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人は苦痛を感じます。あなたもわたしも、言葉が喋れない赤ちゃんも、おそらく感じているだろう、と考えられます。

そして人には幸福追求権があります。幸福を一番定義しやすいのは「苦痛の回避」です。

堪え難い苦痛を受け続けるぐらいなら、幸福を追求するために死ぬことも選べる、というのがある種の究極の選択でしょう。

さて、最近は人間以外の生物の「苦痛」も考えられてきました。動物解放論では、先の赤ちゃんや、事故や病気によって苦痛の自己申告ができない人を「限界事例」と呼び
本人が申告できなかったとしても、社会はその苦痛の回避のために尽力すべきだ、としています。

そしてもう一つ、「種差別の禁止」を組み合わせました。これは人権侵害の多くの場合において、人権が認められない理由を「種が違うから」というレイシズムで説明してきたことへの歴史的反省です。そこで、種という概念を使わずに、「苦痛の回避」が行われるべき対象を考えると、人権が人以外の動物へと滲み出してきます。

ここらへんの倫理学の入門教科書はこちらをどうぞ。

そこで気になってくるのは「苦痛を感じる動物」の話です。

哺乳類は人間と似た神経システムを持っていますから、苦痛を感じているだろうと類推できます。そのためアニマルウェルフェアという概念によって
動物の倫理的な扱い(人と同程度の人権を与えるという意味ではなく)をすべきとしています。

今の議論は脊椎動物の系統を遡っていき、魚類まで注目がいきましたが、ついに無脊椎動物まで

さらに最近は「植物」といった侵害刺激を伝達するシステムも「苦痛」と呼び始めそうな勢いです。

ここでは「苦痛」ではなくより広義の「いたみ」としておきますが、ロブスターと人間と植物の間に、いますよね。
虫が。虫の「いたみ」についても考えましょうよ。

こういうリプをいただきました。

ということで、昆虫の神経特異的に作用するいまの最新の殺虫剤が「苦痛を与えている」と社会が判断したら、
殺虫剤で安定した収量を確保できているベジタリアンも含めて、どうしていくんでしょうかね。脊椎動物だけ議論して無脊椎動物を議論しないのは不公平だ、という問いかけに対して、「無脊椎動物を後回しにしろとは言っていない」と反論できますが、食というのは総量があまり変わらないので、脊椎動物をことさらに優先して議論を進めることが、本来公平に扱うべき「苦痛」を不公平にバイアスをかけてしまう危険があるわけです。できるだけフェアにいきましょう。

どうすべきかって? 毒植物とそれを無毒化できる昆虫とを組み合わせた農業が、新しい「倫理的な」農業になっていく、と予言しておきましょう。
ここラオスでやるのもそういうことです。

だいぶ前の話になってしまうのですが、9月7日、理化学研究所にて開催された「次世代タンパク食を考える」シンポジウムに、ラオスから一時帰国して 登壇してきました。

初めての和光、初めての理研です。おぉ。敷地が、、大きい。。。。 当日、誰からも気づかれなかったのですが、気合いをいれてこんなネクタイをしていきました。

会社員のコスプレと呼んでいます。

http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/events/symposia/20180907/20180907_p.pdf

発表した資料を、問題ない範囲で公開しておきますので、ごらんください。 これまでの蟲ソムリエの活動を紹介したり

「価値観を正す」のではなく「ゆるがす」昆虫食のデザインワーク、「昆虫食展」

今の昆虫食界隈の問題。イシューはあるのにプロダクトは弱い。サステナビリティを標榜しながらそこで出される昆虫のサステナビリティがよくわからないものを出すしかない。 軽く自己紹介をしたあとに本題。 今世代、新しく次世代にむけた問題が顕在化したときに、その問題が顕在化するまえに忘れ去られた前世代の可能性を含めて未来に向けて対策していこう、という趣旨です。 いわゆるルネッサンスですね。

よく引き合いにだされるグラフ。

そしてよく紹介するFAO報告書。みなさん読みましたか。

生物多様性条約における「利益」を見積もる時に、昆虫の利益、見積れてますか。昆虫食という大きな可能性を無視していると、あとあと不公平になりますよ。

 

生態系を模倣した循環型農業、と言っていますが、生態系に昆虫はつきものです。昆虫を加えることで、より循環の設計が自由になりませんか? そしてこれが私がラオスに来た最大の理由。 「昆虫を食べている地域は食べていない地域よりも栄養状態が良い」のではなくむしろ悪い、という現状を確かめに来ました。  そしてラオスの写真たち。こちらは雨季

うってかわって乾季。

村の市場の様子

タイワンオオコオロギのはかりうり

美味しいいいため

オオスズメバチの高いこと。日本より高い値段。

茹でたら、ラオス人スタッフから「蒸した方がうまい」とのこと。

ビエンチャンの市場。バッタとカメムシのほとんどは死んでいる。流通卸の問題もまだまだ改善したい。

ある日のビエンチャンタイムズ。収入は栄養の重要な要素だが、収入アップが必ずしも栄養にはつながらない。そこをどう設計するかが腕の見せ所。 この活動は味の素ファンデーションの助成で、ISAPHの活動として私をラオスに派遣することでやっています。なかなか安定した立場ではないです。来年度まで助成は続きます。

