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すりつぶせば食える
昆虫料理の写真を見せた時に多くいただく反応です。
もちろん今まで、すりつぶした昆虫料理も作ってみました。
バッタのハンバーグ

バッタのパンケーキ

エリサンのアイス

が、どうにもしっくりきませんでした。
すりつぶすことの利点が、いまひとつ見えてこなかったのです。
まず形が失われてしまいます。
そもそも
昆虫は美しい色彩をもち、洗練された形もあり、見映えがいいと思います。

そして
食感もサクサクとして、一口大で食べやすく、噛み砕くことで湧き上がる風味もたまりません。
それらの特長を失ってまで得られるものが見当たらず、
昆虫料理を楽しむにあたっては、すりつぶすことへの抵抗感がありました。
なぜ過去形かというと、昆虫を粉末にした時の味わいの可能性を
ようやく見つけることができたからです。


粉末にすること、つまり粉体化は、素材を均一化し
素材の体積あたりの表面積を著しく向上させます。
粉体化した素材は、分子状、とまではいいすぎですが、
分子そのものに対して均一な、化学的編集を可能にするのです。
参考文献はこれ
現代フランス料理科学辞典

フランスで興った「分子ガストロノミー」について
物理化学的に解説した事典です。
料理のすべてがサイエンスで説明され、
今まで慣例的に行われてこなかった新たな料理法が示され
その効果が科学的に説明されています。素晴らしい本です。


フランス料理は日本料理とよく対比されます。
日本料理は素材そのものの味わいを注意深く吟味し、
その流通や品質管理すら料理人の仕事になっています。
素材の名前は客の口に入る最後まで消えること無く、
素材と素材のマッチング、そしてそれに応じた調味料をあわせていきます。素材主義的に感じます。
そのため、食品偽装にも敏感です。
羊頭狗肉は、たとえその狗肉がヒツジよりおいしく仕上がっていたとしても、
素材主義的にはアウトなのです。
一方で
フランス料理はそれらの素材としてのストーリーを排除し「オープンプラットフォーム化」していくように見えます。どこでとれたか、何と何が合わさっているかはあまり重要ではなくて、最終的に今までにない、好ましい味わいを達成した時に、その味わいに必要不可欠な素材を評価していきます。
日本料理に対して成果主義的です。
どちらのアプローチにも一長一短がありますし、
どちらの国の料理法にも素材主義的な部分と成果主義的な部分が混在しているので、一概にはいえませんが
昆虫を粉体化することはすなわち、素材感をなくし、成果主義に寄せることですから
より昆虫の「料理」としてのハードルが上がることがわかりました。
つまり料理の視点から見ると、
「昆虫を加えなくてはならない美味しさを発見しないかぎり、昆虫を料理に加える価値はない」のです。
昆虫食の粉体化は成果主義への挑戦といえるでしょう。


これはちょっと怖い挑戦でもあります。
今まで昆虫食の1つの大きなウリは「代替可能であること」だったのですから。
栄養的にも、栽培養殖的にも、既存の家畜を「代替」する存在なので
昆虫独自の味わいが積極的に評価されることはありませんでした。
普及が実現すれば、
昆虫食はその代替可能性の高さによって、様々な料理の素材を代替できるでしょう。
ところが、現在マイノリティで高価な食材である昆虫の、これからの普及にあたっては、
「代替不可能性」つまり代えがたい付加価値をプッシュしなければならないのです。
このことから、
昆虫食の普及には、時に相反する2つのフェーズを見越したデザインが必要だということがわかります。


1つはこれから普及していくデザイン。
他にはない特長があり、代替不可能で、美しく、あたらしい。
未来を感じ、一時的には持続可能性を高める目的で、痛みを伴うかもしれません。
そしてもう一つは普及した後のデザイン。
ありふれていて、意識せず、空気のように、日常に溶け込んでいく。
そして環境に負荷をかけず、人々が自ら選んで楽しむ昆虫料理です。
相反するように見えますが、この2つのデザインコンセプトを同時に達成した
「未来の昆虫料理」
こそが、これから開発し、提供すべきものになると思っています。
なぜならどちらか一方を達成したたけでは、
2つのフェーズのスムーズな移行を妨げてしまうからです。
つまり、
昆虫食はこれから、非日常食(フェーズ1)を経由して、日常食(フェーズ2)になるのです。
この2フェーズをゆるやかにつなぐデザインが、
昆虫食再導入のシナリオ作りの根幹となっていくと考えています。


さて、昆虫食の粉体化は、
日常食に混和されて含まれていく、という意味でフェーズ2的でもあります。
粉体化したままフェーズ1を突破するには、
昆虫の姿形という強い特徴を失ったまま、その代えがたい美味しさを引き出さなくてはならないのです。
また、昆虫に本来含まれる食感や姿の美しさを失っていますので、
粉体化したものがより劣った味になってはそれこそ粉末転倒です。(ダジャレです)
充分に既存の素材と比較して「おいしくなる」ことこそが、粉体化昆虫料理のミッションといえるでしょう。
キーワードは「異素材との組み合わせと化学反応」です。
使った素材はこちら
TAKEOさんが輸入販売しているタイ産養殖トノサマバッタです。
http://takeo.tokyo/?mode=cate&cbid=2031803&csid=0
どこまでの粗放的な養殖か、集中的な養殖かわかりませんが、
すでにタイでは私が目指す、バッタ養殖への道が開けているのです。
うらやましい。
まだ取材をしていないので、どのような養殖場かわかりませんが、
日本で買えるものでは一番安いバッタ素材といえるでしょう。
ただ、若干の素材に不満点がありまして、
粉末の粒度が荒く、口当たりが若干悪いことです。
これは回転式の粉砕機によって行われるためと思われます。
効率のためにはしかたのないことでしょう。
また、
恐らくフン抜きと茹での工程を行っていないためだと思われますが、
加熱すると苦味が強く出てきます。
理想としては、脱皮直後の2日以内の成虫を
一回茹でてから、フリーズドライして石臼式のミルで微粉化すると、
最も美味しい粉末となるでしょう。
ただ、一旦粉末化したものはそこからエグみや苦味の原因だけを取り除くことが
もはやほぼ不可能になってしまうことが難点です。
なぜなら苦味物質は「ヒトがそう感じる」から苦味であるだけの
ごくありふれた物質であることが多く、
例えば必要不可欠な成分であるアミノ酸が結合したジペプチドの一部の組み合わせは
強い苦味があることが報告されています。
以前に生のパイナップル(タンパク質分解酵素を含む)をグラノーラと牛乳と一緒にし
電子レンジで加熱したことがあったのですが、
強い苦味が出てしまい、固形化して全く食べられませんでした。
味のコントロールには、そのマッチングだけでなく過程、
プロセスも大事であることがわかります。
この程度で負けるわけにはいきません。
機械的な食感の悪さには微粉裝置の導入。つまり乳鉢です。

石臼式の茶葉粉砕機、

これも買ったのですが、
石臼式で微粉化できる反面、
バッタに含まれる繊維質(恐らく腱か筋肉)が詰まってしまい
頻繁に掃除が必要で、どうにも効率化できませんでした。


話はそれますが
カブトムシの蛹を乾燥させたものをコレに入れると大変なことになります。
脂が多いのでくっつき、すぐに詰まってしまい全く機能しません。
カブトムシの素材開発については、また別でまとめます。
カブトムシは不味いのか、それとも我々が美味しい料理法の開発に成功していないだけなのか
新しいアプローチを試みています。


話を戻します。
さて、
昆虫料理開発と実証にあたって、
第二回 Palermo昆虫料理試食会を実施しました。
 
3つの料理を参加者と一緒に作ります。

参加者の方にも交替してもらいながら
15分ほどすりつぶしてもらい、
最初の簡単料理
「バッタのフレフレチップス」です。
  
堅揚げポテト 塩味に、トレハロースと混ぜあわせたバッタ粉末を小さじ1入れて
振ると、簡単に出来上がり。
次は
「バッタのチーズドレッシングの温野菜」

温野菜はPalermoさんに用意していただきました。
バッタの苦味とチーズの苦味が合うんですね。
当初はバッタの苦味をマスクする目的で混ぜあわせました
コレを作るときにチーズと砂糖、酢を加えて
レンチンしたのですが、ふと気づきました。
バッタでもチーズでもない、別の好ましい芳香が出ている。と
先の参考文献「現代フランス料理科学事典」で
調べたところ「メイラード反応」とのこと。
アミノ酸と糖が加熱により反応し、香ばしい茶色い物質メラノイジンを産するとのこと。
苦味もあるのですが、非常に好ましい、まとまった味に仕上がりました。
なるほど。
これは「粉末化」のはっきりとした恩恵ですね。異素材を混ぜあわせて反応させれば
素材に対して均一に化学的な編集を加えられると。
最後に作るバッタチョコも
試作段階でホワイトチョコにバッタ粉末を入れただけでは苦味が残ってしまい
風味もあまりないので、調理にメイラード反応を含むよう、変更しました。

