になっていったように見えます。動物に必須で、硬い強靭な甲皮が必要で、その原料が環境中から得られる、つまり空気中の窒素から「ハーバーボッシュ法」を生体内で行って、人体に利用可能な窒素化合物を得ていた、と考えてみましょう。

窒素ではないですが、熱帯雨林におけるアリのバイオマスが、そこに住む哺乳類の合計より重い、という論文がありました。単なる捕食者ニッチではなく、農業やスカベンジャー(分解者)として、炭素循環の担い手としての役割があるだろう、との推測をしています。バイオマスや個体数でいうと人間を凌駕しているかもしれないので、カガステルには様々な生態系の機能を担ってもらいたいものです。

その中でも葉っぱを集め、キノコを栽培する農業を行うハキリアリについては、体内ではダメージの大きい、激しい化学反応を「体外」で行うことで、栽培したキノコに含まれるリグノセルロースを速やかに分解し、消化利用可能にしているそうです。カガステルは強靭な外皮の中でこのような「苛烈な化学反応を体内で」行える、画期的な家畜なのではないでしょうか。そうすると、あの資源が少ない世界で気兼ねなくドンパチ=火薬がふんだんにつかえることも理由がついてきます。火薬に利用する窒素化合物も、カガステル由来なのでしょう。虫籠に人間の軍が立てこもるのも納得です。

カガステルが昆虫と類縁関係がないことは明示されていましたが、その生態を考察する上で、アリはハチなどの社会性昆虫と比較して考察されていました。社会性昆虫にみられる「群知能」は、個体それぞれ単体では不合理な生理生態をしていても、群れとして適応度を高める行動をとるとき、群れにおいて最適な行動をとるよう個体の行動が調節されている、として分析します。カガステルの窒素同化の機能も、同様に考えてみましょう。

社会性「虫籠のカガステル」は、孤独性「野良カガステル」と異なり、女王からの「周波」でコントロールできていました。これが音波なのか電磁波なのか(つまり周波数)は明示されなかったものの、距離に従い減衰するところを考えると何らかの空間を伝わる波だったと思われます。

そうすると、待ち伏せタイプで飢えをしのぎ、散在する野良カガステルと違い、虫籠のカガステルの多くが、波の届く近くの人間という資源にたよりっきりになってしまうリスクがあります。これでは常に警戒行動をしている、群れのエサを賄うことが難しくなってしまいます。また、人類はカガステルの登場と同期して戦争状態になっており、人口の2/3が失われています。カガステルにとっても、減少しつづける人類だけをエサ資源としているわけにはいかないのです。また「虫籠」は構造物様のものも作っているようです。その強度が人類の鉄筋コンクリートに比べて強いわけでもなさそうなので、「戦争に勝てる構造物」を作るための分泌係としてのカガステル、というわけでもなさそうです。

また、完全な独立栄養生物であった、と考えてしまうと、人類を捕食する意義もなくなってしまいます。なので足りない栄養素を仮に「リン資源」としておきましょう。戦争によりリン鉱石は不足し、あるいは戦時中に資源国が海に流すなどの措置をして、地球上のリン資源は薄まり、利用困難な状態、と仮定してしまいましょう。カガステルの死体が蓄積している虫籠の地下は、肥料に適したグァノのような、蓄積したリン鉱石のようになっていることでしょう。カガステルのウンコの描写はありませんでしたので、人間を食べた後は虫籠に戻ってウンコをするのかもしれません。

そうすると「虫籠のカガステル」が行っている作業は「人間を苗床にした農業」に近いことがわかります。おぉ、再生中の森を守る番人としての蟲、と説明された風の谷のナウシカよりも「積極的に人間を狩りに行く」生態も説明できます。つまり人間と人間の感染者であるカガステルは、耐圧性の外皮で高温高圧の窒素同化を行い、「相互に狩り合う」ことで種内競争を行い、リン資源などの利用しにくくなった薄い元素を濃縮し虫籠に溜め込み、農業を発展させつつ、環境収容力の中に収まるよう、急速に個体数を間引きし、安定させようとしているのです。

ようやく全体像が見えてきました。

それでは「人類全体」ではなく個人として、独裁軍事政権の「都市」か、さっさとカガステルに発症してカガステル同士は戦わない「虫籠」か、それとも「野良カガステル」か。どれを選ぶのがいいんでしょうか。

カガステルになる資質のない主人公たちは人間のまま「野良」を選んだようですが、ハッピーエンドを狙うならば窒素化合物は弾薬にせずできるだけ肥料に、ウンコと死体は捨てずにリンを回収し、カガステルに狙われないよう自動化ロボット農業をどこかでスタートする、というのがよさそうです。

主人公たちの次のゴールは、都市間の人間同士の戦闘を(統一にせよ全滅にせよ)収束させ、火薬より肥料に窒素化合物を転用し、ウィズカガステルの未来を達成するためにも、「砂漠でも海でもない農耕適地を探すこと」と「兵器を改造した無人農業ロボットの開発」「都市間を移動する無人の肥溜め」ですね。「無人カガステル捕縛装置」なんかもいいかもしれない。そうすると、彼らカップルの仕事、役割は見えてきました。「無人ロボット農場の用心棒」です。無人となると戦時下ですからむしろ人間から狙われやすく、そこをさらにカガステルが襲いに来る事も考えられます。であればイリがカガステルを追い払うか、近所のカガステルを使役し、防御に利用する、キドウが作物泥棒を肥料に還元する。といった農地の用心棒職なら、食いっぱぐれることはないでしょう。

なかなかバイオレンスなカップルですが、紛争や収奪がまかりとっているあの時代の食糧生産は命がけなのです。カガステルも人間も、そろって畑の肥やしになってもらいましょう。環境収容力のみが、あの時代の生死を決めるのです。用心棒としての雇用を確保すれば、自分探しの旅をはじめていたアハトも定職につけそうです。

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さて、ラオスにいる時間が長いとTwitterに流れる日本での催し物に対して、とても「飢えた状態」になります。どれだけ行きたくとも、行けないという物理的制約です。「いきもにあ」に嫉妬してこんなことをしたこともありました。

そうすると日本に帰国した時に煽られていろんなイベントに参加したくなります。無理してでも。むしろ日本にいた時より年間の頻度は増してるかもしれないです。

最初に行ってきたのは、他の打ち合わせが早めに終わったので近場でこれ。

未来と芸術展

森美術館というオサレ空間を見てきました。やはり気になるのはこれら。なぜ建築家はビルにコケをはやしたがるのか。

なぜ建築家はビルにコケをはやしたがるのか。それで食糧生産、的なストーリーがついているのです。

都市、という不特定多数のニンゲンが密集する狭い狭い空間において、食糧の一次生産=光合成にするというのはなかなかナンセンスです。たとえ光合成効率100%というとんでもないものが生まれたとしても、そもそも利用可能な太陽光のうち、都市に降り注ぐのはわずかですし、都市、というのは田舎への依存によって成立する空間ですので、利用可能な土地全部が都市になってしまってはいけません。そして迷子がいるかもしれない都市で巨大な農業機械をぶん回すなど、危険すぎます。棲み分けがだいじです。というかこれらを考えている人と、評価する人、あなた都市にしか住んだことないですよね、と薄々見えてきます。

田舎はグリーンとかピュアとかナチュラルといった「都会の無機質・閉塞感」のアンチテーゼから想像されるお花畑ではないんです。

「都市」が様々な資源(電力・食料・人的リソース・そして価値観)をその周囲から搾取していることを強烈に意識しているのが会田誠のNEO出島。東京という「日本の大将」たる都市の上空に、「グローバルエリート」というコンプレックスを刺激しまくるさらなる搾取の上位存在を浮かばせる、という、なんと田舎根性の卑屈な作品が作れるんだろうか。たぶん都市に住んでるのに。田舎出身の私としてはひどくスッキリしたものです。

ネオ出島。アリータの世界観にも近い。

次に見たのがNASAの火星移住プロトタイプ。現地の土で簡便なシェルターをつくり紫外線を遮り、中にもちこんだ空気圧式の居住スペースを展開していく。「宇宙船地球号」と呼ばれる地球そのものも巨大な半閉鎖系なのですが、こういった宇宙開発というロマンと組み合わせると、閉鎖式の生態系模倣型農業も、閉塞的なストレスが減り魅力的に見えてきます。

そして見たかった「POP ROACH」

ゴキブリを遺伝子組換えをすることで新たなフレーバーをもたらした昆虫食の新しい形、の架空の広告という設定のAI Hasegawaさんの作品。

AI Hasegawaさんは以前から存じ上げていて、とてもリサーチが強い、専門家からの批評にも耐える強度の高い作品を作られる方です。もう2点、生殖医療をテーマにした作品も展示されています。この話は後で紹介しますが、この作品でも、アートの反実仮想によって想定された「複数の親がいる子供の可能性」について、「専門家」にデメリットから先に語らせるという動画が流れています。

このゴキブリ作品も以前から知っていたのですが、なぜか、妙に、唐突で強烈な「不快感」が出てきたのです。

「私たちはゴキブリを食べられるのでしょうか?」

「不快だ」だけは面白くないので、なぜそう感じたのか、読み解いていきましょう。

ゴキブリ、という都市で汚染されたミームを持つ存在を取り上げていますが、多くの昆虫食文化は都市以外、つまり田舎で育まれてきたので、ゴキブリを食べる文化はさほど多くありません。森に行かないとまとまって手に入りにくく、独特の集合フェロモン臭があるからです。そして家屋の周りをうろついているゴキブリは衛生上の問題があります。それは「ニンゲンの生息環境が汚い」だけで、ゴキブリのせいでもないのです。

つまり典型的な昆虫食文化を背景にすればゴキブリを代表として選出するとは考えにくく、「昆虫食文化の文脈を意図的か非意図的に無視している」という点です。

これが意図的でないことはあとから解説します。アート、および建築意匠にかかわる人材の都市集中による構造的な問題かと思います。

そして次に「遺伝子組み換えによる風味の改変」です。

ゴキブリに一年間チョコを食べさせると味が変化する という実験からもわかるように、遺伝子組換えをしなくとも、エサによってでも風味を変えることは可能で、遺伝子組換えを登場させる意義としては弱くなってしまいます。もともと遺伝子組み換えと昆虫の相性はよいので、例えば自然界にない物質への栄養要求性を付与し、脱走すると死ぬ安全な食用昆虫とか、甲殻類アレルギーを緩和する作用のある昆虫などなど、今後活用される場面は色々考えられると思いますが、「ゴキブリにフレーバーをつける目的で行う」のはかなり後回しでしょう。