ビデオ内にあった「村落栄養ボランティア研修」で昆虫について説明したスライドです。   さて、ラオスの事例を元に、未来を考えてみましょう。 ラオスの自給的農家はいわゆる日本の昭和の農家に近い状態です。なので「今に残る前世代農家」といえます。   「昔の人はコメばっか食ってた」と言われますが、今のラオスにおいても、コメを大量に食べている様子が伺えます。そしてコメいがいは野生食材に依存していることから、市場で野菜や肉を買ったりすることなく、季節の旬の食材をおかずとして味わっているのです。 こう説明すると聞こえがいいですが、実際問題として野生食材は季節によって不安定になりやすく、狩猟採集に時間もかかることから、特に乳幼児の栄養に関して、リスクがあります。     そのため家庭菜園や養殖昆虫を使うことで、野生食材を取りに行くまでもなく、家庭から身近な栄養にアクセスできるように支援できれば、と考えています。 「コスパ」という概念がラオスの田舎は大きくことなります。海外から物を買うとコスパが悪いのです。そのためできるだけ「自給」できることが、彼らの経済力にもつながっていきます。   そして今、3種の昆虫を並行して実装に移そうとしています。 しかし、昆虫を食べている文化だからといって、養殖昆虫が気軽に受け入れられるわけではありませんでした。けっこう盛大にひかれましたが、なんとか5名の希望者をうけいれ、パイロットファーム がスタートしています。

「ラオスでは昆虫がたべられているからすんなり養殖昆虫も受け入れられる」というのは過度な期待であって、日本と同じように、コミュニティに受け入れられていく、そしてコミュニティそのものを支援していくような根気のいる、王道の展開がサステナビリティな社会を作っていくのではないでしょうか。

昆虫のポテンシャルを印籠のように掲げてお金を集め、そのお金で貧困国の農民を使役し、そうやって作られた昆虫は、はたしてサステナブルでしょうか。

そしてまた、日本でのコミュニティにおける合意形成をしながら、根気強くやっていくのが大事なんではないかと、いなか伝承社の田中さんを見て思うわけです。

 

さて、理論的な話から始まって、泥臭い話でおわりましたが、この活動はいくつかの新しいことを挑戦しています。

登壇者として培養肉のShojinmeatの方も来ていて、ディスカッション、意見交換会では、昆虫か培養肉か、というものではなくて 昆虫も培養肉も、具体的な現場の問題解決の選択肢として、実績を積んでいこう、という話になりました。 また、培養肉の最大の敵は実物の肉だとのことで、ではもう化石種で現存しない、メガネウラの切り身を現代に蘇らせられたら競合がいないのでは、との話もしました。 昆虫の切り身、食べてみたいですね。今後に期待します。

 

ということで、そのあとはラオスに戻り、村人にひかれてしまったゾウムシ養殖の希望者を募り、11月はじめにパイロット農家の育成をはじめたところです。まだまだ忙しいですが、養殖拠点での研究、村への普及、そしてゾウムシの後に控える昆虫たちの準備と、まだまだやることが山積みです。 何しろもともとは短期での滞在と指導によって昆虫養殖を軌道にのせようとしていたところ、私の判断で関係各所に無理してもらって、こちらに長期滞在しているものですから、活動予算が足りません。

ご支援いただけるとありがたいです。 ラオスでの母子保健活動全般についてはISAPHへ   食用昆虫に関わる食用昆虫科学研究会へのご支援はこちらへお願いします。 また、これからは 「タンパク質が増産されたらタンパク質不足は回避できるのか」「そもそも現状の食糧問題は総量の不足なのか」「どういう動機付けをしてラオスに昆虫養殖を導入していくのか」 みたいな込み入ったところもまとめていこうと思います。

そしてなぜ2ヶ月もたって、今更この記事を書いたかというと、ようやく旅費の精算が終わったからです。 精算に必要な半券を「これは大事にしないといけない」とどこかに(胸ポケットかパスポートケース)に入れたところまでは覚えているのですが、ふわりと紛失し、 エアアジアに搭乗証明書の発行を依頼し、全く音沙汰なしでそれから2ヶ月後、突然搭乗証明書が送られてきたのです。 ネット上ではエアアジアからは搭乗証明書が出ない、という話もありましたが、遅いですが出る、ということがわかりました。2ヶ月あればですが。 大事なものを、大事だからこそ失くしやすい皆様、どうにか生き延びていきましょう。

なんだそのyoutuberみたいな煽りは。

幾つかの噂が歩いていた「イナズマチョウは無毒か否か。」

ある種は有毒で、ひどく痛く、またある種は無毒らしい、とのこと。

網羅的に有毒と無毒を区別した文献も見当たらず、そもそもイモムシで同定できるかもわからない。

日本語文献で見つかった、実際の体験談では

Euthalia moninaの幼虫は有毒か? [in Japanese]

アカメガシワにつくモニナイナズマ Euthalia monina と
マテバシイにつくビャッコイナズマ Euthalia byakk を比較。この文献でもラオス産が使われた模様。

日本の充実した医療体制で、何か起これば最悪救急車も可能、という状態で皮膚に当てるのと、ラオスのアレな医療情報を聞きつつ、これを試すのは大きく違います。すごい。この方はすごい。
考察の中で、黄色の背部の棘にある黄色の球状部に含まれているのでは、と仮説を述べています。

さっそく話はそれますが、皮膚科医が自分の皮膚で実験を繰り返した教科書「Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎」は素晴らしい、そして痛々しい図鑑なのでオススメです。
私が今回試してみたいと思ったのは、夏秋医師への憧れもあったのです。