まずバッタの粉末大さじ1をよく微粉化し、トレハロース大さじ2 砂糖大さじ1を加え
溶かし水小さじ1を足して電子レンジでよく沸騰するまで加熱します。
ここで、加熱しすぎると糖単体の褐変現象であるカラメル反応が起き、
固体化してしまうので注意しましょう。
試食会では予め用意したメイラードバッタを使おうとしたのですが
再加熱に失敗してカラメル化してしまい、使い物になりませんでした。ご注意ください。
好ましい香りがしてきたら温かいうちに湯煎で溶かしておいたホワイトチョコと混ぜあわせます。
ホワイトチョコも温めすぎると分離します。
よく混ぜると、白あんのような独特の粒感のある、ブラウンチョコができました。
しっとりとしてカントリーマアムの中身のような食感です。

とっても美味しい!
ほうじ茶チョコにとても近い味わい。でもバッタの風味とほろ苦さが先に来て、
後からチョコの風味で締めくくられて大変後味も良好です。
さて、
試食会ではここまでだったのですが、
試作して残しておいたものをフレーク状にして

今度はパンケーキにチョコチップとして練りこんでみました。
 
するとフライパンの表面で溶けてカラメル反応をおこし
パンケーキの内部ではとろっと、そしてフライパンに接した部分ではカリッとした仕上がりに。
外はカリッと、中はとろっと。何かわかりますね。
そうです。昆虫の食感です。
つまり以上のプロセスにおいて、
昆虫の食感を異素材と組み合わせ
再構成したといえます。
クチクラのような疎水性で弾力のある破片
(概して口に残った時に水分と味がないので違和感を覚えます)
がなくなっており、より風味が増し、苦味が気にならなくなり、
いいことづくめです。
では、この先、昆虫料理の「見た目」を楽しみたいときは
どのような形が考えられるでしょうか。
同様に再構成すればいいのです。

バッタのつもりですが、うまくいかなかった・・・・
パンケーキ職人がネット上にはいますので、よりよいバッタパンケーキは
今後生まれてくるでしょう。
また、
味わいという点で粉末化は大きく貢献しますが、
今後の料理開発の戦略として、
昆虫の姿形を保ったまま、メイラード反応を含むバッタチョコを作るためには
含浸や圧力調理といった
すりつぶさなくても味の加工が行える
非侵襲性のトリッキーな科学的調理方法の躍進も期待されます。
ということで
「すりつぶさないと食べられない味わいをもつ昆虫料理」が今後の突破口になると思われます。
「昆虫の粉末化はその物理的特製、化学的特性を活かし、より新しい昆虫の味わいを高める目的で使うことで普及を促進する」と予言しておきましょう。
姿形を失った状態で、高価な昆虫を売るには限界がある、
姿形を保った状態で、高価な昆虫を売るにも限界がある
と私は思うようになりました。
美味しさこそ食品における「代えがたい美的センス」でしょうから
これを抜きに昆虫食の普及が達成されることはないでしょう。
更に、
昆虫素材の粉体化と分子編集を行った後に
「昆虫の姿を再構成」したものが今後、好まれるかもしれません。
というのも、今回の試食会アンケートでは、
姿形が失われていて残念、との感想もあったからです。
人々が見てわかる昆虫の姿を再構成したものは、
誤食やイタズラ目的の混入を防げるという意味でも
有用です。
昆虫料理芸術、という
食べたくなる昆虫を表現する分野が、美食学の一分野として勃興するかもしれません。
そして、挑戦的に宣言しておきますが
分子ガストロノミーがいまひとつハジケないのも、
既存の食材を使った変化球や物理化学的な後追いでしかないものが多く
「ネタ切れ」になってしまったのかもしれない、と考えています。
そこで
分子ガストロノミーは積極的に生物学へ参入すべきでしょう。
更に、
生態学的な知見に基づく、「環境の状態に即した持続可能な食システム」を提供するのです。
昆虫を含む地球上の新食材を探索し、環境影響から評価し、
味についてフードマッチングを行い
新しい料理の可能性、
伝統的な料理を別の食材で再構成する可能性を提供していくとよいでしょう。
どうしても気候変動に左右される不安定な食料生産を、
安定化させようと、厳密な閉鎖系を作ることは、かえって多くのエネルギーを消費し、
エネルギー依存度の高い食料生産になります。エネルギーを介してすべての生産活動と
競合関係になることになるわけですから、その不安定化へ危惧はかえって食の不安を招きます。
また、
生態系の予想外の変化、例えば外来種の侵入と繁殖は、
時に安定化のために新しい捕食圧を必要とします。
人類こそが情報のみによって食性を変えられる唯一の巨大捕食者ですので、
情報によって食を変えるチャレンジが必要でしょう。
既に「価格」という情報によって、食生活を変更し
今まで食べたことのない食材を口にすることはもはや珍しくないですから、
価格以外の価値判断で食習慣を変えることも、きっとできるでしょう。
しかし、
食習慣を変えるストレスもまた、痛みを伴います。
そこで、分子調理の社会的な出番です。
一つの未来として
「消費者の食習慣にストレスを掛けること無く」
環境にふさわしい食材を組み合わせ、編集して
食の選択肢を「みえないように」増やしていくことで
いつもの食事を
いつものように楽しんでいるだけで適切なカロリーと満足度の高い食事経験と栄養がとれる。
そして中身は知らなくて良い
という、
「食の魔法化」が近い将来達成されるかもしれません。
そこには、
「昆虫料理」と「普通の料理」の境界自体が、見えなくなっているはずです。
一つの極端な理想形として、いかがでしょうか。

先日、三重県松阪市にてフェモラータオオモモブトハムシを採ってきました。
http://mushikurotowa.cooklog.net/Entry/275/
そして先月23日、「フェモラータオオモモブトハムシを食べる会」
もとい
「第一回 Palermo 昆虫料理試食会」を開催しました。

         
今回のテーマは初心者向け、ということで
「昆虫の見た目を、昆虫じゃない食材でどうにかする」
というワークショップ型の設計にしてみました。
また、
関東で実施している昆虫料理研究会の方式と異なるのは
「シェフがいる」ということです。
このPalermoのシェフ、
私の神戸の先生と昨年に知り合いになっていて
レシピや食品としての扱い方がわかれば昆虫食を
提供してみたい、とのことで、
この度、私が間に入ってコーディネイトしました。
とても気持ちの良い方で、世界各国を旅して修行を積んでおり
料理の腕は抜群です。
また、スパイスとフレーバーの使い方が多国籍で抜群なのです。
ということで、
限定コラボ品として
「タガメと生絞りショウガのジンジャーエール」と
「カシャーサソーダ」を開発していただきました。
昆虫食会でよくやっていたのは、ウォッカなどの香りの少ないものと
タガメ香料を合わせていたのですが、
今回は「合うフレーバー」を見つけていただいたおかげで
はじめからその飲み物にタガメが含まれていたような
すごいマッチングとなっていました。



さて
「昆虫は見た目が悪いから食べられない」

よく言われます。
なのですりつぶせば食べられると。
ですが今回はすりつぶすことによるデメリット、
つまり食感の喪失がもったいなかったので
「他の食材を昆虫に似せる作業をする」
ことで見た目の悪さを相対的に減らす取り組みをしてみました。
材料はサラダ用マカロニと
カキノキダケです。

それぞれを時間差で茹でて
マカロニの穴にカキノキダケを通します
そしてカシューナッツを加えて
できたサラダがこちら。

もう
フェモラータオオモモブトハムシ幼虫がどこにいるか
見分けがつきませんね。
そうなんです。
「高度に発達した料理は昆虫と見分けがつかない」
のです
我々は常日頃から、昆虫と見分けがつかないものを食べています。
そして、昆虫の味は基本的に穏やかなため、
そのキャラクターは普通の食品の組み合わせで
ほとんど説明できます。
フェモラータオオモモブトハムシは
塩なしピスタチオのペーストをイクラの皮につめたもの、
で説明できます。
なので皮を壊さずに塩分を追加することが調理のコツだとわかりました。
あとはナシゴレンにイナゴ醤油の搾りかすを乾燥させてふりかけたものと

ドライフルーツトマトとチーズケーキスイーツに、イナゴソースのジュレをかけたもの
エリサンのミノムシ揚げ
そしてタイ産のカイコとコオロギのスナック

おいしくいただきました。
参加者の反応も好評をいただきまして
少しでも調理に参加して「食材に慣れる」という時間を設けると
満足度が高くなる気がします。



今後は量を多くしてモリモリたべるニーズとか
逆に姿をなくした粉やペーストとして食べるとか
なんらかの方向性や意味をもったチャレンジとして、
試食会を開催していきたいと思っています。
ということで次回告知!
急ですが今週末です。

