サイエンスアゴラに試食提供でお世話になった昆虫食のTAKEOさんが、タガメサイダー発売記念にイベント「タガメナイト」をしたいということで、私は外の人だか中の人だか微妙な立ち位置のまま参加してきました。
企業ですので彼らにも秘密保持契約があって、私も「オープンにしてもいい情報以外は(秘密におく時間がつらいので)話さないでほしい」とお願いしていた手前、タガメサイダーの開発の情報を知ったのは、発売の直前のことでした。
開発着手のだいぶ前、私がタガメで飲料を作ろうと思い立ったのは2011年ごろのことです。というのもタガメの香りのもととなるフェロモンの分子構造をみていたとき、両親媒性の様子をみて「これアルコールに溶けそうだな」と思いました。
タイワンタガメジンジャー状態良好。
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ)プロ蟲ソムリエ/ラオス在住/次回帰国3月6日 (@Mushi_Kurotowa) September 23, 2011
タガメレモンはレモンがやや強いか。
要調整。
虫フェスでタガメウォッカをふるまったあと、タガメがゆらめくウォッカの瓶から、うっすらと田んぼのニオイがしてきたのです。これによりタガメ飲料の可能性は「漬けたタガメは2週間で取り出す」もしくは「合成タガメ香料を使う」という2方向にわかれていきました。
ギリコさん@mushikui_net から頂いた合成タガメ香料(右)は
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ)プロ蟲ソムリエ/ラオス在住/次回帰国3月6日 (@Mushi_Kurotowa) April 7, 2014
「ジメチルサルファイド」入り。これは海苔の香に使われる悪臭成分。
「水槽臭さ」を表現している模様。前に頂いたタガメ香料(左)は果物香のみ。右は「通好み」といえそう pic.twitter.com/tvmdn4v7tq
多様なレシピが発展したのは昆虫料理研究会のオープンな土壌のおかげですし、タガメをつかったカサーシャソーダなど、色々なコラボによっても広がっていきました。すごいぞタガメ。
そして、満を持して開発されたのがタガメサイダー。食用昆虫科学研究会からの長い付き合いの三橋さんがTAKEOに入社し、様々な専門性を駆使して香りをコントロールした逸品。かなり技術的にもすごいですし、悩まされていた田んぼのニオイも解消され、長期保存も可能に。
タガメのいい香りも、ちょっと癖のある香りも残しつつ、美味しいサイダーの範囲にきちんと収めてくる。クセの強い変化球を投げているのにストライクゾーンに収まる感じ。初心者にはただただ美味しいサイダー。食べ慣れている人にはタガメの美味しさ、香りを十分に伝えてくれるサイダーになっています。そして製法に関して特許を取得。初めて飲んだときはヤバい、と思いました。
そしてタガメサイダーをふんだんに振る舞うイベント、タガメナイトが開催。
タガメサイダーを割り材にして、いろんなソフトドリンクやカクテルをつくることができるワークショップ形式になりました。メーカーすごい。
「キミだけのタガメサイダーを見つけよう!」
紅茶系はどうだとか、牛乳とあわせるととか、いろんなアイデアをわちゃわちゃ言い合いながらのカクテル作りと試飲。ひさびさに限界までのアルコールを摂取しました。そしてグランプリのレシピをまたどこかで使おうとか、よく考えている。
サイダーそのものができたあとで、この個性的なロゴ、トガシユウスケさんの清潔感のあるタガメのイラスト・デザイン、そしてキャッチフレーズ「好奇心を刺激する!」というところの
プロダクトデザインの流れも楽しく聞けました。うらやましい!
私と共同開発しているバッタ生キャラメルはソースにも展開しています。改善中ですので製品化は少々おまちください。
ひたすらにおいしい。そしてバニラアイスにも負けていない。すごいぞバッタソース。
そしておつまみとなる焼きそばやおにぎり、ピザなど。
おなかいっぱい、飲み放題という贅沢な時間を過ごすことができました。1参加者として満足です。
タガメチームの活動の後。よく飲んだ。
さて、ここで使ってきた香りの良いタガメは和名でタイワンタガメ Lethocerus indicusと呼ばれる種です。そして日本のタガメ Lethocerus deyrollei は環境省から特定第2種国内希少野生動植物種に指定されそう、とのこと。ニホンタガメを使った昆虫食品は、事実上不可能になりそうです。
「生物の資源としての利用」と「資源としての保全」は表裏一体です。そして地元のコンセンサスが重要になります。ノルウェーに侵入したタラバガニや、東京湾のホンビノス貝など、外来種でありながら資源である場合の舵取りはとても大変なものになりますが、うまくコントロールできればパワーにもなります。
私のタイワンタガメに対する態度も同様で、もしタガメの食品がきちんと産業化し、生息地が保全され、タガメの高すぎる農薬感受性に配慮した、流域全体の農薬コントロールができれば、タガメの資源保護をするための資金源にもなるでしょうし、今後絶滅が危惧されたときにもその養殖技術は保全の助けになるはずです。
ということで、ラオスでもタイワンタガメが飼育できないか、チャレンジしているところです。タガメサイダーの特許をとった加工法は死んで輸入されたあとに加工を加える「ポストプロセシング」ですが、こちらラオスが生産地になると、殺す前に加工する(調味する、という意味では養殖そのものや蓄養などもプロセシングと位置づけられます)という「プレ・プロセシング」となる部分も技術を探っていけるはずです。
昨日食用に買ったタガメが元気だ。目の前で30頭買っていったセレブもいた。3頭で140円。養殖したいな。 pic.twitter.com/D3ls2Yy1EZ
— 蟲喰ロトワ(むしくろとわ)プロ蟲ソムリエ/ラオス在住/次回帰国3月6日 (@Mushi_Kurotowa) December 29, 2018
なかなか食べ残しが多く、農薬にも弱い子ですがただひたすらにかっこいいこと、市場で安く買えることなどから、研究には適した場所だと思います。ラオスで一緒にタガメ研究しませんか?
ピンバック: 「タガメ基金」を蟲ソムリエしました。 | 蟲ソムリエ.net