「マンゴーイナズマは無毒らしいとの話」で見られるのはこの写真

マンゴーイナズマの幼虫 - メコンの残翅 Ⅱ - Yahoo!ブログ #ブログ #生物学 #Nymphalinae

また話は逸れますが、
マンゴーは虫がつきにくく、ウルシ科ということもあり、これ以外に少しのミノムシが食っているぐらいで、食害の少ない植物です。

今の借家に入居するときに大家さんが「庭のマンゴー勝手に食っていいよ」
と言ってくれたのです。マンゴーを食べ放題なんて!なんて太っ腹な大家さんだと思ったんですが

この有様。時期さえ合えば、木を蹴ると5、6個落ちてくる。

美味しいけれどありがたみは薄い。

そして時期の異なる幾つかの品種もあるようで、とりあえずマンゴーが途切れることはないようです。

さて、

ここでマンゴーイナズマの写真を見てみましょう。

茹でるとオレンジ色にかわり、触っても大丈夫。シダのような毛はモシャッとした食感はあるものの問題なく食べられる。味は香木のような香りがあり、スッキリとした甘みがおいしい。ラオスでは食べないとのこと。

ありますよね毛の根元にある黄色の球状の部分。

もし先の体験談が示唆する「黄色い球状の部分は毒」説が正しければ、これも毒ありということになります。

味見をした昨年12月は短期滞在でしたので、その勇気(というか好奇心の暴走)を止めるしかありませんでした。

しかし今回は長期滞在!試したとしても病院に行くことぐらいはできそうです。

ラオス人スタッフに聞くと
「絶対触ってはいけない。電流が流れたかのように痛み、3日は寝れない。一週間は手首がパンパンに腫れて、腫れが引かない。」

とのこと。聞くんじゃなかった。これで触って腫れたらすごいバカじゃないか。

でも触る。

オォ。。痛くなかった。

痛くないとわかればモフるしかないでしょう。

うむ。満足。

さて、ここで面白いのは

「ベイツ型擬態」がラオス人の間で成立していることです。文化的ベイツ型擬態と言いましょうか。

彼らは毒がある、あるいは毒があって痛かったとの口伝をもとに、イナズマチョウ全てに毒があると信じています。

そのため、毒を作るコストを負担していないマンゴーイナズマのような無毒種も、むやみに手を出されない、という恩恵を受けています。

彼らのデザインも独特で、一度刺されたら忘れられないようなトゲトゲしい姿をしておきながら、

葉っぱに潜むとこんなにも隠蔽してしまう。

茹でるとオレンジ色にかわり、触っても大丈夫。シダのような毛はモシャッとした食感はあるものの問題なく食べられる。味は香木のような香りがあり、スッキリとした甘みがおいしい。ラオスでは食べないとのこと。

背景によってこんなにも違う印象を与えるデザインとは。お見事です。

そして私はマンゴーイナズマを克服し、彼らを天ぷらにして食べたいと妄想を膨らませているのです。

すると、昨年の味見は「無毒化に成功した」というのではなく「もともと無毒だった」のでしょう。

毒針毛と違って、毒棘は茹でると無毒化することが多いんですが、有毒のイナズマチョウでもそうなるのか、試したいとは思いますが、

それを知るためには、その前に「有毒であること」の確認が必要です。

つらいなぁ。一度痛い目に合わないと「無毒化」と言えない。まだその勇気は出ません。

カブトムシ。とても大好きな昆虫です。昆虫として。
まず姿がかっこいい。そして夏休みにたくさん手に入る。

Allomyrina dichotoma
カブトムシ。日本の虫代表。重量、佇まい、デザイン、遊びやすさも含めて人々に浸透している虫。しかしマズい。成虫に近づくにつれて土臭さは減っていくが、カビ臭さ、渋みは相変わらず強い。

少し飛び方が下手で、スタコラと逃げ出すこともないずっしりとした重みがある。
多くの子供が一度は心を奪われる昆虫ではないでしょうか。

しかし食材としての厳しさはまた格別で、
多くの昆虫食愛好家が、その美味しさに、いえ、その美味しくなさに挑戦してきました。そうなのです。美味しくなさがあるのです。

昆虫を食べたことがなくて、
カブトムシに挑戦するのもためらわれる、という方は、
お近くのホームセンターでよく売っている腐葉土を口に含んでみてください。

それです。

なんとも言えないカビ臭さ、
渋み、土臭さ、そういったものが
カブトムシには染みついているのです。

丸々と太って、蒸したてのおまんじゅうのように美味しそうなカブトムシの幼虫ですが、中を開いてみると、丸々と腐葉土が入っています。土を詰め込んだゴム手袋みたいな構造をしてます。(写真探したんですが見つからず。)
真っ白な美しい肉の部分。それを取り出して食べたら美味しいはずだと、
そう思ったのですが、腐葉土の味と匂いの白い肉でした。無念。

ついでサナギ、成虫と食べ比べてみたものの、やはりいまひとつ美味しくなかったのです。

この独特の香りを生かすべく、
@y_tambe 先生との土臭さの談義を経て


コーヒーを作ってみたこともありました。

コーヒーよりも脂質が多く含まれていることから、結果できたものはココアに近いものでした。
そうだ。生カカオもそのままでは食べられないではないか。

つまりカブトムシは「おいしい食べ方がまだわかっていない」人間側の調理技術が未熟な食材、と言えるのでしょう。

思い出すのは2013年頃でしょうか。
「ラオスではカブトムシが食べられている」との情報を、国際協力団体勤務の方から聞くことができました。

当時は2017年にラオスに行くことなど想像もしておりませんでしたから、
いろいろと無責任に妄想を膨らませたものです。

ラオスでの食べられ方はヂェオと呼ばれる料理で、炭火に突っ込んだ何らかのタンパクと
唐辛子、玉ねぎ、トマト、各種ハーブ、塩、味の素を入れてすり鉢でたたいて出来上がる辛味噌です。
昆虫などの動物性の材料を入れておくと、コクと旨味がアップしておいしいです。

当時は食べたことのないその「ヂェオ」を想像しつつ、とても辛いとのことで
強いハーブや辛い唐辛子には強烈な渋みや臭みがむしろ合うのではないか、という想像までしたものです。


さて、時は巡り2018年9月、
活動先の村で、お昼をご馳走になりました。その時出てきたのが前日ライトトラップで取れた
昆虫盛り合わせ炒め!

