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標題のとおりです。
以前からプッシュしている、
そして私も大変お世話になっている
「Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎」

ややお高いですが、そこは臨床の事例と、
愛らしく憎らしい虫たちを
フルカラーでお届けするため仕方のない事です。
この図鑑は、皮膚に炎症をおこす
様々なタイプの虫について
実際に著者の肌に炎症を起こして経過を見る
というなんとも荒行のような図鑑です。
中には患者さんの写真もありますが、
たいていは炎症がひどくなってからの
症例しか得られないものですので、
炎症の初期から観察するためには、
「自演乙」するしかないのでしょう。
前回「正しいちらし寿司
で「筋子からイクラへ」処理しておいた
マイマイガの幼虫が孵化してしまいました。
 
これまでの寒さにより
休眠が打破されてしまった、というより
オオカマキリのように休眠状態にならず、
積算温度がたまり次第孵化する、というタイプのようです。
そのため保存上の警告です。
「マイマイガの卵を保存する場合は屋外か、加熱して冷凍」
ということになりそうです。
カマキリの場合は室内で大発生しても
彼らの室内アスレチックを観察でき、
大変に愛らしいものですが

警告したのもこのマイマイガ。
この図鑑や、他の図鑑にも
「一齢幼虫にのみ毒刺毛がある」との記載が。
ただ臨床写真は掲載されていませんでした。
そしてボスが昔アメリカで実験材料として
扱ったとき、一齢幼虫を筆で触っていたためか
炎症は起きなかったとのこと。
これは確かめてみたい。
というか
「Dr.夏秋の気分を体験してみたい」

ミーハーな気持ちで自演をすることにしました。
幅広のマスキングテープに一齢幼虫を一匹置き
そのまま前腕の内側、パッチテストをする位置に。
 
コントロールとしてなにもしていないマスキングテープを貼っておく。
写真右のマーカー部分にマイマイガ一齢幼虫をセットします。
 
30分後
 
一時間後
 
一時間半後

ほとんど痒くないのですが
確かに炎症反応が起きました。
まわりとの差が不明瞭な腫れがおき、
刺毛が触れたのか、一齢幼虫をおいた場所の周囲にも
軽い班点が見られました。
そして一時間半後には、殆ど消えました。
これは「即時型アレルギー反応」と思われます。
IgE抗体によって認識され、肥満細胞上にあるIgE受容体に受容されることで
ヒスタミンの遊離が起こり、紅斑や膨疹、痒みを伴います。
続いて、
一日後、ぷっくりと、周囲とは明確に段差のある
ふくらみ(おそらく丘疹とよばれる腫れ)が見られました。
 
これは最初の抗原の進入時に
皮膚にある抗原提示細胞がリンパ節まで移動し、
感作リンパ球が末梢を巡回、ふたたび同じ抗原
(残っていたマイマイガの刺毛)に触れることで、
活性型リンパ球となり、炎症性サイトカインを放出したと
考えられます。
いやー。ためになりますね。
細胞間の分子シグナル伝達は、
生物系学部ではいやというほど覚えさせられるんですが
しばらく分子系から遠ざかっているのでうろ覚えになってます 笑
自分の体で分子レベルの情報交換が行われ、
それが二種類の遅延反応となって皮膚に現れるとは、
なかなかロマンを感じました。
マネすることはオススメしませんが、
たのしい経験でした。
実際にやってみると
「不用意に刺された時はイラつくが、自分で刺させたときはむしろ楽しい」
ことがわかりました。
ケガをした時も、
「キズの半分だけキズパワーパッドで覆う」

と、傷の治りが楽しくなってきます。
イライラを自分の好奇心に置換できると
いろいろ楽しくなりそうです。
Dr.夏秋も虫好きを公言されていますし、
実は楽しんで臨床実験をしていた可能性があります。
そのうちお会いしたいですね。
このマイマイガの幼虫、糸を出して
ぶら下がることから「ブランコ毛虫」ともいわれ
一齢幼虫はそのまま糸に風を受けて木から木へ
(ジェット気流に乗って更に遠く)へと
文字通り飛んで行く「バルーニング」といわれる
移動をします。
それがこのような炎症をおこすのですから、
春先のマイマイガには注意が必要です。
まずは、今のうちに卵を食べましょう!
ツツジの葉を食べ始めたので
脱皮したら「二齢幼虫には毒がないのか」
も、引き続き確かめておきたいと思います。