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シン・ゴジラに昆虫食は出てこない 前篇

シン・ゴジラ
制作が発表されたと聞いたとき、全く期待してませんでした。

監督エヴァの人だし。巨神兵東京に現わる、
はミニチュア特撮に拘泥しすぎでしょ。
進撃の巨人実写ダメだったらしいし。という前例主義の先入観です。
義務感で見に行きました。
思い返せば15年前。
ガメラ三部作で、リアルな怪獣映画を作ってくれた
金子修介監督がゴジラ映画を。との触れ込みで見に行ったゴジラ2001

「とっとこハム太郎同時上映」という地獄。騒ぐ子供と連れてきた保護者
ハム太郎を見たら出て行く子どもたち。
映画自体は好きだったんですが、
この辺で義務感で映画館に見に行くのをやめました。
ファイナルウォーズもレンタルでみました。
ですが、今回
なにか引っかかるものがあって初日に見に行くと


最高。
幼少期にキングギドラから入り、ビオランテが気に入った
平成vsシリーズ好き、初代好き、かつ昭和プロレスゴジラ気に入らずの
私にとって、最高のゴジラ映画でした。
SF考証もかなり練りこまれています。
「リアリティ」が絶妙ですね。
東日本大震災を経験し、津波と原発事故を見聞きし、誰もが知ってしまった大災害のリアリティを
ほどよくリフレインしてくれるので没入感があります。
ゴジラ映画らしく、人類が手詰まりになった後の、後半の荒唐無稽さも楽しいものでした。
この映画に昆虫食は出てきません。
ですが、ゴジラという特殊な生物の生理機能が物語の軸を握りました。
ハードSF生物映画なのです。
以下盛大にネタバレしますので、ご注意ください。


<総理、ネタバレ許可願います>
<ご決断を>
<今するのか? 聞いてないぞ!>
<時間がありません。ご決断を>
<総理!>
<以降 すべてのネタバレの使用を許可します>


このゴジラ、
最後に群体化することが示唆されました。
これはどういうことか。
なぜそれまで巨大化してきたゴジラが
ヒトのような歯をもつ小型群体サイズを最適としたのか
そもそも
冒頭の水蒸気爆発は何だったのか
牧元教授は何を「好きに」したのか
どうして巨大化したのか。上陸したのか。
なぜ最後に血液凝固剤で凍結したのか。
ポンプ車で口から600klもの血液凝固剤が体内に取り込まれたのか
そしてゴジラははたして食えるのか。
アメリカが狙っていたのはエネルギー革命でしたが
むしろ食料生産に革命をもたらすかもしれない
ということです。
紐解いていきましょう。
最後に、シン・ゴジラのシンとは何だったのか、
私が類推した新説を提案してシメとします。
情報は本編と、パンフレットのみです。
想像で補って類推したので、
公式設定と間違っている部分もあるとは思いますがご愛嬌。

公式設定集、ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

に書かれている可能性もありますが、まずは想像してみた限りです。
映画の批評的考察の場合、最大限「ありうるもの」として
知識や展開を補填していきます。
なさそうなものとして考察を始めると、そもそもゴジラが存在しない、と
なってしまい深く切り込めないからです。こじつけでも、苦しくてもできるだけ建設的な姿勢で。
それでは参ります。