前日夜にライトトラップに飛来した昆虫達を油で炒め、コンソメで軽く味付けし者。それぞれの昆虫の味が楽しめ、そしていくらでも食べられるシンプルな味付けがおいしい。
昆虫の炒め物があっという間になくなった。ラオスの食卓はこんな感じ。
ヒメカブト初挑戦。ただただおいしい。日本のカブトムシとは大違い。

ね、美味しそうですね。

その中に燦然と輝くカブトムシ!これは食べねば。

日本のカブトムシの記憶を呼び起こし、お昼をくださったラオス人に失礼がないように
心して食べます。

…おいしい。

なんということでしょう。あれだけ味の難しかったカブトムシが、素直なおいしいコウチュウになったのです。

ほっこりとしたサツマイモぐらいの土臭さ、

「ラオス人はカブトムシを食う」の真相は
「あの不味いカブトムシを美味しく感じる」でもなく
「あの不味いカブトムシを美味しく料理する」でもなく

「彼らはそもそもおいしいヒメカブトを食う」ということでした。
うむ。やはりおいしい。

ひさびさにバズりました。

旅行です。有給をいただいて、街全体が世界遺産になっているというラオスの北部の街、ルアンパバンに旅行してきました。

ラオスの大変なところを支援しに来ているわけですが、平行してラオスの自慢のところも見ておこうというわけです。

朝は昆虫の世話。ラオス人スタッフに引き継ぎ、
ビエンチャンまで片道7時間のバス。ビエンチャン泊
そしてワットタイ国際空港から空路でルアンパバン空港へ。

そしてなんと現地で風邪(?)でダウン。
食欲不振と高熱でもしかしてもしやデング熱か、と焦ったのですが、無事一日で熱は治まり、回復してしまいました。
なんともよくわからない状態。まぁ休暇中にダウンしてよかったです。昆虫の世話をしつつだとキツかった。

そして回復した最終日の朝、朝市に行き、タサール蚕を購入できました。

ビエンチャンのホテルで何度か持ち込んでいた昆虫が死んだことがあったので、何らかの殺虫剤が散布されているだろうと思い、
タサール蚕を窓の外に吊るしたりしながら、なんとか死なないようにして帰ってきました。殺さずに帰ってこれるならもうちょっと大量に買えばよかったかな。さて、優雅な休暇と療養をすごしたわけですが、ルアンパパンのお土産屋にはタサール蚕の織物は見つかりませんでした。
 
少数民族がいろいろな蚕をつかって織物をつくっていることは店員も知っていて、それらを見学するスタディツアーのようなものはあると
教えてもらいましたが、街中でそれを扱っている店をみつけることはできませんでした。

タサール蚕の購入にあたっては、繭付きで売られていたことから、繭はあくまで梱包材で
その後の繊維利用はないようです。

また、タサール蚕はヤママユガ科ではあるものの、カイコガと同様に糸口から一本の糸をとることができるので、
食用に切り開かれた繭と、繊維用の繭の用途を同時に満たすことはなかなか難しいと考えられます。
なので朝市で食用にしたあとの繭を回収するようなことができれば、もうちょと用途が開けるかもしれません。

ルアンパバンでおもしろかったのはこれ。

そしてお土産で買って帰ったこれ。

きちんとデザインをすれば、ラオスの産品は世界に通用する。そしてその実践がすでにルアンパバンにある、ということを
知ることができました。がんばります。

帰ってきてタサール蚕を味見。

サナギ
う、うまい。。
たっぷりとした量感と裏ごしした栗のコクとかおり。
エビの殻の旨味。すっと広がる汁そして圧倒的なコク。

成虫
表面にまぶした塩が効いて胸部のうま味とタンパクな筋肉の食感
腹部に格納された大量の卵がバチンバチンと弾けるメス。あぁ最高。

前蛹
やはり前蛹のバランスは外せない。噛みごたえのしっかりした幼虫の外皮をのこしつつ
消化管内容物は押し出され味がピュアになり、そして食感の悪い絹糸腺は繭となって包んでいる。
見事。やっぱこの段階がベストだろうなと。

意外と成虫の味のまとまりがよかったです。サナギはちょっと味がが強いので他の材料とあわせると落ち着くかと。
いくつかのレシピも考えていきましょう。

コオロギ食について整理してみないか その1
コオロギ食について整理してみないか その2
そしてその3です。

2010年温室効果ガス論文、2015年Oonincx論文の紹介とともに、
コオロギ食から派生した昆虫食の最前線までを体系的にまとめておきましょう。

2010年の論文で示されたのはこちら。二酸化炭素「相当量」で重み付けした温室効果ガスを比較したものです。

2013食用昆虫科学研究会アゴラ資料より

昆虫の消化戦略において、あまり温室効果ガスを発生させる微生物の関与がすくないことが想像されます。

とはいっても、シロアリはかなりの温室効果ガスを消化管から発生させることもあるので、「昆虫は」でひとくくりにするのは駄目です。

ミールワーム、コオロギ、バッタはけっこう将来性あるぞ、といえます。

そして
2015年Oonincx論文

HPHF(ハイプロテインハイファット) ビール粕、ビール酵母、クッキー
HPLF(ハイプロテインローファット) ビール酵母、ポテトの皮、糖蜜
LPLF(ロープロテインローファット) クッキー、パン
LPLF(ロープロテインローファット) パン ポテトの皮 糖蜜

