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以前の記事
「初めての自家養殖食用昆虫」
がマダガスカルゴキブリであることを紹介しました。
彼らとは長い付き合いになります。
今回は前編、2008から2011年までをご紹介します。
前々から
記事にしようと思っていたのですが、
この度
「東京虫食いフェスティバル番外編」にて
15分ネタのテーマとしたため、先延ばしにしていました。
ここに一挙に報告したいと思います。
遡ること2008年7月
就活に・実験にと漫然とこなしていた私は
多くの一般的な学生と同様に
人生に行き詰まりを感じていました。
そんな中、飼育していた実験用の
ショウジョウバエを飼育していた思ったのです。
「こいつら食えないか」
「こんなもの食う気になれない」
「なぜ私は昆虫を食べたいと思わないのか」
「食べてみたら分かるかも」
ですが
ショウジョウバエのエサには防腐剤が含まれているので
食用には適しません
そこで食用に適した昆虫を探しました。
検索サイトにて「昆虫 料理」と検索すると
ありました。
7月31日の購入履歴

同時に江頭2:50分のDVDを購入しているあたりに
当時の迷走っぷりが伺えます。
その後すぐ、
8月1日の「セミ会」に参加し、
内山昭一さんとお会いし、セミの味を堪能しました。
就活するたびに東京に行き
アリの子(アジアスーパーストア)
タガメ(アジアスーパーストア)
サクサン(上野)

スーツを片手に買って帰ったものです。
その時とばっちりを受けていたのは
宿泊させてもらっていた高校時代の同級生TW氏。
某国立の外国語系大学に所属していた彼は、
ゼミのボス主催のサークル活動として
はだしのゲン」をウルドゥー語に翻訳し、プロの演劇指導を受け
当時核開発を進めていたインド・パキスタンへ公演に行くという
かなりキレキレの活動にハマっており、
ハマりすぎた挙句、留年を繰り返していました。
(現在は会社員としてインドネシアあたりをウロウロする好青年です。)
私が修士でしたので、
頼れる東京の友人は彼ぐらいしか居なかったのです
何を思ったのか私は
彼と彼の妹(教育実習でクラス担当になったという経緯のある)の同居する
共通キッチンで、初めての昆虫料理を開始しました。
そしてあろうことか、
この兄妹を哀れな生贄の第一号に選んだのです。
(その節は大変お世話になりました。何か宿泊のお礼と思って暴走しておりましたことをここに懺悔いたします。)
そして、
それら稚拙な初期の昆虫料理をうまい/不味いといいつつ
受け入れてくれた兄妹によって
私の昆虫料理熱はすこしばかり種火がついてしまいました。
年が明けて2月、
就活は一層混迷を極め
人生の行き詰まりを大学院へ先延ばしにすることにした私は
東京に通うこともなくなり、冬になってしまったので
新たな、仙台で手に入る養殖昆虫を求めました。
次なる犠牲者(?)は
KキャンパスにあるM研究室。
ここでは昆虫の脳機能を電気的に測定する装置をもっており
感染症に強く、賢く、そしてよく増える昆虫の代表。
ワモンゴキブリを研究パートナーの一つにしていました。
脳機能を測定するわけですから、
脳は大きいほうが良いので
多くの論文で使われているワモンゴキブリの他に
大きく体重のあるマダガスカルオオゴキブリが飼育されていました。
残念ながら彼らの脳はワモンゴキブリよりも小さいことが分かり
単なるペットとして飼われていました。
そしてその情報を、
私は事前に仕入れていたのです。
「M先生、マダゴキ・食べさせてもらえませんか?」

意外なことに、「昆虫料理を楽しむ」が
研究室に既においてあり、H先輩が食いついてくれました。
H先輩は既にセミ幼虫を捕獲し「セミチリ」を自作して
食べたことがあるそうで、昆虫食に関しても私の先輩に当たることが分かりました。
さて
食べてみます

ほっこりとしたイモ系の香りと脂質のまったりとした味わい。
バターのような獣系の香りとムレ臭。
腹部は集合フェロモンと思われる「G臭」があり、
好みが分かれる所でした
後に腹部の消化管を取り除くことになるのですが
この当時はそのまま美味しく頂くことができました。
その後、
このコロニーから分譲された
飼育個体を徐々に増やし、次の会が開かれます。
2009年9月
同級生の怪魚ハンターが 人生を決める大物を釣り
「昆虫食べてみたい」とのリクエストを頂き
彼の帰国に合わせ希望者をつのり(半ば無理やりですが)
フルコースの会を開くことに
今から見るとまだまだですが、
当時としては精一杯の昆虫料理を出しました。
当時のブログでは私のことを
“常識的な狂人”であり“紳士的な危険人物”
と評されており、
彼の観察眼は魚を見つけるためだけでないことが
伺えます。
彼の言うように、「常識的な狂人」でありたいものです。
さて
この時つくったG料理は
スープカレー。
揚げた食材をスープ状のカレーをかけて食べる、という形は
煮込んで食材の個性が失われてしまう通常のカレーよりも
揚げとの相性の良い昆虫も気軽に参加させることが出来る
最適な料理であると確信しました。

