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とうとうこのブログも300記事に到達しました。
シン・ゴジラの二次創作記事がバズってしまいましたが、これは昆虫食ブログなのです。


そろそろこの活動を書籍にまとめねばならんのですが。思うように進んでいません。
書籍化推進の一環として、これまでの活動をストーリーに組んで記事化しています。
今回は30分の講演を関西虫食いフェスティバルでやってきました。
東京虫食いフェスティバルは何度も参加しているのですが
今回関西は6回目にして初参加。主催は大阪の昆虫食研究グループ
NPO法人昆虫エネルギー研究所です。


最初の二時間、講演をし、その後みんなで食べて楽しむという会です。
場所は伊丹昆虫館に程近い伊丹市スワンホール。

とても良い場所でした。
物販も出て、会場はほぼ満員。昆虫に対する熱い食欲が感じられます。

内山さんの講演のあと、私の出番。
「養殖昆虫食のおいしい未来」
にという題で話しました。
以下
参加できなかった方のための要約です。
主語の大きな話から始まります。
私達は、なぜ食べるのでしょうか。
昆虫食の話を始めると「貧困地域での貴重なタンパク質」
と言われる事が多いように、仕方なく、食べないと栄養不足に陥るから食べる
と誤解されていることもあるようです。

昆虫を食べている文化圏で、その昆虫が栄養供給を担っていることと
その文化圏の人々が主観的に「栄養を得るために食べている」かどうかは混同してはいけません。
栄養豊富な食材が身近にあるにも関わらず、食べる文化がないために
栄養不足になっている地域もあります。
つまり、主観的に言うと
我々が食べる理由は「おいしいから」です。

ただし「おいしい」という概念はとてもひろく文化的なものです。
単に料理の味が良い、という点だけでなく、
本人にとって
都合が良い、好ましい、お得な、などなど
芸人さんではウケる、というのも「おいしい」と形容されますね。
もちろん農学などの応用科学の研究者にとっては「社会の役に立つ」でしょう。
みなさんそれぞれの
「おいしい」は何でしょうか。この時間をかけて考えてみましょう。

まずはじめは
1,おいしい昆虫を探そう です。

内山さんが「食べられる虫ハンドブック」を出しましたが
昆虫学の分野から出されている昆虫図鑑のほとんどは
味の情報が記載されていません。
きのこ図鑑がうらやましいですね。
「見分け方・採集場所と季節・グルメの料理法」
ね。これ昆虫図鑑に載せたいですね。
ということで今まで味見してきたのですが、その
おいしさを数値でお伝えしたいと、スコアリング方法を考案しました。
みため かおり のどごし あじわい のびしろ

の5段階評価で記述しました。
各項目20点 100点満点で採点し
310種 471パターンを茹でて味見しました。
細かいことを言いますと、
各項目20点について、4段階(3,8,13,18)の素点と、プラスマイナス2ポイントをつけることができます。
最低5点から最高100点までの点数がつけられます。

例えばオオゲジで説明してみます。
一般的に見て、見た目がいいとはとても言えないのですが、しっかり見ると
琥珀色の透け感とか、揃った脚とか、美しい部分がいくつも見えます。
なので基本点8、部分点2の10点とします。
香り、のどごし、あじわいについてはいずれも段階4、素点18をつけました。
エビに近い旨味があり、食べやすく、全く優等生な味ですので、
部分点がプラスもマイナスもないためです。
そして将来性
集団飼育できること、絶食に強いこと、湿気に強いこと、日光がいらないこと
から将来性は抜群です。
しかし完全肉食であることから、利用方法は別の昆虫の養殖とセットになるでしょう。
そこで部分点減点1の17点となりました。
総合スコアの頻度分布がこちらです。うまくバラけたのではないでしょうか。
そしてランキング。
私が漠然とオススメする
昆虫たちがほどよくラインナップされています。


このスコアリングの妥当性は他の方の味見評価の参入を待つとして、
私の主観的スコアリングをそこそこ定量化できたと思っています。
良くおいしいと言われるカミキリムシが上位ランキングに入っていないのは
将来性という点からみると養殖技術が確立されておらず、生木を枯死させるので
既存の産業との相性が悪いことから、低めに見積もられているからです。
もちろん、この将来性という項目は、昆虫食の普及を含め、
多くの技術が社会を変えることによってどんどん変化していくことでしょう。
さて、スコアリングをしてみたことで、ランキング上位の昆虫が
なぜオススメできる昆虫なのか、スムーズに説明できるようになりました。
次はその「オススメ」が、昆虫食文化の廃れた現代において、
聞く耳をもたれるか、という問題にとりくみましょう。
「おいしい昆虫をオススメしよう!」
私も自身に感じていることですが、昆虫の味に慣れてくると
その美味しさや見た目の基準も変わってくる、という問題の裏表の関係が表面化します。
初心者が食べやすく、美味しさを感じやすいものではなく、
熟練者がうなる、独特の味や特徴を愛するようになってしまうのです。
つまり、
「初心者がオススメのカメラをオジサンに聞くとガチなものをオススメされて結局買わないor持て余す」という問題に近いです。
「なぜ私は昆虫に食欲がわかないか」を追求しようと食べ始めたのが2008年
それから私が昆虫の味に詳しくなり、初心者から離れれば離れるほど、
初心者の気持ちには共感できなくなります。
それゆえの定量化なのです。
共感できないことを前提とした対処です。
さて、昆虫を食べない社会というのは、一見するととても昆虫食の普及に適さない社会に見えますが、逆から考えると
「多くの人が昆虫食初心者である」という均一性をもつ社会なので
ある意味攻めやすい、ともいえます。
同時に、現在ある多くのデータベースは、昆虫を食べないヒトのデータを集めている点で
昆虫食をオススメする相手として申し分ないビッグデータに、何のフィルターも
かませずにアクセスできるのです。
具体的にいきましょう。

味覚センサーシステム、というものがあります。
これはヒトの味覚神経系に似せたデバイスと、
ヒトの主観的な味のデータとの関係性を分析することで
数ミリグラムの少量のサンプルだけで、数百人規模の官能試験の結果をシミュレーションできるのです。
当然ですが、このシミュレートに使われたデータには
「昆虫を日常的に食べるヒト」は含まれていないでしょう。
つまり
「昆虫食初心者シミュレーター」なのです。
手始めに、解像度を知りたいと思い、幾つかのデータをとらせてもらいました。
トノサマバッタについて、生よりも茹でたほうが味が良くなる(甘みが増えて、苦味が減る)
こと、オスよりメスのほうが味が良いことが示されました。
アクセス応援のため、こちらの記事もクリックしてください。
そして次に、昨年のサイエンスアゴラにおいて、
試食昆虫にデータを付記することで、その効果を聞いてみました。

まだまだ完璧とはいきませんし、香りセンサーは含まれておらず
すりつぶして測定したものですので食感も考慮されていませんが



多くの人が参考になった、近い味であるとの解答でした。

つまり
「AIが昆虫食初心者にオススメする時代」がもうすぐそこに来ているのです。
つまりAI蟲ソムリエです。


では、次に昆虫料理の「見た目」もAIに任せられるか、試してみましょう。
今回利用させていただいたのは
「飯テロ判定bot」というものです。

詳しくはこちら


これはtwitter上で公開された自動プログラムで、
IBMが開発したWatsonという
「自然言語処理と機械学習を使用して、大量の非構造化データから
洞察を明らかにするテクノロジー・プラットフォーム」に接続されています。
私も詳しい者ではないのでうっすらと説明しますが
ネット上に膨大にある写真と、それに付随するテキストとの関連を解析することで、
提示された新しい写真が、何である可能性が高いか、
キーワードで答えることができるのです。
そもそもは飯テロ、主に深夜帯においしそうな料理の写真をアップして
食欲をムダにそそる行為を防ぐために作られたものです。
飯つまりfoodであるとwatsonに判断されると、
このbotの機能によりモザイクがかけられます。
foodの可能性がさほど高くないと、そのまま飯テロではありません、とテキストで返されます。
ともあれやってみましょう。





