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昆虫食についての勉強や実践を
当ブログで発信することで多くの反響をいただくようになりました。
昆虫の世界は膨大ですので、様々な立場の方からのコメントが
私のモチベーションを上げ、次のチャレンジへとつなげてくれます。
思えば
本格的に食べ始めたのが2008年。
5年ほど続けてきたわけですが、
日々進歩がなくてはいけませんね。
ということで
2009年、仙台にいたときに同級生に食べてもらった一品
「秋の蟲ピザ」

小型の直翅目をトッピングした食べやすいピザです。
秋になると性成熟し、加熱すると赤く色が変わる直翅目を使うことで
紅葉する広葉樹をイメージしました。
ちなみにこちらは調理前

これを今回はブラッシュアップしようとおもいます。
さて
昆虫料理を紹介するにあたって
「形を無くして欲しい」という声が多くあります。
似たような形を持つ
海老や蟹について「すり身でないと食べられない」という方の話は
殆ど聞きませんので
おそらく
調理された虫の「形」に対する嫌悪感というのは
「死体感」ではないでしょうか。
基本的にヒトは
調理加熱して他の生物を食べるので
当然「死体」食べているわけですが、
「死体」を「食品」とみなすには、文化的な刷り込みが必要です。
このブログをご覧になる方の多くは昆虫食を文化として持たないので、
形を見せてしまうと
どうしても「死体」の印象が拭いきれません。
ですが、
直翅目の美味しさはパリパリ感でもあるので
美味しく食べるためには形は残しておきたいものです。
そこで
「形を残したまま死体感を減らす工夫」
が必要だと考えました。
ヒントは昆虫標本にありました。
きっかけはとある虫屋の方から
「展翅したほうが見た目が良いのでは??」との
アドバイスを頂いたことです。
確かに
「標本は大丈夫だけど(道端の)死体はムリ」
「生き虫は大丈夫だけど死体はムリ」
という虫嫌いの方もいらっしゃるようです。
つまり
「展翅することで整然とした印象を与え、死体という無秩序な不快感を減らすことが出来る」
という仮説が考えられます。
やってみましょう。
まず、茹でた昆虫を
アルミ箔を張った網の上に置き、立たせて足を整えます。

このまま、マーガリンとチーズを塗り
200度のオーブンで10分間加熱します。
そして
市販のチーズピザの上にキレイにトッピングし、
250度のオーブンで10分焼きあげて完成。
秋の蟲ピザ 2013

味見
香ばしく、肉質のうまみ。とても良く合う。
残念な点としてピザに接している部分が
カリカリ感がなくなり、口に残ってしまうので
もうちょっとしっかりローストしてからトッピングすればよかったかと。
そうすると強度が低下してしまうので、
「強度」と「カリカリ感」の調整が難しくなってきそうです。
こうやって頑張ってみたものの、今度は
整然と多くのパーツが並んでいると嫌悪感を感じる「集合恐怖症」
というものをお持ちの方がいらっしゃいます。

その原理や適応的な意義は解明されていないようですが、
昆虫料理への嫌悪感を拭うというアプローチは
まだまだ先がありそうです。
できれば「形を無くする」という方法は最終手段に取っておきたいところですね。

