以前に修士課程で伊那でヘボの研究をしていたシャーロット ペインさん、今はブルキナファソをフィールドに博士課程をしているそうです。2019年の5月にとっても良い論文を出したので紹介しておきます。
狙いはシアワームと呼ばれるシアの木を食べる幼虫。Cirina butyrospermi という学名です。アフリカ産の食用ヤママユというとモパニワームが有名ですが、シアバターノキを食べるいくつかのヤママユも食用になっていて、以前にお土産でアフリカ産のCirina forda をいただいたことがあります。
昆虫料理標本2 モパニワームの地中海風トマトスープ。
— 蟲喰ロトワ 蟲ソムリエ しばらくラオス🇱🇦 (@Mushi_Kurotowa) 2014年2月25日
今回はフリーズドライしたものを樹脂封入。煮物はイケるけど
色が褪せるので生鮮食品には向いてないと思われる。 pic.twitter.com/fNaGiXADhr
アフリカのヤママユガ科食用昆虫Cirina forda を頂いた。乾燥で消化管を抜かないらしく、植物性の香りが強い。味はシンジュサンに似る、熱帯サバンナ気候のブルキナファソ南部で調味料として使うとのこと。やはりヤママユガ科は美味しい。 pic.twitter.com/Jk8XahOX
— 蟲喰ロトワ 蟲ソムリエ しばらくラオス🇱🇦 (@Mushi_Kurotowa) 2012年9月21日
野生の植物は基本的に葉を食害されてもなお、次世代を残すために冗長性を備えていて、多少食べられても収穫に影響しない許容値をもっている、と考えられます。このCirina butyrospermi が植物を食べ、フンをするとその周囲に有機物が還元されますので、落ち葉よりも良質な肥料源として、周囲のトウモロコシ畑にプラスの影響を与えている可能性がしめされたのです。
シアバターの木の葉を食べるおいしいヤママユガCirina butyrospermiの食葉によるシアの果実収量への悪影響は検出されなかったが、木の周囲のトウモロコシの生産性を高める可能性が示唆された。これは伝統知識を支持するもので、既存の収穫を損わない新たな農業システムの一例が明らかになった。 https://t.co/WGMhgQoPFB
— 蟲喰ロトワ 蟲ソムリエ しばらくラオス🇱🇦 (@Mushi_Kurotowa) 2019年4月12日
We were looking at the impact of the edible shea caterpillar, known as chitoumou, in Burkina Faso. This caterpillar eats only the leaves of the shea tree, causing widespread defoliation, as you can see in this photo (right): pic.twitter.com/eTGjgnCLZw
— Charlotte Payne (@libertyruth) 2019年4月12日
シアバターノキを食害するおいしいイモムシが知られていて、食べられた木はほとんど葉を落としてしまう。
Instinctively this looks like a pest - surely the destruction wreaked by the caterpillars isn’t good for the tree?
— Charlotte Payne (@libertyruth) 2019年4月12日
But when we looked at defoliation and shea nuts, we found no link at all! Trees are productive regardless of whether they’ve been targeted by caterpillars. 🌳🐛 pic.twitter.com/h7gYs9r3UC
一見深刻な食害にみえるけれども、シアナッツの収穫をみるとその食害との関連は見えませんでした。食害のあるなしにかかわらず、どちらもしっかり実をつけます。
We also looked at the growth of maize under trees. When caterpillars eat the leaves, they expose the maize to more sunlight and to a possible source of nutrients -their feces!
— Charlotte Payne (@libertyruth) 2019年4月12日
Maize growth isn’t harmed, and may even be helped by the fertiliser and sun exposure they provide 🌽🌞 pic.twitter.com/ueo1X1Form
またシアナッツの木の下ではトウモロコシが栽培されていて、毛虫が葉を落とすことでフンが落ち、そして日照も良好になります。そのため食害を受けたシアバターノキの近くではむしろトウモロコシの成長が促進する可能性がしめされました。
Thanks for reading, & please look out for the next instalment - the contribution of caterpillars to food security... pic.twitter.com/0Ok0SmQwcq
— Charlotte Payne (@libertyruth) 2019年4月12日
とのことです。
アグロフォレストリー(林産物と農産物の複合的な生産)の一貫として、一見深刻に見えてしまう虫による食害を公平に調査研究し、「生態系から持続可能な形で最大限に搾取しつづける」という功利主義的な昆虫利用、生態系利用の形として、これまで「お話」でしかなかった植物の冗長性と、昆虫への転換、そして日照の有効利用といった複雑な現象を解明したという意味で素晴らしい論文だと思います。これはあくまで自由発生した昆虫の利用ですが、これを完全養殖、半養殖しながら人間が介在することで、農地と森林からの最大効率利用、そして複合的なあたらしいシステムの導入によってこれまでにない持続可能な農業の形が見えてくる、と思います。
ピンバック: シアの葉を食べるおいしいヤママユガの幼虫は、ブルキナファソの小規模農家のフードセキュリティに貢献しているという論文 | 蟲ソムリエ.net