ここから、「昆虫食は見た目が悪い」と言っているヒトのほとんどが
昆虫食を食品とみなさない、という偏見と、
見た目でしか昆虫食とはわからないこと、がゴッチャになって
いるだけだとわかります。
つまり見た目に昆虫が含まれているだけで、料理でない、と
判断するにはあまりに情報が弱いのです。
偏見のないwatsonに見てもらうことで
ちゃんと料理して盛り付ければ、
昆虫もまた、他のエビ・カニ節足動物と同じように
料理になっていることがわかります。

さて、おいしい昆虫が見つかり、熟練者がいかに価値観が変わろうとも、
AIが初心者の全体像をシミュレートしてくれるので問題ない、ということがわかりました。


ちょっと話は逸れますが、
AIが駆逐するのは「素人と専門家の間」にいる人ではないかと思います。
専門家が素人と異なる情報世界にいることで、
共感性を失い、素人とのズレを生じるために
そのようなキュレーターが必要になるのですが
AIが全体としての「素人」のシミュレーションが可能になれば
専門家が最大公約数的に、すべきことがAIによって示されるはずです。
逆に言うと、専門家が予測して、一般化を目指す「仮説」とその検証は
その実証に必要なデータをこれからとるので、AIによって予測できる精度が
当分向上しないのではないでしょうか。
なので、専門家になる途中の人が、食えなくなる、という問題が
現れてくることだと考えています。


次は養殖です。
採集昆虫食もそれはそれは楽しく、自然界から食物を得ていることを実感する
すばらしいレジャーなのですが、
食糧を支える量を安定的に確保するとなると養殖は必須です。
現在、エキゾチックアニマルの生き餌などに養殖されている昆虫はせいぜい数十種類でしょうか。
その中から食用に適したモノを探す、というのは
昆虫の遺伝資源の多様性を考えたときに、少し狭すぎますし、学術的ではありません。

そのため、昆虫のフルのポテンシャルである、100万種から、
「将来に渡っておいしい」つまり持続可能性の高い養殖昆虫食を実現するために
何を育てればいいか、考えてみましょう。
私が最初にたどり着いたのは、トノサマバッタでした。
ランキングにも第三位に登場していますが、まず味がとてもよいのです。
香ばしさと肉質、ジューシーさ、食感、いずれも抜群で、
しかも研究用には養殖が確立されており、成長も早いと。

そしてバッタには宗教的タブーがほとんどないので、世界中の誰もが食べられる食材です。
イネ科という現状多くの土地を占有している作物の葉を
そのまま高タンパクのバイオマスへと転換濃縮する系は、土地利用を変えないという点
とてもフットワークが軽くできるはずです。

ともあれ、昆虫食利用論というのは1880年代、産業革命のころから言われだした
ものですので、研究レベルでのポテンシャルは十分に示せていますから、
実装とそのアセスメントを繰り返すことで、昆虫食利用の未来のカタチに寄せていくことが
これから求められると思います。


そのためにも、生理生態学的研究のために養殖されている手作業を多く含む養殖から
自動化、メンテ頻度の低下を目的とした、大規模養殖への技術革新が必要です。


同時に、その技術開発のためにも
「高い昆虫を買ってくれる人」を大事にしなくてはなりません。
つまり、虫フェスに来てくださったあなた達です。

昆虫が世界を救わなくても、昆虫を食べて豊かな食生活を楽しみたい。
あるいは、自分は食べなくても、将来のために昆虫食の研究に投げ銭したい。
自分は殺虫剤を使わないで育てた野菜を食べたいので、誰かに虫を食べてほしい。
「食べない昆虫料理支援者」というのも大事です。
あなたにとって、「おいしい食」とはなんですか。
その中で、昆虫をどのように扱っていますか。
考えてみましょう。
そして、昆虫を食べてみたい、食生活に取り入れてみたい、という方は
必ず安全な方法で、リスクを理解した上で、自分も食べ、他人にすすめましょう。



講演の後、キッチンスペースに移動して昆虫食を作りまくり、食べまくりの会でした。
ほとんど写真はとれていませんので、twitterで検索してみてください。


さて、
昆虫食の研究をしていく間に、小中学生の若い実践者と
触れ合う機会がありました。関西虫フェスの参加者にもいました。
「小中学生に昆虫食を勧められる節度」は最低限もちたいですね。
というのも、昆虫食の実践はかならずリスクを伴います。
そして、
事故が起こった際に
全責任を問われるのはその小中学生の保護者です。
食べろとブログでそそのかしている私ではないんです。
子どもの興味、というのは幸か不幸か、
保護者のキャパに収まってくれることは
殆どありません。
その興味に蓋をしないよう、虫が好きでもないのに
最大限頑張っている保護者の方々のためにも、書籍執筆も含めていろいろがんばりたいものです。
私が気にしている「若者」とはこの世代(とその保護者)ですので、
大学生デビューかよくわかりませんが、親元を離れて
浮かれてなんやかんややらかした成人に対して
「若いんだから大目に見る」つもりは一切ありません。
私を含め、ハタチを過ぎれば年寄りです。しっかり批判していきます。
昆虫食の次世代を担うのは私ではない、という事実と
しっかり向き合って、滅私奉公に努めたいと思います。

お知らせです。
8月4日、NPO法人食用昆虫科学研究会の副理事長、水野壮監修・執筆の
昆虫食の新書が出版されます。表紙のトノサマバッタは私が撮影したものを使ってもらいました。

我々が本格的に研究を開始した2011年から

FAO報告書で盛り上がった2013年以降、現在に至るまで、
世界の昆虫食事情がどのように変化し
日本において我々の研究がどのように進んでいるのか、ざっと概観できる素晴らしい本に仕上がっています。
私の昆虫味見コラムも載っています。
私が主著者になる本はまた別で進めていますが
かなりの趣味的部分が濃くなり、けっこうな分量と価格が予想されるため、
ライトに入り口を覗いてみたい、という方は
たった1000円ですので、予約購入をおすすめします。私も内容を確認しておりますが
まだどこのネットにも書いていない情報がいくつも惜しげも無く掲載されていますので
昆虫食のビジネス化に興味があり、他社に先んじたい方にも良いかと思います。
最近、研究会にも個人や企業からの問い合わせが多くあるのですが
基礎的なことを知ってもらわないと相談にならず
1から説明するのに苦労することが増えてきました。
そこで、
先にこの本を読んでいただき、そこから興味のあること、
疑問に思ったことを問い合わせいただければと思います。
昆虫食を研究したい学生さんにもおすすめします。
買うお金の無い、という方は
複数の図書館にリクエストカードを書いて出してください
ともあれ、
我々の研究は持ち出しの研究費不足が続いております。
ぜひともこの書籍を通じて情報を買っていただき、支援いただければと思います。
昆虫食の情報なんて要らないよ、という方は
あるいは寄付でも構いません。

(PDFパンフレットに研究会の口座が書いてあります。寄付の検討をされている方はご一報いただければと思います。)
まだ認定NPOにはなれていませんが、今後昆虫食を総合的に研究できる
研究会として、一層の充実を図るために使用させていただきます。
こちらで立ち読みもできます。
http://www.yosensha.co.jp/book/b243315.html