ゴキブリはタンパク質をあまりふくまない廃棄バイオマスからも効率的にタンパク質を回収できる、という論文もあるので、もちろん都市に適応したゴキブリを、都市型の廃棄物再処理目的で飼うことは全く筋が通っています。

しかし、それを「昆虫食の第一歩」「果たしてあなたは食べられるか、という踏み絵と」して提示されていることに、一種のさみしさを感じたのです。

あぁ私たちは無視されていると。ラオスに滞在しているからって「私たち」と総称することもまたおこがましいですし、それをもって都市生活者を攻撃するのもナンセンスなんですが。率直な気持ちとして。

と同時に、2015年にはこの作品を知っていて、こんな不快感は全く沸き起こらなかったことを思い出します。つまり、「私の不快感」はラオスに行くことで大きく変わったといえるでしょう。

すると愛読していた火の鳥までもが、昆虫食への偏見(火の鳥太陽編でのシャドーの食生活の酷さを示すためにゴキブリやざざむしが使われる)にまみれていることにイラッと来ますし、森美術館という都市のまんなかで、都市生活者だけで食の未来を語れると素朴に思っていることこそがおこがましい、とまで怒りは膨らんでいきました。展示の場所にも影響されている気がします。

ある現代アートに対して、「スペキュラティブだ」と評価がつくことがあります。作家が意図的であることを前提として、社会に向けて問題提起するパワーが強いことを美術批評家が発します。日本は批評家やキュレーターが豊富とはいえないので、そのように評価されたことを、アーティスト自らが発信しなくてはいけない側面もあります。(本来はアーティストが自分への評価を広告するのはやらなくていいはずですが)

するとこういった「スペキュラティブさ」は

都市部の、お金持ちの、人口密集地の「社会」に対するメッセージ性で測定され

辺境の、貧乏の、過疎地の、もう一ついうとマイノリティの「社会」は見逃されがちであるという点に、多くの(貧乏な時代を過ごしたはずの)アーティストが自覚を失ってしまうことこそが、構造的な危険性をはらんでいるように見えてきました。

報われないアーティストが上流階級に入り込むため、同じような報われない境遇にある、非アーティストを踏みつけた作品を作るとしたら、それこそ表現の地獄というやつになると思います。そしてその多くは「非意図的に」「無自覚なリサーチ不足で」起こっている。

無自覚なリサーチ不足によって、アーティストが「お客さんとならない弱者」を採算から度外視することで、差別を再生産するとき、それに共感する「お客さん」の存在によって、アーティストの評価は決まってしまいます。

アウトサイダーである、ここでいうと昆虫を日常的に食べている人たちの声によって、アーティストの名声が落ちることは構造的にありません。アート・ワールドのこの構造を変えろということはないですし、コネと政治によって不当に高く評価されている論文(によって一般市民の健康が不当にバイアスがかかってしまう)が学術界は多々あるので、他山の石としたいものです。

他業界におけるアラが目についてしまうのは、お互いにないものねだりといえるでしょう。つまりこれから、どのような表現物に対しても「リサーチ不足」が致命的になりかねない、あるいはそうなるべきだとも思います。

幸いにも、この作者であるAI Hasegawaさんに、この疑問、不快感、問題を直接受け取めてもらうことができましたので、しばらくこの話は続きます。結論からいうと、コラボを企画することになりました。いつまでに、というものではないので気長に待ってください。いつかやりたい、とラブコールを改めて発しておきます。

次は人体を使った、ある意味「究極」の表現物、ミイラ展につづきます。

自己を犠牲にした究極の表現物「即身仏」はどのような「強さ」をもつのか。表現者がそれをやりたくなる衝動について、現代社会はそれを許容していいものか。

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Twitterでクローズアップ現代+の感想が流れてきました。

ここでカワウソの密輸について論じるつもりはありません。またの機会にしましょう。ふと「本当に産んだらどうなるのか」と私の想像は進んでいきました。

「分娩主義」という法律用語があります。昔は親子関係を推定する方法がほとんどないことから、「母から分娩された」という事実を持って、母子関係を認定していました。ところが受精卵を使った代理母出産などでは、遺伝的な親子関係を持たない「母」が生まれることでその制度の限界が指摘されています。

代理出産における母子関係 : 分娩主義の限界

さて、今回はこの限界についても論じません。制度は変更される必要があるのですが、私の想像は「本当に産んだらどうなるのか」です。そうするとある一つの作品が頭に浮かびました。

AI hasegawa さんの「私はイルカを産みたい」です。

子宮という女体を持って生まれた人しか持たない臓器を、主体的に用途を決める、という発想の延長でしょう。残念ながら私はその臓器を持たずに生まれたことから、これまでいまひとつピンとこない作品でした。

ところが、他哺乳類の、あるいは多脊椎動物の「分娩」が行える技術ができてしまったら。それこそ先の事件のカワウソを「産んだ」と言い張ってしまえる技術レベルに達したら。

アニマルライツの世界は大きく変革するしかありません。「実子」なのです。つまり分娩主義、という時代遅れの法律と、時代の最先端の技術が融合することで、アニマルライツを大きく破壊する存在が生まれてしまうのです。

すると、アニマルライツが大きく変革した先の未来、という映画があったことを思い出します。ズートピアです。

ズートピアに昆虫食は出てこない、で考察しましたが、ズートピアが出来上がるためには、動物園にいる動物たちに大きなアニマルライツの変化があったことが想像されました。これでようやくその謎が解けました。二足歩行で頭が大きく、人間に近いプロポーションは、つまりは人間に分娩されやすくなるためのものだったのです。そして分娩主義の法律によって人間の「実子」として二足歩行で人語を解する哺乳類が生み出されたのでしょう。つまり卵生の鳥がおらず、昆虫に人権がなさそうなのも、「分娩」されなかったからです! うーむこれは新しい発見だ。そしてさらにこの作品が思い出されました。分娩(出産)を暴力として使う女性の話。

昆虫食が絡むSF、というのは男女問わず様々な著者が書かれていて、「殺人出産」もとてもいいものですね。これまでSF作家というグループが男性に占められていたせいで失われてしまった、多様な発想があったのだろう、ということを想像させてくれます。ジェンダーイコーリティが達成されることで死なずに済むアイデアが増えていくことを私は期待します。

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後編は、
私の新説 針・ゴジラについて考えてみましょう。
針・ゴジラはエネルギー問題を解決した、ヒトの上位捕食者です。
ヒトに似た体型で、ヒトに似た歯をもち、
体表から冷却することで熱問題もクリアしています。
体が軽くなるので、熱放出のための外鰓のような構造がそのまま飛翔にも使えそうです。
第5形態 針・ゴジラ予想図

また、核攻撃をするにしても、
群体である以上無線システムで通信したままの分散が可能なので
一網打尽にすることができません。おそらく人類は負けるでしょう。
核融合による発熱は避けたいでしょうから、核分裂によりエネルギーを調達し
他の生物の元素や化合物を奪うのが最適です。
巨大な内部空間をもたないので、空気中から元素を集めて圧縮することはやめ、
普通の食料源から必要元素を摂取するようになります。
飛行物体はすべて針ゴジラによってビームにより撃墜するか、熱殺されるので
空輸は禁止。船便かトラック輸送が必要になります。
怒らせると針で低エネルギー放射性廃棄物を血中に注入するので
致死率の高い、解毒も難しいヤな毒です。

ハエたたきも効かない。殺虫剤も無毒化されて効かない。
彼らの邪魔をしないよう、そろそろと地べたに這いながら生き残る人類。

あれ、いつのまに昆虫パニック映画になったのでしょうか。


そして
果たして針・ゴジラは食えるのか。

生態系の頂点にゴジラがいる以上、その利用も考えたいところです。
低レベル放射性廃棄物の塊ですし、変異原性の物質も溜まってそうです。
キャッサバのように、水に晒すなどして毒抜きが必要になりそうです。
食えたとしても、採集にあたって
無線で警報を発するので、報復が怖いです。金網でとらえましょう。
ハッキングができればなお良いです。ゴジラとのIT戦争にもなるかもしれません。
この先、
ヒトの上位捕食者として針ゴジラが君臨した場合
ヒトの食料生産が針ゴジラの下請けとなって
針ゴジラと無線交信し、必要な元素を調達するなど共生関係を保ちつつ
針ゴジラのフンを回収して、利用する産業が生まれることでしょう。
飛翔するゴジラが海外に移動しまうと、せっかくの遺伝資源が日本から逃げてしまいますが
人類そのものの危機なので、生物多様性条約を気にするヒトはもはやいないでしょう。
ヒトはゴジラにより進化を余儀なくされます。
分散したゴジラによる被曝は避けられないので
被曝耐性の遺伝子を導入した
「シン・人類」へと移行したほうがよさそうです。
ヒトを食う針ゴジラに支配され、土や大気は汚染され
針ゴジラの廃棄物を利用しながらスキマに生きる未来のシン・人類。
ゴジラに含まれる有機物を使って、被爆耐性の植物を育てないと
食糧もままなりません。汚れているのは土なんです
飛行するゴジラに襲われる人々
硬いゴジラの脱皮殻を使って
ゴジラに撃ち落とされない強い飛行機を作る人々
ゴジラと無線通信し、卵を分けてもらう人々
ゴジラの腸を身にまとい、汚染された地域で生きる人々
ゴジラの一部を培養し、兵器として他人を殺す人々
巨「針」兵東京に現る?