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昆虫を味見する際に留意したい点として
「昆虫を差別しない」ことが挙げられます
当然分類するので区別はします。そして その生態や味から
利用法や調理法を考えていくことが必要です。
ここでいう「差別」とは、
「対象の特徴を無視して観察者のバイアスを優先すること」
と言えるかと思います。
直感的にわかりやすいのは「キモい」「生理的にムリー」
でしょうか。
このキモさ(嫌悪感=Disgust)には生来の遺伝的バイアスだけでなく
文化的なバイアスが多くかかっています
特に
昆虫に関してはごく最近までヒトの食品でしたから、
ヒトがこんなにも短期間に遺伝的な忌避行動を獲得するわけもないので
多くは文化的バイアスといえるでしょう。
逆に言うと百年以内に昆虫食に戻る可能性もあるわけですから
安易に遺伝子に刻んでは危険なのです。
むしろヒトは文化として、世代を超える情報を外部保存することで
遺伝情報よりも臨機応変なバイアスを持つことに成功したといえるでしょう。
ということで
我々は多くの文化的バイアスがかかっています。
そして、
その文化的バイアスから独立した視点をもつために使われるのが、
「科学」という客観性を重視した手法といえるでしょう。
昆虫の分類も
「好き嫌いは置いといて、皆が客観的に判断できる手法を用いて、、個体をグループに分け、
近い順に並べる科学的手法」と解釈できます。
さて
一つ前の記事で「直翅目にハズレ無し」と書いたばかりですが
実は未だ直翅目の分類群を網羅していません。
これから食べようと思っているケラ科(今年は見つからなかった)の他に
カマドウマ科という高いハードルがあるのです。
おそらく美味しいとは思うのです。
今回捕まえたのはクヌギの樹液を食べに来るマダラカマドウマ。
樹液食は美味しい要素の一つです。
しかも翅がなく、飛ばないので体重もあり
日光を必要とせず、高密度でもケンカしない。
翅のないキリギリスといえる体型。
どれも美味しそうな要素しかありません
サラブレッド。もとい直翅目界のブロイラー
と言っても過言ではないのですが。。。。。。。
ごめんなさい。主観的にキモいのです。
思い出すのは一人暮らしを始めて二年目の仙台。
秋も深まり、寒い夜にシャワーを浴びようと浴室へ。
私は極度の近眼なので、シャワーを浴びる際は
極端に防御力が低下します。全裸で目も悪い、地中性の生物のようです。
勝手知ったる我が家の浴室なので、何の警戒もしていませんでした。
シャワーを出したその瞬間
足元に何かが駆け上がったのです。
お察しのことと思いますが、カマドウマです。
ハエや蚊、ゴキブリならともかく、体重があり、
壊れた玩具のように跳ねまわるカマドウマの感触は
なかなか自分の記憶と一致しませんでした。
おぼろげながらカマドウマとわかり、
一旦撤退し、メガネをかけ直し、
全裸のままカマドウマを捕獲。ベランダから投げました。
そのためか、カマドウマにはまだまだ苦手意識があります。
でも差別してはいけません。
自分に文化的なバイアスがあると認識した以上、
意識的に
差別につながらないよう
行動せねばならんのです。
行動とは。当ブログでいうところの味見ですね。
前置きが長くなりました
なんせ茹でられたカマドウマが右手のそばにあるものですから
味見のタイミングを伸ばしたいという深層心理の現れかと思います。
マダラカマドウマ  Diestrammena japanica

味見
少し土っぽい枯れ葉系の香り。しかし抜群に美味い!なんだこれは。体液はほとんど感じられず粒感と弾力のあるタンパク質の塊がやってくる。焼きタラコのような食感。
翅がなく、胴がたっぷりしているので肉質なのかと。
キリギリス科の中でも抜群に美味しく、とても意外でちょっとだけ残念。
クラスの地味な子がアグレッシブな特技で突然人気になってしまい話しかけづらくなる感じ。
でしょうか。
文化的バイアスは
かかっていると自分が認識してから、
その逆バイアスをかけ直すには、多くの努力が必要です。
ですが、その先にはどの文化的素養のあるヒトの間でも形成できる
多様性を許す社会が出来るのでは、と思います。
また、そのバイアスが他文化に悪影響を与えない場合、
誇るべき文化として自らの強固なアイデンティティを形成することになるでしょう。
もう一度いいます
「直翅目にハズレなし」(ケラは未食)

味見よりも同定が難しい直翅目。
今回もがんばりましたが、同定大丈夫でしょうか。がんばります。
ヒメクサキリ Ruspolia jezoensis

産卵管が長いので♀です。
今の時期の直翅目はオスが鳴くものが多いので、
狙いを定めて捕獲にいけるのですが、
静かな♀はなかなか見つかりづらく、昼間に偶然出会うしか捕獲方法がありません。
一期一会を大事にしたいですね。
味見
味は他のキリギリス科に似た甘めの味。堅めで歯ごたえがあり、ムチッとしたキリギリスとは対照的でスマートな印象。しっかり噛むと全て食べられる。脚は口に残るので取り除くとよいかと。
「直翅目ははずれへんな〜」という印象ですね