ぜひご覧になってお買い求めください。

土用の丑の日があと1ヶ月ですが
私はしばらく禁鰻をしています。
江戸時代のウナギが余る時期に作られた商業目的のゲン担ぎだそうなので、
ゲン担ぎで対抗できればと、
#土用のむしの日 キャンペーンもしつつ、持続可能性のない鰻食の根絶にむけて頑張る所存です。
これから夏バテが気になるシーズン。活発になる昆虫の栄養を
積極的に摂取することで、乗り切ってまいりましょう。
さて
ウナギの資源が危機的になる中、
近畿大学が「ウナギ味のナマズ」を開発したことで
話題になりました。

「ウナギ味」ということであくまでウナギの下位互換として売る、という商法は
ナマズのそもそもの美味しさを知る人にとってはなんともアレですが。うまく大手航空会社を互換したいLCCとの相性がよかったのでしょう。値段がかえって高い、というのも上手にクリアしているようにみえます。
我々は本来、「天然の」ウナギを食べていたのですが
今、多くの人は「養殖の」ウナギを食べています。
しかし、それは蓄養された「天然の」ウナギの稚魚であって
ウナギ資源に巨大な漁獲圧をかけています。
いまでも日本のウナギ流通は改善する様子がないので、
私は政治的な意思表明として、ウナギ食を禁止しています。
もちろんですが、最適な漁獲方法で、資源管理が徹底できているものを食べない理由は
ありません。私が食べないことで、廃棄になるコンビニウナギが減ることも、増えることもないでしょう。
あくまで政治的なものです。
私が何度も繰り返し言いたいのは
「食品の生物種で食べる・食べないを決める時代から脱却しよう」
ということです。
なので
「昆虫という種だから食べない」という判断も
「昆虫という種だから食べる」という判断も、この先は時代遅れになることを期待します。
私もゆくゆくは蟲ソムリエを廃業し
「食システム・ソムリエ」というような
https://goo.gl/3AAWT4 個々人にとっての環境利用の最適解を実装する
システムエンジニアリングを提供する形になっていければと思います。
そして、
食をシステムとしてとらえた時、
そのシステムから昆虫を除くことは、多くの場合ナンセンスです。
ということで、
ウナギ食を、ナマズで代用するだけでなく、更に昆虫を含める提案によって
システム改善していきましょう。
ともあれ、
ナマズがバッタを食べるかどうかが大事です。
ちなみに、
ピラニアは数年飼育して、一度しか食べませんでした。

好みもあるようなのですが、(脊椎動物の血の味が好きっぽいです)
カジリタイプのアタックアゴをもつピラニアにとって、水面に浮きっぱなしのものは食べにくく、
外から人が見ていることも気にするほどの臆病さなので、浮くタイプのものは向いていないようなのです。
沈降性ペレットにしてやると食うと思います。
さて、続いてナマズ
こちらもいつも底に潜っていて、なかなか上の方に上がっては来ないのですが
ナマズ釣用にカエルやバッタのルアーもあるようですし、
若干受け口なので、水面への注意もありそうです。
とある方面からマナマズをいただいて飼育し、慣れてきたごろにバッタを与えました。

慣れると、水槽をコツコツと叩く合図を条件付けることに成功しまして、
音にひかれて上のほうにやってきて勢い良く水と一緒に飲み込んでくれます。

キチンはそのままフンに出てくるので、水換えは結構大変です、ゴミの少なさも、配合飼料化への大事なプロセスだと思います。
一度の食事に10頭ぐらいは食べるのです素晴らしい食欲です。
さて、さばきましょう。
体重は329g


さて、
この「ナマズ養殖」は、昆虫利用のシステムとしてどう評価されるべきでしょうか。
また、どのような条件の地域に導入されるべきでしょうか。
バッタの導入は、既に開墾され、イネ科の草本が生えている平地が適していると思われます、
その中で、あえてバッタを食べずにナマズ養殖をするということは
渓流という豊富な水があり、内水面養殖が可能で日当たりの悪い土地が少々
交通の便が悪く、自給飼料によってコスト削減ができる地域であること。
そしてナマズを食べる文化圏があること、バッタを食べさせたナマズの味がよいこと
などが実装の条件となるでしょう。
バッタも手間を掛けずに半養殖で鳥よけネットぐらいが張ってある耕作放棄地で、粗放的に飼うのがいいでしょう。
アミか芝刈り機かなんかでにナマズ養殖池に向かってバッタを追い立てて、そのまま水面にポチャリと落ちるバッタを食わせればいいと思います。
もちろん、
飼料栄養効率でいうと植物食性のティラピアのほうがいいのですが、
販路も含めたシステムとして考えた場合、味の良い肉食魚というのは一つの選択肢としてあっても良いと思います、
そして、その評価は、単なる効率やポテンシャルの話を越えて
稼働中、もしくは具体的な稼働計画をもとに、アセスメントをすべきだ、
と思うようになっています。
つまり仮説から実装へ です。
当然ですが、単に昆虫を養殖したからといって食糧問題は解決しません。
コオロギはニワトリとタンパク質転換効率がおなじぐらい、という論文が出ているので
コオロギを養殖して食糧問題解決、という話はニワトリを無視して進められません。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0118785
コオロギは温室効果ガスの少なさが指摘されているのと
骨や羽などの廃棄物が出ないことで、温暖化や廃棄物問題に対して
どこかの地域における一つの最適解になる場合もあるとは思います。
もちろん、
今のプランテーションのように、土地を乱開発して、
巨大な昆虫養殖工場を作るとなると、昆虫養殖はむしろ地球環境にインパクトを与える産業として
監視と制限の対象になるでしょう。
魔法の杖は存在しないですし、昆虫食に過度な期待を集めてしまうのも
落胆のバブルを引き起こしそうでなんだか乗り気になれません。
何度も言うように
「システムで評価する」のです。そして、
それを社会に評価してもらうためには、実装する必要があると思います。
システムを実装するには、様々な制約条件があります。
土地、気候、文化、社会、法律、エネルギー源などなど。
それらの条件を最も満足する食糧生産のシステムを評価し、パッチ状に分散配置し
計算機によって予測し最適化することが、将来の「世界を救う」食料生産になるでしょう。
ともあれ、
昆虫が実装されたシステムが今のところほとんど無いので、
実装に備えて言語化して、理論化しておかなければなりません。
昆虫が
明らかに今までの家畜と違う点は
変温動物であること。これは「吸熱加湿デバイス」であることです。
もう一つは「一口大であること」
更にキノコや発酵微生物との大きな違いは
「移動して目で見えるサイズのフンを排出すること」
あたりでしょうか。
ここから、
昆虫利用のシステムと、そこに侵入してくるであろう脅威
そしてその最適な対処法まで、考えていけるでしょう。
今のところ、昆虫養殖の最大の脅威は、おそらく昆虫だと考えています。
実装の形の第一歩としては、
「バイオマスと廃熱の脱集約利用」という感じになるでしょうか。
いろいろと資金の限界を感じていますので、
近いうち何らかの動きをとる予定です。
またまとまりましたらご報告します。

