昨年10月
ついに昆虫醸造調味料の一般発売が始まりました。
この快挙を成し遂げたのは和歌山県 いなか伝承社さん。
地域活性化団体「いなか伝承社」というほっこり系の名前の会社から
なんとも
とんがったものを出すことになりました。
反響もあったようで、地元や大手の新聞にも取り上げられたものの
「昆虫食の人」と言われてしまうのが難点だとか。
昆虫食はそれだけでインパクトが強いので、
他の本意を撹乱してしまうことがあってなかなか扱いに困るものです。
別の例ですが
メレ山メレ子さんはエビ・カニを含め昆虫食もあまり好きでないとのことなのですが
ラジオ出演の際に妙にパーソナリティーが昆虫大学で出された昆虫食に食いついてしまい、
なかなか修正に時間と手間を要していました。
我々食用昆虫科学研究会がサイエンスアゴラに出展した際も、最初の年はとりあえず希望者に昆虫を配ることに手一杯で
フィードバックや我々が伝えたいことを十分に伝えられず、人だかりをさばくだけになってしまいました。
キャッチーであることはそれなりに危険物でもあります。
いなか伝承社は
地域活性化団体なので昆虫食だけでなく、
いろいろやっています。
私が見たものだけで、梅食べたり栗食べたり、地域の子供達と山の中散歩したり
もちろん虫も食べたり。
以前は田舎の「つきあい」を通じた祭りなどのイベントにより
結果として人同士のネットワークを作ったりしていたのですが
過疎化が進むことで人と人の物理的な距離も遠くなり
逆に大型ショッピングモールのような全国で画一化された娯楽も増えてくる中で
地域独特の文化は放っておけば衰退していってしまいがちです。
それに対抗して田舎なりに自活していく、
ありモノを見つけてアイデア勝負で
全国にもない新しい価値観やイベントを作っていく、そんな感じの団体です。
地域をつなぐ役割を買って出ることで、
そのうち地域が大きく変動するようなことにも
耐えられるネットワークへとなっていくのかもしれません。
とはいえ、
そこに昆虫醸造調味料を作ってもらうのも
なかなかの挑戦でした。
初年度(2013年度)はとある
無農薬農場で多発生したイナゴを譲ってもらい
半年醸造させて2014年3月に試食会を開催しました。
すばらしい!→和歌山で「イナゴソース」試飲会-湯浅のしょうゆ蔵が製造 /和歌山(みんなの経済新聞ネットワーク) - Y!ニュース http://t.co/VcmIo1Tq6F
— 蟲喰ロトワ (むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 3月 20
そして本格醸造の今年、
二年ごしの一般販売にこぎつけたのです。
クラウドファンディングにも挑戦しました。残念ながら達成しませんでしたが。
資金調達は無名であればあるほど、なかなか難しいものです。
「イナゴソース」は地域の特産品として和歌山から出発しますが、 実は世界規模の可能性を秘めています。ここでは言及しませんが、 可能性にかけてください!私を含め食用昆虫科学研究会も協力しております。 http://t.co/2r7vUS6o1k
— 蟲喰ロトワ (むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2014, 10月 2
クラウドファンディングで資金調達ができなかったこともあり、
残念ながらまだまだ高いです。仕込みの量も少ないですし、
大きさに関わらず1日一回かき混ぜなければならないので、
手間もかかるそうです。
それを分かった上で、
おもしろさに共感してくれる方
誰も食べたことのない、新しい味覚に挑戦する方にぜひ味わっていただきたい。
どう味わうか、ですが
醤油の味わいというのはなかなか奥が深いものだと実感しているところです。
ビンのフタを開けると酸化が始まるので、できるだけ冷凍庫で保存します。
バッタソースは先味が強めの「塩っ辛い味」で、後味がスっと消えます。
今日は昆虫食と昆虫醤油イナゴソースの試食会。アボカドによく合う。エリサンのミノムシあげも良くできた。 pic.twitter.com/kUNh1nfh2m
— 蟲喰ロトワ (むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2015, 12月 11
これはグルテンなどのタンパク質を塩酸で加水分解した
「アミノ酸醤油」に恐らく近いでしょう。
雑味のない、「素直でまっすぐな醤油」です。
また、少量ではありますが多種多様な昆虫も醸造調味料にしてもらいました。
(ここであえて醤油としないのは、醤油にはJAS法に定められた原材料の縛りがあるためです。
昆虫が含まれていると醤油とは今のところ名乗れません)
イナゴソースの味をどのようにしたらおいしく、
印象的に味わえるか、試行錯誤しながら考えていたのですが
ようやく見えてきました。
1,味が既存の醤油にあまりに近いので、調味料として使うと味が埋もれてしまう。
かなり普通の美味しい醤油としてあじわえます。それが利点でもあり欠点でもあります。
昆虫らしさを感じにくいのです。
2,先味が鋭く、後味がひかないので、長く味わおうとすると物足りない。
3,香りが豊かだけれど、他のアミノカルボニル反応を含む「香ばしさ」にうずもれてしまうので、できるだけ減らす方が良い
りんごにハッピーターンアイスとイナゴ醸造ソースをかけてみる。果物に塩味は合うがコクが邪魔しあうのでちょっと味がうるさい。パフェまで味まみれにすると落ち着くかも。 pic.twitter.com/gJnwaRun9u
— 蟲喰ロトワ (むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2015, 12月 14
4,チーズのかすかな苦味と、乳製品のまろやかさがよい
5,果物系の香りとなら邪魔しあわない
ということで、完成したのが
「イナゴソースジュレ」と「レアチーズスイーツ」と「ドライトマト」の組み合わせです。
ドライトマトとデザートチーズのホットイナゴソースジュレ。イナゴソースは先味が強くて後味が消えやすいのでジュレ化。香ばしさは競合しやすいので焼き菓子は避ける。いい感じ。 pic.twitter.com/KaLj3SPlim
— 蟲喰ロトワ (むしくろとわ) (@Mushi_Kurotowa) 2015, 12月 29
今回は
他の用途で購入していたメチルセスロースを使っていますが
寒天やゼラチンなどの他のゲル化剤でも使えそうです。
これにより、先味がまろやかになり、後味まできちんと味が持続します。
ドライトマトは多くのグルタミン酸を含んでいて、アミノ酸分解物の旨味と相性がよいですが
印象としては果物の甘さ、みずみずしさもあって塩分とも相性がよいので
野菜スイーツとの相性を試した見たのですがピッタリでした。
ということで、
昆虫醸造調味料「イナゴソース」の試食会を、
兵庫県神戸市、摂津本山駅近くのレストラン「パレルモ」で開催します。
1月23日 15時から17時のコンパクトな試食会です。参加費は2000円です。
会場のキャパの関係で、参加は10名様とさせてください。
ぜひご参加ください。
ご予約フォームはこちら
なぜこちらでできることになったのかは、また別でご紹介します。
そして、とある特殊な食材調達のため、
三重県のとあるところに行ってまいりました。
次の記事に続きます。