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日本の食用昆虫は
1919年の三宅らの調査では50種類以上食べられていましたが
1985年の野中博士らの調査では十数種類まで減ってしまいました。
この減り方には傾向があり、
イナゴ(稲作)・カミキリ(薪炭材)・カイコ(養蚕)など
生業と深い関わりのあるものが強く残されました。
他の昆虫よりも手軽に確保しやすかったためと思われます・
一方で、一部の採集昆虫
ザザムシやハチノコは、効率が悪いものの、嗜好品として
食べ続けられました。それだけ格別な味だったのでしょう。
後述しますが、やはり絶品です。
危険を犯しても、いや危険だからこそ
食べたくなる味といえるでしょう。
ここで注意して頂きたいのは
オオスズメバチは特に危険だということです。
樹液などで見られる彼らも粗暴に見えますが、
巣の近くでは尋常でない攻撃性を示します。
昆虫料理研究会では、ハチ駆除の専門家から
殺虫剤を使わずに捕獲出来た時だけ
分けてもらうことがあります。
巣が入り組んでいたり、攻撃をモロに受けてしまう
位置だったりすると煙だけでは静まらず、
防護服を着ていても
殺虫剤を使わないと手に負えない場合もあるそうです。
また、
彼らが空中に噴霧した毒を吸うと、動悸が激しくなり
夜寝付けなくなることもあるそうなので
何らかの生理的作用がありそうです。
そのため、専門家でない方に
オオスズメバチの巣の捕獲はオススメしません。
彼らのような真社会性のハチの群れでは、
働き蜂は卵を産むことが出来ません。
そのため、自分が死ぬ危険を犯してでも、
巣や女王、子を残すために行動します。
それだけに他の昆虫よりも強烈な攻撃をしてくるのでしょう。
さて
今回は味見
幼虫から成虫まで一気に比較します。

左から終齢幼虫、前蛹、蛹、成虫です。
茹でる前は半透明ですが
茹でると不透明の白になります。

前蛹になる時に、幼虫は消化管の内容物を全て出してしまうので
前蛹の背中は白いのですが
幼虫はいわゆる「背わた」が入っているので背中に黒い筋が見えます。
これは肉食であるスズメバチ幼虫のために、働き蜂が捕獲してきた「虫肉団子」
ですので、細かくなったクチクラがジャリジャリして大変食感と味が悪いので
除去することをオススメします。
肛門の少し上の背側に切込みを入れ、ニュッと出します。

これをゆっくり引っ張ると取り除くことが出来ます。

鱗翅目の幼虫でも、消化管内容物の味が気になる場合は
同様に肛門の少し上、背側に切込みを入れ、絞りだすことによって
味の強い未消化物を除くことが出来ます
今回は茹でですので、刺さる危険のある成虫の針はとっておきましょう。

お吸い物で頂きます。

味見
幼虫
糖度が高いとわかるほど甘みが強い。白身魚に似たタンパクとコーンや木くずのような香ばしい香り、動物系の僅かな香りが食欲をそそる。やはり他の昆虫とくらべても抜群にうまい。
前蛹
消化管を抜かない分プチッとした食感が楽しめる。同様に、体液が逃げないのでより濃厚な味、カニ味噌やウニのような強いうまみがあり美味しい。お吸い物にも向いているが、濃厚なのでわさび醤油で食べたい。

更にあっさりして豆腐のような味わい。形成しかかったクチクラがサクサクと良い食感を与えてくれる。強い旨みは減り、穀物のような優しい香り。一番好み。お吸い物の具に最も適した段階
成虫
クチクラが硬くなってきてしまい、茹でただけでは口に残ってしまう。体液を主とした甘みがあり、味は良い。タンパク系の味はほとんどしなくなってしまう。揚げ料理で香ばしく頂きたい。
味の違いを詳しく見ることが出来ました。
巣を見てみるとこんな感じ。部屋にフタがされたところは前蛹か蛹が入っており、
段々色がついてきます。目が黒くなったあたりがもっとも好みです。

実は
今回の味付け「お吸い物」には思い出があります。
2011年、昆虫料理のよるべ(昆虫料理研究会主催)に参加していたところ
オオスズメバチ蛹のお吸い物がメニューにあり、
食べた所ガツンと衝撃を受けました。
それまで昆虫の料理法は揚げがほとんどで、
「昆虫は他の食材と同様の普通の味」と思っていたのですが
このオオスズメバチの蛹は
お吸い物の具に最適化された味・風味・香り・食感・色を
兼ね備えていたのです。