食用昆虫科学研究会と、昆虫料理研究会が主催するイベントでは
昆虫食を提供する前に、参加者に説明して同意していただくことがあります。
アレルギーのリスクです。
いくら食品の衛生管理に気を使っても、アレルギーはどうにも100%防ぎようがありません。
食物アレルギーの発症は予測が難しく
いままで大丈夫だった昆虫でも起こりえますし
もちろん甲殻類アレルギーと交差することもあるでしょう
これから昆虫食を再導入するにあたって、
低確率ですが必ず昆虫アレルギーの反応を示す方も出てくると思われます。
今のところ、我々は食物アレルギーを対象とした保険に加入していないので、
何が起こっても補償できないことをあらかじめ、同意頂いています。
また、
アレルギーを起こした時に一番苦しむのは食べた本人ですので
事前にそのリスクがあることをご理解いただく、というのも
昆虫食の普及にむけて大事なことです。
私が把握する限りで、強い食物アレルギー症状を起こした方は
1000人に一人ぐらいです。他のアレルギーに比べて多いか少ないかはまだわかりません。
以前に弁護士の方に相談させてもらったのですが、
昆虫は食品として一般的ではないので、
常識に照らし合わせると、食べるヒトが予めリスクを知っている、とは残念ながら判断されないようでです。
昆虫を提供する側が、食用リスクをきちんと説明した上で、時には提供を断るような態度でないと、
食品の善管注意義務違反として、賠償請求を受ける可能性があるそうです。
最近の論文を紹介しておきます
エビ・カニと近縁なので、エビ・カニアレルギーを持つ方は、交差反応をすることがあります。
参考文献
コオロギから新規のアレルゲンと、テナガエビと交差するものが見つかったとのこと。
Identification of novel allergen in edible insect, Gryllus bimaculatus and its cross-reactivity with Macrobrachium spp. allergens

このような研究はあまり量を必要としないので、食用昆虫の市場が小さいうちにやっておきたいものですね。
また、Twitterで
参考になりそうな論文をおしえていただいたので、読んでみました。
コチニールを対象にした論文です。
コチニール色素によるアレルギー
山川有子
横浜市立大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科
日本ラテックスアレルギー研究会会誌 17(1): 49 -53 2013

コチニール色素はサボテンにつくエンジムシ(コチニールカイガラムシ)をすりつぶして
水またはアルコールで抽出したものです。

古くから使われてきた色素で、ある意味人体実験がしばらくされているので
大きな問題が起こらないことが確かめられている、伝統的天然色素です。
ここで「伝統的」「天然」が必ずしも安全であること、とはなりません。
コチニール色素では、は生物体から抽出したものであるので、不純物としてのタンパク質が
問題になっているようです。
もちろん、色素本体であるカルミン酸へのアレルギーのある方もいます。
さて、この症例研究で注目されているのが、
「コチニール食物アレルギーについて成人女性の発症が多い」ということです。
男性が1、女性が19名
女性は23から35歳のいずれも成人だったとのこと。
海外のコチニール色素製造業の喘息性アレルギーの発症は、男性のほうが多いので、
この偏りは「成人女性」に何らかの意味がありそう、と推測できます。
数を統計検定をしても有意といえば有意なんでしょうが
少ない報告数を元に、性比が偏っていることを単に統計検定するのはなんか変な気がするんですが、そこらへん症例研究ではどう述べるのがいいんでしょうか。
また、コチニールの喫食経験が初めてでアレルギー反応をした方もいるので
事前に別のアレルゲンへの暴露があった可能性を推測しています。
この論文が気にしているのは
「経皮刺激誘発型の食物アレルギー」
いわゆる茶のしずくで有名になったもので、小麦の加水分解物を肌に接触させていることで
食物アレルギーが発症したものがこの事件でしたが、同様の発症の仕組みがコチニールで起こったのではないか、というもの。こういう発症の因果関係を推定するのは、症例数の少なさや、個々人の症状の多様性、
アレルゲンが環境中にありふれたものであることから、なかなか難しいものです。
低濃度の経皮刺激が食物アレルギーを誘発し、消化管への高濃度暴露によって脱感作を誘発する、という仮説はLackさんによって2008年に提唱されたものだそうです。
DUAL-ALLERGEN-EXPOSURE HYPOTHESIS と言います。
いくつかの状況証拠はあるそうなのですが、
環境中の低濃度アレルゲンをなくすこと、というのは
実験的に困難です、高濃度の経口摂取による減感作療法というのはすでに実用化されています。
この
コチニール色素に含まれる主要アレルゲンである38kdの機能不明タンパクは
ミツバチで報告されている分泌型ホスホリパーゼとの高い相同性がみとめられました

つまり、
コチニール色素にアレルギーを持つ人が、ミツバチをはじめとする昆虫にも、アレルギーを持つ可能性もあるでしょう。


さて、
そろそろ私の言いたいことがわかってきたでしょうか。
コチニール色素をはじめとする経皮刺激型の昆虫製品や
昆虫が豊富な日本において、低濃度の昆虫との皮膚接触は決して避けては通れません。
そんな中、
「高濃度の昆虫摂食を避け続ける」というここ50年ほどの新しい生活は、
アレルギーのリスクを向上させてしまうのではないでしょうか。
つまり
「環境中にあるものを摂食する習慣」
というのは、人の免疫を健全に保つ上で重要なのではないか、ということ。
昆虫と接触しながら、摂食しないという現在のいびつな昆虫消費のあり方は、様々な健康リスクを誘発するのではないか、ということです。
さて、
昆虫アレルギーの治療として、昆虫スナックが処方されたら、
どのくらいの人が昆虫をたべるものでしょうか。

 


ちなみに
スギ花粉は1g 6500円だそうです。 このぐらいの価格で昆虫も買ってくれたらいいなぁ。
http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/product/life/Pollen/index.htm

続いて、料理開発に参りましょう。

フン茶は桜の香りが強く残っていて、少しの渋みもあり、素晴らしいお茶です。
桜風味の餡はこちらを使いました。
https://www.marumiya.co.jp/cms/web/viewitem/4183/1
期間限定で、今手に入らないのは残念。
蛹は外皮が硬めで、内部が柔らかいので、
今回は分離させてみました。
外皮は揚げてきな粉にまぶし、内部はトレハロース混ぜあわせて加熱し撹拌して餡にします。
とても美味しい。
ただ揚げただけでも揚げたては美味しいのですが
次第に外皮がしっとりし、内部は冷えてスポンジ状にスカスカになっていきます。
今回使ったマグカップは、透明感のある美味しそうな幼虫を描くことで
私の中で評価の非常に高い(世間的にも評価が高いですよ)西塚emさんの作品を使わせていただきました。
別バージョンで、大阪自然史博物館友の会にて制作した
http://omnh-shop.ocnk.net/product/1457  虫へん湯のみを使ったものも作りました。


ここで困ったのが
「季節感」です。オオシモフリスズメの旬は6月初めから中旬
サクラの葉も同じように青々しています。そろそろサクランボもとれます。
ですが、サクラの季節はなんといっても早春、雰囲気をどうすべきか
いまひとつはっきりしない仕上がりになってしまいました。無念。
この後、多めに作った揚げ外皮のきな粉まぶしを2日ほど常温においておいたところ
いつまでもサックサクで、嫌な香りもしないことに気づきました。
そして、冷蔵しておいたトレハロース餡も劣化していません。
「外はサクサク、中はしっとり」
という新鮮揚げたての蛹は大変おいしいものですが
揚げ置きや揚げ直しをしたり、古くなるとどんどん風味が悪くなります。
今、皮と内部を分離してそれぞれ調理することにより、
それぞれの風味や味を長期間楽しむことができるようになりました。
これは「脱構築」です。構造を一旦解体することで、
食材本来の美味しさを長時間楽しむことができるのです。
次にできることは「再構成」でしょう。
外はサクサク、中はしっとり、
そしてそれぞれを合わせても外のサクサクが失われない。
もうおわかりですね。
モナカです。

モナカの餡の特徴は、
「糖度を高く、甘みを少なく」だそうです。
糖度を高めることで餡のしっとり感が皮を湿らせることはなく
甘ったるくならないよう調整するとのこと。
トレハロースはショ糖の半分の甘さですっきりしているので、
モナカの餡にぴったりです。
そしてできたのがコレ