を組み合わせ、食物残渣由来のエサをつくり

それをミールワーム、コオロギ、ゴキブリに食べさせてその回収効率を比較しています。

ミールワームについてはどのエサでも
タンパク質回収効率はさほど変わらず、ロープロテインハイファットで生存率が15%まで下がります。
脱脂したあとの残渣等からの栄養回収に適しているともいえます。

ゴキブリはさすが。生存率はHPHF条件が80%と高いですが、LPHF条件でのみ、87%ものタンパク質(測定しているのは窒素)を回収することに成功しています。LPHFの主な原料は残渣のクッキーですので、人間が食うと太ってしまうようなジャンクフード、菓子類からゴキブリを使って栄養回収することで、ヒトにふさわしい栄養素だけを選択的に回収できることになりそうです。

注意しておきたいのは、ゴキブリの場合、食べ物によって体に含まれる栄養素も大きく変わるようで
高タンパクエサではでは高タンパクな体となり、低タンパクでは低タンパクな体になります。(FIG.1)
消化管内容物なのか、それとも貯蔵組織の可変なのかはわかりませんが、出荷目前には高蛋白なエサを食わせたほうがよさそうです。

そして残念なのはコオロギ。HPHFの恵まれた栄養条件以外のエサではデータがとれないほどに死んでしまいました。
人間の栄養にとって低品質のバイオマスから、高品質の栄養を取り出すシステムには、コオロギはふさわしくないように思える結果です。

以上から

Fao2013以降のコオロギ食についてまとめてみましょう。

コオロギ食については、進展がめざましく、もはやポテンシャルについては十分議論ができ、「本当に役に立つ」かどうかは次の段階の検証が始まっています。具体的に実装し、ライフサイクルアセスメントをする段階です。

コオロギでの新しいシステムモデルをつくるか、

コオロギ以外の種で目的を達成するシステムを組むか

という次の課題が見えてきましたので、コオロギの2013年のポテンシャルだけをもって、昆虫食を推進したい、となるとやや出遅れ感があります。ビジネスにする場合にしろ、他と差別化する場合にしろ、システムのモデルを提示し、ライフサイクルアセスメントを経ることで、コオロギ食というものがさらにレベルアップしていくことでしょう。そしてその中で、目的にコオロギが合わない場合、コオロギ以外の食用候補昆虫が選ばれていくことになるでしょう。

もちろん私のバッタのプロジェクトも、コオロギのこれらの論文を踏まえて、コオロギでは達成できない目的に向かってシステムを構築しています。

 

前回の記事
最新のライフサイクルアセスメントの結果をもとに、
コオロギがニワトリと同程度かそれ以上のポテンシャルをもつことを解説しました。

そして実験室での成果と産業での実際との効率にまだまだ差があるので、
今後はもっとハイレベルなコオロギ養殖のデザインが可能であることが示されました。

では、この2018論文が引用した「実験室での結果」2015Lundy論文を紹介します。

2015Lundy論文は1991年論文
「コオロギは体重増加1kgあたりの飼料が1.7kg ニワトリは同2kgなのでコオロギのほうが効率が高い」
を受けたものです。

2013年FAO報告書も、2010温室効果ガス論文も1991論文を引用したのですが、2015Lundy論文は
死亡率まで含めより詳細に検討し、タンパク質転換効率ではコオロギとニワトリが同程度だと示しました。

2015Lundy論文はコオロギをもてはやす風潮に批判的な態度という主旨ですので、厳密さという意味で信頼度が高いですし、
2018年論文は最もコオロギに批判的な2015論文を引用し、そのデータを使った上でライフサイクルアセスメントの結果を示したという意味で批判の応酬が見事に議論の質を高めています。このやり取りは大好きです。

Crickets Are Not a Free Lunch: Protein Capture from Scalable Organic Side-Streams via High-Density Populations of Acheta domesticus

それでは内容に参りましょう。

飼料栄養効率だけでなく
Feed conversion ratios (FCR)
タンパク質栄養効率
Protein conversion efficiency (PCE)
も比較しています。

このとき、普通のニワトリ飼料(PF)の他に
生ゴミ由来の飼料候補(FW)と作物残渣由来の飼料候補(CR)を試しています。
結果的にはあまり良い結果ではなかったですが、食料品店からの生ゴミ堆肥を使った飼料(FW-1)についてはニワトリ飼料PFよりやや低い程度のスコアで育ちました。他の飼料がずっと低い結果なのは、コオロギは共食いしやすく、FW-2 CR-1 CR-2のタンパク質(窒素)量が十分でなかったためと思います。

「薄い低品質の」タンパク質の濃度や質を高める能力は集団飼育コオロギは弱い、ということがわかります。

この、有機副流(organic side-streams)を処理するというアイデアは、コオロギから派生し、別の昆虫で実現しそうになっています。食物残渣で、かつタンパク質が薄くて低品質のバイオマスの質を高める昆虫を検討し、ゴキブリとミールワームがなかなかいいぞという論文がありますので、その3で紹介しましょう。

そして、コオロギのタンパク質転換効率はニワトリ飼料で最大となり35%。ニワトリが25%から33%ですので、
「タンパク質転換効率では大差ない」ということになります。

少し補足しておくべきなのが、65%はウンコもしくは分解消費されてしまうということです。
そしてコオロギの餌はニワトリと同等の、タンパク質を20%含むトウモロコシ・大豆・フィッシュミールの混合物です。