あれれ
なんだか見たような


他の映画になってしまいそうですね。
ここで、庵野監督がこれから作るべき映画が明らかになりました。
シン・ナウシカです。
エヴァは後でいいんじゃないですか。
シン・ナウシカはゴジラの正当な続編でもあるのです。
原作ナウシカを実写でもアニメでもいいので、作ってください。
宮﨑駿さんが
「私は好きにした。君も好きにしろ」と庵野監督に言い放ったらゴーサインですね。
続・シン・ゴジラもとい
シン・ナウシカに昆虫食は出てくる
と予言しておきます。

5

さて、
ゴジラが元素変換装置を使って作っているものは何でしょうか
「なんでも作れる」というものの、ゴジラは最後まで熱の放散の問題を抱えていました。
核融合でも核分裂でも、既存の元素を作った場合、質量欠損を伴うので、
多くのエネルギー放出が必要になります。
熱問題を悪化させないためには、使えるものは使ったほうが良いのです。
また、
核融合のためには、原子核同士の反発を抑えこむため、超高密度にしなければなりません。空気中から元素を取り入れ、圧縮するコンプレッサーのようなものもあったことでしょう。
まずは窒素
空気中から取り入れられる窒素を使って、高温高圧ハーバー・ボッシュ法さながらに
有機態窒素を作るのは朝飯前でしょう。わざわざ窒素は元素変換で作らなくてよさそうです。
水中の窒素分圧は低いので、海中にいた時は窒素も作っていたものと思われます。
空気の取り込み裝置は、そのまま空気中への排気装置としても使えるので便利です。
続いて水素
水中生活では不自由しなかったものが、陸上ではあっと言う間に不足します。
空気中の水蒸気は少ないので、空気から大量に集めるか、空気中の酸素と
重い原子の核分裂の時に出てきた陽子から水素を調達してきて作るとよいでしょう。
炭素
これは窒素に放射線をあてて炭素14を作ればいいかと思います。
逆にCN比が偏り、増えすぎる炭素を管理する必要があるかもしれません。
酸素
これも微妙ですね。海水中ならば水から作れます。
上陸後でも空気中から取り込む能力が高ければ作る必要はないと思います。
リン
DNAにはリンも含まれているので、DNAが読めたということは、ゴジラがリンを使っていることはあきらかです。これが作れるとなると、食料資源として非常に有望です。現在肥料用のリンは鉱石に頼っておりその一部は海鳥のフンの堆積物です。つまりゴジラのフンにはリン資源としての可能性が大いにあるのです。(ゴジラのフンとは何か、という問題は後で述べます。)

核分裂エネルギー源
これも放射性廃棄物を取り込んだとしても
あまりエネルギー調達には向かない状態でしょうから
濃縮と精製が必要になると思います。
アメリカはゴジラが食べた、と当初予想していますが
その後元素転換ができるという話になり、ゴジラが食べていたのかどうかは
はっきりしません。軽い元素を核融合して熱を取り出すよりも
重い元素を分裂させて熱を取り出したほうが投入エネルギーは小さくてすむはずなので
(それすら超越している可能性もありますが)放熱管理上は核分裂の方がいいかもしれません。
さて、
何らかの超技術による元素変換で
通常元素を作る場合は、核分裂にしても、核融合にしても
質量の欠損を伴います。つまり大量の熱が発散されるのです。
多くの物質は10000度にもなればプラズマ化し、元素として機能しませんから
元素変換をして、その元素を回収して生体内で使うには大量の熱放散が必要になります。
つまり「強力な冷却装置」がゴジラには常に必要とされたのです。
その冷媒として選ばれたのが、
第二形態までは海水であったと考えられます。
その後海水が100度前後で気化してしまうことから、
空気中への100度以上の排熱を行う第三形態へ
そしてビームの放出を行う第4形態へと戦略を変えていったのでしょう。
そして、
牧元教授は、ゴジラに何をしたのか。
おそらくは冒頭、極限環境微生物そのものか、そのゲノムの一部を
東京湾に眠るゴジラに打ち込んだのではないでしょうか。
海水ゴジラの体内生態系が、それにより大きく変わったのです。
今までゴジラは他の生物の感染を放射線で殺菌していましたが、
その一方で、
通常の生物が運用している免疫機能は捨て去ってしまったことでしょう。
そこで極限環境微生物のタンパク質は放射線をかいくぐり
ゴジラの細胞膜機能を奪います。
すると、代謝不全、特に熱発生の節約ができなくなり
海水が沸騰するほどの排熱のでてしまう「熱暴走状態」
になったと思われます。
慢性的な熱暴走状態を回避するため
その後短い期間で第4形態までのすさまじい形態変化と質量増加を伴いました。
それではゴジラの活動の生理的な制限要因について
時系列の順を追って見てみましょう。
基本的には「排熱の限界・もしくは妨害」による排熱戦略の変更で説明していきます。


 
第0形態 
完全水棲
大戸島にいた神話の生物か、はたまた突然変異か分かりませんが
ある一個体の大きな生物がいたようです。エラも持っています。
神話ってのは実績のある大きなフィクションなので
SFとの相性はよいですね。迷信ともとれるし、何かを示唆したり、隠すために
作られた、という解釈もできるので、信じることも無視することもできる。使い勝手が良いです。
アメリカが以前から監視していた巨大生物で
エラがあり、強固な骨格がある模様。
眼球は大きく、焦点は海水に特化していたので
深海生物のように見えます。
その後のボディプランは「巨大化」の一途です。
水の粘性を考えると、
エラの構造も、筋肉も巨大化したほうが効率は上がりますので
第0形態は大型化が最適戦略です。
おそらく、核分裂エネルギーを使いはじめると
かなりの熱を放出しますから、水温が低く安定しており、
深海の沸点の高い地域の方が、高温の水を放出できるので良い環境かと思います。
ではなぜ浅瀬にやってきたのか。
最初の形態変化は、おそらく脚でしょう。
非常に硬い外皮の構造と、重い元素を作ることから
次第に泥地の深海では浮くことはできないでしょうし、埋まってしまいます。
流体の水が廃熱に必要ですから、やむを得ず足場の良い浅瀬にやってきたのでしょう。
第一形態 アクアライン上の浅瀬までの予想図

わかりにくいとの声がありましたので、2016年8月29日、図を追加しました。
元素転換裝置は、ヒトの技術でいうところの、粒子加速器と衝突装置に近いものだと考えています。本当の構造は不明ですが、便宜的にその機能をもつということで予想図に入れています。

ココで、牧元教授による、極限環境微生物の投与が行われ、細胞膜の活動阻害が起こり
特に影響を受けやすい必須元素の転換か取り込みの不具合を起こすことで
要求される排熱量が増大したと考えられます。
システムが解明されていないので、感染症に対する反応がどうなるかはなかなか予想できません。
「私は好きにした 君たちも好きにしろ」と牧元教授が残したのは
ゴジラが死ぬかもしれない、活動停止するかもしれない、もしかしたら急激な形態変化をするかもしれない。
という大バクチだったと言えるでしょう。
その後の大災害を見ると、結果を見る前に命を断ったのも当然かも知れません。
まさに芹沢博士タイプといえます。
ゴジラはしゃーなしに
元素転換裝置のエラ系の排熱不良によって、
海水の水蒸気爆発という、アクアライン事故を引き起こしました。
エラ構造は気泡が入ると効率を下げてしまうことから、
気体による熱放出には適していないので、ゴジラは空気中に排熱先を求めました。
上陸です。

第二形態 通称蒲田くん 予想図


第二形態は河川から水を吸い込み、気化して水蒸気を勢い良く吹き出します。
水は蒸発すると体積は1700倍に膨張するので
その圧力も利用すれば、気化熱とあわせて速やかに排熱が可能になったのでしょう。
エラは水を水蒸気に変換させる裝置としては気体に最適化されておらず、おそらくアクアライン事故のダメージから出血してしまったと思われます。
多摩トンネルが崩壊したことから、既に浮力の恩恵は受けていなかったのでしょう。
生体機能に必要のない重い元素を減速材などに使うために体にまとっているでしょうから、
体重増加が深刻です。
気管系から水蒸気を噴き出しているので、変な甲高い声がでてしまっています。
これも排熱不良からくるものでしょう。音が出る、というのは気流の管理がいまひとつできていないといえそうです。
しかし蒲田くん、排熱に適した水を手放し、完全に陸上に上がってしまったのです。
空気の取り込みが上手でなかったためか、動きが止まってしまいます。

第三形態 通称品川くん 予想図 


そこで品川くんへの形態変化を実施します。
浮力を使えなくなったことから
脚部が強化され、体重移動に対応するよう、転倒に備えて尾部と腕部が強化されました。
何も吸収する様子はなかったので、品川くんは体重ではなく、体積を増加させ
全身に吸排気用のスリットを設けたのではないでしょうか。「体重が不明」と設定にあるのも、おそらく体重変化が第二形態と第三形態の間になかったので、情報の信頼度がないために公表していないのでは、と想像します。
これにより体の内部まで空気が入り込み、煙突効果を使って口から
熱噴流として放出します。先に吸収しておいた水も放熱用に使ったことでしょう。

品川くんは体の各部に見える赤色の部分がすべてスッカスカで
蟻塚のように空気を各部から取り入れ、温まった空気が
頭部と尾部から噴出する、煙突のような仕組みになったのではないでしょうか。

品川くんの内部には、いわゆる原子力の熱源を利用した原子力ジェットのような構造が
新たに作られたと思われます。
それによって空気を圧縮し、高速で打ち出すことで排熱を効率化したのではないでしょうか。

劇中、品川くんの上陸経路での放射線空間線量が上がったのも、排熱のための
原子力ジェットが機能したためと思われます。
水に比べて空気は放射線を吸収しにくいのと、粘性が低いので、
ジェット噴流によって、多くの熱を遠くまで放出できるようになったと思われます。
ですが、
これでもまだ体温を放出するには
足りなかった模様で、品川くんは突然海に帰ってしまいます。
品川くんのスリットに海水を入れることで、
水冷・空冷のハイブリッドとなったのでしょう。
第4形態 鎌倉再上陸 鎌倉さん予想図


この形態が劇中最後まで使われたことから
陸上への完全適応がなされたと思われます。
水は使っても使わなくても大丈夫になったのでしょう。
体重は92000トン。
大きく重くなったことで、より強力で、効率的な冷却系を搭載したと思われます。
理由は後で述べますが、高圧の液体・固体窒素を冷媒とした冷却システムを搭載したと
想像しました。
もちろん空気を取り入れ、そして暖められた空気を放出する
空冷も同時に行われています。
ゴジラの上空には暖められた空気が上昇気流になって
さぞ積乱雲が発生しやすかったことでしょう。
そういえば雨のシーンなかったですね。
さて
ここにきて、ゴジラの体温をさらに上昇させるイベントがおこります。
タバ作戦です。
自衛隊の総戦力を使って
ゴジラの足止めを画策しました。
攻撃によりゴジラの運動量が低下していることから、この作戦は
排熱を妨害するのに十分な効果があったものと思われます。
爆発による排煙で、空冷式の排熱や
必要な元素を空気中から取り入れることが阻害されたのかもしれません。
そして次に貫通型爆弾による米軍の空爆。
これにより熱源である胸部から体の各部に熱を拡散させる冷媒、
血液が大量に漏れる、というアクシデントが起こります。

