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スペキュラティヴ・ゾウムシ

現在、味の素ファンデーションからの助成を受け、国際協力NGOであるISAPHの協力のもとで昆虫養殖普及のためのパイロット農家の育成を行っています。
ゾウムシはあくまで「斥候」のようなもので、簡単で養殖しやすく、飼料も比較的安くバランスがいいため一番手にしました。その後には少し養殖に手間のかかる昆虫や、市場ニーズの強いもの、あるいは養殖コストが安く効率の高いものが二の矢、三の矢として控えています。そのような段階を踏んて効果測定をしながら活動を進めていくことを、こちらの業界では「ラダー(ハシゴ)を組む」と呼ぶそうです。それが単に徐々に難易度を上げることで離脱を防ぐ効果だけではなく、昆虫養殖への動機付けが促進したり、今後の課題の理解が促進するようなスペキュラティヴ(問題を提起する)な効果があったと感じたので、その経過をここにまとめておきます。これまでの活動の動画を作りました。村での会議でも上映してもらい、好評だったとのことです。

初めはみなさんドン引きでした。私も(今思い返せば)安易なもので、昆虫を食べている地域であれば、昆虫を養殖して食べることも受け入れてくれるだろう、と気軽に構えていたのです。ところが。この8月の写真。

だいぶ引かれる。(撮影・ISAPH)

この集まりは昆虫養殖の前段階となる「VNV=Village nutrition volunteer(村落栄養ボランティア)」の育成カリキュラムとして集められた村の女性たちですので、そもそも昆虫養殖の希望者ではありません。彼女らは子供の栄養状態をなんとかしようというISAPHや保健職員の呼びかけに応じて集まり、栄養や衛生に関する講義を受け、調理学校の先生の指導のもと今まで手を出したことのないハイカラで栄養豊富な食材や料理法にチャレンジして一緒に食べるものです。

講義の合間に料理も進める。
教わりつつ協力して料理を進めます。
日本人からするとだいぶからいですが、おいしいです。

昨年8月に3日間をかけて主な研修を行い、その後毎月1日ずつフォローアップとして講義と調理実習、というカリキュラムが組まれています。
村には専門学校がなく、本来は100キロ離れた街まで行かないと受けられない、料理学校の先生の実習を無料で受けられるとあって、生徒たちのモチベーションは高かったようなのですが、「では次に昆虫を育てましょう」という私の話はやはりピンとこなかったようで、先の写真のように盛大に引かれたというわけです。ここで引き下がってはいかんので、フォローアップ研修の時に時間をもらって3度にわたって説明を繰り返し、研修が終わる10月に募集したところ、なんとか3村5家庭に手を上げてもらうことができました。ホッとしました。誰もやりたいと言わなかったらどうしようと。

11月の初めから第1シリーズをスタートし、3週目にモニタリングと第二シリーズのセット、5週目に第1シリーズの収穫と第3シリーズのセットを行い、時間差で養殖の技術指導をしていきました。

スケジュール説明用イラスト

並行して街にある事務所ではゾウムシの成虫を供給できる体制を整えるべく、20から30ほどのタライを使い育て、さらに実験として村で自給できない副原料を別のもので代替できないか、小ロットの実験容器で比較していました。

系統維持容器と実験容器

養殖する前と後ではパイロット農家の意識が大きく変わっていました。実際に育てて自家消費してみることで、子供が喜んで食べるから続けたい、とか、餌となるキャッサバをどうにかして手に入れる方法はないか、とか、昆虫を養殖して食べた、という実体験が事前にはうすーくしか感じられなかった昆虫養殖へのモチベーションを強化し、これからの問題意識がスッと理解できてくるようで、やはり実体のある「食える教材」としての昆虫はすごい。スペキュラティヴだと思ったものです。

パイロット農家に説明していると見物に来るご近所のみなさん。

そしてパイロット農家への指導をしている時間に毎回、そのご近所の人が見物に来るという波及効果もありました。現段階の支援活動はどうにも予算が限られているため、全ての村に全ての子どもが食べたいだけのゾウムシの餌を無償提供することはできません。また、栄養の知識がないのにゾウムシの養殖をしただけでは、所得の向上につながったとしても、それが栄養に還元されるとも限りません。経済格差、健康格差の拡大につながっては本末転倒です。今回のステップで子供がもっと食べたい、あるいはご近所で養殖を試してみたいのにそのエサの供給が足りない、という状況を作り出すことができたので、彼らが次の問題へと目を向けることができました。それによって無事「キャッサバの自給」がパイロット農家と私たちの目標として共有されたのです。

2019年に入り、1月からはキャッサバが栽培できそうな候補地を村内で探しています。ラオスを含め東南アジア地域のキャッサバの作付けデータは豊富にありますが、計算上の見積もりがこの村でも同様に言えるのか、実験的に確かめて、村人にデモンストレーションしつつその作付け面積を拡大していく予定です。同時にご近所の昆虫養殖に興味のある村人へ、村落栄養ボランティアが先生として、栄養と昆虫養殖とを同時に教える形で養殖と栄養知識を広げていく計画です。

昨年6月から長期でラオスに滞在できることになり、国際協力の活動の現場に初めて参加し、そして少しばかりの成果と呼べそうな第一歩を踏み出しました。この先、村人との信頼関係を深め、昆虫養殖普及のメソッドの開発をしながら対象村での昆虫養殖農家を増やせればと思います。同時に、食用に適した新昆虫や、手間を減らす新技術も、ここラオスで実装研究をしたいと考えています。すでにゾウムシの餌の副原料のうち比較的高価なものについては、自給可能なバイオマスに代替する目処はつきましたので、村落に豊富にありながら村人の栄養と競合しないバイオマスを積極的に転換し、効率的にゾウムシが増えていく村になっていくと思います。また今後、村落にゾウムシ養殖が広がるにつれ、養殖したゾウムシの在庫がダブついてくるでしょうから、次の段階として、村落の外(もちろん日本も含みます)に売りに出したり、ゾウムシ以外の新しい昆虫へチャレンジしたりと、村への昆虫養殖規模の拡大に合わせて、その支援の形も変化させ続けていこうと考えています。その中で、昆虫養殖の導入がかえって所得格差を広げたり、健康格差を広げてしまうことのないよう、モニタリングを続けることがこの活動の責任であろうとも考えています。

さて、この件で「スペキュラティヴである」とはどういうことか、何をもって「スペキュラティヴであった」と言えるか。自分なりに考えられたので、また別の記事でまとめておこうと思います。

今の懸念は「スペキュラティヴ」というデザインやアートの界隈で「新しい」とされている概念が、社会学や開発学にとってはありきたりな、あるいは対象者の事前と事後の検証がないために表現者側にとって都合のいい仮説ばかりが先行しがちな、むしろゆるい概念なのではないか、という点です。まだモヤモヤしているのでもうちょっと勉強してみます。

ということで日本に書籍を置いてきた社会学の教科書、こちらを再度読んでいます。マイナー書籍ほど電子書籍にしてほしい!と思いますがなかなか難しいのも、わかりますが、海外で新しいことを勉強するのに日本の書籍の電子版は本当にありがたいです!ぜひ増えてほしいです。

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