さて
ここまで考えて
将来の食のあり方について考えてみました。


オオシモフリスズメに将来性があるのは、全国津々浦々に
ソメイヨシノがあるからです。
また、ソメイヨシノは花見用でクローンですので、果実を付ける必要もありません。
秋には落ち葉がゴミになってしまいます。
それらの葉を有効活用し、このような甘味として味わえたら、バイオマスの有効利用ですし、大変に「粋」だと思うのです。
多くの人が自給的農耕をしなくなったことで、ほとんどの食品は現金で購入するものになりました。
そんな中、「現代人は情報を食べている」と言われます。
ですが、
そうすると、家庭菜園で育てたマズイ野菜を食べたがる気持ちがいまひとつ説明できません。
情報の信頼度という面から見たとしても、プロが作った野菜のほうがおいしく、安いことは明白です。(自分で作ったほうが安心安全、というウリ文句もなんだか違う気がしています)
また、
情報を食べるようになったことで、脆弱性も生まれました。
誇大広告であったり、食品偽装などの詐欺的行為によって
本来の価値のないものに高い値段をつけて購入してしまうのです。
そこで、未来の食料生産の健全化のために次の提案をします。
「システムを食べる選択」です。
情報は常に更新しないと、ウソが混じります。
また、ウソを暴けないシステムを構築しておくと、そのウソは長年にわたってまかり通ります。
そのため、
情報を更新し、ウソが混入すると明らかになる、排除できるシステムを食べる(お金を出して購入する)のです。
我々人間の体もシステムです。ウソが混入すると、最悪の場合食中毒で死に至ります。
訴訟しても健康は帰ってきません。
そのようなシステム管理は国際規格やHACCEPなどで認証が行われてきました。
将来的には昆虫生産も認証をとりたいものですが、今のところそこまでの市場がないのが現状です。
システムを食べる、という概念が普及すると、
昆虫には大きな利点があります。
「脱集中化」です。Decentralization とも言われます。
今の多くの食料生産は集中化によって価格を下げています。
郊外の広大な農地から自動で穀物収穫貯蔵するシステムであったり
畜産農場も悪臭や水質汚濁の懸念から都市部から大きく離れています。
ところが、昆虫は悪臭や廃液を殆ど出さず、
植物に比べて土地依存度が低い、しかも特別な処理をすることなく
キッチンでおいしく調理できる、という意味でも
消費地に近接した養殖に、昆虫食導入のメリットがあると考えられます。
そこで見られるのは、「食べる寸前まで元気で生きている家畜」です。
そこに与えるエサも見ることができます。
近くに生えているソメイヨシノであったり
家庭から出る野菜くずを使った雑食昆虫養殖であったり、
消費地に近接した養殖は、そのシステム全体を見渡すことができます。
そのため、ウソが混入しにくく、また緊急時にインフラが止まった時の頑強性も高いのです。
1ヶ月の食糧の10% つまり3日分備蓄があれば、災害時に大きなメリットになると言われています。食品残渣は購入食品の約40%と言われていますので、それらの10%を昆虫で再利用されれば4%の備蓄
更に、身近にある非食用のバイオマスを転換し、6%の食品生産をすることができれば
食品の10%を楽しく、災害に頑強な食料生産が都市部でできるようになるでしょう。
家庭菜園がここまで「赤字」なのに支持されるのも、
「システムが明朗でウソが入りにくく、見渡せる」ことがその大きな理由と考えられます。
システムの多くを生物に丸投げすることで、失敗した場合に枯れてくれる安全装置も魅力です。
つまり、もう私たちも、
情報ではなく、システムを食べる順応をすでに始めているのです。


それではもっと具体的に考えてみましょう。
わが家には野菜くずを利用してゴキブリを利用するシステムがあり
そこから出たオスゴキブリを主に間引いてアリを飼育しています。
近所からいただいたソメイヨシノの葉を使ってオオシモフリスズメは育てました。
ベランダではバッタ用の草も準備しています
できるだけ高密度、省スペースで飼育したいのと
取り扱いを簡単にしたいので、一つのモジュールは5kg以内、大きさは
タワー型PCぐらいにしておきましょう。
密度を高めるので、ガス交換と、湿度の管理を自動でできるとなお良いです。
機械的システムを作ると基本的に廃熱が出るので、昆虫の最適温度は
常温より少し高め、日本で言うと亜熱帯に適した昆虫を使うのがよいでしょう。
脱走した時も冬場の寒さで死ぬことが望ましいです。
グルメからすると、単一の種では飽きるので10種ぐらいを、2週間に一度の簡単な世話で飼え
半年に一度の大型メンテナンスをすることで維持できたらいいですね。
という感じのシステムを形にして見せるべく、

ちょっと動いています。

ワインのラベルのような紙に書かれた情報ではなく、食料生産の現場をそのまま見せることで
「美味しいシステムを食べる食事」が演出できれば、と思っています。
またご報告します。

今まで目をつけていたものの、味見に出会えなかった虫がいました。
オオシモフリスズメ Langia zenzeroides
シモフリスズメが美味しいことは以前に味見して知ってはいたのですが

それから更に大きく、
しかもサクラを食べるというのです。

しかしなかなか採集が難しい、
というか採集スポットが限られています。
そして、このネット全盛の世の中にあって
希少種の採集スポットの多くは「口伝」です。
流石に全国的な絶滅危惧種ではないのですが、
レッドデータブックではあまり状況はよろしくないとのこと。
富山県:絶滅危惧Ⅱ類
石川県:準絶滅危惧
滋賀県:情報不足
大阪府:準絶滅危惧
兵庫県:準絶滅危惧
高知県情報不足
佐賀県:絶滅危惧I類
少し話はそれますが
環境省の方針でも、希少種の詳細な生息地情報はかなりナイーブに扱われます。
希少種を保全するためには必要不可欠な情報ですが、「希少」というだけでプレミアム感を
感じてしまう人も多く、採集禁止などの具体的な規制を事前に公表してしまうと、
駆け込み乱獲も起こるそうです。
また、そのようなプレミアム感を商売にして希少種を高値で売り抜ける業者も
いるそうで、情報を保護の用途に限って公開することは難しく、
悩ましいものです。
科学の世界で再現性は重要とされますが
再現性もなにも生息地が破壊されてしまえば元の木阿弥。
生息環境は学術論文よりも重いのです。
それに習いまして、今回のオオシモフリスズメの採集場所もネット上には載せないこととします。
この場所は近年街灯として多く設置されていた水銀灯がLED化されたそうで、昔から水銀灯に集まって来ていたオオシモフリスズメが激減したそうです。
そのぶん産卵には成功しているでしょうし、食樹はありふれたソメイヨシノですので
この大きな美しい蛾が、あなたの街にやってくる日も近いかもしれません。
今後に期待しましょう。
さて
成虫から

以前に食べたクロメンガタスズメの成虫のように、密度の高い、しっかりとした剛毛です。
食べづらく、のどにひっかかるのでオススメはしません。
そこから卵を産ませて

孵化したものをサクラの葉で飼育し

フンを乾燥させて軽く煎り、お茶にしつつ
幼虫、前蛹から蛹までを集中的に味見します。
育ててみたところ、あまり難しさは感じませんし
カレハガのように、高密度で食欲が低下する(譲り合ってなかなか葉を食べ尽くさない)という現象も起きませんでした。
ふれあうと威嚇することもありますが、共食いや傷つけ合いもなさそうです。
惜しいところは年1化なので、春にしか発生しないところ。
もしかしたら冬眠状態を人工的に作ることで休眠を打破し、サクラのあるうちに何度も養殖できるかもしれません。
温度調節できるインキュベーターがほしいところです。
途中、脱皮の失敗によって口器がゆがんでしまった個体について、味見をしました。