これでは足りなくなった血液を、元素転換裝置で
作ろうにも、排熱ができずに反応が詰まってしまいます。
ここで、血液を作るにあたって新たな放熱方法を採用しました。
第4’形態としましょう。
いわゆる粒子ビームと呼ばれるものと思われます。
ゴジラから新元素が見つかったということは
核融合のためにおそらく粒子加速器のようなものを使っているでしょうから
そのうち、必要のない放射性元素をそのまま遠方に打ち出してしまうことで
閉鎖系の冷却機構や、体表面からの放熱の負担を下げたと思われます。
第4'形態 予想図 内閣総辞職ビーム

放出された粒子ビームはその高エネルギー故に空気中の原子をプラズマ化し、発光させます。
水中では莫大な水蒸気が発生してしまい、熱が近傍にとどまってしまうでしょうから
雷の通り道のように、プラズマ化した空気路は水中より放熱効率を上げたことでしょう。
同時に、品川くん時代に搭載したジェット機構により大量の空気を取り込み、そして不要な成分を口から噴出することで、その周囲に可燃ガスが燃焼して周囲のプラズマを保温した
「放射熱線」のようなものができ上がります。
すなわち「放射熱線は貧血時のゴジラのウンコ」だといえるでしょう。
ゴジラが上陸し、血液を失った結果「ビーム式放熱を行う」ことで最適化されたといえます。
粒子ビームは空気中よりも真空中でより進むので
ゴジラは将来的には真空中に放熱する宇宙怪獣になるやもしれません。
さて
タバ作戦と米軍機撃ち落としビーム放熱が終了すると、ゴジラは2週間の休眠状態に入ります。
 
ビームの射出にはかなりのエネルギーが必要なのと
低出力では単なる火炎になることから、多くのエネルギーを必要とし
かつ、一度火がつくとあまり細かな調節はできない模様です。
ビームの射出や核融合のための空気の圧縮の用途で、

強大なコンプレッサーが体内にあったと考えられます。
それを利用し、カーエアコンのように、圧縮機を利用した高圧の冷却系が使われていたと考えられます。おそらく冷媒は液化窒素か、液体固体の混合です。それは凍結時、中心温度が-196度であることから考察できます。

クリックして20100129_machida.pdfにアクセス


ビーム射出後は利用可能な残存エネルギーが枯渇してしまい
コンプレッサーも停止してしまうので、
圧縮して熱を発していた様々な高圧ガスの圧力が下がり、放冷することで
ゴジラの体温が下がってしまうのでしょう。
血液循環を使って徐々に圧力を下げつつ、温度低下を抑えつつ空気中に放冷する穏やかな低代謝の二週間が続きます。

ヤシオリ作戦によって、血液凝固剤による血液の凝固や気管系の閉塞と
牧元教授の遺品である細胞膜の機能阻害とを同時に実施したことで、
今度は暴発・熱暴走ではなく高圧冷却系の密封が不具合を起こし、一気に圧力低下&吸熱凍結が起こったと思われます。その冷媒に窒素冷却系であった、と考えると、凍結ゴジラが-196度に低下したことが説明できます。
 
そう考えると、
体内の液体窒素がすべて常温常圧になって蒸発しまうと、ゴジラはもはや冷凍状態を維持できないので、
速やかに凍結維持システム、冷凍機のセットが必要です。ゴジラをエネルギー源とする冷凍機ができればよいのですが。
外部から電力を持ってくる場合は、
東京のヒートアイランド現象が加速しそうです。
東京の電力需要は、夏のゴジラ冷却が最優先されるでしょうから、計画停電も頻繁に起こりそうです
さて、話は少し戻りまして、
通常休眠中のゴジラは、新たな特徴を有していました。
近づく飛行物体はすべて撃ち落とす、という自動迎撃システムです。
B2爆撃の経験をもとにその迎撃範囲が設定されたものと思われます。
レーダーのような、長波長の監視システムを採用することで
短波長ガンマ線まみれの環境においてノイズを避けているのでしょう。
ゴジラが無線を使えるようになった、というのは実はすごい進歩です。
神経細胞は再分化が難しい細胞なので、放射線のダメージに応じていちいち更新することはめんどうです。神経という有線でタイムラグのある情報伝達手段は廃棄され
すべての細胞が無線で情報交換をしながら、形態変化の戦略を統合していたと思われます。
細胞膜の電位変化を引き起こすためのタイムラグが事実上なくなるので、巨大化にももってこいですし、中枢を頭部や中心部に集中させる必要もありません。
ここまで想像すると、
最後に尻尾の先から「ヒトのような上半身」が大量に浮き出ていたことも
理解できます。
「群体化」するのです。
ゴジラはレーダーのように無線通信するシステムと
粒子ビームによって余計な放射性廃棄物を射出するシステムを持っていました。
ところが、巨大な体躯は体積あたりの表面積が小さくなってしまい、
放熱にとってあまりいいものではありませんので
海水による冷却から空気の大量取り込みによる冷却、液体窒素による冷却まで
戦略を変更してきましたが、いずれも脆弱性をかかえていました。
そのため、ゴジラは空気を吸入し排出する気管系が発達していたでしょうし
口から入った血液凝固剤が血中に到達するような、物理的にはザルのようなシステムをもっていました。
その欠点を克服すべく、気管系を体内に設けるのではなく、個体を群体として分離・小型化し、
体積あたりの表面積を最大化し、いわゆる「小型ファンレスPC」のように
直接体表面から放熱できるように形態変化していくものと思われます。
エネルギーは無限ですから、
当然飛翔もできるでしょうし、そのほうが電波の通信も良好になります。
一個体ではさほど強くなくても、集団になれば敵を取り囲んで熱殺もできるでしょう。
元素が不足した場合は群体同士が共食いして小さいコロニーになればいいのです。
巨体を維持するために無理して元素を作る必要はありません。
そして歯の存在。もう気づいてしまいました。
苦労して排熱して元素を作る必要なんかない。
元素はそこにあるじゃないか
と。
近い組成の陸上生物、ヒトを食うために、適切なサイズになろうとしているのです。
そして歯の構造がヒトにそっくりです。元素変換のできるけど攻撃以外には使わない
従属栄養動物として再デビューするのではないでしょうか。
つまり
「無線を備えた情報伝達タイムラグのない社会性のそこそこ巨大なアリ・ハチ」
のようなものが誕生するのです。
これはヒトにとって大変に脅威です。
ゴジラが放熱効率を上げるならば、より小さいほうが効率的です。
小さいほど、大きな動物を殺して食べることが困難になりますので
捕食対象に合わせた大きさがよいでしょう。
代謝に余った重い元素を含む放射性廃棄物は熱を出すので
ウンコとして排出するのがよいでしょう。
粒子ビームにすると放熱が大変なので、針を備えてヒトの体内に注入すれば致死率も抜群です。
ようやく見えてきました
シン・ゴジラとは
「針・ゴジラ」つまり有剣ハチ目への
さらなる形態変化を暗示していたのではないでしょうか。

後編は、私の新説 針・ゴジラについて考えてみましょう。

シン・ゴジラ
制作が発表されたと聞いたとき、全く期待してませんでした。

監督エヴァの人だし。巨神兵東京に現わる、
はミニチュア特撮に拘泥しすぎでしょ。
進撃の巨人実写ダメだったらしいし。という前例主義の先入観です。
義務感で見に行きました。
思い返せば15年前。
ガメラ三部作で、リアルな怪獣映画を作ってくれた
金子修介監督がゴジラ映画を。との触れ込みで見に行ったゴジラ2001

「とっとこハム太郎同時上映」という地獄。騒ぐ子供と連れてきた保護者
ハム太郎を見たら出て行く子どもたち。
映画自体は好きだったんですが、
この辺で義務感で映画館に見に行くのをやめました。
ファイナルウォーズもレンタルでみました。
ですが、今回
なにか引っかかるものがあって初日に見に行くと


最高。
幼少期にキングギドラから入り、ビオランテが気に入った
平成vsシリーズ好き、初代好き、かつ昭和プロレスゴジラ気に入らずの
私にとって、最高のゴジラ映画でした。
SF考証もかなり練りこまれています。
「リアリティ」が絶妙ですね。
東日本大震災を経験し、津波と原発事故を見聞きし、誰もが知ってしまった大災害のリアリティを
ほどよくリフレインしてくれるので没入感があります。
ゴジラ映画らしく、人類が手詰まりになった後の、後半の荒唐無稽さも楽しいものでした。
この映画に昆虫食は出てきません。
ですが、ゴジラという特殊な生物の生理機能が物語の軸を握りました。
ハードSF生物映画なのです。
以下盛大にネタバレしますので、ご注意ください。


<総理、ネタバレ許可願います>
<ご決断を>
<今するのか? 聞いてないぞ!>
<時間がありません。ご決断を>
<総理!>
<以降 すべてのネタバレの使用を許可します>


このゴジラ、
最後に群体化することが示唆されました。
これはどういうことか。
なぜそれまで巨大化してきたゴジラが
ヒトのような歯をもつ小型群体サイズを最適としたのか
そもそも
冒頭の水蒸気爆発は何だったのか
牧元教授は何を「好きに」したのか
どうして巨大化したのか。上陸したのか。
なぜ最後に血液凝固剤で凍結したのか。
ポンプ車で口から600klもの血液凝固剤が体内に取り込まれたのか
そしてゴジラははたして食えるのか。
アメリカが狙っていたのはエネルギー革命でしたが
むしろ食料生産に革命をもたらすかもしれない
ということです。
紐解いていきましょう。
最後に、シン・ゴジラのシンとは何だったのか、
私が類推した新説を提案してシメとします。
情報は本編と、パンフレットのみです。
想像で補って類推したので、
公式設定と間違っている部分もあるとは思いますがご愛嬌。

公式設定集、ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

に書かれている可能性もありますが、まずは想像してみた限りです。
映画の批評的考察の場合、最大限「ありうるもの」として
知識や展開を補填していきます。
なさそうなものとして考察を始めると、そもそもゴジラが存在しない、と
なってしまい深く切り込めないからです。こじつけでも、苦しくてもできるだけ建設的な姿勢で。
それでは参ります。