タイ産の養殖トノサマバッタパウダーを手に入れまして
食材として試作と味見を繰り返し、
試行錯誤した結果をみなさんと共有したいと思います。
「特集 むしのこな」
前回と同じで摂津本山駅近くのレストラン Palermo
時間は15時から17時です。
参加希望の方は
こちらのフォームにご記入ください。
http://goo.gl/forms/6ijcno1Gx7
お待ちしております。

アントマン。
アントルームの島田さんが絶賛してらしたので
餅は餅屋。アリはアリ屋。

専門家の言うことをまずは信じるべきだと、見てきました。
座席はアイレベルが低めの前から三列目C席。前がいいですね。
アリの目線で人間の世界を見られる良い映画です。
以下ネタバレも含みますが内容自体が王道娯楽映画で
アントマンの設定は昔からアメコミでなされていたので、許してください。
もうダウンロード発売しているので、むしろぜひ見ていただければと。


そもそも
アントマンの中核技術はアリとはなんら関係がありません
冷戦下アメリカで開発された
「物体縮小化技術」で完全に物理屋さんの仕事。
開発した博士も物理学系のようです。
なんとも解釈の難しい技術で
物体の原子間のサイズを任意に変更できるとのこと。うーん。吸う空気とか
腸内細菌とか、体の周りのゴミとかダニとかどう「縮小化範囲の判定」しているんだろう。
代謝に従って出入りする物質はその都度拡大縮小しているんだろうか、とか。
縮小化した分子と通常サイズの分子との化学反応はどうなるんだろうとか。
物語の後半で巨大化にも利用可能だとわかったので
ウルトラセブンのように自在に縮小拡大が可能なようですが。どうしたものか。体重はどうなるの?とか。
私は物理屋でないので、どこまで科学的に突っ込めるかわからんものです。


なんともすごそうな技術ですが、
その有用性と軍事利用への危険性を予見した博士はその理論と技術を完全にクローズドにしてしまいます。
雇った助手にすら「そんなものは空想だ」と突っぱねる始末。
困ったボスです。はじめから助手雇わなければいいのに。
こういう人間関係がこじれたことが原因の研究キャリアパスの困難に対して、
どうしても若手側に肩入れしてしまいがちなのは私だけでしょうか。
さて、
幸か不幸か、この助手はかなり有能だったようで、隠されたことを恨みつつも、
それに極めて近い技術を30年かけて再発明してしまいます。
イエロージャケットと呼ばれるもの。飛行可能で、レーザーまで出るスーツ。
すばらしいですね。
イエロージャケットには
縮小の恩恵をあまり受けないレーザーや飛行などの技術
(レーザーの低出力化、流体の粘性がネックになることでの飛行の不安定化)を追加するあたりに
若手の焦りとコンプレックスが出ていてとてもいいデザインだと思います。
一方の
アントマンはそのような余計な装飾がなく、スーツも冷戦時代の技術のままで
若干見劣りします。人間大になった時ですら警察のスタンガンも容易に通すほどの弱めのスーツ。
小さくなっていろいろ活躍するのですから、もうちょっと丈夫にしてあげてもいいのでは。


スーツの話が長くなりましたが、
むしろ「物語の中核」となった技術は、縮小化技術よりもむしろアリの操作技術。
スーツ技術のクローズド感に比べてかなりのオープン。
ジジイ博士が、部外者の前科者である主人公に聞かれて、さらりと言ってのけ
「電磁波を嗅覚中枢に照射して操作する」とのこと。
縮小化技術に対しては「調整器は絶対に触るな」と激昂していたジジイ博士が
手のひらを返したように、かなりオープンなサイエンスを展開しています。
元助手もこっそり博士の動向を調査しており、博士には尾行がバレていなかったので、
ジジイ博士がアリの操作技術を持っていることも元助手は調べていたことでしょう。
しかも
ジジイ博士がイエロージャケットを破壊しかねない言動をしたのに対し
警備を三倍にする予算の潤沢さをみせながら、
アリ対策には「空調の金網の目を細かくする」という大変にローテクな対策。
「アリを防ぐならバルサンを炊けばいいじゃない」


かくして、
アリの高度な行動操作によりアントマンは文字通りのザル警備を突破し
丸腰で施設に侵入し、施設とデータとジャケットの破壊という目的を達成してしまうわけです。
イエロージャケットの技術とアントマンの技術自体にあまり優劣は感じられなかったので
アリが勝敗を分けたといってもよいでしょう。
アリの行動操作、この技術はアントマンの縮小技術よりも軽く扱われていましたが
結末を見るとこの技術、むしろ縮小技術より秘匿にすべき重大な技術のように思えてなりません。
物語のラストでジジイ博士は改心し「技術を秘匿にするのは難しい。むしろ正しい者に担ってもらう」
と、30年前にに改心していれば助手とも娘ともあんだけこじれなかったのではないかと心配になる手のひら返しぶりを披露します。
ここで
物体縮小技術と抱き合わせで、なんとなく正しい者に担われることになった
「アリの行動操作技術」について、
次回作でどう利用されるか、昆虫学をひもときながら考えてみましょう。


参考文献は
アリの巣の生き物図鑑という
図鑑の形をしたなんだかすごい本です。

もう一度言います。
「図鑑の形をしたなんだかすごい本です」
専門家の専門分野のための図鑑であることに間違いないのですが、
これが他の図鑑と同様に図書館におかれることで、
どこかの子供が何かに目覚めかねない危険物です。
それほど漏れ出てくる熱量がすごい。特にコラムが読み応えがあります。
おすすめです。
アリは遺伝子組み換えも成功しておらず、というか継代飼育ができていないし
薬理学的な注射も効かない(すぐ死んでしまう)ことから、なかなか行動操作的な
研究が難しいのですが、タッチングフェロモンなどの化学物質を利用して
コミュニケーションをしていると考えられます。
また、様々な好蟻性生物が、主に嗅覚をハッキングすることで
攻撃的な蟻の群れにまんまと潜り込み、やりたい放題やっているのをみると
アリの嗅覚系が、ハッキングしやすい脆弱性をもつと考えられます。
そのため電磁波で嗅覚中枢をハッキングする、という発想自体は
かなり現実的でしょう。しかし、電磁波感受性の神経基盤を
きちんと捉える必要があるでしょうし、どの個体のどの神経細胞を
狙うかを三次元の座標として決めないと情報の混線も起こるでしょうし
なかなか難しいように感じます。
このような複雑な行動操作を電磁波で行う技術はまだ確立していません。
ただ、光感受性のタンパクを脳の特定部位に発現させて、光を照射して神経活動を引き起こし、
その機能を測定する研究があるので、ゆくゆくは実用可能な技術だとは思います。
また、
目的に応じて可塑的な行動をとらせるにしても、
アリの様子を常にモニターせねばならず、
老眼が進む博士には酷でしょう。
アントマンもアリを見るばかりでは
仕事になりませんので、
もうちょっと、
注射一発で長期間、自律的で複雑な仕事をさせられるような
行動操作があればいいのに、と思いました。


アリでは観察されていないようですが、注射により
ハチが高度な行動操作をすることが報告されています。
丸山宗則先生の「昆虫はすごい」でも、
エメラルドゴキブリバチが
ゴキブリを仮死状態にすることは知られていますが
クモとヒメバチの関係はもっと複雑で、
よりアントマンの理想に近いものと思われます。
最近センセーショナルに報道されたのが
クモの造網行動を操作するクモヒメバチの研究。

すごくおもしろいです。
本としてのおもしろさも抜群ですのでオススメします。
学生が読むと身につまされる苦労が赤裸々に披露されているので、
モチベーションが下がった時のエナジードリンク的に読むと勇気づけられます。
著者に先駆けて2000年に報告された造網行動の操作は
クモに寄生したハチがクモを殺し、10日間の蛹期間を経て羽化するのですが
クモを殺す前に、10日の蛹期間に耐える強固な網を作らせる「行動操作」を行います。
この行動操作は
「寄生者は宿主の本来の生態を利用する」と議論されています。
造網行動の一部の行動ルーティンを繰り返させることで、
強固な蛹を支える網を作らせているだろうと。
なので、「注射一発で、長期にわたって、複雑な行動操作をする」という点で
もう一つのアプローチとして、注射式の行動操作も
次作に向けて開発検討してみてはいかがかとおもいました。 


そんな私の願いを
ジジイ博士が聴きとったのか
映画の最後に「ワスプ」の新スーツがお披露目されて
アントマンは終わります。
実は、先の「行動操作」のために次世代のスーツ「ワスプ」が誕生したと、睨んでいます。