…おいしい。。。
モンクロシャチホコのような濃い桜の香りはないのですが、全く苦味もクセもなく
外皮の食感、のどごしもすばらしい見事な味です。
トビイロスズメに比べるとややタンパクよりも脂質に寄ったコクの強さはあるのですが
いい味しています。
これを十分に育つまでしっかり育てて

前蛹と蛹を得ました

蛹は

前蛹はアワビのようなコリッコリの食感。
むしろアワビを食べるよりも昆虫を食べてきた歴史が長いのですから
「アワビを美味しいと思う我々の味覚嗜好の本来のターゲットは前蛹」
といえるかもしれません。

続いて次の記事では、オオシモフリスズメをつかった料理開発と、
「情報を食べる人類からシステムを食べる人類へ」という
未来の話まで考察していきます。

後編です。
まず
一般的に「プラスチックは分解されない」
ということについてもうちょっと考えてみましょう。
我々が日常使っているプラスチックのほとんどは
炭素を含む高分子の有機物です。
そのため、
有機物を扱う生物の一部、特に莫大な種があり頻繁に変異する微生物は
プラスチックの成分を分解できるものがあります。
簡単に
土壌からスクリーニングできるキットもあります。
http://www.cosmobio.co.jp/product/detail/01650001.asp?entry_id=3134
つまり、生物がプラスチックを分解することはすでに可能で
ただその分布がヒトの活動に依存していること、
ポリマーが疎水性で強固なため、表面積を確保できず
酵素反応がうまく行われないこと
そして炭素以外の有機態窒素などの生物にとっての栄養をほとんど含まず
分解してもベンゼンなどの毒物質ができることから利益が薄いこと
などから、木質バイオマスと同様に、
生物の栄養源として優先度が低い状態なのが
「プラスチック」なのです。
分解性生物の優先度が低くなった結果、
残存量の多いポリマーとして「木質」も同様に考えられます。
木質は親水性の炭素骨格、セルロースを主体とするポリマーですが
他にリグニンやヘミセルロースなどの複数のポリマーががっちり絡みあった状態なので
なかなか酵素反応だけでは分解できません。
特にリグニンはフェノール基を含む疎水性の成分なので、プラスチックによく似ているといえるでしょう。
FRP(繊維強化プラスチック)あたりがイメージとして近いかもしれません。
そのため、セルロースをナノファイバー化してプラスチックと混ぜあわせた
セルロース型のFRPも開発されています。
それらと、紫外線への分解感受性を高める添加剤や
土壌微生物で完全分解できる生分解性プラスチック
などを組み合わせることで
木材以上の強度と、適度な分解性を備えたプラスチックの開発は可能でしょう。
また、
木材においてもアゴをもつ昆虫の侵入が大きな問題ですから
同様にアゴをもち、共生細菌によって分子レベルまで分解できる木質昆虫が
将来のプラスチック製品の「害虫」になるかもしれません。
今のプラスチックはあまりに生分解性がないために、
その処理が十分でなく、海に流れています。
一方で、あまりにありふれていてコントロールできない
環境中の微生物や紫外線のみで分解してしまうプラスチックでは
強度的に心もとないでしょう。
そこで、
「昆虫分解性プラスチック」と
「プラスチック特異的分解微生物」を開発し
「プラスチック特異的分解微生物共生昆虫」を養殖。
その防除法までを同時に開発することで
環境中にインパクトの少ない、そして
昆虫を利用することで、プラスチック製品の設置が間接的に食糧備蓄になるような
未来の形ができるかもしれません。


話はすこしそれますが、実は、そのような
技術は、木質昆虫ではまだなのですが、
カメムシで既に報告されています。
日本の産業技術総合研究所のグループでは
カメムシの共生細菌を抗生物質で殺し
遺伝子組み換えをした別の微生物で再構成する、という
「共生細菌サイボーグ」のようなものを作っています。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20160111/pr20160111.html
基礎的な知見として、今まで知られてこなかった
微生物と昆虫の共生関係を調べるとんでもないキレッキレの実験系なのですが
その中で殺虫剤耐性を環境細菌から獲得することも明らかになっています。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150901/pr20150901.html
これは、昆虫という世代の比較的長い生物が
世代の短く、変異の多い細菌と同じ速度で殺虫剤耐性を獲得する可能性を示すものであり、
今の抗生物質、抗菌剤と同様に、次々と耐性菌が登場してその開発が追いつかない現状と同様に
「多剤耐性昆虫」が容易に発生する可能性を示しています。
そのようなことになれば、今のように環境中に殺虫剤を散布することは
無闇に抗生物質をばらまくことと同様のリスクであることですので
もっと特異的で、
土壌への散布を避けるような限定的な利用をしなければならなくなるでしょう。
その時、天敵農薬や特異的殺虫剤などのようやくの出番です。
全ての昆虫に効くような、細菌でいうところのバンコマイシンのような
「最終兵器殺虫剤」の日常使いは禁止されていくでしょう。


話をもどします。
未来の昆虫利用においては、
プラスチックだけでなく
殺虫剤も昆虫毒性高い高分子と考えると、
その分解という「生態系サービス」までを
含めた運用を提案することができれば、新しいシステムが見えてきます。
多くの場合、高分子は工場で集約的に大量生産されますが
その利用は各個人、各家庭、各地域へと「分散」されています。
その分散した有機物は、廃棄される段階になると「再集約」され
集中的に処理されています。

これでは、
処理の度に輸送エネルギー、回収エネルギーがかかってしまい
それらのエネルギーを使ってペイできないもの
たとえば、
バイオマス発電の発電量よりバイオマスの輸送エネルギーの方が大きい場合
腐りやすく含水量の多いバイオマスを飼料利用するため冷蔵輸送する場合
は、損益分岐点のハードルが高い状態ですので
利用されない「余剰バイオマス」ができてしまいます。
無理やり利用しても、かえって環境負荷が増えてしまいます。
そこで次に考えられるのは、集約生産されたものを分散利用した後、分散再処理して使うことで
輸送エネルギーを節約できるでしょう。

その時、昆虫のように容易に増やせ、処理能力が集約しても分散しても変わらず
メンテナンスも容易なシステムが有効です。
更に考えます。
いまの一次産品の多くは分散的に生産され、収穫されて集約されたものなので、
それらが分散的にそのまま利用でき、その不均衡だけを輸送する最適化システムができれば
自然エネルギーなどの分散的に発生するエネルギーを利用することになり
地下資源の枯渇後の生産システムとして有望でしょう。

この中で集中的に生産されるのは、
いわゆる「鉄器」のような耐久消費財だけになると考えられます。
最終的な3の状態になることは百年単位で当分先ですが
「脱集約 Decentralize」は、
この先のバイオマス利用においてホットなポイントになると思います。
電力、情報の脱集約化が起こりつつある現在、
次の脱集約は食糧で起こるべきだと思うのです。
その時、常温常圧で作動し、処理に失敗したら死ぬことでアラートを出してくれる
昆虫は、植物に寄って生産されたものを、
何度も分散再処理するシステムの中核を担うことになるでしょう。
また、そのシステムをよりコンパクトに、閉鎖系で設計することが
将来の食料生産システムにとって有用な知財であることをアピールし
多くのヒトに将来に思いを馳せさせる「デザイン」になるだろうと、予言しておきます。
そして、未来の脱集約食料生産モデルを見ながら食事をすることは
食品そのものではなく、そのプロセスを味わう
新しい「グルメ」の形で普及していくでしょう。