今回のゴジラの生理的特徴は「元素変換装置」でした。
以前から、核物質をエネルギー源とする設定はゴジラに一貫して見られましたが
初代がクジラを食ったりする他は、栄養源(構成要素)の摂食はほぼ見られませんでした。
エメゴジがマグロ食ったりしていましたが、あれは除外しておきます。
シン・ゴジラはその一歩先を攻めました。
「元素変換裝置」を持つのです。
そのため、陽子・電子・中性子を自在に組み替えて、任意の元素を作ることができるので
空気や水を原料になんでもできる「霞を食う仙人」のような新生物なのです。
体内、おそらく最も温度の高い胸部に元素変換を行う特殊な構造をもつようです。
ヒトの構造物で言うところの粒子加速器みたいなもの、なのでしょう。
本来の元素が生み出された超新星爆発のような高温高圧・超重力状態ではなさそうですが、なんとも立ち入れない部分です。
元素変換装置は唯一の大フィクションで、人智の及ばないところです。
稼働中のゴジラの内部を見ることはもう不可能ですから
その仕組みは闇の中となってしまいました。
このフィクションを起点として
ゴジラ個体に現れる生物学的特徴については、
大フィクションをできるだけ排して
しっかり作りこまれており、物語の舵取りをきちんと行う姿勢があります。
優秀なハードSFです。
予防線的に監督が学者に述べさせていますが
生物学的な「正しい考察」
冒頭の有識者会議で済んでおります。
「クジラの亜種なのか恐竜の生き残りなのかは全くわからない」
「映像だけで判断するのは生物学とはいえんでしょう」
「そもそも映像がホンモノか確証がないと」
さて、
ここから更に踏み込んで、実効性のある対策を巨災対は求められました。
物語上、効いたのですから、物語上、我々は傍観者で、彼らが正義です。
プロセスが人智を超えていても
人智を超えた隠れた物語があったとして、議論における思いやりの原則で補完しながら考察するのがよいでしょう。


ゴジラはどのような生理機能を持つ生物なのでしょうか。
ゴジラは生物です。
なので環境に応じて、その性質が変化します。
そして当然、変化に応じて、異なる栄養素を要求すると考えられます。
普通の生物、
もしくは従来設定の放射線をエネルギー源とする生物である場合
必要とする元素は多種多様で、外部から取り入れる必要があります。


ところが、今回のゴジラは特別製で
元素からまるごと転換してしまいます。

とはいえ何でもかんでも元素転換で作ってしまうと、莫大な熱エネルギーがでてしまいます。

ゴジラは放熱に問題を抱えていたので放熱の節約のために
重い元素はエネルギー調達用にして、生体機能には比較的軽い元素を多く利用しているようです。
また、
核分裂をエネルギー源として使いつつ、放射線を体外に放出していることから、
軽い元素において窒素→炭素14のような予期せぬ元素変換も起こってしまうでしょう。
元素転換裝置において
生体機能を維持するための元素転換と、
エネルギーを調達するための元素変換のトレードオフがありそうです。
また、
生物である以上、
元素だけでなく、使える分子にまで合成しないと、元素作り損です。
せっかく元素を作っても、高次構造を作れないのでは
残念ながら必須栄養素を外部から取り入れることになり、基礎代謝の高さから
あっという間に餓死してしまうでしょう。
つまり、シン・ゴジラは元素変換裝置の意義を最大限に利用するために
必須栄養素の存在しない、
体内に生態系そのものを内包するような生物になった、といえるでしょう。
これは有望な遺伝資源です。
放射線滅菌でも壊れにくい、耐熱性の、元素から高次構造までの遺伝子セットが
おそらくゲノム、および共生微生物群に含まれているのです。
なので、もはや元素転換裝置を手に入れられなかったとしても、その遺伝子は非常に有望で
日本の領土で手に入った以上、「日本の遺伝資源」なのです。
すると、本来ですと生物多様性条約のABS(Access and Benefit Sharing)条項に基づき
アメリカに持ち出すためには、国同士の契約と、管轄機関同士の契約が必要になります。

フロントページ


劇中では「人道的措置」によって、
ゴジラの対策を重視した結果、遺伝子配列が多くの国に共有されてしまいましたが
そこから得られる利益については、ゴジラ保管のリスクを負った日本がきちんと交渉していくべきでしょう。
つまり、
巨災対の次の仕事は「ゴジラ遺伝資源管理」となることが予想されます。
また、その血液を凝固させる薬品の開発、
ゴジラの細胞膜の活動を阻害する極限環境微生物がもつ巨大タンパク
(これの産地と発見者の所属によっては他の問題も生じますが)
も効くことがわかっていますので、
製薬会社を初めとしたゴジラ関連巨大遺伝資源産業が生まれ、そして
ゴジラ特需を産むと考えられます。
退治したヤマタノオロチから天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が得られたように
ゴジラリスクをもつ日本がゴジラ遺伝資源の恩恵を、ゴジラ対策・復興と称して貯めこむ
未来が想像されます。もちろん大きな経済的恩恵をもたらしたのですから
矢口さんの政治家としての出世も安泰でしょう。
すると、
ここで気になるのが前半で語られた「インパクトのある理研の発表」
です。最初の上陸時にエラから吹き出した血液サンプルから
ヒトの8倍ものDNAが検出されたとのこと。
タンパク質あたり?1細胞あたり?
有核赤血球あたり?幹細胞あたり?
変敗した血液サンプルを元に、ヒトの遺伝子量と比較して8倍、という
整数倍を提示するのって結構大変だと思うんです。
速報を重視した結果の拙速な報道のような気がします。
「シークエンスだけで何年かかるか」というのも
(原子力規制委員会の人が言ったので専門外の可能性もありますが)
のちに判明しますが。
放射線を常に放出するタイプの生物なので、分裂しつつ、修復しつつ、壊れつつ、の
ランダム変異が細胞ごとに入りまくった「変異早送り代謝」が起こっているのでは
ないでしょうか。
バラバラにして読んだゲノム断片をつなげるアルゴリズムも、既存のではなくゴジラに合わせた独自のものが必要でしょう。
何しろ1シーベルトの環境下で、修復エラーがあってもそのまま増殖するものですから、1細胞だけからDNAを切り出したとしても、切り口は荒れまくっていることでしょう。個体内では多くの細胞が、それぞれ異なるゲノム編成になっている可能性もあります。
むしろ共通の遺伝子をもつ、という多細胞生物の概念すら通用しない可能性があります。
第一次上陸の後ですし、
アメリカがサンプルを持っていってしまったし
個体全体が手に入らない状態で、理研だけが持っている血液?かどうかもわからない赤い液体サンプルをもとに
情報を引き出した、シーケンス可能な状態まで持っていった、というだけで
速報性、という意味では意義のある発表だったと思います。
「これでゴジラが最も進化した生物だ」とのことを
尾頭さんがおっしゃってますが
進化の途上にある、遺伝子構造が冗長で最適化されていない、という
イメージでも良いかと思います。
表現形の変化速度を見ると、ヒトの8倍もの遺伝子をやりくりしている、というよりはその可塑性が高く、ウイルスのように単純なゲノムを超高速で変異させ、使いまわしながら形態変化をしているような気もします。
細胞あたりのDNA量が多いのも、ヤシオリ作戦で口に垂らした血液凝固剤がザルのように体内に吸収されていったのも
ゴジラが体内外の境界が極めて曖昧で、常に環境中の遺伝情報を
取り込みながら利用し、代謝している生物だったのではないでしょうか。
常に核分裂・融合反応ゆえの放射線がでているので、滅菌効果は抜群です。
通常の生物では感染も難しいでしょうから
免疫機能はもう要らないのでしょう。
また、
もともとの通常生物だったころのゴジラのDNAもブッチブチに切れているでしょうから
ゴジラの生態系を理解した上で、
メタゲノム解析のようなことをしないと、その全貌は見えてこないでしょう。
バイオインフォマティクスのゴジラ分野の進歩が期待されます。
もちろん日本の領土において遺伝子変異が起こったので、
いずれのDNA配列情報も日本の遺伝資源です。お金のニオイがしますね。
次は時系列にそって、ゴジラの環境や状態と
そこに起こったであろう生理的な変化を想像してみましょう。
中編に続きます。

1

ディズニーの最新作
ズートピア

全く興味はなかったのですが、
ディレクターJared bush のこの発言を見かけて、私の心はざわつきました

「調べたんだけど、ズートピアの肉食動物は植物ベースのタンパク質と昆虫を食べているんだよ。バグバーガーは彼らのお気に入りのレストランさ」

初期段階では喋れないように「進化」した魚を食べていた設定だけど混乱するからやめた。

乳牛のような「家畜」哺乳類は避けようとした。そしてどこかにいたとしても、鳥は見せないようにした。
なんと、昆虫食映画だったのです。
バグバーガー店舗は残念ながら劇中には確認できなかったのですが、公式ですし
しかも養殖昆虫が使われている可能性が高いので、近年最も先進的な養殖昆虫食映画だといえるでしょう。
また、
昆虫食の様子が「劇中で触れられていない」というのもなかなかおもしろい話です。
物語の本筋自体は、レイシズムを動物に置き換えた説教臭い優秀な教育映画でした。
更に、現在の動物福祉あたりの種差別もからめた皮肉だかユーモアを入れて脚本を仕上げるあたりが賢さ全開です。
全てのシーンに意味があり、最後まできちんと伏線として回収するあたりも見事
天才をとりあえず集めて、一人の天才ではできないことを集団で成し遂げるという
世界最先端の知的生産物だといえます。
つまりはいい映画です。これから設定をいろいろ考察できるのも、
脚本に破綻のない素晴らしい映画だから楽しめることです。
昆虫食に興味が無い方にもおすすめです。
以下は
ズートピアの食料生産を考察するために、
ネタバレをしますので、未見の方は読まないことをお勧めします。


1,ズートピアの住民の権利「ZOO権」
はじめに、
ズートピアがパラレルワールドではなく、我々の地球の将来、と仮定して推測します。
「DNA」という言葉が出るように、姿形だけでなく、遺伝様式も彼らと
現在の動物とは系統関係にあるといえるでしょう。
その食料生産を考察する前に、
劇中の動物たちに認められている権利、「ZOO権」について
(あくまで独自のZOO権であってアニマルライツではありません)
考えてみましょう。
二足歩行で言語を理解し、衣服を着ることが「文化的」であり
食に関しては菜食と昆虫食が採用され、それが「進歩的」である、
というなんとも人間臭い社会常識のズートピア。
音楽やファッションなどの娯楽も守られています。
通貨での貨幣経済も成り立っているようです。
ドーナツを食べて太る自由もありますし
食に関する個人の自由は最大限に尊重されているようです。
婚姻の自由に関しては深くは語られなかったのですが
異種への転換をすること、異種間に子孫を残す技術はない模様です。
トガリネズミが出てくることから、最小の哺乳類までZOO権は付与されているようです。
唯一出てきた哺乳類以外の生物はハエ、意思のない、不潔の象徴として表現されていました。
彼らにZOO権はないようです。
衛生に関する法律があることも語られたため、バクテリアも存在するようです。
我々の現在の社会と近いものがありますので
違和感なくすんなり話に感情移入できますが、彼らがもともと
野生の哺乳類だったこと、また、栄養要求性に関しては
進化してもあまり変わっていないことを考えると
彼らのZOO権を、人権と同じように尊重すると大きな問題が生じていることが推測されます。
食糧問題です。彼らの食性は、ヒトとは大きく違うからです。
現在のヒトの食生活においては
ZOO権を認めておらず、多くの家畜からの搾取で成立していたので
それらからの搾取ができなくなったズートピアでは、
ヒトの真似事ではない、独自の食料生産を考えなくてはなりません。
また、鳥、両生類、爬虫類、犬猫、霊長類、ヒトが出てこないことから
ズートピアの生態系はかなり歪です。
ズートピアを「エコトピア」と呼ばないあたりに、生態系を正しく利用する理想郷を
想定していないところが、この映画のグロテスクなところです。
あくまで動物園にいた哺乳類たちの楽園、という感じですね。