ワスプ Waspは日本語訳がまちまちで
スズメバチとも訳されることがあるのですが、狩りバチ一般を示すことが多いようです。
ミツバチはBeeで、大型のスズメバチはHornetなので
このワスプ、寄生蜂だとすると
そして、
マーベルのオールスター映画、「アベンジャーズ」に
アントマンとワスプが参戦することが示唆されました。
更に、
スパイダーマンが、出版社の枠を越えて参戦するそうです。
もうおわかりですね。
次作
「アベンジャーズ」はワスプによるスパイダーマンの行動操作がキモです。
ワスプが一刺しすることで
スパイダーマンの動きが操作され、
意識せぬままにアントマンとワスプの意のままの網を張りまくるスパイダーマン
映画後半にスパイダーマンのスーツを食い破って次世代のワスプが出てくる
かなりアレな展開が見られるかもしれません。
期待しましょう。

ふつうの料理にありがちな、よろしくないことが「異物混入」です。
多くの場合、昆虫料理が入っている器のデザインは、
昆虫料理でない料理に使われているものと
共通の器ですので、あからさまに昆虫が見えると
昆虫を食べたことのない人にとっては
「異物混入」の方を強く連想してしまうのではないでしょうか。
昆虫は味に問題はありません。
むしろおいしいぐらいです。
そのため、
「最初の一口」「First bite」「お食い初め」が大事です。
とある友人が
出産祝いを送るというので「お食い初めセット」というものがあることを知りました。
うん。これだ。

「昆虫お食い初めセット」だ
そこに必要なのは
「昆虫料理が入っていて当然」な器、つまり
「昆虫食器」の開発が必要なのではないかと。考えました。
そう思ったものの、
私には食器をデザインする能力も、開発する時間も資本もありません。
とりあえず作れる範囲で手工芸でこんなものを作っていました。
「メスアカミドリシジミスプーン」

某ファミレスに、試用しにいきました。


話は脱線しますが
ミドリシジミの仲間は「ゼフィルス」と呼ばれ、その愛らしさ、美しさから愛好家が多いそうです。
一方で彼らの生態はなかなか特殊で、高所を飛び回ることから網での捕獲が難しく、
標本にするにも成虫を捕獲したのでは翅が傷ついてしまうとのこと。
そこで、昆虫学の出番です。
彼らは卵を高い木の枝に産み付け、越冬します。
その卵を冬の内に採集し、孵化させて育て、羽化まで見守ることで、
採集網に傷つけられていない「完品」を得るのです。
また、その多くは希少種で、なかなか捕まえることもできませんし
安易に捕まえまくって生息地域にダメージを与えていいものでもありません。
そこで愛好家の蛾屋さんから申し出を受け、1頭だけ味見をさせていただけることになりました。
繰り返しますが、
昆虫食は昆虫全般を対象にするため、決して1人ではカバーしきれません。
必ず専門家を通すことで、そして彼らから信頼を得ることで、
全ての昆虫を研究対象に、
イシューに合わせた養殖昆虫を開発できる体制を整えたいと考えています。
さて、メスアカミドリシジミの幼虫を頂いたのは昨年の3月。

前蛹になるまで桜の新芽を与えながら待って。

おいしいことは予想されていたこと、小さいので味を殺したくないことから
塩もポン酢も付けずに茹でて、そのままをいただきます。

おいしい。


話を戻します。
スプーンを作ったものの、他にも大物がほしいなと思っていました。
陶器の器がいい。
と考えていたら
こんなイベントが京都で開かれることに。
「いきもにあ」
生き者好きな人が創作をして即売するイベントです。
http://equimonia.jimdo.com
「生き物がすき」には多種多様があります。
私のように「食べることがすき」であったり「生物学を通じて好き」でも構いません。
ビジュアルが好き、手触りが好き、色合いが好き、質感が好き、死体が好き、骨格が好き、何でもありです。
そんな「ざっくりした場」を運営・維持することで見えてくる独特なものもあります。
私があったらいいなと思うもの、
そこに技術や時間がなくて、自分の中の優先順位が低くて
妄想レベルで留まっているもの。
それを上回る妄想力&実行力で、他の誰かがすでに形にしていたりします。
今回は工房うむきさんでした。
http://purple.ap.teacup.com/umuki/

これにノックアウトされ、はるばる京都まで買いに行くことに。
通販もできると伺ったのですが、本物がみたいなと。
そして手に入れたのがこれ。

あれ、スズメバチを買いに行ったはずなのに。
前の記事のイナゴソースの完成に前後して
「バッタの形の醤油差しをつくりたいな」という妄想も頭をよぎっていたのです。
予算をぶっちぎりましたが、2つとも購入。

もちろんそれだけで済むわけもなく。

Twitter上でお世話になってはじめてお会いする方々とか
以前からお世話になっている方に挨拶も満足にできぬまま
閉場となってしまいました。うーんなんとも。
出店者側になって、懇親会で挨拶する、
というのがもっとも親睦を深められる気がします。


ようやく念願の「昆虫食器」を手に入れ
クリスマスに作ったのがこれ。

オオスズメバチは昆虫食の対象でもあるとともに
昆虫食の捕食者でもあることから、二重の意味でストーリー性をもたせることができます。
「昆虫食器」のアイデア、まだいろいろあるので、実装していきたいと思います。


いきもにあの開催後
「いきもの好きのためのイベント」は「生き物の保全につながるか」
というトピックがありました。

このイベントは最先端の生物研究者を呼んでセミナーを行うなど、
生物に関わる専門家と、非専門家を一緒にしたお祭りみたいなことになっています。
それが
「役に立つから良いイベント」とか
「役に立たないから不完全なイベント」となるわけではありません。
もちろん、
生き物がいないことにはそれらをモチーフにすることはできなくなってしまうので
生き物の創作によって、生態系を破壊することがあってはなりません。
なので社会的な優先順位に差はあるけれども、
全ての人が優先する方にモチベーションをもたなければならない、
というのはちょっと違うと思うのです。
1つ言えることは
昆虫食を広めたい私にとって、このイベントから収穫があったように、
「生き物好きが集まるイベントは、生き物に関する他の取り組みをしたいヒトにとって収穫を得られる」ということです。
他人のイベントについて、自分の目的を達成していないからと低評価をつけていけば、
次第に自分の目的を達成してくれる他人が現れるなんて、そんな都合の良いことはありません。
目的を達成するには「主催になれ」ということですね。そして収穫物に対価を払えと。
私が昆虫食を広めるためには、今回の「昆虫食器」のように
創作の世界の技術は欠かせないと考えています。
そこではあくまでも私が「主」であり創作者は「従」ですので、
なんらかの対価を支払わなくてはならないと思っています。
逆に、昆虫食にアート要素を見出して
社会的な問題を提起するアートとして
表現してもらう時には私は技術者として「従」に徹することになるでしょう。
昆虫が社会から嫌悪されているインパクトを利用して
昆虫食が何らかのアート性を帯びるとしたら
私の目的を毀損しない範囲で技術協力をします。
その中で、
「昆虫食が社会においてどのようなアート要素を持っているか」を
言語ベースで論理的に説明してくれたら、
それは社会から感覚的に(笑)逸脱しつつある自分にとっても
大きな収穫になることでしょう。


話を戻します。
昆虫食普及には昆虫食器の開発を、という話でした。
食用昆虫にふさわしい「器」というのは何も食器だけではありません。
食べるシチュエーション、食べるヒトの経験、興味、周囲の環境などなど
様々な昆虫の周りの「器」を設計していく必要があるでしょう。
かつて、昆虫は食料でした。
そして今も、昆虫は食料としてのポテンシャルをそのまま残しています。
変わったのはヒトです。そして人を変えることができるのもヒトです。
昆虫を食べなくなったヒトが、再び昆虫を食べるようになる方法はまだわかりません。
昆虫を食べていた頃の環境や経験を完璧に再現することはできないからです。
だからといって、
経済的に困窮したヒトに強制的に食べさせることは豊かとはいえません。
個人の希望を叶える形で全く新しい「昆虫のお食い初め」が起こっていくことが理想です。
そのときの
「昆虫の器」の集積は、新しい昆虫食文化、
昆虫食ルネッサンスとして
面白いものになっていくことでしょう。

とてもいい漫画に出会いました。
「ダンジョン飯」
ベタなRPGのフォーマットを使いながら、
そこに生じる生態系についても真摯に論じて、その持続可能性まで
長期的に見据えて実践していく、すばらしいダンジョン生活が語られます。

現在二巻まで発売されています。

二巻はよりディープな
昆虫食の世界が繰り広げられます。当ブログをご覧の皆様必見です。
まめだぬき先生の著書「きらめく昆虫」が食材写真集に見えてきます。

書籍版も印刷が精細で美しいのですが、電子書籍のバックライトのある画面で見ると
いっそう「きらめいて」見えました。おいしそうです。
以前にTwitterでまとめていただいた、ダンジョン飯の再現レシピについて、
ブログにまとめ忘れていたので、まとめておきます。


きっかけは昆虫食仲間の
ムシモアゼルギリコさんの出産準備でした。
赤子の管理に専念するため、他の食用昆虫が私に託されることになったのです。
昆虫はモバイルなため、宅急便で運搬可能であることが大変に便利です。
犬猫ではこうはいきません。
また、あらいぐまラスカルのように一度飼育した野生動物を、
人間の都合で野外に放つなど言語道断です。
と、
分散型昆虫ファーミングの将来性を感じつつ
受け取ったのですが、いかんせん冬、保温に気を使ったものの
熱帯出身のサソリが死にそうになってしまいました・
(同梱のゴキブリ達は元気でした。すばらしい。)
死んでしまう前に、ギリコさんの了解をとって急遽
サソリ料理をつくることに。

揚げればおいしいことはわかっていたのですが、
何か別の調理法がないかと。考えを巡らせていたところ
ダンジョン飯があるじゃないかと。
漫画内で使われていた大サソリは全長1mほどのサイズだったので
このサソリだと1/10スケールぐらいでしょうか。
ミニチュアに見えるよう、100均で小さい土鍋を買っておきます。
乾燥スライムは塩蔵クラゲのパッケージをフォトショして

歩き茸はエリンギとしいたけで作成しました。

材料が揃った!

