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「Asian Art Award 2018 supported by Warehouse TERRADA – ファイナリスト展」
にて展示されていた
AKI INOMATA 「やどかりに「やど」をわたしてみる」 シリーズを見てきました。

AKI INOMATA 「やどかりに「やど」をわたしてみる」より 

ファイナリスト展ということで、他の作者の作品も展示されていたのですが
私は芸術鑑賞の訓練を受けていませんので、他の作品はさっぱりわかりませんでした。

この作品に関しても芸術の文脈ではなくて「生物を使った表現物」として観てきました。

論文、工芸、アートを問わず、生物をつかった表現物が好きです。

素材に使う、モチーフに使う、モデルに使う、なんでもいいですが、表現物の中に生物特有のめんどくささにとことん向き合った形跡があると、そそられるものがあります。生物学の訓練をうけたためか、生物を使った表現物においては「論文」至上主義なので、他の分野の表現物がその業界においてどんな文脈をもつか、についてはあまり愛着はないです。

この作品が気になったのは2017年頃でした。

ヤドカリに人工の宿を渡す、というアイデアは調べてみるとわりとあって
吹きガラスによる宿の作成がありました。
Robert DuGrenierさんは2014年で「15年つくっている」とのことでしたので2000年あたりから作っているようです。
http://www.glassshell.com/Site_3/About_Artist.html
こちらは吹きガラスによる貝を作成し、オカヤドカリに与えたものでした。

続いてAki Inomata さんのオカヤドカリへの宿の提供をした作品が2008年。
http://www.aki-inomata.com/works/hermit_2009/

更に2016年、今回展示された海水性のオニヤドカリへの宿の提供をしています。
http://www.aki-inomata.com/works/hermit_sea/

陸上よりも水中のほうが重さの制約が少なく、水の屈折率も貝の材料となっているポリマーと近いため、透明感の高い仕上がりになります。

ガラス細工については以前にガラス昆虫作家さんに聞いたところ、大型作品になるほど溶けたガラスの温度管理が難しくなるとのことでした。また、AKI INOMATA作品では、なめらかな貝の内部も再現するために、CTスキャンによる貝の3Dモデリングもやっています。内側と外側の曲線をそれぞれに独立してデザイン、出力できるのは3Dプリンタの利点です。

AKI INOMATA 作品より

AKI INOMATA 作品より
AKI INOMATA 作品より

AKI INOMATA 作品より

さて、ガラスから3Dプリンタへの道具の変遷によって、新たな「宿」を手に入れたヤドカリ。
通常の貝殻である炭酸カルシウムよりも軽く、強く、そして大きい宿を手に入れることも可能になったのです。
そこから何ができるか。期待したいのは「巨大化」ですよね。

つまり、偶発的にプラスチック製品がが海に流出することで、オカヤドカリが巨大化して、宿を捨てることで巨大化したヤシガニのような未来が待っているのです。

もう一点、タコをアンモナイトに見立てた殻に入れる、という動画作品がありました。
この作品をさらに動画撮影するの禁止なのですが、この作品、Twitterで見かけた時は、タコが水中の宙空の「タコツボ」に入るものかと懐疑的でした。
動画作品を観賞することで、そのナゾが解けました。映像がゆらいでいたのです。

AKI INOMATA 作品より
AKI INOMATA 作品より

おそらくこの作品は水槽の上から撮影されたもので、このアンモナイトの殻は水槽の底部に設置されたもののようです。そしてこの動画作品がタコがツボに入りかけているところからスタートしているのもすごく苦労したんだろうなと感じました。
こういった「表現物の中に生物特有のめんどくささにとことん向き合った形跡がある」というのは私の大好物です。
一般的な芸術鑑賞の方法ではないですが、ひとつの楽しみ方としてオススメしておきます。

AKI INOMATA 作品より
AKI INOMATA 作品より

DiEGO表参道にて行われていた青沼優介氏の個展「Poetic Structure/息を建てる」のレポートです。

Twitterで見かけて
「タンポポの綿毛をアクリル板に植え込んだもの」との説明に、一瞬納得しかけたものの、どこか気になるところがあって3月23日に実物を見に行きました。私は芸術鑑賞の訓練を受けたことはないので、あくまで「生物を素材に使った表現物」を観に行ったというものです。批評といえるレベルではありません。感想です。

この作品は「見立て」が秀逸で、作者はこれを「建築物だ」といいます。まったく理解できないんですが、実物を見るとあぁそのとおりだと感じられます。すでに「知って」いたことに気づくという感じでしょうか。

建築物の基本的な構造として「ラーメン構造」というのがあります。垂直な柱を2本、水平な梁を一本剛接合した強固な構造で、この基本構造のくりかえしによって大きな建築物を作ることが出来ます。

RahmenKouzou 01

氏の作品はまさにこれを見立てていると思います。「ラーメン構造が水平方向に荷重を受けたときの変形」を「息」によって体感できるのです。

RahmenKouzou 03

誰もが綿毛にをふうっと吹き飛ばす経験をしたことがあると思います。そのときの抵抗、曲がり、そして一番弱い根本が座屈して構造が崩壊していくまで、まさに建築における応力の基礎を体感していた、ということを改めて教えてくれます。この作品はその「綿毛」という誰もが感じたその物性を幾何学的に並べ直し、垂直水平をとり、建築模型のサイズ感で見立てることでいろんなおもしろい感覚を引き起こしてくれました。植物の配列と角度を整える、といういみで、原初的な生け花のような感じもあるなと思っていたら、生け花雑誌に特集を組まれたとのことです。

やはり比喩を含む「見立て」は生物を理解し、表現する上でとても重要なスキルで、かつセンスですので、すぐれた見立てをするヒトは様々な分野に点在していて、その分野間を跳躍するパワーを持っていると思います。こういう分野外の生物表現を体感することで、昆虫食にもなにかフィードバックが得られたらいいなと思いつつ、楽しみました。

これは私が撮影した普通のタンポポ。
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より
青沼優介「息を建てる」より