ディレクターもこんなことを言っています。

ズートピアは哺乳類の主要都市で、他にも他の動物のための他の土地があるんだ。


2,ズートピアの成り立ち
彼らはヒトに近づく変化、二足歩行化と衣服、言語の理解を
「進化」と言っていますが、
我々の考える「進化」とは大きく異なっています。
奇妙なことに
「二足歩行化、言語習得」という人間にしか持ち得なかった能力を
多くの哺乳動物が同時に獲得したと思われます。
御存知の通り、
数万年前にヒトが知能を進化させた結果、
生態系は大きく変化しました。
もし
ズートピアが始まるときに知能を進化させたのが、
何らかの一種だった場合、その種が優占することとなり、他の動物にも影響するでしょうから
ズートピアで見られている種構成が大きく異なっているはずです。
いわゆるチンパンジーなどの数種の類人猿が寡占したのが
「猿の惑星ジェネシス」ですね。
「知能をもった猿が支配する未来」が来ていないことを考えると
「複数の哺乳類において同時多発的に知能向上が起こった」といえます。
そういえばズートピアにサルが出てきません。これも妙です。
つまり… 「ズートピアは猿の惑星の続編」という仮定が成り立ちます。
ヒトとサル、犬猫、先に知能化された霊長類があり
動物福祉の観点から「動物園の動物」が後追いで知能化されたと考えられます。
そして、、、、
ヒトの惑星から猿の惑星、そして動物園の動物の惑星へと、数百万年のタイムスパンで代替されてきたと思われます。
その代替が選挙によって穏やかに行われたのか、それとも種差別と殺戮の応酬によって
歴史ごと塗り替えられたものなのか、語るものはもういません。
もう一つ、気になることがあります。彼らの社会の進歩の無さです。
動物の種差別を乗り越えようとする段階は、まさに今のレイシズムを乗り越えようとする
人類の過渡期と同様で、数百万年の蓄積があるとは到底思えない「未熟な社会」です。
また、エネルギーの使い方にも浪費が目立ちます。
エンジンを使った車、ツンドラ地帯を人工的につくる巨大な熱交換器
熱帯雨林地帯を作り出すスプリンクラー
それらがいまひとつ断熱されていない地域の境界など
ヒトがいなくなる過程において、
エネルギー問題は恐らく核融合か核分裂などで解決されたとみえます。
しかし巨大な熱源をもつことはヒートアイランド現象を引き起こすでしょうから
ズートピアは夏めっちゃ熱い、と思われます。オフィスや公共交通機関の空調は
誰に最適化されていたのでしょうか。
以上から考えられることは、彼らの進歩のない、とってつけたような「人間化」は
進化ではなく、遺伝子編集によって人為的に付与されたものと考えられるのです。
そして、医学生物学研究は、暗黒の歴史として封印されているのでしょう、
ズートピアの医療システムは極めて稚拙です。植物毒の検出すらできなかったのですから。
時系列で整理します


1、動物解放論を端緒とし、ヒトに近い動物の権利「アニマルライツ」の向上が図られる
2、動物園で飼育する動物は「飼育動物の承諾をとること」という法律が可決、事実上の動物園廃止へ。一方で受精卵の遺伝子編集により人語を解する「本人の意思を確認できる動物」が生まれる
必ずしも二足歩行は必要ないのですが、
人語を喋れるように声帯の延長を起こすため、と脳が大型化しても脊椎が耐えられるように二足歩行にしたのかと。
かくして「動物園」が動物の承諾を得た上で成立するようになる
3,動物園の動物がヒトと同等の社会参加を訴える
4,動物・ヒトの混合社会の成立 もしくはヒト対動物の戦争状態
5,何らかの理由でズートピアからヒト、霊長類、犬猫が消える。
  同時に二足歩行でない哺乳類も消える。
  戦争かもしれないし感染症かもしれない
  ズートピアにいないだけで別の場所にいるのかもしれない。
6,現在のズートピアの成立。動物園由来の生態系なので、
  空調を用いて哺乳類個体に適した環境を作ることはあっても、
  本来の生態系に住む、という発想がないのが彼らの哀れなところです
  おそらく生態学などの学者もいないでしょう。
ズートピアは動物の楽園、ではなく、
あくまで動物園の動物達が楽園化した、といえるでしょう。
その成り立ちを住民が理解していないことから、
歴史上からヒトが消えたか、ヒトが彼らの見えない所で監視しているか、のどちらかだと思われます。交通監視システムから見ているのかもしれませんね。


さて、ついに本丸、昆虫食の生産について考えてみましょう。
劇中に出てきたドーナツやパイに、乳牛由来のバターや鶏卵を使えません。
ダイズや豆乳のような代替物を使うことでしょう。
また、イネ科系穀物とダイズだけではメチオニンが不足するので
合成メチオニンを添加 http://toyokeizai.net/articles/-/113049 していると思われます。
これらの石油化学工業は、だれの仕事なのでしょうか。
主人公のウサギの実家はニンジンをはじめとする植物農場でした。
ウサギのほとんどは伝統的に代々この職だそうです。
ニンジンはカロリーが低く、草食動物は食べられるものの
肉食動物にとっては腹の足しにはなりません。
単位面積あたりの生産量の高い牧草もいまいち見られませんでした。
ズートピア住民に反芻動物が多くいることから、大量の牧草を用意する必要があるはずです。
ウサギは「伝統を守る」目的でニンジン農場をあてがわれており
主な食料生産は公的に、他の場所で管理されていると思われます。
彼らの糞便が水洗トイレで流されていたところをみると、
公共機関がそれらを回収して植物栽培するのがよさそうです。
では
ウサギが「伝統的に」ニンジンを育てていることを誇りにしているのでしょうから
「昆虫を育てる」という伝統をもたないズートピアの住民のなかから
誰に育てさせることになったのでしょうか。
答えは恐らく
「囚人」でしょう。
ここから
「人語を介さない動物がいないこと」
「ヒト、犬猫、霊長類がいないこと」
の理由が見えてきます。逮捕起訴収監されたのです。
先の歴史「5,何らかの理由でズートピアからヒト、霊長類、犬猫が消える」
に追加しましょう
ヒトも犬猫も、霊長類も、そして最後に動物園の動物も
「人語を解する」ようになった結果、出生率の高い動物が増え
市民の大部分が動物園の動物由来になり
その中で先に人語を解するようになったヒト、犬猫、霊長類は
差別的な行為や行動をしたことにより
また、
遺伝子編集されていない原始的な動物は
捕食をすること(殺人)に相当するということで
みな「投獄」されたのです。
死刑制度という「野蛮な」制度はなくなっているでしょうから
終身刑で食料生産を担う、という囚人がたくさんいると考えられます。
食料生産の権限はおそらく市長がもっており
病院内を改造して刑務所のような区画を作ったり
逮捕された前副市長が囚人服を着ていたことからもわかります。
ライオン市長が最も凶暴化を恐れていたのは、食料生産を担う囚人だったでしょう。
なので、傷害事件の犯人にもかかわらず、市民がアクセスできる廃病院へと隔離したのです。
囚人を使った食料生産によって成立している社会ですから
法制度は厳しく、屈強な警察が必要です。
つまり、ズートピアは「夜警国家」なのです。
ようやく見えてきました。
強大な権力により「市民」と「囚人」に区画され
囚人が主な食料生産を担い
市民は「文化的」で「尊厳のある仕事」を任されます。
囚人がつくった昆虫などのタンパク質は国家が管理して粉末化され一括で価格が決められ
ドーナッツやパイの材料として「見えない形で」市民に供給されています。
では、その粉末化された昆虫とは何でしょうか。
それは市民権の与えられていない、かつ物語に登場した唯一の昆虫、ハエでしょう。
ハエは糞便からも養殖できますし、フスマや脱脂大豆などの食品残渣からでも養殖可能です。
動物は塩分摂取量が少ないでしょうから、塩分に強いアメリカミズアブを使う必要はないでしょう。
すると、ズートピアの周囲に農場があることも説明できます。
刑務所でハエによって作られた肥料を農地に販売しているのでしょう。
つまり
「ズートピアはハエを囚人が養殖して提供する夜警国家」だったのです。
続編は囚人の暴動に乗じてハエが脱走し、別のインセクトピアまで逃げ帰って
人語を解するハエが市民権を主張しながら移住を求める
「ザ・インセクトピア」あたりでしょうか。
ディズニーに期待しましょう。

以前に見て、
たいそうお気に入りの映画。インターステラー

クリストファー・ノーラン監督の映画は
バットマンシリーズやインセプションを見ましたが
わかりにくいものをわかりにくさを含めて誰にでもなんとなく分かったように見せて話をすすめる」という
非常に詐欺師に近い恐るべき能力を持っているように見えます。
ほんとうにこんな才能が平和利用されてよかった


題名にも書きましたように、
インターステラーは星の間を移動する映画ですので昆虫食は出てきません
ですが、
星を移動する動機は食糧事情の逼迫です。
劇中に出てきた作物と登場人物の発言から推測すると、
昆虫食にとって恐るべき事実が明らかになっているのです。
ハードSFってのはいいですね。
科学ベースのいろんな想像をそこに重ねられるので、
妄想が捗ります。
以下盛大にネタバレをします。
インターステラーは特に、ネタバレと大変に相性の悪い映画ですので
これから見ようという方は決して読まないでください。
まずしっかり見る。