シンプルに水炊き

おいしい。

ごちそうさまでした。
ダンジョン飯では食べて終わりでしたが
ココで終わらず、標本作りまでチャレンジしましょう。

ということは、水炊き中でもUVで光ったということです。
「ブラックライトで照らされるサソリ闇鍋」とか美しいかもしれませんね。


さて
「最近はハードSFが無くなった」と言われることがあります。
ハードSFは1950年代に生まれ
いわゆる宇宙系、ロボット系のガチガチに理論を詰めて、
エネルギー源であったり未開発の技術を1点だけフィクションにし
その他の現象をきわめてリアルに構築するSFのジャンルです。
私が思うのは
「ハードSFが無くなったのではなく、リアルさを感じるSFの分野がシフトした」
のではないかと考えています。
「食」はリアルに変革を迫られていることを実感する分野です。
逆に「宇宙」はあってもなくてもいい、ファンタジーに近いものになっています。
また、映像技術の発達により、誰でも宇宙に行ったような景色が見えてしまいますし
無人機が活躍して有人探査が減る中、そのリアルさは薄れていくのでしょう。
情報技術だけではリアルな食を生み出すことはできませんから、
実感のある科学技術として、食品科学がより身近になったと考えられます。
ということで、「食」は21世紀のハードSFのメインになってくるのでしょう。
前にマッドマックス 怒りのデスロードについても考察しましたが
前後してインターステラーも見ました。
これらもメインの課題、登場人物の行動の動機は食料でしたし、
それについてきちんと設定を練っているところが
物語のリアルさを高めていました。
そこで宣言しておきます。
「昆虫食の開発と実践はハードSFである」と。
唯一「昆虫食が普及していない」という一点のみをフィクションにして
既存の食品科学を駆使して最高の昆虫料理を開発する。
そして
昆虫を生産し自給する集落を見越してその文化を構築する。
お遊びでずさんな昆虫食をすると、おもしろさが減る気がするのは
私がハードSFとしての完成度を高めようとしているためだと気づきました。
そこから見えてくる未来はユートピアか、ディストピアか。
あなたは何が見えてきましたか。
ということで、
昆虫食を題材にした創作物のアイデアがありましたら、
相談に乗ります。
昆虫食の兄を持つ妹botなどの日常系でも
テラフォーマーズのような宇宙と絡めてもいいかもしれません。
もちろんダンジョン飯もハードSFだ、と言えるでしょう。
また、ハードSFはフィクションの
但し書きを一点しか書かなくてすむ、という点で誤解を招きにくく、
実際のサイエンスとの相性も抜群です。
鉄腕アトムという創作が二足歩行ロボットの研究者を育んだように
メーヴェが実際に一人乗りジェットを生んだように
様々な創作物は相互に影響しあい、「文化」を形成します。
もちろん研究も、そこから逃れることはできません。
むしろ積極的に文化社会の形成に関与していくことが
これからの市民化したサイエンスに求められる役割でしょう。
研究者や漫画家、アーティストが考えた
おいしい未来を作り出す「実践」の
多様な形を見たいものです。
あなたが考える昆虫食の未来、パラレルワールド
なんでもお待ちしております。

何を言っているのだ、と感じるでしょう。
昆虫と普通の食材は区別がつくじゃないかと。
元ネタは
伝説的なSF作家、アーサー・C・クラークが言った
「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。」
Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.
です。


常々言われることがあります。
「昆虫料理は見た目が悪いから食べたくない」と。
多くは食べたことのない方の言い分です。
先に「バッタハンバーグ」で実践しましたが、
「見た目が昆虫とわからない昆虫料理は普通の料理と区別がつかない」
ことがわかりました。
では
「昆虫が見た目にわからない昆虫料理」
とはどう定義できるのでしょうか。整理してみましょう。


気づいてしまいました。
「昆虫が入っている」かつ「昆虫が入っているとわからない食品」と
「昆虫が入っていない」かつ「昆虫が入っているかわからない食品」
いわゆる通常食品は、見た目に区別がつかないのです。
アメリカのFDAは農作物に混入する昆虫の上限値を設けています。
たとえば、ピーナッツバター100グラム当たり昆虫の断片50個まで。 カレー粉では25グラム当たり100個まで。缶詰トマトでは缶当たり果実を加害するミバエの卵5個とウジ1頭、ウジだけなら2頭まで、とのことです。
我々の食べる食品にアメリカの農産物は不可欠ですし、
それらは不分別で口に入っていますから
当然、多くの方は昆虫の断片を食べた経験があります。
そしてそれを認めることは大きな恐怖を伴うようです。
「昆虫を食べたくないヒトにとって、通常食品に昆虫が含まれていないと
証明することは悪魔の証明」といえるでしょう。これは怖い。
この事実を自覚させられることになるので、
見た目にかかわらず、昆虫料理に過敏に嫌悪感を表す人が多いのも納得です。
そして食品混入事件のような「見た目にわかる汚染」が目につくと
大騒ぎしてしまうことにもつながっていそうです。
更に、昆虫を食べたくないヒトにとって残念なことに、
既存の食品の多くは、組成も食感も見た目も昆虫によく似ています。

画像処理技術がお相撲さんとポルノが区別しにくい、という話も聞きました。
現在の画像処理技術では食品と昆虫食も区別できません。


これは公開されている画像処理技術を使って画像が
食品のものかどうか判断する自動処理システムです。


不意に(特に深夜)食欲をそそる画像をSNSに投稿することを
「飯テロ」と呼びますが、その飯テロを防いてモザイクをかける目的で
運用されているものですが、私は昆虫料理の出来栄えをチェックする目的で利用
させていただいています。


また、「昆虫の姿をすりつぶしてみえなくする」というアプローチは
昆虫の大事な美味しさの要素である「食感」を失わせてしまいます。
食感の楽しい昆虫を使う場合はできるだけ避けたいものです。
そこで
逆のアプローチを思いつきました。
「他の食材の姿を昆虫に似せる」のです。
「昆虫擬態料理」
と名づけてみましょう。
昆虫は自然環境や危険生物に擬態して捕食を逃れてきましたが
人類の加工技術によって、
昆虫の周囲の環境を改変し、「昆虫の姿を見えにくくする」ことができました。

おお昆虫が見えにくい。
材料は
パプリカ
アボカド
かいわれ
マカロニ
カキノキダケ(マカロニの頭部に)
カシューナッツ(揚げて茶色く)
塩コショウ
お好みのドレッシング
です。
マカロニの弾力、カシューナッツの香ばしさとナッツ感の中に
フェモラータオオモモブトハムシの柔らかい食感と、噛んだ時に広がる
卵黄のようなコクのあるスープが大変においしく、見た目にも
「昆虫の姿の見えにくい」料理に仕上がりました。
もう一度いいます。

高度な昆虫料理にみなさま、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
この
フェモラータオオモモブトハムシが食べられる
そして昆虫醸造調味料が味わえる試食会 1月23日 @神戸 