ニワトリ飼料は膨大な量が流通しており、
栄養的にはヒトの食用に適していて、残念ながら美味しくない、という特徴をもつバイオマスですので、
そのタンパク質の65%を失ってもなお機能性がある、ということをコオロギ食は今後アピールする必要があります。

そして、飼料栄養効率はFCRが1.47であることが示されました。1991の論文1.7よりも効率的ですが、
大量飼育したこと、1個体あたりの床面積が異なることが理由であろうと書いています。

少し脱線しますが、鉤爪をもち、隙間や裏天井のような場所が好きで、脱皮にぶら下がる場所が必要なコオロギには立体的な飼育環境が必要です。なので、「飼育密度」は床面積で表現するのは必ずしも正しくなく、立体的な足場の構造を含めて記述・比較して最も効率的な密度へと最適化していく必要があると思われます。

話を戻します。

そして素晴らしいディスカッション 最後の一文。

In order for insect cultivation to sustainably augment the global supply of protein, more work is needed to identify species and design processes that capture protein from scalable, low-value organic side-streams, which are not currently consumed by conventional livestock.

昆虫養殖が世界のタンパク質供給を持続可能な形で増加させるには、育てるべき種を決めることと、他の家畜では未利用の低品質の有機副流(オーガニックサイドストリーム)から様々な規模でタンパク質を回収するプロセスのデザインが必要であろう。

そうなんです。プロセスのデザインが必要ということであります。

プロセスがデザインされシステムとして実装されると、ライフサイクルアセスメントができるので、そのシステム全体が持続可能性に寄与するかどうか、判断できます。

この提言により、2015年Oonincx論文へとつながります。
2015年Oonincx論文は有機副流からタンパク質を回収するにはどれがいいか、複数の昆虫を比較しています。

Feed Conversion, Survival and Development, and Composition of Four Insect Species on Diets Composed of Food By-Products

その3ではこの論文を紹介し、コオロギ食の研究が基盤となって、
これからは「システム」と「昆虫の種」をデザインしていく、そのときに必ずしもコオロギである必要はない、という現在の
学術的な昆虫食の全体像を見渡せるようにまとめようと思います。

1

ラオスに来ています。
3月には日本で、外来種であるフェモラータオオモモブトハムシを食べる会を開催していました。
そして4月、こちらのプログラムでラオスに来ているんですが、新拠点を借りたその敷地内で、出会いがありました。

このプログラムでは、ラオスの住民の栄養に寄与できる実践的な農業を現場で技術開発し、実装していくことを目標としています。
住民が季節性の昆虫を「採って食べる」ことは私が参加する以前から分かっていたことで、それを少ない労力、力の弱い住民でもできて、そして不足しがちなタンパク質を補給できる新家畜候補として昆虫に着目しています。

はじめから昆虫ありきではなく、「昆虫も含めた」農業の実装を目指しています。
外来種を食べる意義でも触れましたように、フェモラータオオモモブトハムシはクズを食べて成長するため養殖が容易と考えられます。

外来種を養殖するか、全滅させるか、というのは侵入した地域におけるシビアな問題になるので、あくまで思考実験として「養殖化」を提案しましたが
ここラオスでは在来種として、このハムシが生息している「らしい」との話を、文献で知っていました。

ラオスではタンパク質が不足しがちであるものの、大豆を食べる習慣は少なく、雨季は水が多すぎ、乾季は少なすぎてなかなか大豆の作付けが難しい地域です。大豆などのマメ科は窒素固定をして土を豊かにするので、自給的で肥料や農薬を買うお金のない住民にとっては、魅力的な機能です。一方で、木質化して明らかに一年以上、つまり雨季も乾季も乗り越えたマメ科の雑草がいたるところにいます。つまり、「大豆がなければ別のマメ科の植物体を虫に食べさせてそれを食べればいいじゃない」ということです。

12月のセミナーで、ハムシを食べる、という人が半分ぐらいいたのを確認しましたので、大豆よりも有望な食料資源だろうとは思っていました。ところが、クズが見当たらない。うーん。どこにあるんだろうと2日ほど時間を見つけて探したものの、繁茂している様子はありませんでした。

それとは別に、新拠点を借りようといくつかの物件を下見をしていて、敷地が広く、簡単な農業実験もできそうな庭もある物件に決めました。
そしてそこの生け垣を整備していたら、ついに。

Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos

 

 

キター! !!!!

Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos

 

いくつもいた!

Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos

 

脱出済みのもいた。

Sagra femorata Laos

 

集めた虫こぶたち。

Sagra femorata Laos

 

 

45頭とれました。

Sagra femorata Laos

 

 

グリーンも。

Sagra femorata Laos
Sagra femorata Laos

 

 

さて、不思議なのはこの虫こぶの植物がクズではなく、すでに枯れていて、植物の種類が特定できなかったこと。そして今の時期でてくるということは、宿主である茎と、成虫が食べる葉が一致しない可能性があるということです。宿主となるには、ツル性であることが条件になりそうです。というのも、ツル性で虫こぶができるタイプで、かつそれほど木質化が進んでいない部位でないと、脱出が不可能になると考えられます。三重でみつけたこの大きな虫こぶも、

巨大むしこぶ。マンションのようだがほとんどおらず。

たくさんいそうですがむしろ少なく、古い脱出跡しか見られませんでした。そして、いずれの虫こぶも完全に埋まっているのではなく、繭を破れば脱出可能な「窓」がついています。なので、成虫が食べるものの、茎は利用しない「餌用のマメ科」と、茎を利用する「宿用のマメ科」があると思われます。