そこで気づきました。
「昆虫料理は種・段階・時期・調理を総合的に評価して開発しなければならない」
そして
「現在の昆虫料理開発に最も不足しているのは昆虫学の体系的知識である」と。
ということで、
昆虫料理の味見に向けて昆虫学を勉強する
当ブログのコンセプトが生まれたのでした。
この大変美味しい蛹

感動したので、
当時独学で練習していた鯨歯彫刻を使ってストラップを作りました。

今ではもうちょっと上達しましたが
我ながら美味しそうに作れたと思います。
思い出の品です。

1

モンクロシャチホコを捕獲していたら
同じ木に歩いているのを見つけました。
モモスズメ Marumba Moore


スズメガ科の一部の昆虫は
美味しいことが知られており、
1919年の三宅らの調査で日本でも食す地域があったようです。
現在でもボツワナのサン族がエビガラスズメを「ギュノー」と呼んで食しています。
スズメガ科まとめ
エビガラスズメ セスジスズメ クロホウジャク コスズメ ブドウスズメ クロメンガタスズメ シモフリスズメ オオスカシバ )
スズメガのボリュームと味、モンクロシャチホコの桜の香りが
合わされば、無敵の美味しさなのではないでしょうか。
味見
思いの外桜の香りは強くない。葉の苦味も少しある。
典型的な豆腐系スズメガ幼虫の味。内部はゼリー状でとろみも感じられる。
顆粒状の外皮は食感がツブツブして面白く、
味の絡みが良いので、スズメガ科のバリエーションとして楽しい。
ふむ。意外とサクラケムシほど香りが強くありませんでした。
そもそも桜の葉ってどんな味だっけ?と思い食べてみました。
確かに葉を食べても桜の香りはあまりしません。苦味がありました。
噛んでしばらく放置すると
酵素反応が促進され、クマリンの香りがしてきます。
この時、赤茶色の色変化が起こります。紅茶に似た色です。
ウィキペディアによると、
液胞内外の酵素反応によって生成されるとのこと。膜構造を破壊することが必要なようです。
とすると
モモスズメやカレハガキバラモクメキリガはそれほどクマリンの香りが強くなかったので
サクラを食草とする昆虫の中でもモンクロシャチホコは酵素反応を促進したり、
積極的にニオイ成分を取り込むことで捕食者への防御
(高濃度のクマリンは肝臓毒性があります)として
利用している可能性があります。
香りがよく味も良く、見た目も良い昆虫は、
そう簡単には見つからないのかもしれません。
さて
昆虫はその代謝エネルギーを太陽に依存しているので、
サクラ+サクラケムシは太陽光を二度使って特定の成分を精製、濃縮する系といえるでしょう。
生産された天然成分を精製する過程で、
より太陽エネルギーをしつこく利用する方が石油資源に依存しない物質生産につながります。
とはいえ、
現代は有機化学が発展しているので、石油依存型の有機物質生産の効率は凄まじく、
クマリンも安価に化学合成ができてしまいます。また、天然物抽出に関しても
精製された有機溶媒を使うことで、より短期間に、安価に達成できます。
サクラケムシを養殖して「天然クマリン」と称したところで
なかなか合成クマリンに経済的に勝つのは難しいでしょう。
昆虫の利用は経済的に考えるとなかなか難しいですね。

2

いつもご覧下さりありがとうございます。
沢山のアクセスを頂きまして、
虫関係のブログで妙に検索上位になってしまい、
単に昆虫の名前を調べたかっただけの方に
誤爆するという痛ましい事故が頻発しているようです。
とはいえ
検索したのはあなたですので、
事故とは言え停車中の当ブログに追突されても
私が謝罪する言われはないと思っております。
ともあれ、事故に遭遇したのも何かのご縁ですし
心のダメージは諦めて建設的に参りましょう。
「虫の名前を知りたかっただけ」の方が当ブログに
たどり着いた際のデメリットとして「同定ミス」が挙げられます。
私が昆虫分類に関して未熟なため、当ブログの同定ミスはおよそ3%と、
他の昆虫ブログに比べ高めで推移しております。
このブログの公開にあたって、
「多くの虫屋さんに間違いを指摘して頂く」という目的がありますので
うまく機能しているとも言えるのですが、
虫の名前を知りたい方には、
要らない味見情報をムリヤリ刷り込んだ挙句
同定が間違っていたのでは、
さすがに貰い事故とはいえ胸が痛みます。
そこで、当ブログの同定に役だっている参考文献をリンクとしてご紹介しておきます。
日本の昆虫1400
「遭遇率に応じた1400種を厳選」
基本的な昆虫の同定には文一総合出版「日本の昆虫1400」を
使っております。
この図鑑は文庫本サイズで持ち運びも簡単、二冊で2100円と
驚きの安さ
しかも標本写真の図鑑が多い中
活きのいい生きた昆虫の写真を白バックで撮影、
しかも全ページフルカラーという大変贅沢な仕様です。
当ブログも途中から白バック撮影ですが、
これも実は猿マネであります。


