最初に書いておきますが、ここはラオスです。日本でフチトリゲンゴロウ(Cybister limbatus)の味見をすることはできません。
日本のフチトリゲンゴロウ(Cybister limbatus)は種の保存法で採集が禁止されており、マニアの人気も高かった背景もあって誰かが密猟すれば
減ってしまった個体群にトドメを刺してしまう状態のようです。
しかしここはラオス。近縁と言われるCybister gueriniが、我が家のブラックライトにやってきたので、味見をすることにしました。
借家の玄関灯をブラックライトに勝手に取り替えるという暴挙により充実した灯火採集ライフを実現。 pic.twitter.com/Vzxmw4njni
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月16日
私が住んでいるのは比較的タイ寄りの都会ですが、このような素敵な出会いがあるものです。
大型のゲンゴロウは初めて。ナミゲンゴロウかと最初思いましたが、ナミゲンゴロウは温帯に住むことからこちらにはいないのではないか、と
丸山先生に教わりました。
そうです。ナミゲンは温帯系なので、ラオスにいないかもしれません。
— 丸山宗利 (@dantyutei) 2018年10月17日
さて、
捕まえて、というかシャワーを浴びて、玄関を開けてそこに何か来ていないか確認すると、落ちている!ガムシは何度か見たのですが、この水滴のような下膨れのボディはゲンゴロウ!やっほい初めまして大型ゲンゴロウ!
ということで写真撮影。あれれ、頭の後ろから体液?が漏れてるなと。灯火に来た時にぶつけてしまったのではないかと心配になりました。
気づいたのが外皮の模様。前胸背板は乾いたジャガイモのように無秩序にシワになっていますが、後翅は後ろに流れるように溝が彫られています。
これは水中で滑らかに泳ぐための「サメ肌水着」のようなものに違いない、と考えたのですが、どうやらお詳しい方によると違うようなのです。
雌のシワは交尾時の雄の吸盤が、背板がくっつきやすく後翅は水抵抗~かと思いきや、画像や動画を見ても雄が掴むのは背板だったり後翅だったりまちまちで、もう1つ何か理由がありそうな予感です。
— 満田晴穂 古美術鐘ヶ江10月5日~ (@haruomitsuta) 2018年10月17日
なるほど。最初に返信をくださったのは満田晴穂さん。自在置物作家さんです。
詳しいと思ったらやはり作られていたのですね!雌雄ゲンゴロウを!
そして次に論文を紹介してくださったのがオイカワマル博士。ええと。魚の博士なはずなんですが、昆虫大学に出没したり
水辺に近い昆虫にも(というか生き物全般に)大変お詳しい博士です。
ゲンゴロウのメス背面のシワはオスに対してむしろ「くっつきにくくするため」に進化したという説が濃厚です。話題にある通りメスは溺死のリスクがあるため、それを防ぐために皺状の上翅を進化させたと考えられており、sexual conflictの一例として調べられています。論文です→https://t.co/tSarkQlEpv
— オイカワマル (@oikawamaru) 2018年10月17日
水中で交尾すると溺死してしまう! なかなかアクロバティックなセックスです。
そしてパワーではなくテクニックが必要と。昆虫のセックスはすごい。
確かに掴んでみるとツルンツルンと、濡れた石鹸のように逃げ回ります。
ここまでナミゲンゴロウ?ではないかと考えていたのですが風向きが変わったのが、夏休み子供電話相談室で大活躍中の丸山先生。
正式に依頼すると大変なお方ですが、Twitterで虫話が盛り上がっていると気さくにお声掛けいただけるので私のラオス生活もすごく助かっています。
裏側が見たいです。ヒメフチかなと。
— 丸山宗利 (@dantyutei) 2018年10月17日
むむ。ヒメフチトリゲンゴロウ(Cybister rugosus)とは。
ヒメフチトリゲンゴロウは絶滅危惧II類とのこと。→多摩動物公園:希少ゲンゴロウの繁殖成功 展示開始 - 毎日新聞 https://t.co/GNgFAA6UI9
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月18日
黄色い模様があるのが特徴なのですね。
と、写真を見返したら腹側の写真がない!幸いまだ食べる前でしたので、家に戻ってから写真を取り直したんですが、「味見」というのは食べてしまうと
後戻りができないので、侵襲性の低い写真や計測をしてから食べるようにしておきましょう。
同定する前に食べる、というのは安全上問題があるのはもちろんですが、同定のポイントを写真に収めないままに
食べてしまうとはっきりしない味見になってしまう、という欠点もあります。
しっかり観察、しっかり味見を心がけたいものですね。
さて、お返事。
おお、フチトリかその近縁種です!