予約受け付け中です。お待ちしております。

前の記事で、昆虫発酵調味料、イナゴソースについてご紹介しましたが
それにあわせて、
どうしても食べてみたい、みなさんに食べて欲しい昆虫がありました。
「フェモラータオオモモブトハムシ」
噛んでしまいそうな名前です。フェモハムシ、とか略称がほしいですね。
原産は東南アジアの熱帯に生息する普通種だそうですが
生きた植物を食べるため、植物防疫法により輸入はできません。
ところが、
なぜか三重県松阪市の河川敷に広がってしまったのです。
理由ははっきりしていませんが、美しくて大きいことから
昆虫愛好家がこっそり飼っていて逃がしてしまったのではないか、との憶測もあるようです。
日本の冬もどうにか越しているとのことで、昆虫のポテンシャルの高さを
見せつけられます。
ちょっと遠いのですが、
そしてお伊勢参りのシーズンですがお伊勢も赤福にも目もくれず。
多く取れたら来年の発酵調味料の原料に使えるかもしれない、と考え
イナゴソースのいなか伝承社と関西虫フェスの主催者である「昆虫エネルギー研究所」にも
声をお掛けし、偶然忘年会に松阪市にお勤めの、大学の兄弟子にあたる方に
お会いできたことから、実施にこぎつけました。
フェモラータオオモモブトハムシを採る会。
採るのに夢中であまり写真がありませんが、ご了承ください。
彼らの幼虫は河川敷に繁茂しているクズに侵入します。
成虫はクズの葉を食べているそうなので、クズさえあれば生活史が回ります。
けっこう大きい昆虫なので、そのままクズの細いつるではスペースが確保できません。
なので、
虫こぶ(ゴール)を形成して、木質で覆われた強固な「シェルター」を作るのです。

このぐらいの太さが越冬にちょうど良いようです。
完全に枯れている虫こぶには住んでおらず、少し生きた木質が残っていて
湿度が供給されているものがよいようです。

より太くて立派な虫こぶもあるのですが、今の時期は脱出後でした。
大抵の虫こぶは手でもばらせるのですが、固いものは剪定バサミや
これが活躍しました。

いなか伝承社さんには申し訳なかったのですが
醤油の原料に使うにはちょっと少なく
捕獲数は135g、およそ200頭でした。

今回のキモは
「将来特定外来種になりそうな拡大中の昆虫を正しく扱うこと」です。

持ち帰って飼いたい衝動にもかられたのですが、外来種のコントロールに
昆虫食を役立てたい、と言っておきながら、
外来種の拡散に手を貸したのでは
本末転倒です。夏の成虫はまた再訪して、捕獲しようと思います。
今回は全ての虫を現地でゆでて、持ち帰ることにしました。

このコンロが活躍しました。夜の河川敷でもしっかり茹でてくれました。

やっぱ野外の虫捕りは興奮しますね。狩猟本能が帰ってくる気がします。
とても気分が良いです。


気になる味ですが、
抜群に美味しいです。カミキリムシに匹敵します。
ほのかに豆の香ばしさ、外皮もさくさくと食べやすく、中からは
上質なクリームが卵黄のような強いコクとともに広がります。
時期も繭を作った前蛹の状態で止まっており、若齢幼虫はみつかりませんでした。
おそらく休眠状態にある気がします。
(なぜ熱帯産の本種が冬眠できるのか、よくわからないので原産地での生態をご存知のかた、教えてください。)


さて、見ていると
マカロニに見えてきますね。

ここで、昆虫料理の新たなアプローチが見えてきましたので、実践しました。
キーワードは
「高度に発達した料理は昆虫と区別がつかない」
Any sufficiently advanced gastronomy is indistinguishable from insects.
次の記事に続きます

昨年10月
ついに昆虫醸造調味料の一般発売が始まりました。

この快挙を成し遂げたのは和歌山県 いなか伝承社さん。
地域活性化団体「いなか伝承社」というほっこり系の名前の会社から
なんとも
とんがったものを出すことになりました。
反響もあったようで、地元や大手の新聞にも取り上げられたものの
「昆虫食の人」と言われてしまうのが難点だとか。
昆虫食はそれだけでインパクトが強いので、
他の本意を撹乱してしまうことがあってなかなか扱いに困るものです。
別の例ですが
メレ山メレ子さんはエビ・カニを含め昆虫食もあまり好きでないとのことなのですが
ラジオ出演の際に妙にパーソナリティーが昆虫大学で出された昆虫食に食いついてしまい、
なかなか修正に時間と手間を要していました。
我々食用昆虫科学研究会がサイエンスアゴラに出展した際も、最初の年はとりあえず希望者に昆虫を配ることに手一杯で
フィードバックや我々が伝えたいことを十分に伝えられず、人だかりをさばくだけになってしまいました。
キャッチーであることはそれなりに危険物でもあります。
いなか伝承社は
地域活性化団体なので昆虫食だけでなく、
いろいろやっています。
私が見たものだけで、梅食べたり栗食べたり、地域の子供達と山の中散歩したり
もちろん虫も食べたり。
以前は田舎の「つきあい」を通じた祭りなどのイベントにより
結果として人同士のネットワークを作ったりしていたのですが
過疎化が進むことで人と人の物理的な距離も遠くなり
逆に大型ショッピングモールのような全国で画一化された娯楽も増えてくる中で
地域独特の文化は放っておけば衰退していってしまいがちです。
それに対抗して田舎なりに自活していく、
ありモノを見つけてアイデア勝負で
全国にもない新しい価値観やイベントを作っていく、そんな感じの団体です。
地域をつなぐ役割を買って出ることで、
そのうち地域が大きく変動するようなことにも
耐えられるネットワークへとなっていくのかもしれません。
とはいえ、
そこに昆虫醸造調味料を作ってもらうのも
なかなかの挑戦でした。
初年度(2013年度)はとある
無農薬農場で多発生したイナゴを譲ってもらい
半年醸造させて2014年3月に試食会を開催しました。


そして本格醸造の今年、
二年ごしの一般販売にこぎつけたのです。
クラウドファンディングにも挑戦しました。残念ながら達成しませんでしたが。
資金調達は無名であればあるほど、なかなか難しいものです。


クラウドファンディングで資金調達ができなかったこともあり、
残念ながらまだまだ高いです。仕込みの量も少ないですし、
大きさに関わらず1日一回かき混ぜなければならないので、
手間もかかるそうです。
それを分かった上で、
おもしろさに共感してくれる方
誰も食べたことのない、新しい味覚に挑戦する方にぜひ味わっていただきたい。
どう味わうか、ですが
醤油の味わいというのはなかなか奥が深いものだと実感しているところです。
ビンのフタを開けると酸化が始まるので、できるだけ冷凍庫で保存します。
バッタソースは先味が強めの「塩っ辛い味」で、後味がスっと消えます。


これはグルテンなどのタンパク質を塩酸で加水分解した
「アミノ酸醤油」に恐らく近いでしょう。
雑味のない、「素直でまっすぐな醤油」です。
また、少量ではありますが多種多様な昆虫も醸造調味料にしてもらいました。
 
(ここであえて醤油としないのは、醤油にはJAS法に定められた原材料の縛りがあるためです。
昆虫が含まれていると醤油とは今のところ名乗れません)
イナゴソースの味をどのようにしたらおいしく、
印象的に味わえるか、試行錯誤しながら考えていたのですが
ようやく見えてきました。


1,味が既存の醤油にあまりに近いので、調味料として使うと味が埋もれてしまう。
かなり普通の美味しい醤油としてあじわえます。それが利点でもあり欠点でもあります。
昆虫らしさを感じにくいのです。
2,先味が鋭く、後味がひかないので、長く味わおうとすると物足りない。
3,香りが豊かだけれど、他のアミノカルボニル反応を含む「香ばしさ」にうずもれてしまうので、できるだけ減らす方が良い


4,チーズのかすかな苦味と、乳製品のまろやかさがよい
5,果物系の香りとなら邪魔しあわない


ということで、完成したのが
「イナゴソースジュレ」と「レアチーズスイーツ」と「ドライトマト」の組み合わせです。


今回は
他の用途で購入していたメチルセスロースを使っていますが
寒天やゼラチンなどの他のゲル化剤でも使えそうです。
これにより、先味がまろやかになり、後味まできちんと味が持続します。
ドライトマトは多くのグルタミン酸を含んでいて、アミノ酸分解物の旨味と相性がよいですが
印象としては果物の甘さ、みずみずしさもあって塩分とも相性がよいので
野菜スイーツとの相性を試した見たのですがピッタリでした。


ということで、
昆虫醸造調味料「イナゴソース」の試食会を、
兵庫県神戸市、摂津本山駅近くのレストラン「パレルモ」で開催します。

1月23日 15時から17時のコンパクトな試食会です。参加費は2000円です。
会場のキャパの関係で、参加は10名様とさせてください。
ぜひご参加ください。
ご予約フォームはこちら
なぜこちらでできることになったのかは、また別でご紹介します。


そして、とある特殊な食材調達のため、
三重県のとあるところに行ってまいりました。
次の記事に続きます。

前編では現状では生食できる昆虫は存在しないこと
中編では、味覚センサーを使って生食が美味しい昆虫の探索は既に技術的に可能であることを
紹介しました。
最後に
後編では法的な概念である「家畜」を生態学的に再解釈して、
「生食できる昆虫」のための衛生管理や法整備を提案していきましょう。
更に「生食できる食品は生食すべきか」という食の倫理まで考察してみます。