この図鑑だけでもかなりの使えるのですが、
昆虫食の関係上、成虫よりも幼虫を多く食べる傾向が強いので、
鱗翅目幼虫の情報を強化するため
「イモムシハンドブック」
を併用しております。
これはイモムシ=鱗翅目幼虫に特化したハンドブックです。
文一総合出版のハンドブックシリーズは、独特の切り口と、
入門者向けの平易な説明文が魅力の新書サイズのフルカラー書籍です。


他にも「樹皮」「雑草の芽生え」「冬虫夏草」「イネ科」など
独特のいい切り口のラインナップです。
ニッチな書籍なので、価格は1000円台後半とやや割高感はありますが
嬉しくてついつい何冊も買ってしまい、いつの間にか専門書を超える出費になっている、
という「ハンドブック地獄」という恐ろしい現象も頻発しているようです。
私も亡者の一人です。
「ニッチなものは割高でもつい手を出してしまう」
若干のサブカル趣味をお持ちの方、特にお気をつけ下さい。
もう一つ、何度か登場していますが
現役皮膚科医が自らの人体実験をもって臨床事例をひねり出した
超体育会系医学書
「Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎」

ダニがガッツリ皮膚に食い込んでいる所を切片写真にして紹介してくださったり
わりと攻撃性が低くあまり刺さないサソリに無理やり刺される、という事例の数々を
読んでいるうちに「本当に倫理観だけでこんなことを?楽しんでいるのでは?」と
新手のプレイを邪推してしまうほど、虫への愛と体を張った臨床写真に感服してしまいます。
専門書ということで、大幅に高価ですが、買って後悔していません。
虫による皮膚炎は虫を扱う上で避けては通れない道なので、
ぜひ最寄りの図書館に入れてもらいましょう。
もし昆虫食の文化について知りたかった場合は、
過去から現在までの昆虫食の歴史と分類について網羅した書籍
昆虫食の権威、三橋淳博士による
「世界昆虫食大全」

「昆虫食文化事典」


オススメします。
膨大な文献から作成した「目ごとの食用昆虫学名一覧」は必見です。
捕まえた昆虫の近縁種がどの地域、どの時代で食べられているか一目瞭然です。
昆虫の食べ方、捕り方にも学ぶ所が多いので、
昆虫食に興味がおありの方は一読をお勧めします。
まだまだ紹介したい書籍はありますが、また後々ということで。

2

ナナフシモドキ Baculum elongatum いわゆる普通のナナフシ。
近縁種のエダナナフシは触角がずっと長いことで区別できます。
これは短いのでナナフシモドキ