— 丸山宗利 (@dantyutei) 2018年10月17日
Cybister gueriniというものがラオスだと割にいます。
— 丸山宗利 (@dantyutei) 2018年10月17日
なんと。そして
調べれば調べるほどよく分からないフチトリゲンゴロウの世界。
小松博士のブログにあった。→2016年01月 Ⅲ月紀・四六 日本のフチトリゲンゴロウとタイのフチトリもどきゲンゴロウCybister guerini の話。こんなことになっていたのか。 https://t.co/c4aPeMWhve
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月17日
外見ではほとんど区別のつかないいくつかの近縁種がいて、
「タイ産フチトリゲンゴロウ」といわれるものが輸入されていたこともあるそうですが、
それがそもそも存在するのか(フチトリゲンゴロウ(Cybister limbatus)がタイに分布しているのか )、という部分までよく分からないと。
「タイ産フチトリゲンゴロウ」と言われるものの中に未記載種があるかもという話→遺伝子解析による未知ゲンゴロウ類の種同定 | 生物学科 | 東邦大学 https://t.co/xxtW4zjg3G
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月18日
これは食べてしまうので日本に持ち帰る予定はないのですが、種の保存法で学名が指定されてしまった生物と
外見上見分けのつかない近縁種、というのはとても大変な運用になっていくと思います。なんとまぁ。
さて、茹でて味見をいたしましょう。
Cybister guerini 体長34mm のメス。
前胸が臭い。苦い!消毒液のような鼻に抜ける不快臭。
ゲンゴロウには前胸に大きな防御物質の分泌線があるらしい。
胸部、腹部は肉食だけあって旨味が強く、臭いものの旨味やコクが感じられるが、もうちょっと水洗いなどして防御物質を流したほうがよかったかと。 pic.twitter.com/MLsGz6WnFH— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月18日
前胸がまずい!
ゲンゴロウもオサムシ上科ですのでなんかの防御物質を持っていてもおかしくないですよね。
あの首筋の乳液はケガをして漏れた体液ではなくて捕食者である私に向けた防御物質だったんですね!
メッセージが伝わらない人でごめんなさい。
ちょっと古い本ですが、電子書籍でこれを買いました。
ゲンゴロウの防御物質について。前胸付近があまりに臭くて苦かったので購入。防御物質を分泌しているとのこと。DRM-freeのPDFで安心 →Chemical Defenses of Arthropods - 1st Edition https://t.co/e3XGaviaKK
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月18日
以前にも昆虫食の本を一冊買ったのですが、Elsevierで電子書籍を買うと、全くのセキュリティのないDRMフリーというのが選べます。
これで出版社が潰れてもデータが残る、という安心感のある仕様なのですが、
全ページに私の名前が書かれている。
という幼稚園のお道具箱かと思うような仕様で、これでDRMフリーのPDFとして売ったとしても、おいそれと配布できませんね。
流出すると出版社から私が損害賠償請求を受けてしまうでしょう。これはいい仕様だと思うので、各社真似して欲しいところですが。
ハネカクシなども含めて、甲虫のケミカルな防御物質はなかなか攻略が難しいものです。これを読んで勉強してみます。遠きラオスの地において、日本の有識者の方々にコメントをいただき、大変ありがたい、贅沢な味見になりました。ネットが通じる世界になって、ささやかな幸せを感じております。
言葉は通じないが昆虫を食べるラオスと、言葉は通じるけど昆虫は食べない日本と、食を通じて物理的に繋がっていくことで何が起こるか。
できればいいことが起こってほしいですよね。こんなにも農薬が少ない。というか農薬を使った農業をできるほどの所得がないラオスの貧困ですから
彼らが資本主義の荒波に放り出される時には、少しぐらい先進国から手助けがあってもいいじゃないですか。
そして農薬を使わない農業、という後進性の利益を享受して、昆虫を生み出す新しい有機農業を実装できたら、ラオスの特産になって
タガメやゲンゴロウがいつまでも元気な社会になって欲しいなぁと妄想を燃料にしながら日々を過ごしております。
さて、頑張ろう。
あ、最後に
フチトリゲンゴロウについて勉強するときにすげー邪魔だったのが、リンクは貼らないですが検索上位に上がってくる内容がゼロのHP。
ゲンゴロウについて調べてたらあまりにも内容がない検索上位だけを目指したクソHPにたどり着く。
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ 6月からラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年10月18日
「ググれ」が通用しない世界がもう虫の分野にも来てしまっています。ググりの先の情報に到達するためにも、やはり論文が読める訓練はどの分野でも必要だったと改めて感じます。