ちょうど45頭見つけましたので、いくつかのマメ科を与えて比較をしてみようと思います。

あ、忘れるところだった。味見。味見が大事です。茹でて味見します。

茹でるための便利グッズとして、これを使いました。これで電気さえあればどこでも茹でられる。
カセットコンロなど可燃物を使った加熱装置は飛行機での移動などでかなりめんどくさいことになります。少し重いですが、成田で買いました。

Sagra femorata


意外と、強めの苦味がある。三重のはなかったのに。

成虫になってから摂食はしていないので、おそらく宿主となった植物の防御物質だろう。意外だった。
カリカリと砕けていく外皮は口に残らずクリスピーな食感。クリーミーな味もあるので苦味だけどうにかできればよさそう。

Sagra femorata


体が小ぶりな分苦味も少ないが、やはり苦い。熱帯のマメ科はみんな苦いのか。クズを食べさせてリベンジしておきたい。
そして幼虫の味見もそのうち。


脱皮したての白いゴキブリ。彩りにも美しく、かつ食感が良いためとても美味しいです。

驚愕の昆虫食フェス!「ゴキージョ」が大人気【あやしい取材に逝ってきました】


以前の虫フェスでは、「ゴキージョ」が振る舞われました。
養殖昆虫食が採集昆虫食に対するアドバンテージとして「成長段階を揃えられること」
があります。多くの昆虫は脱皮直後は体が弱く、多くの捕食者に狙われてしまいます。
そのため脱皮してすぐに酸化反応によって黒くなり、硬化してしまうのです。
これをどうにか遅らせられないか、と考えていたところ、
ブルークラブというカニの文献をみつけました。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0044848600006037
Calcium concentration in seawater and exoskeletal calcification in the blue crab, Callinectes sapidus
甲殻類は昆虫と違ってカルシウムが甲殻の硬化に必要であることが知られています。
適度な濃度にカルシウム濃度を下げ、かつ同時に海水も希釈することで
死亡率をあげないように数時間はやわらかいまま維持できるとのことです。
当然、長期間やわらかいままですと移動や捕食に影響しますし、
カルシウムが不足しているわけですから他の生理的な影響もあるのでしょう。
「ずっとソフトシェルのままのカニ」というのは存在できないのです。
では、カルシウムを用いない、昆虫の場合、どうでしょうか。
ここで、黒化と硬化の最先端、クロカタゾウムシに登場してもらいましょう。

カタゾウムシはほんとうに「硬い」ことだけで生きています。
翅を背中に接着してしまい、スキマのない曲面を構成することで
ものすごい強度になっています。動きが遅く、擬態もしていないので
目立つはずですが、コレを噛み砕ける昆虫食の動物はなかなかいないのでしょう。
茹でて味見してみます。
硬い!けどザクッバシッと弾ける食感は、パッションフルーツの種のようで面白い。カタすぎて弾力がなく、口に残りにくい。内部はナッツの香りと甘みもある。71点
意外と人の奥歯は優秀でした 笑
カタゾウムシの共生細菌の研究から、こんなことが示唆されています。
クロカタゾウムシのクチクラの硬化と着色に共生細菌Nardonellaが果たす役割
http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/201302215006545271
学会で聞いたものの、文献はまだ公開されていないようなので
内容はぼやかしますが、共生細菌をなんやかすると
「シロヤワゾウムシ」になるとのことです。
つまり、共生細菌をいじることで、もしくは共生細菌を使わない生物では
何らかの栄養を制限することで「白くて柔らかい昆虫」
を作ることができるのでしょう。
もちろん、これをカニと同じように制限してしまうと
体調を悪くするでしょうから
成虫脱皮の後、体が硬化する前に、栄養制限を発動するような
高度な遺伝子操作をすることで
「食用シロヤワゾウムシ」ができるかもしれません。
クロカタゾウムシは比較的丈夫で飼いやすいとのことで、今養殖できないか試行錯誤しています。
また養殖に成功しましたらお知らせします。

今回はわりと固い話です。
前記事で、「蜂の巣の害虫であるハチノスツヅリガとハチノコを分けて養殖するには」
という問題を投げかけました。
今のところ、そのような技術はありません。室内で隔離するしかないのですが
この先大量に食用に使う場合は、何らかの革新的技術が必要ではないかと思います。
「この先利用可能性の高い応用昆虫学」として
応用昆虫学の最先端、マラリアを媒介する蚊の研究を紹介します。


蚊は、熱帯地域における重篤な感染症「マラリア」を媒介することで恐れられています。
原因となるマラリア原虫が蚊を介して血液内に侵入すると、
赤血球に寄生し、その機能を阻害することで、重度の貧血症状を引き起こします。
この原虫の対策となる「鎌状赤血球」の遺伝子をもつ人が
アフリカ地域に多くいることを考えると、
マラリアが我々ヒトに与えてきた影響の強さが想像できます。
当然ですが、蚊はヒトの出すCO2やニオイに誘引される性質があります。
そのため、今までの忌避剤は、ヒトの誘引性よりも強く
忌避する物質を使って、「虫避け」が行われてきました。
世界中で使われている虫除けDEETなどが有名ですが、
そのメカニズムは分かっていません。
こんなかんじ。

DEET→蚊(ブラックボックス)→忌避行動
DEEDのどこがどう効いているのか、
それ以上効くようにするにはどうすればいいのか
人体に影響が少ないようにするためにはどうすればいいのか
全く予想がつきません。
これでは、DEETより良い忌避剤を見つけるために
膨大なトライアンドエラーを繰り返す必要があり、研究費がいくらあっても足りません。
もちろん、ヒトは代謝するたびにどんどんニオイを発しますので
DEEDを24時間塗り続けることもできません。
かといって高濃度を使い続けると、
ヒトへの悪影響も心配です。
こんな感じ。
DEET+人→蚊(ブラックボックス)→誘引行動?忌避行動?
できるだけ少なく、
蚊の防除に効率的な物質を、効率的に見つけるのはどうすればいいでしょうか。


