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「見たいけど別に食べたくはない」

昆虫料理をしていると、
このようなお客さんが多くいることが分かります。
「本やブログは読んだけど食べる気はない」
「おもしろいけど体験する気にはなれない。」
以前にも言及しましたが、自らの文化にないものを新たに食べることは
相当のストレスですので、食べられなくて当然です。私も新規の昆虫を食べる時は
大変に苦労しています。(特においしくなさそうな警戒色のあるもの)
また、
「食べさせる」準備はとても大変です。
本来はとれたて新鮮なものを、しっかり加熱して、
味付けはシンプルに食べていただきたいのですが、
保存性や値段の制限のあまり、
本当に美味しくて新鮮な昆虫を提供できないことも多く
「さほど美味しくないよね」と
無料で出した昆虫料理にコメントされることあり
残念な気分になります。
「採れたてのトビイロスズメの前蛹はクソうまいんや!お前なんかに無料で食わせてたまるか!」
と言い返したくなるのをぐっと我慢。
目的は「一般人のレスポンスの収集」ですので
口論してもいいデータにはなりません。
また、逆に、我々の目の届かない所で勝手に食べられても困ります。
昆虫を含む新規の食材にはアレルギーなどのリスクがあることを理解し、
我々の免責について同意頂かないと、食べさせられないのです。
そういう意味で、5人以上はスタッフが必要になります。
そんな中、
茨城県自然博物館の方から、
当バッタ研究室へ
サバンナからのメッセージ アフリカの自然とその保全」への協力依頼を頂きました。
私の遠い兄弟子にあたる前野浩太郎博士が
現在モーリタニアでサバクトビバッタの研究を行っており、
アフリカとバッタ研究は切っても切れない関係にあります。
そちらは博士のブログ「砂漠のリアルムシキング」か
著書「孤独なバッタが群れる時」を御覧ください。

そして、
バッタは大発生時に農作物に多大な被害をもたらすとともに
平時の食料としてもアフリカに貢献してきました。
嬉しい事に、「アフリカの昆虫食を
展示したい、との意向をいただきました。
ただし期間は3ヶ月、常温での展示です。
これは困りました。昆虫料理は傷みやすいのです
そして、
このような需要が実は多いのでは、とも考えました。
これからの昆虫食イベントの形として
「食べてもらわない昆虫食イベント」もありかなと。
考えてみれば、多くの昆虫標本は乾燥でも、ある程度いきているときの
みずみずしさを保っています。味は悪くなってしまうのですが、
「見た目」だけでいうと、昆虫は保存性の高い生物といえそうです。
そして、
日本には「食品サンプル」という技術もあります。
合成樹脂を使い、色使いと質感を本物のように再現、むしろ
本物以上に脚色して「美味しそう」と見せている奇跡のワザです。
塩化ビニールのくせに、
我々が食べてもらおうと苦労している
昆虫料理を差し置いて「美味しそう」と
思われている、嫉妬の対象でもあります。
嫉妬は何も産みませんので、取り入れて利用していきましょう。
私は食品サンプルを作る技術がありませんので、
中古でオークションに出されている食品サンプルを購入し、
「ハイブリッド昆虫料理標本」を作成しようと思います。
サバクトビバッタ丼
サバクトビバッタ Schistocerca gregaria

は、植物を食べる昆虫なので、生きたままの輸入には
植物防疫法上の制限がかけられ、飼育には
二重扉が必要なために、日本では、研究用に唯一、
当研究室で飼育されています。
見ていると、
私の研究対象であるトノサマバッタ以上に
よく食べ、急速に成長します。
サバクという過酷な環境に適応した、底力を感じます。
北部アフリカのナイジェリアは、コメを食べる文化があり、
その市場ではサバクトビバッタ丼がみられます。
スネから先と、翅をとったバッタと、揚げ、
ご飯に載せただけのシンプルな食事。日本で言うと吉野家的な
位置づけでしょうか。
これを真似して作った所、
「日本人の目からみて美味しくなさそう」
でしたので、食品サンプルの技法に則って、和風にアレンジしてみました。
こちら

紅しょうがとネギを他の食品サンプルから拝借し、散らしただけで、
美味しく見えます。また、この美味しそうなタレは「油性ニス ローズ色」です。
まさかホームセンターの塗料コーナーに食欲をそそる色があるとは。
我ながら「視覚による美味しさ」に対して、とても曖昧であることを再認識です。
続いて、
モパニワームのトマト煮 トウジンビエ添え
このサイトを参考にしました。
コンゴやザンビアを初め、多くの地域で食べられているモパニワーム
学名Gonimbrasia belina  は、消化管内容物を抜いた後、
天日で干されてから流通します。
戻す時は「干ししいたけ」のように、水で戻し、油で炒め、
トマトや野菜と一緒に煮て
穀物のおかずとして食べられています。
今回はトウジンビエを手に入れる時間がなかったので、豆で代用。
汁気のあるものなので、一回本当にトマト煮を作った後
フリーズドライし、樹脂で固め直す、という方法をとりました。
本物の野菜を使っているので、フリーズドライによって色があせてしまいます。
今回は煮物なので、問題なかったのですが
みずみずしい生物には向いていない方法だと思いました。
そして完成

こちらも地中海風アレンジをして、
馴染みやすい美味しさに脚色しました。とてもおいしそうですね。
今回のこれらの「昆虫料理標本」は
「アフリカ展」内で展示していただけることになりましたので、
皆様、3月8日から6月15日まで、
茨城県自然博物館にぜひお越しください。
宣伝でした。