体は軽いですが手のひら一杯に広がるサイズ感はなかなか見応えがあります。

このナナフシモドキという名前。本家「ナナフシ」という昆虫がいるわけではないそうです。
ナナフシ=枝に擬態している=モドキというのが本当のところだとか。
とても納得です。
今まで「モドキ」の用法には気に入らないところがありました
今まで食べた中でもいくつかありました。
ショウリョウバッタモドキ ショウリョウバッタ
クルマバッタモドキ クルマバッタ
サトクダマキモドキ クツワムシ(別名クダマキ)
いずれも互いに近縁種で、区別できる特徴=識別点がはっきりと定義されているにもかかわらず
和名にはそれが反映されていません。
ハチやアリなど、攻撃性や毒のある昆虫を擬態するなら
「モドキ」という擬態目標を示すことでその生物の特徴を表現できるのですが、
同種の似た生活史の昆虫の間で「モドキ」とはなにごとかと。
見ためが似ていて別種ならば何らかの区別できる特徴があるはずで、
それを名前につけるべきだ、と思います。
ともあれ 味見です。
木に擬態しているだけあって本当に枝や葉のよう。かるい消化管内容物の苦味と固く弾力のあるクチクラ、内部の味はほとんど感じられない。「細くて大きい昆虫」は外骨格への投資量が多いので、身と外皮のバランスが悪いようだ。世界最大のマダガスカルオオトビナナフシとかも固いと思う。
ナナフシモドキは味までナナフシ=枝に似せている、
正真正銘のモドキの用法といえそうです。
話は変わりますが、
今年度も私が所属する
食用昆虫科学研究会 は
サイエンスアゴラ2013に出展します。
サイエンスアゴラとは日本科学未来館で毎年開催されるブース形式の一般向け科学イベントです。
毎年昆虫食のブースを売店の隣で開いています。
ぜひお越しください。
ここで「のぼり」のような客引き用の広告があればと
いろいろ探したのですが
1,一つしか作る予算がない
2,印刷物の場合、複数作るほうが安くなる
ことから、のぼりをつくると版型の価格が高くなってしまいます。
そこで
「もう手作り一品物のほうが安いのではないか」
と思い始めました。
そして、「のぼり」で伝えたいことは何か。
1,昆虫を出すブースである
2,光る
3,食欲をそそる
ここから得られる答えは
そうですね。 提灯です
※画面は開発中のものです

これは近くの百均でみつけた提灯に
印刷したものを貼り付けた試作品ですが
現在注文中のものは
浅草の職人が一品ずつ手描きしたものになります。
サイエンスアゴラで
食欲をそそる赤ちょうちんを見かけましたら
我々のブースですのでぜひお立ち寄り下さい。
お酒の一杯は出せませんが、なにかをご用意しております。

3

背中のハートマークが可愛らしいツノカメムシ。
エサキモンキツノカメムシ Sastragala esakii

以前ヘリカメムシ科(ホシハラビロカメムシ キバラヘリカメムシ)は青りんごの香りがすることを紹介しましたが、
ツノカメムシ科はまだ攻めていませんでした。
また、私はパクチーがキライなので、
青りんご系以外のカメムシ臭はキライです。
ツノカメムシもいい香りであってほしいものですが
軽く嗅いでみると残念ながら食べる前から負け確率濃厚。であります。
でも食べないことには味見ブログになりませんので。
あと可愛らしい好きな昆虫なので、ぜひ美味しくあってほしいものです。
味見
わずかにヘリカメムシ系のりんごの香りがあるが、ほとんどパクチー系の普通カメムシの臭いと味。おいしくない。食感は悪くなく、色味もいいので臭いを飛ばしてしまえば食べられそう。
可愛いアイドルがウ◯コをしていたような
ちょっと冷める感じの落胆を感じました。

2

「味見に際して注意すべき昆虫」として、
マメハンミョウツチハンミョウアリガタハネカクシ
ような体内に強い毒のある昆虫がある一方、
採集にあたって注意すべき毒を持つ生物
も抑えておく必要があります。
毒のある毛虫の中でも、最も有名で、
被害件数の多いものがチャドクガではないでしょうか。
チャドクガ Euproctis pseudoconspersa
本州四国九州に分布し、幼虫はツバキ、サザンカ、チャなどのツバキ科の植物の葉を食べる
成虫は年二回発生。卵で越冬する。若齢幼虫は群生する

この長くて白い毛は毒ではなく、
胴体中央部のモリっとしたコブに
毒刺毛が30〜50万本密生しているとのこと。
恐ろしいですね、
この有毒毛は卵や繭の表面幼虫の脱皮殻にも残存していて、
皮膚に刺さると炎症をおこす。
かくと刺毛が折れて更に刺さり、悪化する。
もうれつに痛くてかゆいそうです怖いっす。
これが噂の幼虫の脱皮殻。

これが食べられるのか、
本当に食べられないのか、確認すべきでしょうか。。。。
参考

炭火に放り込んだら食べられるような気もします。
10月に羽化するそうなので、今のうちに考えておきたいです。

以前に偶然セミヤドリガに寄生されているヒグラシを発見し、その味を紹介しましたが、
虫界の風雲児、メレ山メレ子さんが セミヤドリガ蛹を手に入れたのこと。


すかさず「食べたい!」とリプライ致しました。(ダメ元で)
すると
なんとメレ子さん、送ってくださるとのこと。
即日発送はアマゾンレベル。楽天を遥かに上回る対応で手元に届いたのでした。
なんと一匹羽化! これは比べがいがありそうです。
セミヤドリガ Epipomponia nawai