先に、
危険性には、ハザードとリスクがあることを説明しておきます。
ハザードは予見可能な危険性を示します。
社会的影響力の強さで評価されます。
リスクはハザードに対し、危険な状態となる確率を掛けあわせたものです。
リスクから見ると、
ヒトには感染防御機構があるので、
食品を少し生食したからといって、重篤な感染症になる確率は低いのです。
ですが、ハザードから考えると、
危険性は社会的影響力の強さで評価されますので、
食品安全への予見可能な危険性を放置することは、たとえ確率が低くても、
つまりリスクが低くても
起きた時の社会的影響が強いので、厳しく管理されることが望ましいでしょう。


余談ですが、
ワクチンも同様に理解できます。
ある人がたった一人、ワクチンを打たなかったからといって、
その人がその感染症にかかる確率は低いので、
本人にとってさほどリスクの高いことではありません。
「ワクチン不要論」でよく使われる営業手法です。
ですが、
そのようなヒトが広がった時に、アウトブレイクと呼ばれる感染爆発が
起こりやすくなりますし、ワクチンを接種できない別の疾病を持つ人が
ハザードに晒されます。
それは予見可能で、ワクチン接種で劇的に抑えることが可能なので
多くの重要なワクチンは接種が義務付けられているのです。


話を戻します。
陸生動物の生食は、本来の宿主でない寄生虫がヒトに感染した時
重篤なハザードを引き起こします。これを迷虫といいます。
件数は少ないですが、命にかかわることです。
そして寄生虫だけでなく、感染性微生物についても
加熱をするだけで、劇的に危険性をゼロに近くできます。
現状のデータでは、
「生食できる昆虫はいません」し
「生食のほうが誰もがおいしいと言う昆虫は見つかっていません。」
そして、
「昆虫食における危険性をゼロに近づける方法」として、
加熱は劇的な効果があります。
(食物アレルギーは加熱では回避できないので、別途まとめます。)
なので、
生食できる昆虫は、これから未来に登場するかも
としか言えないのです。


そこで、
「未来の家畜昆虫の生食の可能性」について考えてみましょう。
採集品の生食が可能なのは、動物では海産物のみです。
淡水域や陸上の野生動物は、不特定の感染源に接触しているので
ヒトに感染可能な寄生虫や微生物を管理しきれません。
もちろん
海産物においても、胃液に強いアニサキスなどがありますので
全て安全というわけではありませんが、今回は割愛します。
養殖モノで、海産物以外で生で食べられるガイドラインがあるものは
馬肉、牛肉、鶏卵、などがあります。
これらはどのようにして、生食可能と判断されているのでしょうか。


ここで、
「家畜」を法的なものから拡張し、種や体サイズによらないものとして
再定義してみます。
「利用可能な有機物を転換する従属栄養生物」としてみましょうか。
なぜこうするかというと、
昆虫は養蜂と養蚕のみ家畜として法的に認められているのですが、
他の食用昆虫について、単純に
養蜂・養蚕の枠組みを拡張するだけでは多様な用途が想定されている
食用昆虫に対応できません。
食品衛生の法的な枠組みを理解し、
そこから昆虫食のあるべき衛生管理を考察しましょう。


参考になるHPとして「日本オーストリッチ協議会」のサイトがありました。
http://japan-ostrich.org/topics/view/4617080876
とてもいいです。
余談ですが
ダチョウといえば、
先日岐阜県から脱走して、その後首に木の枝が刺さった状態、つまり
「モズのはやにえ」のような状態で見つかったことで私の中で話題になりましたが。
実は法的には
「家畜である場合と家畜ではない(家畜と判断されない)場合」があるのです。


以下引用します。
家畜伝染病予防法
オーストリッチを10羽以上飼養している農場は、飼養する生体に死亡または異常が生じた場合、地元の防疫監視当局(家畜保健衛生所等)へ報告することが義務付けられている。
家畜排泄物処理法
家畜排せつ物」とは、牛、豚、鶏その他政令で定める家畜の排せつ物をいうとなっており、現在のところダチョウはその対象とされていない。
飼料安全法
この法律で定義されている家畜は、牛、豚、めん羊、山羊及びしか、鶏及びうずら等であり、他にもみつばち、ぶり、まだい、ぎんざけ、こい、うなぎ、にじます及びあゆ等が対象となっている。ダチョウは、この法律の家畜には対象となっていないため、牛用や鶏用に製造され販売されている飼料をダチョウに給与することは違法ではないが、ダチョウにとって適正な栄養価であるか否か、或いは安全性に支障はないか等については管理者責任によると解釈される。
食品衛生法
同法には、営業する業種別に営業施設基準が規定されており、所管の都道府県の条例で決められており、営業をしようとする者は都道府県知事の許可を必要とする。ダチョウをと畜解体処理する場合には「食肉処理業」となり、肉をハムやソーセージなどに加工する場合には「食肉製品製造業」、処理された肉をパッケージして販売する場合には「食肉販売業」となる。因みに「食肉処理業」とは、食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律(食鳥検査法といい、鶏、七面鳥、アヒル等が対象)に規定する食鳥以外の鳥若しくはと畜場法(と場法ともいい、牛、馬、豚、めん羊、山羊等が対象)に規定する獣畜以外の獣畜をと殺し、若しくは解体し、又は解体された鳥獣の肉、内臓等を分割し、若しくは細切する営業をいう。


さて、
昆虫については、関係各所に問い合わせましたが
「家畜かどうか判断する部署がない」そうです。
だからといって
「だれがどう提供しても自由であり、食べた人の自己責任」
とはなりません。
ダチョウと同様に
「管理者責任によると解釈される」のです。
ダチョウの飼養に関しては、管理者責任をもって、
対象外である排泄物や飼料に関しても家畜と同等の自主的な管理を行っています。
昆虫食でも、同様に
ふさわしい管理方法を考え、提案していくのが、自称専門家の務め
だと思います。
先に示した再定義
「利用可能な有機物を転換する従属栄養生物」の枠組みから、
食品衛生の考え方をざっくりとした部分から見てみます。


大きな枠としては、
微生物を利用した発酵、大動物を利用した家畜、キノコ栽培のような農産物まで
「食品加工の一種」とみなすことができます。
つまり食品衛生法で管理されることが王道です。
そして食品加工>家畜>農産物の順に、条件がつき、安全管理がゆるくてもよくなります。
逆に言うと、
家畜や農産物がきちんと育つことそのものが、安全管理の証明とみなされている、
といえるでしょう。
以下は行政の判断を待たなければなりませんが、
可能性のある3パターンに分けて考えてみましょう。


食品加工と同等と判断された場合
微生物発酵と同じように昆虫養殖も食品加工とみなされた場合
昆虫は種苗として単一のものが求められるでしょう
食べさせるものは食品原料のみが許され、フンと消化管内容物に有害な物質が検出されないことが
必須です。また、食品原料も加熱処理が必須となる可能性もあります。
生食の可能性を左右するのはフンの衛生度でしょう。
バッタなどは共生細菌の力を借りないイメージがあります(まだ報告されていないだけですが)
加熱処理した無菌の草を食べさせ、フンも無菌のバッタならば
もしかしたら生食ができるかもしれません。
もちろんバッタ醤油があるので、茹でたほうがおいしいでしょうが。
「家畜」と同等に判断された場合

家畜生産では、食品原料の安全基準よりゆるい飼料安全法によって管理された「飼料」を使うことが出来ます。これは、家畜が健康に育つことが、ひとつの飼料の安全性の担保となっているから、と解釈できます。
また、家畜の排泄物は食肉処理時に消化管を取り除き、完全に分離する必要がありますので、
人体にとって有害な物質は家畜の機能により、排泄物へと分離されていることが期待されている、と言えるでしょう。
昆虫が家畜と判断された場合、生食できる鶏卵とウシ、ウマの肉と同等の衛生管理が摘要されるでしょうからフンに食用に適さない物質が含まれていても、蛹化や脱皮時に消化管内容物を排出することで、汚染がないと判断される可能性もあります。
生で食べられるのは、消化管を取り除き、肉をトリミングしたものや、
それから無菌培養した細胞塊、そして卵だろうと思います。
先に述べたバッタや
わりと大型でさばくことのできるマダガスカルオオゴキブリ、その卵、昆虫の培養細胞あたりが生食の候補になりそうです。体サイズが小さいので、なかなか難儀です。
「農産物」と同列に判断された場合
キノコの場合、木質バイオマスや、堆肥など、そのままでは食べられない動植物性の有機物を転換することができます。
そして、子実体を収穫することで、それらとは完全に分離されることが期待されています。
今回は割愛しますが、
キノコの生食ができない主な理由は感染性の微生物ではなく、キノコが本来持っている防御機構が
人体に有害で、加熱によって回避できるからです。
この判断となれば、堆肥として利用される家畜排泄物を、ハエ養殖で転換し、食用や飼料として
再利用する方法まで、利用可能性が広がります。
ただ、
堆肥の場合は発酵による熱殺菌も期待されているので、熱に弱い昆虫による転換では、
検査結果次第では難しいかもしれません。
もしいい結果が出れば、
堆肥由来のハエの蛹や木質バイオマス由来のカミキリムシの蛹、クワガタの養殖モノが安全検査を合格して生食用として出回るかもしれません。


