「Asian Art Award 2018 supported by Warehouse TERRADA – ファイナリスト展」
にて展示されていた
AKI INOMATA 「やどかりに「やど」をわたしてみる」 シリーズを見てきました。
ファイナリスト展ということで、他の作者の作品も展示されていたのですが
私は芸術鑑賞の訓練を受けていませんので、他の作品はさっぱりわかりませんでした。
この作品に関しても芸術の文脈ではなくて「生物を使った表現物」として観てきました。
論文、工芸、アートを問わず、生物をつかった表現物が好きです。
素材に使う、モチーフに使う、モデルに使う、なんでもいいですが、表現物の中に生物特有のめんどくささにとことん向き合った形跡があると、そそられるものがあります。生物学の訓練をうけたためか、生物を使った表現物においては「論文」至上主義なので、他の分野の表現物がその業界においてどんな文脈をもつか、についてはあまり愛着はないです。
この作品が気になったのは2017年頃でした。
RT>先のヤドカリアートの「頑強さ」はヤドカリに貝をとりつけているのではなくて、ヤドカリがプリントされた貝を既存のヤドと比べて「自ら選んでいる(ようにみえる)」ところ。生命倫理からみてセーフの範囲であるし、アートからみるとオリジナリティをヤドカリに分け与えている感じがおもしろい。
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ4/2〜29ラオス (@Mushi_Kurotowa) 2017年7月6日
ヤドカリに人工の宿を渡す、というアイデアは調べてみるとわりとあって
吹きガラスによる宿の作成がありました。
Robert DuGrenierさんは2014年で「15年つくっている」とのことでしたので2000年あたりから作っているようです。
http://www.glassshell.com/Site_3/About_Artist.html
こちらは吹きガラスによる貝を作成し、オカヤドカリに与えたものでした。
続いてAki Inomata さんのオカヤドカリへの宿の提供をした作品が2008年。
http://www.aki-inomata.com/works/hermit_2009/
更に2016年、今回展示された海水性のオニヤドカリへの宿の提供をしています。
http://www.aki-inomata.com/works/hermit_sea/
陸上よりも水中のほうが重さの制約が少なく、水の屈折率も貝の材料となっているポリマーと近いため、透明感の高い仕上がりになります。
ガラス細工については以前にガラス昆虫作家さんに聞いたところ、大型作品になるほど溶けたガラスの温度管理が難しくなるとのことでした。また、AKI INOMATA作品では、なめらかな貝の内部も再現するために、CTスキャンによる貝の3Dモデリングもやっています。内側と外側の曲線をそれぞれに独立してデザイン、出力できるのは3Dプリンタの利点です。
さて、ガラスから3Dプリンタへの道具の変遷によって、新たな「宿」を手に入れたヤドカリ。
通常の貝殻である炭酸カルシウムよりも軽く、強く、そして大きい宿を手に入れることも可能になったのです。
そこから何ができるか。期待したいのは「巨大化」ですよね。
大型の外来陸生貝類アフリカマイマイが侵入した島ではオカヤドカリが大型化する。 https://t.co/hhfXoIKT0y
— 蟲喰ロトワ 昆虫農家 蟲ソムリエ4/2〜29ラオス (@Mushi_Kurotowa) 2018年3月18日
つまり、偶発的にプラスチック製品がが海に流出することで、オカヤドカリが巨大化して、宿を捨てることで巨大化したヤシガニのような未来が待っているのです。
もう一点、タコをアンモナイトに見立てた殻に入れる、という動画作品がありました。
この作品をさらに動画撮影するの禁止なのですが、この作品、Twitterで見かけた時は、タコが水中の宙空の「タコツボ」に入るものかと懐疑的でした。
動画作品を観賞することで、そのナゾが解けました。映像がゆらいでいたのです。
おそらくこの作品は水槽の上から撮影されたもので、このアンモナイトの殻は水槽の底部に設置されたもののようです。そしてこの動画作品がタコがツボに入りかけているところからスタートしているのもすごく苦労したんだろうなと感じました。
こういった「表現物の中に生物特有のめんどくささにとことん向き合った形跡がある」というのは私の大好物です。
一般的な芸術鑑賞の方法ではないですが、ひとつの楽しみ方としてオススメしておきます。