中編では、ミールワーム、
つまりチャイロコメノゴミムシダマシの生理と生態について、
「木質昆虫学」という視点から掘り下げます。
ゴミムシダマシという名前は大変に誤解を招きます。
ゴミムシとはけっこう遠い仲間で、全く別のグループと考えてよいです。
参考文献はこちら
木質昆虫学序説

森林利用、というヒト視点を軸に、概観した本なので、
昆虫の利用をヒトへの利益の視点から考えたいわたしにとっては
大変うれしいまとめでした。


話はそれますが、カミキリムシがおいしい、という話はここでもよくしますが
なかなか無料で、多くの人に提供できる数は手に入りません。
カミキリムシが薪の利用低下とともに入手困難な昆虫になってしまったからです
「カミキリが侵入した苗木を見分けるイヌ」とか(本来は植物防疫目的ですが)
とても食欲、もとい想像を刺激されます。


話を戻します。
この本は膨大な情報量と文献リストへのアクセスができるので
門外漢が分野の概要を知るのにやはり母国語のほうがスピードが節約でき
すごく助かりました。
木質という地球上における残存量最大の「やっかいな」バイオマスの
物理化学的性質、そして植物学的特徴という基礎的な面から
林業などの「実学」につながる部分
更に食用も含めた未来の
昆虫利用まで総合的に論じている点で非常にためになります。
また、
木質昆虫の飼育養殖は難しく、木材が巨大であること、
そして木材そのものが売り物ですから
それらを全て調べることは容易ではありません。

昆虫種や生態など、
研究観察しやすいものとしにくいものの間に、研究進捗のギャップがあることから
概論を導くためにかなりざっくりとした類推を含む部分もあるので、
この本の主張から引用して持論を展開するのはあまりよろしくないように思います。
原著に至るガイドラインとしてすごく役立つかと。
母語で新しい分野の概観を読むことができるというのはとても恵まれたことだと感じました。

お買い得ですが安くはない本なので、ぜひ最寄りの図書館に購入希望を出してみましょう。
図書館は不特定多数の人に安価で読書の機会を提供する裝置なので
こういう地雷を公的機関に仕掛けて、将来の昆虫研究者を増やす活動に勤しみましょう。
この本のガイドに従って、
木質昆虫、とくにゴミムシダマシについて
詳しく見ていきましょう。


昆虫が利用する木質の分類として大きく2つにわけられるそうです。
一つは生きている木を食べる「一次性種」と
もう一つは死んだ木を食べる「二次性種」です。
一番大きな違いは木の生理的食害応答があるかどうか、です。
カミキリムシなどの生木を食べる昆虫は、生木にある成長点などの
栄養豊富な部分をターゲットとし
食害に対する防御機構をかいくぐり、しまいには木を枯らしてしまいます。
枯死した木には、その分解状態に応じて生木食以外の二次性の昆虫が、
その分解を引き継いでいきます。
枯木のバイオマスは生木に比べて
炭素ばっかりでタンパク質の元となる有機体の窒素が少なく、
それでいて生木と同様に
セルロース、リグニン、ヘミセルロースなどの
多様な高分子が互いに強固に接着したままですので
その分解にはもちろん多様な酵素が必要でしょう。

そのため
「生木食のカミキリムシだけを生産し続ける林」というバランスを保つのは
なかなか難しいと思われます。
木材利用も含めて考えると、
木を枯らしてしまうと、木材としても使いにくい枯木になってしまうことから
一次性種であるカミキリムシはおいしいけれども、将来性があまりないのはこのためです。
薪利用とカミキリムシ食はセットで考えるのが良さそうです。


一方で、ゴミムシダマシの多くは
枯木を食べる二次性種です。一次性種であるキクイムシのフンを食べる
ものもあるようで、恐らくアゴの発達と機械的強度とも関連しそうです。
また、ゴミムシダマシの幼虫は脂肪が多く、タンパク質は少ないので
貧窒素・低湿度に耐える特徴があるのかもしれません。
ミールワームは特に乾燥に強く、コムギのふすまで飼育できますが
湿気を与えると一気にカビが出てしまいます。
飼育にあたっては野菜くずなども食べてくれるので
湿気の溜まらない排気システムを備えた
生ごみ処理機
Livin Hive 
もキックスターターで最近有名になりました。
http://www.livinfarms.com

これは見事に14万5千ドルの資金調達に成功し、現在製作中だそうです。
830 backers pledged $145,429 

先の論文のことを考えると、
これに、
プラスチック梱包材も入れられるかもしれません。
では、木質昆虫であったミールワームがなぜ、
スタイロフォームを分解できたのか、後編で考えてみましょう。
そして、ミールワームから、
昆虫によるバイオマス利用のブレイクスルーが起きるのかどうか、まで、
予想してみます。

昨年10月に、面白い論文が出ました。
ミールワームが共生細菌と一緒にスタイロフォーム(発泡ポリスチレン)を分子レベルまで分解する
というものです。
とても良い写真とともに。
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.est.5b02661
確かにスタイロフォーム食ってる。
スタイロフォームとはいわゆる発泡スチロール。建築材で大量流通しているのでとても安く、
造形の世界でも大型の造形物の芯に使われたり、とっても便利な素材です。
二報にわたって示されたことには、ざっくり言うと
1,ミールワームはスタイロフォームを食って分子レベル(脱ポリマー化と二酸化炭素への分解)の分解をしている。コムギのフスマを食べさせたものとスタイロフォームを30日食べさせたものは、生存率に有意な差はなかった。食べたスタイロフォームのうち16日で半分程度がCO2へ。
放射性同位体の炭素C13を使った追跡によって確認
2,スタイロフォームポリマー(ポリスチレン)は消化管の共生細菌によって分子レベルにまで分解されているようだ
ディスカッション
プラスチック廃棄物の処理方法の1つの手段になるかもしれない。
とのこと
これはすごい。
やはり再現性が気になったのと、
30日間のその後の長期的なミールワームの健康が気になったので、
やってみました。
昨年10月から仕込んで、2パックほどの市販ミールワームを。
11月25日の写真がこちら。
 
食ってますね。底に水色の粉が溜まっているので
少なくとも粉末レベルで破砕しています。
そして4月

遅いですが食いっぷりは進んでいます。
味は。。。

あまり普通のものと代わりはない。プラスチック製品のような溶剤の香りもない。
もちろん無臭の成分でも体によくないものがあるのでおすすめはしません
追記です。
論文に記載されている分解については
ポリマー化しているα炭素とβ炭素についてラベリングしていますが
ベンゼンについてはまったくノータッチです。
C02として無機化しているということは、
好意的に見ればベンゼン環も分解されたと見えますが、
ベンゼン環はかなり安定した化合物で、分解菌も通常ほとんど分布していないこと、
変異原性があることから、分解の可能性は低いでしょう。
なので、せっかく安定していたポリスチレンからベンゼンを放出する「余計なことしい」
の可能性もあります。

続報を待ちましょう。というかベンゼンに標識した結果ってなんでないんだろう。。
なので試食はおすすめしません。今の段階では。

香ばしさが幼虫より強く、甲虫でも食感はとてもよい。揚げなくてもサクサクしている。
今のところ成虫までにはなったのですが、次世代が生まれていません。
完全栄養食とはなっていないのでしょうか。
引き続き観察します。
さて、
スタイロフォームの材料であるポリスチレンなどの
プラスチックはヒトの活動が近年生み出したもので、
自然界には本来分布していません。
こんな分子構造をしています。