今回のゴジラの生理的特徴は「元素変換装置」でした。
以前から、核物質をエネルギー源とする設定はゴジラに一貫して見られましたが
初代がクジラを食ったりする他は、栄養源(構成要素)の摂食はほぼ見られませんでした。
エメゴジがマグロ食ったりしていましたが、あれは除外しておきます。
シン・ゴジラはその一歩先を攻めました。
「元素変換裝置」を持つのです。
そのため、陽子・電子・中性子を自在に組み替えて、任意の元素を作ることができるので
空気や水を原料になんでもできる「霞を食う仙人」のような新生物なのです。
体内、おそらく最も温度の高い胸部に元素変換を行う特殊な構造をもつようです。
ヒトの構造物で言うところの粒子加速器みたいなもの、なのでしょう。
本来の元素が生み出された超新星爆発のような高温高圧・超重力状態ではなさそうですが、なんとも立ち入れない部分です。
元素変換装置は唯一の大フィクションで、人智の及ばないところです。
稼働中のゴジラの内部を見ることはもう不可能ですから
その仕組みは闇の中となってしまいました。
このフィクションを起点として
ゴジラ個体に現れる生物学的特徴については、
大フィクションをできるだけ排して
しっかり作りこまれており、物語の舵取りをきちんと行う姿勢があります。
優秀なハードSFです。
予防線的に監督が学者に述べさせていますが
生物学的な「正しい考察」
冒頭の有識者会議で済んでおります。
「クジラの亜種なのか恐竜の生き残りなのかは全くわからない」
「映像だけで判断するのは生物学とはいえんでしょう」
「そもそも映像がホンモノか確証がないと」
さて、
ここから更に踏み込んで、実効性のある対策を巨災対は求められました。
物語上、効いたのですから、物語上、我々は傍観者で、彼らが正義です。
プロセスが人智を超えていても
人智を超えた隠れた物語があったとして、議論における思いやりの原則で補完しながら考察するのがよいでしょう。


ゴジラはどのような生理機能を持つ生物なのでしょうか。
ゴジラは生物です。
なので環境に応じて、その性質が変化します。
そして当然、変化に応じて、異なる栄養素を要求すると考えられます。
普通の生物、
もしくは従来設定の放射線をエネルギー源とする生物である場合
必要とする元素は多種多様で、外部から取り入れる必要があります。


ところが、今回のゴジラは特別製で
元素からまるごと転換してしまいます。

とはいえ何でもかんでも元素転換で作ってしまうと、莫大な熱エネルギーがでてしまいます。

ゴジラは放熱に問題を抱えていたので放熱の節約のために
重い元素はエネルギー調達用にして、生体機能には比較的軽い元素を多く利用しているようです。
また、
核分裂をエネルギー源として使いつつ、放射線を体外に放出していることから、
軽い元素において窒素→炭素14のような予期せぬ元素変換も起こってしまうでしょう。
元素転換裝置において
生体機能を維持するための元素転換と、
エネルギーを調達するための元素変換のトレードオフがありそうです。
また、
生物である以上、
元素だけでなく、使える分子にまで合成しないと、元素作り損です。
せっかく元素を作っても、高次構造を作れないのでは
残念ながら必須栄養素を外部から取り入れることになり、基礎代謝の高さから
あっという間に餓死してしまうでしょう。
つまり、シン・ゴジラは元素変換裝置の意義を最大限に利用するために
必須栄養素の存在しない、
体内に生態系そのものを内包するような生物になった、といえるでしょう。
これは有望な遺伝資源です。
放射線滅菌でも壊れにくい、耐熱性の、元素から高次構造までの遺伝子セットが
おそらくゲノム、および共生微生物群に含まれているのです。
なので、もはや元素転換裝置を手に入れられなかったとしても、その遺伝子は非常に有望で
日本の領土で手に入った以上、「日本の遺伝資源」なのです。
すると、本来ですと生物多様性条約のABS(Access and Benefit Sharing)条項に基づき
アメリカに持ち出すためには、国同士の契約と、管轄機関同士の契約が必要になります。