そこに踏み込んだがこちら。
Stop the Biting: Targeting a Mosquito’s Sense of Smell
元論文は
まずは去年の
「ヒトのニオイとCO2を感知する感覚細胞を(ほぼ)特定して、蚊をだますニオイを見つけたで」という話。
Targeting a Dual Detector of Skin and CO2 to Modify Mosquito Host Seeking
そして今年の論文
「蚊の組み換え体を使って1つの感覚細胞だけを操作して、とうとう本丸の細胞と受容体を特定したで」という話。
Multimodal Integration of Carbon Dioxide and Other Sensory Cues Drives Mosquito Attraction to Humans
この研究グループは、蚊の行動ではなく、蚊がヒトのニオイを検知するときに必要な
「感覚細胞一個」にターゲットを定めました。
そして、2の論文では感覚細胞における受容体タンパク質一個にターゲットを狭めています。
蚊のすべてをシミュレーションするのは難しいですが
「分子一個の挙動」ならば、現在のシミュレーション技術である程度の予測が可能です。
既知の結合分子からのシミュレーションによって、
この感覚細胞に影響をあたえる可能性の高いニオイ分子に検討をつけ、
実際に与えて、その行動や、神経活動を記録し、比較しました。
ヒトのにおい→受容体分子→感覚神経→脳→行動 というルートの
       ↑ココをターゲット
すると
人の匂いがある状態で、受容体の活動をキャンセルする物質や(ニオイを感じなくなる)
分子  とか
ヒトのニオイよりも低濃度で、受容体分子を活性化する、
ニオイ物質が見つかりました。
今までの忌避剤のような
「ヒトがいるけど臭くて近寄れぬ!!」
ではなく
「あれ? これヒト? ヒトのニオイじゃなくね?」
という感じでしょうか。
これらを組み合わせることで、
誘引性の殺虫トラップと、
撹乱性の「対蚊ステルス」を組み合わせることで
「ヒトと蚊の居場所をずらす」可能性が考えられます。
しかも、受容体分子のみをターゲットにしているので
蚊にとって致死的ではなく、薬剤耐性ができにくい、という大きなメリットもあります。


さて、
この研究から言えるのは
「化学物質をメインに利用している昆虫をダマす」
ということが、
技術的には十分可能であり、まだまだ実用化の余地がある、ということです。
そう考えると、
以前に「ダーウィンが来た」でやっていた昆虫食の猛禽類、ハチクマの
「スズメバチの攻撃を抑えるニオイ成分」なんかも候補に上がります
私のボスにこの話をすると、
「ハチクマがもしスズメバチを抑えるニオイ物質を持っていたとすると、初回から匂い物質を出していれば安全に捕食できるのに、攻撃受け放題だったのがおかしい。もしかするとスズメバチの
警報フェロモン自体が、長時間分泌されると攻撃を抑制するようになるのかも」
とのこと。
するとスズメバチの駆除の前に、その警報フェロモンを遠隔操作で噴霧しておき、スズメバチがひとしきり興奮した後に駆除(もしくは捕獲・捕食)できるのではないか、と考えられます。


さて
話を戻しましょう。
同様に、
ハチノスツヅリガは蜂の巣の害虫なので、
養蜂と同時に養殖することは困難です。
ところが、
蜂の巣のニオイに誘引されない状態を演出できれば、
同時に扱える可能性があります。
蜂の巣+撹乱ニオイ              誘引ニオイ 巣の残渣
         →ハチノスツヅリガの移動→
こうすることで
蜂の巣とツヅリガを近所で共存飼育できる可能性があります。
もともと養蜂には殺虫剤が使えないので
養蜂のさらなる高度化に他の昆虫を利用することは比較的簡単にできるでしょう。
「ハチで受粉した果物」と「蜂蜜」と「ハチノコ」と「ハチノマゴ」
養蜂の高度化が成功すれば、よりハチとヒトのいい関係が築けるのではないでしょうか。


更に、
化学物質によって社会を営んでいる「アリ・シロアリ」の利用にも
同様にニオイ分子を探索し、ヒトの匂いを撹乱することで
アリの子を効率的に捕獲出来ると考えられます。
「好蟻性生物」というものをご存知でしょうか。

日本では丸山宗利博士、小松貴博士らが精力的に研究をしている
分野で、
「アリの巣に居候」することで、
アリに用心棒をしてもらったり、アリのエサを分けてもらったり
あろうことかアリ自体を食べたりして暮らしています。
けしからん遊び人ですが、アリは主に化学物質をつかったコミュニケーションで
互いのニオイを確認し、社会生活をしています。
この時、視覚は余り重要でないらしく、アリの30倍以上の体重をもつ
巨大な昆虫も、アリの巣でのうのうと暮らしています。
アリにとって、サイズはあまり関係ないようなのです。
そのため、
ヒトが「ニオイでアリに擬態」することで
「アリのニオイをつけた巣箱」へ誘導したり
彼らのエサ収集能力や、用心棒、アリの子を食べたりする
「アリ食」にも応用出来る可能性があります。
オオシロアリ」の記事で言及した
「非木材林産物」としての利用が、これらの昆虫学の進展により
一気に進み、「養蜂」ならぬ「養アリ」が新たな半養殖昆虫になるのではないか、
と考えています。