繭はこんな感じ。セミヤドリガ幼虫に似た淡雪のようなホワホワで包まれていますが
繭自体はしっかりした繊維で固められています。


小さいながら緻密に成虫の構造が計画されているのがわかります。
コンパクトで機能美あふれる姿ですね。
味見
成虫:シャクっとした食感とほのかに甘い味。ほとんど味がない。小さすぎてわからず残念
蛹:やはりシャクっとした食感とプチプチとした歯ざわり。味はよりわかりやすい。木質系の甘い味。特徴はない。
幼虫のときに既に穏やかな味だったので、成虫や蛹は余計に地味な味なのでしょう。
セミヤドリガの蛹は杉の木などで見つかるそうです。
やはりオススメは幼虫期ですね。
幼虫時にヒグラシを取り、ついでにセミヤドリガが付いていたら大当たりだと思います。
さて、
話は変わりますが 今回セミヤドリガをお送り頂いた
メレ山メレ子さん
秋田のブサカワ犬、わさおを世間に紹介した強力なキュレーターとしても有名です。
食用昆虫科学研究会主催の2012年8月、つくばセミ会でお会いしたのが最初なのですが
とても面白い試みを仕掛けています。
まずは昆虫大学
我々昆虫料理研究会も学食として参加した昆虫イベント。
当ブログでも紹介しましたが、
「アカデミック・アート界の昆虫のプロ同士と全くの素人と引きあわせたイベント」
としてとても将来性のある試みだと思っています。
昆虫食の活動を通じて、
「昆虫学に全く精通していないけれど『昆虫って面白い』と思ってくれる方」
が多いことに気づいてはいたのですが、
昆虫大学のように具体的に他分野の人同士を繋げることで
更に世界が広がっていくと思います。
引き続いて
虫フェスにゲストとして来ていただき、様々な投稿昆虫創作料理
を味見・評価していただきました。
更に
幕張メッセで開かれた ニコニコ学会では座長を務めた
「むしむし生放送」では、アカデミックの研究者が日頃行っているプレゼンを
一般向けに放出してしまうとどのような事件になるか、
という未来の学会の形を提示しておりすごいことになっています。
この時「クラウドファウンディング」で学会登壇者の旅費を集めた点でも先鋭的ですね。
最近は
web媒体での連載 「ときめき昆虫学」
でヒトと昆虫と昆虫学の素敵な関係を、直感的でかつ文学的な文章で綴っていらっしゃいます。
ここで私が注目しているのがFACEBOOK上での「ダメ出しコメント」です。
「昆虫学」の分野で情報を発信する以上、
学術的に間違った用語の使い方や、情報を発信するのは避けるべきです。
そのため、印刷媒体の図鑑や専門書は、ものすごい回数・人数の校正を加えます
ですが、
著者の直感的な印象や共感する感情の動きが見えにくく
読み物として平坦な印象になりがちです。
情報のみで興奮できる(笑)専門家のみの書籍になってしまうのです。
メレ子さんは専門家でないため、
隔週の連載ではやはり用語の間違いが発生してしまいます。
それを目ざとく見つけ、指摘する虫屋の各専門家の方たち。
このやりとりが大変エキサイティングです。
このようにリアルタイムで原稿を公開し、
リアルタイムで校正され、
構成済みの文章をまとめ、書籍化するという一連の流れは
昆虫全般に関する書籍を単著で執筆するにあたって
ハードルを下げるものだと思います。
ぜひ盛り上がってほしいものです。
昆虫界の専門家を引き付ける社交性も
メレ子さんのキュレーターとしての力かもしれません。
近年盛り上がってきた「科学コミュニケーション」という分野も
ただ専門家の用語を噛み砕くだけではなくて、
専門家・専門分野の魅力を新しい形で、全く別の人に向かって発信する
「攻めの姿勢」を持ちたいところです。
「キモい オタク わけわからん」と言われながら
果敢に社会に発信する打たれ強さを、現在の社会から研究費を得ている
研究者も自覚すべきだと思います。
「研究がしたい。一般人の相手なんかしたくない」という研究者は
一般の相手をすることで分野全体を盛り上げようとするキュレーターを
応援してほしいと思います。
ということで、
メレ子さんの動き、引き続き(ストーカーのように)追っていきます。