時は流れ2011年
「食用昆虫科学研究会」の初期メンバーとなった私は
サイエンスアゴラ2011の出展企画として、
Gを使った生ごみ処理機の計画を発表。
この時は試食昆虫を多く準備しすぎ、
話を殆ど聞いてもらうこともなく
ただただ昆虫料理を給仕するだけになってしまいました。


この計画をご紹介しましょう。

「名前が悪い」という特徴から、
ここからは彼らを学名「G.portentosa」と称します

彼らは野菜くずは果物の果皮を好んで食べます。
そしてフンをします。彼らの体はおいしい昆虫料理となり、
またペットの餌となり、フンを肥料として利用することで
野菜を再生産する。つまり循環型生活が行えるのです。
発酵分解式のコンポストはニオイが強く、
乾燥式の生ごみ処理機は電気代もかかり
堆肥化もできません。
この時G.pのアゴと消化管を利用して処理することで
乾燥ペレット状の堆肥(のような物体)となるのです。
では
次に飼育環境を改良していきましょう。


ペットとして、生き餌として養殖する方は
基本的に水と配合飼料を使うそうです。
野菜くずは水が多く含んでおり、
湿度を高めてしまうので
コバエやダニの発生を促し、健康を害してしまうことが多くあるとのこと。
なので、湿度対策が特に必要です。
「煙突効果」という現象があります。
上下に穴の空いた円筒形のものがあるとき、温められ膨張した空気が
軽くなり、上がることで、動力なしに新鮮な空気が下から入ることです。
それを利用した円筒形の飼育容器を考えました。
野菜くずではやはり水気が気になったので、
エアポンプを使った強制換気装置を付けました。
そして「フルイ」を下に向かって小さくすることで、
子供と大人を分け、共食いを防ごうと考えました。
この時、最下層のトレーには、フンのみが入り、
その他の子供やGは(彼らは卵胎生なので一齢幼虫>フンであれば大丈夫です)
下に来ること無く、安全に回収できます。

残念ながら換気装置が貧弱で蒸れがちで、
倒れると脱走することも多く(笑)
すぐに第二号の開発にかかりました。


次はサイエンスアゴラ・虫フェス2011でも発表するので、
外見をちょっとかっこよくしています。
構造は似ていますが、材質をポリスチレン製の100円金魚鉢から、
ポリプロピレン製の四角いタッパに変えたことで、ひび割れを防ぎ、軽量化と
強度を両立させました。最上部には強制換気装置としてUSBファンを設置し
低湿度を保つよう気をつけました。

ところが、彼らは走地性があり、下に下に行ってしまいます。
そしてファンの出力がやや強く、常に乾燥状態になってしまいました。
改良は次年に持ち越しとなってしまいました。(後編に続きます)


次に、初期の味見で気になった「腹部のG臭」について
確認していきます。
まず、食用昆虫科学研究会の兄貴的存在、
Gの殺虫剤耐性の研究で学位をとった水野さんの協力のもと
解剖します。
そして、匂いの強い部位を特定するため、それぞれの器官を食べ比べたのです。
その結果がコチラ。

消化管を茹でてそれぞれの器官を食べ比べた結果、おそらく
中腸から後腸にかけての付属腺から集合フェロモンが分泌されていそうです。
胃は酸味がありましたが、そのようなニオイはしませんでした。
また、卵はバツグンに美味しいのです。
バターのような香りとコクがあり、誰でも美味しくいただけると思います。
この結果から、
当研究会では、G.pの成虫を食べる場合、腹部の消化管を除くのが通例となっています。


次に、調理法について考えて見ましょう。
彼らは体重があるため、内部がジューシーで、クニュっとした食感ががあります。
また、外皮は弾力があり固く、口に残ってしまうことが残念です。
そのためしっかり揚げることで、クリスピーな食感にし、
美味しく食べられていました。
ただ、昆虫のヘルシーさ、高タンパク低脂質を実現するには、
揚げ意外の料理法も挑戦したいところです。
そこで辿り着いたのが
フリーズドライでした。

フリーズドライは-30度以下に凍結したものを
低圧条件におき、水分が昇華したところを「コールドトラップ」と呼ばれる
霜取り装置で捕まえることで、極端な加熱をせずに水のみを取り除く手法です。
近年ではインスタント味噌汁の具の野菜などに使われています。
これにより、サクサクとした食感を、油を使わずに実現できます。
消化管を取り除いたボディをフリーズドライすると、
外皮がカリッとして弾力が減り、食べやすくなりました。
そして内側の脂肪体がふわっとパフ状になりウエハースのような食感が実現したのです。
また、フリーズドライは加熱しないことから、その香りを多く残す特徴があります。
別にしておいた消化管をフリーズドライすると、そのG臭、集合フェロモンのニオイが強く残っていたので
フリーズドライで食べる場合にも消化管を除去したほうが良さそうです。


まとめます。
1,G.pは野菜くずなどの植物性家庭ごみを再利用する生ごみ処理機として利用可能である。
2,処理機として利用する場合、湿度の管理が重要である
3,フンは肥料として使えそうだが未検証
4,フリーズドライは消化管を抜いて作るととても美味しい。
それでは後半2012〜2013をお楽しみに。