紫外線でポリマーの分子結合が分解されながら
機械的な破砕とともに細かくなっていきます。
いったん表土などで被覆されたり
水に沈んだりすると
分解は相当に遅くなります。
機械的な破砕によって細かくなったプラスチック破片「マイクロビーズ」は
野生生物への悪影響があるのではないか、と懸念されています。
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3725/3.html
今のところ野外での重大な影響は報告されていませんが、
実験室内での影響はあったとのことです。
そんな中で、
ペットの生き餌として使われる身近な生物、ミールワームと
プラスチックとのマッチングは
我々のプラスチック処理のシステムを大きく変えることになるかもしれません。
梱包材や衣服など、身の回りにあふれるプラスチック製品を
昆虫で転換して食べてしまう、という未来です。
はたしてこのマッチングは
「奇跡的」なものでしょうか。
そして
廃棄物処理の救世主になるのでしょうか
いまのところ結論を保留して
昆虫学のレベルからもうちょっと冷静に考えてみましょう。
中編に続きます。

by ケミストリー

思いは思いのままで。と歌ったのはケミストリーですが
食材のにおいはにおいのままで楽しもう、というのが今回の趣旨です。
単に消そうとするだけでは
その臭みのない他の食材の下位互換でしかなくなってしまいます。
消すのではなくちょうどいい具合に弱めて他の食材と合わせる。
フードマッチングとかフードペアリングというイメージがいいですね。
何と合わせるか、もちろんわが家の大黒柱、ゴキブリです。

以前から、生ごみ処理機として
マダガスカルゴキブリを1kgほど飼育しています。
飼育容器の開発も第6世代に突入し
強制的な換気装置と、フン自動分離機構を備えたので
半年に一度ぐらいの大掃除をする以外はノーメンテ。

彼らの天敵はカビとハエです。
どちらも抗菌剤を出して高湿度に対応する生物です。
どちらもゴキブリの健康を著しく阻害するらしく、
死体にカビもしくはハエが増え、更にゴキブリが死ぬという
負の虐殺スパイラルになってしまいます。地獄絵図です。
ゴキブリの養殖経験の長い爬虫類愛好家の方は
生ごみなどの湿度リスクを考えて
乾燥した配合飼料と水のみを与えているそうです。


ともあれ、
マダゴキによらず
彼らのヒト住居への適応能力は高いものがあります。
よく誤解されがちなのが「ゴキブリは最強の生物」みたいなのです。
テラフォーマーズも影響しているかもしれませんが。
これは全くの誤解です。
「ヒトの好みのままに創りだした環境がたまたまゴキブリにも適していた」
のです。
決して他の昆虫よりとりたてて優れているわけではありません。


ではなぜ、
ゴキブリはヒトの住居に適応できたのでしょうか。
まずは
近年のヒト住居について、もう少し考えてみましょう。
まず野外の昆虫が入ってきません。
ゴキブリは特別な防御機構をもたないことから
野外では格好のエサとして消費されています。
オオゲジやアシダカグモなどの翅をもたない徘徊性の節足動物のエサです。
ですが今の密閉性の高い住居では人の出入りが唯一の侵入のチャンスですが
警戒心の強い大型の捕食者は、なかなか入ってきてくれません。
ヒトは無意識ですが、彼らにとって我々は決して勝てない捕食者なのです。


次に、優れた空調です。
ヒトに限らず、従属栄養生物はガス交換をしないと窒息してしまいます。
ですが、ふつう、ガス交換は同時に熱の移動も伴います。
なので、本来であればガス交換と、保温、保冷は
相反するものなのです。
風通しが良くて夏暑い、冬寒い家
風通しが悪くて夏涼しく、冬温かい家
というトレードオフではなく
夏涼しく、冬暖かく、かつ風通しが良い
という空間を少ない電力エネルギーで実現しています。
空調、つまり熱交換器の実用化によって、
ヒトの住居は圧倒的に住みやすくなりました。
そして断熱のよい構造体。鉄筋コンクリートですね。
ゴキブリは住居がビル化する前は、
家を通過するごくありふれた昆虫たちの一種でした。
ところが、気密性が高く、乾燥したビルに、
有機物を大量に置く、という
選択的ゴキブリ誘引トラップが設置されたことで
我々はゴキブリを誘引され、屋内で養殖して
そしてそれに人々が驚く、という
不幸なマッチポンプを生み出してしまったのです。


さて、
ゴキブリといえども、マダゴキはマダガスカル出身ですので、
日本人とマダガスカル人どころではなく、キツネザルぐらい遠縁のものを
ゴキブリという和名でくくって嫌がってしまうのも、なんだかかわいそうなものです。
なんとか印象を挽回する方法はないものか。
やはり、
彼らをおいしく食べる事を考えましょう。
今回使うのは、美しい脱皮直後のメス成虫です。
白い。美しい。

昆虫は、陸上での外皮の硬化に色の出る化学反応を使っているので、
残念ながら茶色っぽく、黒っぽくなってしまいます。
しかし脱皮直後は別です。色素の少ない、透明感のある美しい姿は
食感もよく、食べごたえもあり、最高の時期だと思うのです。
しかし、
ゴキブリにはゴキブリらしい臭さがあります。
ケミカルというか、ムレ臭というか、ゴキブリ臭とも呼べますが。
集合フェロモンだそうで、ゴキブリのフンからも同様のニオイがします。
以前にチョコを食べさせた時、そのニオイが低減したことから、
何らかの食事制限によって多少変動はさせられそうです。
今回目指すのは
「ゴキブリ臭い、けれどもゴキブリクサおいしい」という未来の料理です。
そして、以前の粉末バッタが粉末としての利点を活かしたことをふまえて
体のままであることを活かした料理とします。
「注入」です。
羊の腸の皮に他の畜肉を詰め込むという黒魔術のような料理、
ソーセージと言われるものは今では世界中に普及しています。
単なるひき肉つくねでは得られない、パシッとした食感が
その悪印象を払拭してくれる「おいしさ」なのでしょう。
そして、脱皮直後のゴキブリは柔らかく、中身が結構スカスカです。
脱皮時にしか外皮の表面積は増えませんので、
外骨格生物は脱皮すると先に外の大きさを決めてしまい、
後から中が充実してきます。
そのため、最も身が張っているのは脱皮直前なのです。


余談ですが、外皮が比較的柔らかいセミ幼虫は
肉がしっかり詰まっていて圧力の高い脱皮直前のものが一番おいしく、
脱皮直後のものは美しいですが、
濡らしたティッシュのようにやや味気なくなってしまいます。


話を戻します。
今回注入する液体は
「既存の料理に使う調味料」の組み合わせで作ります。
ムレ臭のような香りはニンニク、
フルーツのような華やかな香りはワインビネガー
注入する都合からニンニクのワインビネガー漬けを作りまして
苦味要因としてチーズ(材料にセルロースを含まないもの。含んでいると注射器が詰まります)
そして結着剤として卵を入れ、「ゴキブリ臭く」仕上げます。
ダイソーで売っている化粧品小分け用の注射器を使い
脱皮直後の余裕のある外皮に対して、尻から体側面にたっぷり注入します。

深海のヨコエビのような感じになりました。
これをバターと胡椒で低温じっくりと焼き上げ

トマトとアイスプラントで仕上げ。
 
おいしい。。確かにゴキブリ臭いけどだがそれがよい
プリっとふくらんだ腹部はパンと張り
チーズとニンニクの旨味がじわっと。
フレッシュトマトのジューシー感とアイスプラントのさくっとした食感と酸味。
いずれもすばらしい!おいしい!
マダゴキの新たな可能性を感じました。
同時に「言語化=情報化」と「見立て=抽象化」のパワフルさも。
ゴキブリの味の特徴を言語化し、他の食材で見立て、
相性をマッチングして作っていく、創作料理のエキサイティングな過程を体験できました。
プラモデルで言うところのキット改造からフルスクラッチへ。
昆虫料理を既存の料理のアレンジではなく、フルで創作する段階に来たのかもしれません。