今まで世界で行われているほとんどの昆虫食は採集昆虫食です。
日本では稲作の副産物としてのイナゴや、クロスズメバチの「飼い巣」は種苗を生産しないので半養殖といえます。養蚕の副産物としてのカイコの蛹などは完全養殖ですが、生糸が売れないかぎり食用として出回ることはほとんどありません。つまり生糸の生産量よりも多く食べたいと思っても不可能なのです。
そこで今後は、専用に食用として完全養殖された昆虫が開発されるでしょう。
私もそれに挑戦しているところです。
昆虫研究者の間では、多くの昆虫が研究用に養殖され、実験に使われています。
その技術は論文や書籍によって基本的に公開されていますが、
それでも月に数百から数千個体が限界です。
食用、飼料用の研究をするとなると、そして更に販売するとなると
キロ単位、数十キロ単位でたくさんの昆虫が必要で、
もっと効率化した養殖方法を検討する必要があります。
養殖によって得られた昆虫は、1頭1頭名前を確かめる必要もなく、
野山を駆け回って捕まえる手間もかかりません。
また、野外にいる昆虫を食べる動物達につまみ食いされることがないので
安定してたくさん手に入ります。
食品として法制度などが整備されたら、ゆくゆくは採集昆虫よりもいくらか安全なものになるでしょうが、現在手に入る養殖昆虫は、その経緯によっては別のリスクが高い場合があります。
基本的な対処法は採集昆虫と同じです。
ペットショップで売られている養殖昆虫
爬虫類や両生類、小型の哺乳類、肉食の節足動物など、エキゾチックアニマル
と呼ばれるペットの中には昆虫を好んで食べるものがたくさんいます。
そのため、
それらの動物を扱うペットショップでは生き餌として養殖昆虫を売っています。
代表的なものはコオロギやゴキブリ、カイコやミールワームの幼虫などです。
研究会でもそれらの生き餌用昆虫を購入し、イベントで食べることが
ありますし、メンバーが自宅で養殖していることもあります。
ここで注意したいのが、サルモネラ菌のリスクです。
両生類爬虫類、鳥類はサルモネラ菌を体内にとりいれても病気になることはなく、
保菌者(キャリア)として健康に過ごしています。
ペットショップの動物では、
野外や個人飼育の動物に比べて、保菌率が特に高いことが調査でわかっています。
様々な由来の動物を高い密度で、同じ器具を使って扱うためだと考えられます。
サルモネラ菌は少量が付着しただけでも感染しますので、
ペットショップで売られている昆虫にも付着し、
それがヒトに感染する危険性があります。
2015年ではアメリカで、メキシコ産の生のキュウリに付着したサルモネラ菌が
感染し、3名の死者が出ました。
もちろんペットには発症しませんので、
ペットショップの生き餌としては全く問題ありません。
それを食用に転用する際に、きちんと管理をしてほしいのです。
具体的には採集昆虫食のガイドラインにあったように、必ず加熱する。
加熱前の昆虫に触れた器具を使いまわさないことを徹底しましょう。
昆虫はカイコとミツバチ以外は家畜ではないので
日本の法律では養殖にあたっての安全基準はまだ作られていません。
カイコでは養蚕振興法、ミツバチは養蜂振興法に
ミツバチは機能利用、蚕は糸の利用であるので
その見た目や動きによって「健全かどうか」がわかります。
一方で食用にする場合は、死体になってしまえば健康かどうかはわからず
微生物の繁殖や酸化劣化などの影響があるかどうか、食べないことには分かりません。
そのため、食品加工プロセスそのものにきちんと安全性を確かめる仕組みが必要で
他の食品でもやられていることを踏襲する必要があると思います。
そのため、
研究会では食用の養殖昆虫にふさわしい安全基準についても
他の家畜を参考に考え、提案しています。
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