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ラオス中部における亜鉛サプリメンテーションの評価論文(からの昆虫食の栄養の話)

こちらはガチの国際保健の論文です。2015年から2017年にかけて、ラオス中部において行われた大規模研究、Lao Zinc Study の報告論文が公開されました。3400人を超える子供たちを4群に分けて、ランダム化比較試験(RCT)をしたもので、単独の調査の中ではかなり信用度の高い論文になります。これは読んでおかないといけない論文なのですが、私が保健の訓練を受けていないのでISAPHの皆さんに教えてもらいつつ読んでみました。

なぜ読んでおかなければならないか、というと

「亜鉛をサプリメンテーションすれば栄養問題が解決」

のようなロジックと同じように

「昆虫を食べれば栄養問題が解決」といった誤ったロジックに陥る危険があるからです。

はい、ここ重要です。誤ったロジック

背景:ラオスのサプリメンテーション

サプリメンテーション、というのはすでに栄養の足りている私たちが健康食品の錠剤を飲んで元気になった気がする、という「サプリ」の話ではなくて、国際保健における一つの手法です。実はラオスにおいては予防接種に合わせたビタミンAのサプリメンテーション(経口投与)と、市販の食塩に微量のヨウ素が添加されるサプリメンテーションが行われています。サプリメンテーションは最終的にはこのような国の施策へとなっていくもので、今回の研究ではこれらの次のサプリメンテーションとして亜鉛(ここで注目されているのは鉄も)重要なのではないか、と着目されることとなりました。

さて、亜鉛、というと、こんな論文が思い浮かびます。

THE SPECIFIC LOCATION OF ZINC IN
INSECT MANDIBLES

昆虫のアゴに亜鉛が局在しているという話は昔から知られており

Tooth hardness increases with zinc-content in mandibles of young adult leaf-cutter ants.

アゴに蓄積した重金属が歯の強度を高めているらしいことがハキリアリで確かめられたとのこと。そこから

Insects as sources of iron and zinc in human nutrition.

鉄と亜鉛の供給源として昆虫はどうか、という論文もまとめられました。そのため亜鉛と鉄と昆虫は無関係ではないのです。

今育てているヤシオオオサゾウムシもそこらへんを意識していまして、100gあたり10mgの亜鉛という論文もありました

さて読み込んでいきましょう。

4群にランダムに分けられた2歳未満の子供達。

1、予防的亜鉛(7mg/day)これが一番安いでしょうね。これが2と同じぐらい効いたら安くてよく効く第三のサプリメンテーションを始められる。

2、15種類のマルチ微量栄養素タブレット;WHOが使っているもの。亜鉛(10mg/day)だけでなく鉄を少量(6mg/day)含むと書いてるのはエンドライン調査で貧血への効果が少しあったため。ここで使われた多微量栄養素剤(multiple micronutrients)は引用元によると ビタミン A・E・D・B1 ・B2 ・B6 ・B12・C、ナイア シン、葉酸、鉄、亜鉛、銅、セレニウム、ヨードの15の微量栄養素を含んだ錠剤だそうです。

3、治療的亜鉛(20mg/day );子供が下痢をするたびに10日間高濃度亜鉛を投与。下痢と関連する亜鉛不足を治療する投与の別の方法。こちらが効いたら毎日ではなく下痢に対して投与を推奨、となる。

4、プラセボ;ランダム化するためにはこの比較をするのは仕方ないんですが、何も効かないものを栄養状態の悪い人に毎日飲め、というのはなかなか暴力的な気がするんですがモヤモヤしますね。

と分けられ、9ヶ月実施した後にエンドライン調査によって比較されました。

2が「ポジコン」になると期待しての設計かと思われます。
15種類を確実に適量含むタブレットを製造する技術、品質管理、そして輸送にはコストがかかります。 今回の結果により1,もしくは3,の亜鉛の投与にフォーカスが当たれば、より安く効果的にサプリメンテーションができると期待できます。
こちらはラオスで行われる研究ではかなり巨大プロジェクトなのですが、その誤算はそのポジコンになりそうだった15種類タブレットのサプリメンテーション効果が今ひとつだったことでしょう。

炎症状態になるとこれらの微量栄養素の数値が影響されてしまうらしいので、補正した数値をもとに検定すると血中亜鉛濃度(1と2)と亜鉛欠乏症の割合、2においてフェリチン濃度(鉄欠乏貧血と関連)に有意差が見られました。(storage IDってなんでしょう?)

一方でラオスで長年問題になっている低身長(Stunting)は44%から50%とばらつきがあるものの、介入による有意差はありませんでした。

この論文が引用している鉄サプリの論文があるんですが、こちらにも多少は貧血に効いたものの低身長に対する効果は見られず、食生活の改善による栄養の補完が大事だろうと結論づけています。

そうなのです。

ラオスの低身長は長年の案件で特効薬と言えるものは見つかっておらず、もっと総合的なアプローチと戦略が必要なのです。そこに対するアプローチとして、昆虫養殖の普及に伴う食生活の変化が何か貢献できないだろうか、と試行錯誤しています。

昆虫養殖によって時間に余裕ができ、お金に余裕ができ、そのお金でスナック菓子を買っては本末転倒ですので、栄養教育も並行して実施していく。その時に「食べ慣れた昆虫が自宅で手に入る」という面白さ、真新しさがどの程度彼ら(と私たち)のモチベーションに貢献していくか、という部分が大事になっていくだろうと思います。

逆にいうと、これほど人体に対するエビデンスがしっかりしているサプリメンテーションですら、地域での実装段階ではかなり多くの不確定要素があり「効かない」ことが多くあります。エビデンスがそれ以下である昆虫を引き合いに出して「昆虫を食べれば栄養問題が解決」などというのは現段階ではおこがましいのです。

昆虫食文化のある地域で、養殖昆虫がどんな役割を担っていくのか、いくべきか、という部分を掘り下げ、ラオスの他の地域でも応用可能か、検討していくことが今後の課題となるでしょう。

以前にも触れましたが、「昆虫食は未来の食糧問題を解決しない」のです。

今の栄養問題を解決できない限り。

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