そして劇中の将来の食糧事情と昆虫食について語りましょう。


まず指摘するのは
「インターステラーでは昆虫生態系と昆虫食文化が崩壊している
という事実です。
2015年に改定された「食用昆虫リスト」は、2000種を超え、
今でも20億人が何らかの昆虫食品を食べています。
食べるだけでなく、菜食、果物食にとっても重要な送粉者で、
日本においては農産物産出額の8.3% 4700億円もあり、
うち3000億円が野生の送粉者によるものとされています。
http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/press/160204/
農業殺虫剤の市場が1000億円ですから
雇用を産んでいないだけで既に一大産業といえるでしょう。
劇中では
人類は60億人をピークに減り続けている、と話されていました。
このままの増加率でいくと100億人になる、と言われていますから、
劇中の世界では人口増加が食料の逼迫の主な原因ではなく
先に農耕地の開発が行き詰まり、荒廃が始まり、
耕作可能地域が減少した結果と考えられます。
また、
残された耕作可能地域をより効率的に主食の生産に活用できるよう
効率のよい作物を選抜し、特に近縁のものだけを栽培し続けてきた結果
コムギ、オクラ、そして最後はトウモロコシの順に疫病が蔓延し、
「人類は窒息する」とのことです。
しかし変です。
現在でも、多くの酸素は森林が生んでいますので、田畑に単一の作物に対する疫病が
蔓延したからといってすぐに窒息することはないでしょう。
つまり、
この時点で森林は既に開発済みで、
使える田畑と使えない田畑(砂漠)の
二種類の陸地しか残っていなかったと考えられます。
これで砂の多さにも納得です。
しかも先の
コムギ、オクラ、トウモロコシは、いずれも風媒花です。
そこから、送粉昆虫の生態系もすでに崩壊していると思われます。
これは困った。


食糧事情が逼迫しても、もはや食べるべき昆虫は存在しないのです。
土壌細菌との共生が必要なダイズが食品にないことから、
土壌細菌群もかなり疲弊していることが類推されます。
昆虫食を忌避するヒトは
「飢えたら食う」とは言いますが
実際に飢えた状態にある生態系はこのように崩壊した後で
今更昆虫を食べはじめることすらできないのです。
さて、
ここから
「人類が昆虫生態系を破壊する前に昆虫を利用しはじめた未来」
というパラレルワールドを考えてみるのも一つの楽しみ方ですが
インターステラーのモットーに従えば
「過去は変えられない」のです。未来を考えましょう。


劇中、主人公クーパーは、重力を操作する理論の完成のため
自殺ともいえる英雄的行為によりブラックホール内で得たデータを、
重力を操作して娘マーフに伝えることに成功し、未来を変えました。
人類は重力を操作して土星にむけて移住ステーションを飛ばす「プランA」を実施、
地球を離れることができました。
そして
娘マーフはその5次元理論構築にあたって
父に何が起こったか、全てを理解しているようで
それまで通信機が壊れて、マン博士の妨害もあり、
何の予備情報もなかったのに、
父クーパーが
「なにものか」に土星付近で、124歳の時に
開放されるであろうことを数分の精度で予測できていました。
そして
同僚の博士ブラウンが別の星の開拓に成功していることを突き止めています。
あまりに全能なマーフ
ステーションの名前がクーパーステーションになるのも納得です。
マーフの全能性によりかかって、その人類移住計画の全貌について
読み解いてみましょう。


次に言えることは
ステーション内で
分解性昆虫の食利用は少なくとも採用されている」ということです。
重力操作については全くの物理ベースのSFなので、
アントマン同様触れることができません。
しかし、
重力操作はあくまで手段であって、目的は食糧事情の改善です。
ステーション内では、どのように食糧事情が解決されたのでしょうか。
まず目につくのはトウモロコシです。
父クーパーが帰ってきた時、ステーション内では野球グラウンドが整備され
芝生があり、土壌がありトウモロコシが植わっていました。
作物への疫病が地球に居られない原因で、その解決はできなかったのですから
ステーション内に疫病を持ち込むことはできません。
すべての物品について検査し、滅菌してから持ち込んだものと思われます。
すべての物品について
そうです。
あのステーションにあるものは、すべて意味があるのです。
次に、昆虫がステーション内にいるかどうか、
確認してみましょう。
ここ

ラザロ計画の記念碑があったすぐ横
ここに昆虫が飛んでいます。
もう一箇所 トウモロコシ畑にも。

しかし、
野球場の芝生や住居の樹木、農地がちらっと映りましたが
訪花昆虫を必要とする作物は見当たりませんでした。

先に言いましたように、
このステーション内に意味のないものはないのですから
何らかの目的で訪花昆虫ではなく、分解系の昆虫が利用されていると考えられます。
ステーション内の食事については一言も触れられていないのですが
効率の悪く、窒息の助長になる大型哺乳類家畜はとうの昔に居ないでしょう。
地球でも既に滅亡していたものと思われます。
トウモロコシベースのデンプンと、
そしてヒト由来の有機物、つまり人糞を昆虫で再利用した
タンパク質が、主な食事でしょう。
そして農場に飛んでいる昆虫は、疫病対策のため、バックアップの
遺伝資源として放飼されているものが映り込んだ、と考えられます。
トウモロコシの残渣やフスマ、人糞を原料に
ハエやミズアブなどの分解性昆虫を作用させ
高タンパクの食料を、低エネルギー、低水消費で分散処理していたのでしょう。


そこから、
なぜマーフが最後、父をステーションから追い出したか、
という本当の理由も見えてきます。
マーフは父が農場を好きでないことを知っていました。
124歳にもなって、90年ぶりに世界を救って帰ってきた父に、
今更昆虫を食え、とはとても言えなかったのでしょう。
マーフは父に「ブラントの元へ行け」と促します。
寸分たがわず用意されていた実家があるにもかかわらず
所在なさ気に「ここはきれいすぎる」とビールを飲んでいた父。
そのアンニュイな表情は、
ハエやアブなどの不潔に見える昆虫食が、たとえ衛生的に管理されていたとしても
口に合わなかったのではないか、と類推させます。
ブラント博士も
おそらく昆虫を食べない食習慣のままエドマンの星に行っているので
この宇宙において唯一の食生活の合う人類でしょう。
ステーションから
備蓄食料も持ち出さず、
整備中の探査機のようなもの単機で飛び出します。
これはどうみても、
ステーション内の食が合わなかったとしか思えません。
マーフの最大の誤算は、
父のために昆虫でない食料を用意できなかったこと
そして、父が、
意外にも昆虫食が口に合わなかったことだったのでしょう。
しかし
全能マーフは父に昆虫食について一言も言わずして、
父の願望を言い当て、ロマンたっぷりにブラウン博士の元に行くよう促します。
さて、
移住先のエドマンの星では、ブラウンと父クーパーはどのような農業を繰り出すのか。
そしてステーション内の昆虫食文化をもつであろうプランAの住民と、
受精卵で運ばれ昆虫を食べないであろうプランBの住民とブラントとクーパー
この先、
うまく融和できるでしょうか。
食の軋轢による新たな人類の分裂がおこらないか、とても心配になりました。
インターステラー2「食の葛藤」カミングスーン
じゃないですか。そうですか。

アントマン。
アントルームの島田さんが絶賛してらしたので
餅は餅屋。アリはアリ屋。

専門家の言うことをまずは信じるべきだと、見てきました。
座席はアイレベルが低めの前から三列目C席。前がいいですね。
アリの目線で人間の世界を見られる良い映画です。
以下ネタバレも含みますが内容自体が王道娯楽映画で
アントマンの設定は昔からアメコミでなされていたので、許してください。
もうダウンロード発売しているので、むしろぜひ見ていただければと。


そもそも
アントマンの中核技術はアリとはなんら関係がありません
冷戦下アメリカで開発された
「物体縮小化技術」で完全に物理屋さんの仕事。
開発した博士も物理学系のようです。
なんとも解釈の難しい技術で
物体の原子間のサイズを任意に変更できるとのこと。うーん。吸う空気とか
腸内細菌とか、体の周りのゴミとかダニとかどう「縮小化範囲の判定」しているんだろう。
代謝に従って出入りする物質はその都度拡大縮小しているんだろうか、とか。
縮小化した分子と通常サイズの分子との化学反応はどうなるんだろうとか。
物語の後半で巨大化にも利用可能だとわかったので
ウルトラセブンのように自在に縮小拡大が可能なようですが。どうしたものか。体重はどうなるの?とか。
私は物理屋でないので、どこまで科学的に突っ込めるかわからんものです。


なんともすごそうな技術ですが、
その有用性と軍事利用への危険性を予見した博士はその理論と技術を完全にクローズドにしてしまいます。
雇った助手にすら「そんなものは空想だ」と突っぱねる始末。
困ったボスです。はじめから助手雇わなければいいのに。
こういう人間関係がこじれたことが原因の研究キャリアパスの困難に対して、
どうしても若手側に肩入れしてしまいがちなのは私だけでしょうか。
さて、
幸か不幸か、この助手はかなり有能だったようで、隠されたことを恨みつつも、
それに極めて近い技術を30年かけて再発明してしまいます。
イエロージャケットと呼ばれるもの。飛行可能で、レーザーまで出るスーツ。
すばらしいですね。
イエロージャケットには
縮小の恩恵をあまり受けないレーザーや飛行などの技術
(レーザーの低出力化、流体の粘性がネックになることでの飛行の不安定化)を追加するあたりに
若手の焦りとコンプレックスが出ていてとてもいいデザインだと思います。
一方の
アントマンはそのような余計な装飾がなく、スーツも冷戦時代の技術のままで
若干見劣りします。人間大になった時ですら警察のスタンガンも容易に通すほどの弱めのスーツ。
小さくなっていろいろ活躍するのですから、もうちょっと丈夫にしてあげてもいいのでは。


スーツの話が長くなりましたが、
むしろ「物語の中核」となった技術は、縮小化技術よりもむしろアリの操作技術。
スーツ技術のクローズド感に比べてかなりのオープン。
ジジイ博士が、部外者の前科者である主人公に聞かれて、さらりと言ってのけ
「電磁波を嗅覚中枢に照射して操作する」とのこと。
縮小化技術に対しては「調整器は絶対に触るな」と激昂していたジジイ博士が
手のひらを返したように、かなりオープンなサイエンスを展開しています。
元助手もこっそり博士の動向を調査しており、博士には尾行がバレていなかったので、
ジジイ博士がアリの操作技術を持っていることも元助手は調べていたことでしょう。
しかも
ジジイ博士がイエロージャケットを破壊しかねない言動をしたのに対し
警備を三倍にする予算の潤沢さをみせながら、
アリ対策には「空調の金網の目を細かくする」という大変にローテクな対策。
「アリを防ぐならバルサンを炊けばいいじゃない」