フロントページ


劇中では「人道的措置」によって、
ゴジラの対策を重視した結果、遺伝子配列が多くの国に共有されてしまいましたが
そこから得られる利益については、ゴジラ保管のリスクを負った日本がきちんと交渉していくべきでしょう。
つまり、
巨災対の次の仕事は「ゴジラ遺伝資源管理」となることが予想されます。
また、その血液を凝固させる薬品の開発、
ゴジラの細胞膜の活動を阻害する極限環境微生物がもつ巨大タンパク
(これの産地と発見者の所属によっては他の問題も生じますが)
も効くことがわかっていますので、
製薬会社を初めとしたゴジラ関連巨大遺伝資源産業が生まれ、そして
ゴジラ特需を産むと考えられます。
退治したヤマタノオロチから天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が得られたように
ゴジラリスクをもつ日本がゴジラ遺伝資源の恩恵を、ゴジラ対策・復興と称して貯めこむ
未来が想像されます。もちろん大きな経済的恩恵をもたらしたのですから
矢口さんの政治家としての出世も安泰でしょう。
すると、
ここで気になるのが前半で語られた「インパクトのある理研の発表」
です。最初の上陸時にエラから吹き出した血液サンプルから
ヒトの8倍ものDNAが検出されたとのこと。
タンパク質あたり?1細胞あたり?
有核赤血球あたり?幹細胞あたり?
変敗した血液サンプルを元に、ヒトの遺伝子量と比較して8倍、という
整数倍を提示するのって結構大変だと思うんです。
速報を重視した結果の拙速な報道のような気がします。
「シークエンスだけで何年かかるか」というのも
(原子力規制委員会の人が言ったので専門外の可能性もありますが)
のちに判明しますが。
放射線を常に放出するタイプの生物なので、分裂しつつ、修復しつつ、壊れつつ、の
ランダム変異が細胞ごとに入りまくった「変異早送り代謝」が起こっているのでは
ないでしょうか。
バラバラにして読んだゲノム断片をつなげるアルゴリズムも、既存のではなくゴジラに合わせた独自のものが必要でしょう。
何しろ1シーベルトの環境下で、修復エラーがあってもそのまま増殖するものですから、1細胞だけからDNAを切り出したとしても、切り口は荒れまくっていることでしょう。個体内では多くの細胞が、それぞれ異なるゲノム編成になっている可能性もあります。
むしろ共通の遺伝子をもつ、という多細胞生物の概念すら通用しない可能性があります。
第一次上陸の後ですし、
アメリカがサンプルを持っていってしまったし
個体全体が手に入らない状態で、理研だけが持っている血液?かどうかもわからない赤い液体サンプルをもとに
情報を引き出した、シーケンス可能な状態まで持っていった、というだけで
速報性、という意味では意義のある発表だったと思います。
「これでゴジラが最も進化した生物だ」とのことを
尾頭さんがおっしゃってますが
進化の途上にある、遺伝子構造が冗長で最適化されていない、という
イメージでも良いかと思います。
表現形の変化速度を見ると、ヒトの8倍もの遺伝子をやりくりしている、というよりはその可塑性が高く、ウイルスのように単純なゲノムを超高速で変異させ、使いまわしながら形態変化をしているような気もします。
細胞あたりのDNA量が多いのも、ヤシオリ作戦で口に垂らした血液凝固剤がザルのように体内に吸収されていったのも
ゴジラが体内外の境界が極めて曖昧で、常に環境中の遺伝情報を
取り込みながら利用し、代謝している生物だったのではないでしょうか。
常に核分裂・融合反応ゆえの放射線がでているので、滅菌効果は抜群です。
通常の生物では感染も難しいでしょうから
免疫機能はもう要らないのでしょう。
また、
もともとの通常生物だったころのゴジラのDNAもブッチブチに切れているでしょうから
ゴジラの生態系を理解した上で、
メタゲノム解析のようなことをしないと、その全貌は見えてこないでしょう。
バイオインフォマティクスのゴジラ分野の進歩が期待されます。
もちろん日本の領土において遺伝子変異が起こったので、
いずれのDNA配列情報も日本の遺伝資源です。お金のニオイがしますね。
次は時系列にそって、ゴジラの環境や状態と
そこに起こったであろう生理的な変化を想像してみましょう。
中編に続きます。

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