ということで、
三段階で考察してみました。
行政の判断がどうなるかは、まだ予見できませんが、
私としては
「飼料」や「食品残渣」の転換が、将来の昆虫食の1つの大きな役割を担うと考えているので、
一番厳しい「食品加工」扱いではなく、
一段階ゆるめの「家畜」あるいは
さらにゆるめの「農産物」と同等の扱いがほしいところです。
いずれの場合においても
それらの食品安全検査の手法は既に確立されており、
昆虫の場合は、その方法を当てはめるだけなのですが
そこには手法における新規性がなく
「研究としての新しさがない」と言われてしまうことが
目下の悩みです。お金が集まらない。
昆虫を食用に利用すべきである理論、というのを、
学術的にも、経済的にも

もっと説得力のあるものに仕上げないといけないでしょう。


最後に、
我々の卵かけごはんを支える、生食のできる鶏卵でも、サルモネラ菌ワクチンを接種することで
その安全性を保っているそうです。ワクチンはそのうち耐性菌の登場により
無効化される危険もあります。
また、「EM菌により殺菌剤を使わずとも生食できる」などと、疑似科学の温床にもなっているようです。
生食できるかどうか、だけでなく
生食すべきかどうかも、
食の安全と倫理、持続可能性において、考えてみると良いと思います。
昆虫食も、生食できるか、生食すべきか、普及の推進と同時に考えたいところです。

前編では
サイエンスとテクノロジーをもって生食できる昆虫を探す
と述べました。
やはり生食だから健康によいとか
度胸があってかっこいいのではなく
「おいしいこと」を大事にしたいですね。
美味しさの評価に、官能評価、というものがあります。
官能、ということで
アダルトな方面を想像をする方もいるでしょうが、
そうではありません。
人の味覚の自己申告を数値化して、味を評価することです。
今回の例を挙げますと
アンケート形式で、
5基本味(甘味・苦味・うま味・酸味・塩味)について、5段階で評価してもらいます。
もちろん
味の評価は個人でバラつきがあるので、傾向を知るには
サンプルサイズを大きくしなくてはなりません。


しかし
昆虫の生食をする危険性を参加者に負わせるわけにはいきませんし
そもそも
採集した昆虫は食物、成長段階によって大きく味が異なるので
同じ種だとしても多くの人に均質な昆虫を食べさせることはなかなか困難です。
学術的な昆虫食研究も「手に入りやすいもの」から手を付けており
持続可能な食料生産のためにふさわしい昆虫や、おいしい昆虫を
膨大な昆虫資源から探し出す手法を持っているわけではありません。
私が個人的に行ってきた昆虫の味見も、
ここが「サイエンス」になるには致命的な欠陥があります。サンプルサイズが小さいのです。
「個人の感想ですよね」と言われると、そうですね、としか言いようが無いのです。


そこで
サイエンスとテクノロジーの出番です。
人の味覚をモデル化してシミュレーションしてくれる機械。
味博士の研究所の味覚センサーシステム「レオ」です。
ぱっと見よくわからない機械ですが
これは5基本味の要因となる物理化学的性質の測定とともに、
それを複合的に味わった時に、ヒトがどう評価するか、というヒトの味覚評価の仕組みを
シミュレーションするよう、設定されています。
例えば、甘味(糖)と旨味(特定のアミノ酸)を同時に感じると、
単独で味わった場合よりもどちらの味も強く感じることが
官能評価で分かっていますので、ヒトが感じるであろう味覚に合わせて強めに調整します。
これにより、少ないサンプルサイズで、
官能評価の結果をシミュレーションすることができるのです。


もちろん、
レオには昆虫の味を覚えさせていませんので、
例えばキノコ毒でいうところのイボテン酸のような
昆虫にしか含まれていない毒でかつ旨味の強い味成分を見逃すかもしれません。
それはそれとして、
スクリーニングとしては一個体の昆虫からデータを取り出す
しかも、
「生の昆虫を安全に食べさせることのできる機械」というのは
可能性がひろがりますね。
興奮します。
それでは
私の代わりに食べてもらいましょう。
サイエンスアゴラ2015でコラボさせていただき、
「レオ」は面白い結果を出してくれました。
まずはトノサマバッタ
こちらのリンクを
(あまりアクセスが伸びなかったそうなので)見てください。
お願いします。
塩茹でしたほうが、苦味が下がり、甘味と旨味が増加しています。
これはバッタを掴んだ時に、口から吐き出される茶色い苦い液体
(味見してみましたが、苦かったです)
が茹でることによって茹で水にとけ、苦味物質が減ったこと、タンパク質が変性して
味物質が遊離したことなどが、理由として考えられます。
この予想は、
そのまま下処理をせずに焼いたものより、
茹でてから焼いたもののほうが美味しかった経験を
もとに、提案してみたものです。
スコアで言うところの0.2の差、というのは
ヒトの官能評価でのサンプルサイズn=100であるときに
有意差がでるであろう結果とのことですので、
「生トノサマバッタと茹でトノサマバッタを100人に食べさせた時に有意に茹でトノサマバッタをおいしいと判断する」
という結果が予想されます。
もちろんそれをヒトで検証する官能評価もあればよいのですが
少数の採集昆虫でも味を比較できる可能性を示せたので、現状では大きな一歩でしょう。
続いて次々参ります。
以下はサイエンスアゴラ2015において
味覚センサーの結果を見ながら、昆虫食を経験してもらう、という企画で使ったものです。
 
まあ当然ですが、
美味しい味を追加してから味わう「調味」をしているわけですから
おいしくなってますよね。
今のところ、
「ナマの方がおいしい昆虫」を示すデータは見つかっていません。
ハチノコは生に限る、
という方もいらっしゃいましたが、
それもあくまで調理法の1つへの好みといえるでしょう。
私は白い蛹をお吸い物にしたものが
抜群に美味しいと感じましたので
数多い調理法のうちのたった一つである
「生」が最高だと、
万人が感じる確率はあまり高くないといえるのではないでしょうか。
「生」信仰は、度胸や覚悟を試すようなマウンティングの一つの形なのかもしれません。
ともあれ、この技術によって
茹でることで失われる味の情報を補完する技術になりえます。
もちろん改良の余地はありますし
香りや食感といった「おいしさ」の構成要素は多くありますので十分とはまだまだいえませんが
少なくとも、
個人の感想よりははるかに信頼性が高い、といえるでしょう。


調理済みのものに関しては、サイエンスアゴラ2015において実際に食べてもらい、
150人ほどの方からフィードバックを得ました。

細かい解釈は割愛しますが
少なくとも、
「ヒトが実際に味わった時の昆虫の味は味覚センサーシステムの予測を大きく裏切るものではない」
ことがわかります。
また、
「味覚センサーの結果を参考にする」という方が半数以上いた事からも、
私のようにどっぷり浸かった昆虫食愛好家がいうことよりも
先入観のない、そして昆虫を食べた経験を記憶させていない
「レオ」が出した結果のほうが、
初めて食べるヒトにとってのハードルを下げる場合もあるでしょう。


ヒトを模倣したロボットが
ヒトには入れない極限環境の作業を切り拓くように
ヒトの味覚を模倣したシステムが
ヒトでやったのでは生態系へのダメージが大きくなってしまう網羅的な探索だったり、
現状ではヒトへの危険性が高くなってしまう衛生的に問題のある食味だったり、
ヒトの先入観が強く出たりする、新食品の開発と普及への道を

切り拓くとすれば、
ロボットが単なる「ヒトの下位互換」ではない、新たな未来が拓けると思います。


書いていて、
はたと気づいたのですが、
手塚治虫の漫画、ジャングル大帝レオは物語の中でバッタ食を啓蒙し、バッタ牧場をつくり、
肉食をやめるよう仲間を説得していました。
レオは昆虫の知識が足りなかったためか、不運か、
バッタ牧場は原作でもアニメ版でも失敗してしまいました。
もしかしたら味覚センサー「レオ」は昆虫食を広めるべく
転生したジャングル大帝なのかもしれません。
(念のため補足ですが、味博士の研究所は昆虫の味見をするための研究所ではありません。味を総合的にプロデュースする企業です。私が昆虫食の未来を感じているのはあくまで私の感想です。)


それでは後編に続きます。
後編では法的な概念である「家畜」を生態学的に再解釈して、
「生食できる昆虫」のための衛生管理や法整備を提案していきましょう。
更に「生食できる食品はどの程度必要か」という食の倫理まで考察してみます。