かくして、
アリの高度な行動操作によりアントマンは文字通りのザル警備を突破し
丸腰で施設に侵入し、施設とデータとジャケットの破壊という目的を達成してしまうわけです。
イエロージャケットの技術とアントマンの技術自体にあまり優劣は感じられなかったので
アリが勝敗を分けたといってもよいでしょう。
アリの行動操作、この技術はアントマンの縮小技術よりも軽く扱われていましたが
結末を見るとこの技術、むしろ縮小技術より秘匿にすべき重大な技術のように思えてなりません。
物語のラストでジジイ博士は改心し「技術を秘匿にするのは難しい。むしろ正しい者に担ってもらう」
と、30年前にに改心していれば助手とも娘ともあんだけこじれなかったのではないかと心配になる手のひら返しぶりを披露します。
ここで
物体縮小技術と抱き合わせで、なんとなく正しい者に担われることになった
「アリの行動操作技術」について、
次回作でどう利用されるか、昆虫学をひもときながら考えてみましょう。


参考文献は
アリの巣の生き物図鑑という
図鑑の形をしたなんだかすごい本です。

もう一度言います。
「図鑑の形をしたなんだかすごい本です」
専門家の専門分野のための図鑑であることに間違いないのですが、
これが他の図鑑と同様に図書館におかれることで、
どこかの子供が何かに目覚めかねない危険物です。
それほど漏れ出てくる熱量がすごい。特にコラムが読み応えがあります。
おすすめです。
アリは遺伝子組み換えも成功しておらず、というか継代飼育ができていないし
薬理学的な注射も効かない(すぐ死んでしまう)ことから、なかなか行動操作的な
研究が難しいのですが、タッチングフェロモンなどの化学物質を利用して
コミュニケーションをしていると考えられます。
また、様々な好蟻性生物が、主に嗅覚をハッキングすることで
攻撃的な蟻の群れにまんまと潜り込み、やりたい放題やっているのをみると
アリの嗅覚系が、ハッキングしやすい脆弱性をもつと考えられます。
そのため電磁波で嗅覚中枢をハッキングする、という発想自体は
かなり現実的でしょう。しかし、電磁波感受性の神経基盤を
きちんと捉える必要があるでしょうし、どの個体のどの神経細胞を
狙うかを三次元の座標として決めないと情報の混線も起こるでしょうし
なかなか難しいように感じます。
このような複雑な行動操作を電磁波で行う技術はまだ確立していません。
ただ、光感受性のタンパクを脳の特定部位に発現させて、光を照射して神経活動を引き起こし、
その機能を測定する研究があるので、ゆくゆくは実用可能な技術だとは思います。
また、
目的に応じて可塑的な行動をとらせるにしても、
アリの様子を常にモニターせねばならず、
老眼が進む博士には酷でしょう。
アントマンもアリを見るばかりでは
仕事になりませんので、
もうちょっと、
注射一発で長期間、自律的で複雑な仕事をさせられるような
行動操作があればいいのに、と思いました。


アリでは観察されていないようですが、注射により
ハチが高度な行動操作をすることが報告されています。
丸山宗則先生の「昆虫はすごい」でも、
エメラルドゴキブリバチが
ゴキブリを仮死状態にすることは知られていますが
クモとヒメバチの関係はもっと複雑で、
よりアントマンの理想に近いものと思われます。
最近センセーショナルに報道されたのが
クモの造網行動を操作するクモヒメバチの研究。

すごくおもしろいです。
本としてのおもしろさも抜群ですのでオススメします。
学生が読むと身につまされる苦労が赤裸々に披露されているので、
モチベーションが下がった時のエナジードリンク的に読むと勇気づけられます。
著者に先駆けて2000年に報告された造網行動の操作は
クモに寄生したハチがクモを殺し、10日間の蛹期間を経て羽化するのですが
クモを殺す前に、10日の蛹期間に耐える強固な網を作らせる「行動操作」を行います。
この行動操作は
「寄生者は宿主の本来の生態を利用する」と議論されています。
造網行動の一部の行動ルーティンを繰り返させることで、
強固な蛹を支える網を作らせているだろうと。
なので、「注射一発で、長期にわたって、複雑な行動操作をする」という点で
もう一つのアプローチとして、注射式の行動操作も
次作に向けて開発検討してみてはいかがかとおもいました。 


そんな私の願いを
ジジイ博士が聴きとったのか
映画の最後に「ワスプ」の新スーツがお披露目されて
アントマンは終わります。
実は、先の「行動操作」のために次世代のスーツ「ワスプ」が誕生したと、睨んでいます。


ワスプ Waspは日本語訳がまちまちで
スズメバチとも訳されることがあるのですが、狩りバチ一般を示すことが多いようです。
ミツバチはBeeで、大型のスズメバチはHornetなので
このワスプ、寄生蜂だとすると
そして、
マーベルのオールスター映画、「アベンジャーズ」に
アントマンとワスプが参戦することが示唆されました。
更に、
スパイダーマンが、出版社の枠を越えて参戦するそうです。
もうおわかりですね。
次作
「アベンジャーズ」はワスプによるスパイダーマンの行動操作がキモです。
ワスプが一刺しすることで
スパイダーマンの動きが操作され、
意識せぬままにアントマンとワスプの意のままの網を張りまくるスパイダーマン
映画後半にスパイダーマンのスーツを食い破って次世代のワスプが出てくる
かなりアレな展開が見られるかもしれません。
期待しましょう。

とてもいい漫画に出会いました。
「ダンジョン飯」
ベタなRPGのフォーマットを使いながら、
そこに生じる生態系についても真摯に論じて、その持続可能性まで
長期的に見据えて実践していく、すばらしいダンジョン生活が語られます。

現在二巻まで発売されています。

二巻はよりディープな
昆虫食の世界が繰り広げられます。当ブログをご覧の皆様必見です。
まめだぬき先生の著書「きらめく昆虫」が食材写真集に見えてきます。

書籍版も印刷が精細で美しいのですが、電子書籍のバックライトのある画面で見ると
いっそう「きらめいて」見えました。おいしそうです。
以前にTwitterでまとめていただいた、ダンジョン飯の再現レシピについて、
ブログにまとめ忘れていたので、まとめておきます。


きっかけは昆虫食仲間の
ムシモアゼルギリコさんの出産準備でした。
赤子の管理に専念するため、他の食用昆虫が私に託されることになったのです。
昆虫はモバイルなため、宅急便で運搬可能であることが大変に便利です。
犬猫ではこうはいきません。
また、あらいぐまラスカルのように一度飼育した野生動物を、
人間の都合で野外に放つなど言語道断です。
と、
分散型昆虫ファーミングの将来性を感じつつ
受け取ったのですが、いかんせん冬、保温に気を使ったものの
熱帯出身のサソリが死にそうになってしまいました・
(同梱のゴキブリ達は元気でした。すばらしい。)
死んでしまう前に、ギリコさんの了解をとって急遽
サソリ料理をつくることに。

揚げればおいしいことはわかっていたのですが、
何か別の調理法がないかと。考えを巡らせていたところ
ダンジョン飯があるじゃないかと。
漫画内で使われていた大サソリは全長1mほどのサイズだったので
このサソリだと1/10スケールぐらいでしょうか。
ミニチュアに見えるよう、100均で小さい土鍋を買っておきます。
乾燥スライムは塩蔵クラゲのパッケージをフォトショして

歩き茸はエリンギとしいたけで作成しました。

材料が揃った!

シンプルに水炊き

おいしい。

ごちそうさまでした。
ダンジョン飯では食べて終わりでしたが
ココで終わらず、標本作りまでチャレンジしましょう。

ということは、水炊き中でもUVで光ったということです。
「ブラックライトで照らされるサソリ闇鍋」とか美しいかもしれませんね。


さて
「最近はハードSFが無くなった」と言われることがあります。
ハードSFは1950年代に生まれ
いわゆる宇宙系、ロボット系のガチガチに理論を詰めて、
エネルギー源であったり未開発の技術を1点だけフィクションにし
その他の現象をきわめてリアルに構築するSFのジャンルです。
私が思うのは
「ハードSFが無くなったのではなく、リアルさを感じるSFの分野がシフトした」
のではないかと考えています。
「食」はリアルに変革を迫られていることを実感する分野です。
逆に「宇宙」はあってもなくてもいい、ファンタジーに近いものになっています。
また、映像技術の発達により、誰でも宇宙に行ったような景色が見えてしまいますし
無人機が活躍して有人探査が減る中、そのリアルさは薄れていくのでしょう。
情報技術だけではリアルな食を生み出すことはできませんから、
実感のある科学技術として、食品科学がより身近になったと考えられます。
ということで、「食」は21世紀のハードSFのメインになってくるのでしょう。
前にマッドマックス 怒りのデスロードについても考察しましたが
前後してインターステラーも見ました。
これらもメインの課題、登場人物の行動の動機は食料でしたし、
それについてきちんと設定を練っているところが
物語のリアルさを高めていました。
そこで宣言しておきます。
「昆虫食の開発と実践はハードSFである」と。
唯一「昆虫食が普及していない」という一点のみをフィクションにして
既存の食品科学を駆使して最高の昆虫料理を開発する。
そして
昆虫を生産し自給する集落を見越してその文化を構築する。
お遊びでずさんな昆虫食をすると、おもしろさが減る気がするのは
私がハードSFとしての完成度を高めようとしているためだと気づきました。
そこから見えてくる未来はユートピアか、ディストピアか。
あなたは何が見えてきましたか。
ということで、
昆虫食を題材にした創作物のアイデアがありましたら、
相談に乗ります。
昆虫食の兄を持つ妹botなどの日常系でも
テラフォーマーズのような宇宙と絡めてもいいかもしれません。
もちろんダンジョン飯もハードSFだ、と言えるでしょう。
また、ハードSFはフィクションの
但し書きを一点しか書かなくてすむ、という点で誤解を招きにくく、
実際のサイエンスとの相性も抜群です。
鉄腕アトムという創作が二足歩行ロボットの研究者を育んだように
メーヴェが実際に一人乗りジェットを生んだように
様々な創作物は相互に影響しあい、「文化」を形成します。
もちろん研究も、そこから逃れることはできません。
むしろ積極的に文化社会の形成に関与していくことが
これからの市民化したサイエンスに求められる役割でしょう。
研究者や漫画家、アーティストが考えた
おいしい未来を作り出す「実践」の
多様な形を見たいものです。
あなたが考える昆虫食の未来、パラレルワールド
なんでもお待ちしております。