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スノーピアサーに昆虫食は出てくる。

Twitterで「昆虫食がでている」と教えてもらって、スノーピアサーを観ました。たしかに昆虫食映画でした。すごくいい昆虫食映画です。

あらすじ

2014年
地球温暖化を阻止するために撒かれた薬品が効きすぎてしまい、地球は全凍結。文明は崩壊し、ほとんどの生き物も死に絶えてしまう。画期的な永久エンジンを搭載した列車、スノーピアサーは、生き延びた人々を満載し毎年世界一周するルートをノンストップで走り続けた。しかし車内は富裕層から貧困層までのヒエラルキーが固定化された凄まじい管理社会であった。

それから17年後の2031年、スノーピアサーが18周目に差し掛かろうとするころ、スノーピアサー内で貧困層によるクーデターが起こった。はたしてクーデターは成功するのか、その先には何が待っているのか。

閉塞感のある現代階級社会の縮図として列車の形をとることで、貧困層と支配層のグラデーションを前後に配し、列車の後方から前方に向かって反乱をすることで、その対立構造を鮮やかに示しています。狭っ苦しい列車が舞台装置としてよく活きています。うまい設定を考えたもんだなと。

反面、食料生産に必要な装置は登場するものの、その量的な比率が適切か、というと疑問が残ります。乗組員全員をきちんと育てられるほどの食料を生産するには、もっと多くの食料生産ゾーンが必要でしょう。

ただ、客車の一つに一つの機能があり、それがドアを解錠するごとに切り替わるという見せ方をするのですから、「こっから100両ほど食料生産ゾーン」というわけにはいかないでしょう。そこらへんはファンタジー表現におけるデフォルメだと解釈しておきましょう。

スノーピアサーは絶対に止まることのない列車。1年に世界を一周し、それを18年続けているとのことで本来ですとノーメンテで線路が維持できるとは到底思えないのでナンセンスなのですが列車の科学技術についても、本論ではないのでまぁここは置いておきます。ひとまず論点を整理します。

1,スノーピアサーでこれまで行われてきた食料生産は妥当か

2,クーデターが成功してしまったらどうなっていたか

3,ラストシーンのあと、生存者はどのように生きていけばよいか。

この2点から攻めていきましょう。なので、ネタバレしますよ。見ていない方は注意してください。

1,スノーピアサーの食料生産について

まずは必要な栄養素を揃えていきましょう。はじめに水。なにしろこれは大事です。飲用可能で、清潔な水にアクセスできることはとても大事です。

年一回しか周回しないもんですから氷河や雪が線路上にくるので、それに先頭車両がぶつかり、砕氷しながら進むとのこと。砕氷から溶融までは先頭車両が、水の供給分配はやや後方よりの車両が担っていました。貧乏人ほど後方に高密度で住んでいますし、ヒトに最低限必要な水の量はだいたい同じなのでいい采配ですね。(富裕層は水をめっちゃ贅沢に使っていることが後にわかりますが)スノーピアサーのエンジンが大量の熱を発していること、そして地球凍結後も走り続けないといけない、ということを考えると相当に排熱に問題を抱えているようです。地球が温暖だった頃はどのくらいのスピードを出すつもりだったんでしょうか。

貧困者向けには体を洗う水がなかったことを考えると、その多くは飲料水とプロテインバー製造のために使われていると考えられます。プロテインバーといっても、市販のソイジョイのようなものではなくてもっと蒸し羊羹やういろうに近いものです。

スノーピアサーは2014年に出発していますから、今の世界の食習慣とあまりかわらないでしょう。「ステーキが食べたい」との発言もありますので彼らの食欲は我々のと近いと考えられます。クーデターが始まって、食糧生産車両にたどり着いたとき、できたてホカホカのプロテインバーに、仲間は食らいつきます。温かいほどおいしいようです。

そこでふと、大型のミンチマシーンを覗き込んだ主人公カーティスは気づいてしまいます。「あのバーの原料はゴキブリだった」と!2014年に出発した列車ですから、食品に対する我々の感覚はとても近いと思われます。衝撃的だったのでしょう。

以上の描写から、ゴキブリを使った生ゴミ処理システムが使われていることが分かります。使われていたゴキブリはおそらく、動きが遅くてニオイも少ないデュビア。脱皮したてはタケノコの薄皮のように美しい純白です。

我が家では生ゴミ処理装置として働いてもらっています。以前に測定したところ、926gいました。1000から2000頭ぐらいの間でしょうか。コーヒーのカス、茶殻、野菜くず、バナナの皮、魚の骨などをよく食べ、植物食性の強い雑食性で、柑橘の皮だけは苦手です。湿気さえこもらなければニオイも少なく、少しの暖房で冬も元気です。スノーピアサーの外気は低温のため、飽和水蒸気量がほとんどありません。それを永久エンジンで加温すると低湿度で、彼らに適した空気が供給できるでしょう。

つまり、我が家とスノーピアサーは共通の生ゴミ処理システムを持っていたのです。そこで劇中への理解を深めるべく、「スノーピアサー飯」を作ってみました。彼らの日常食を再現して体験するところから始めましょう。なんかマズそうに描写されていましたが本当においしくないのか、それとも彼らがアレばかり食べすぎて飽きているのか、気になります。生まれてくるオスメスの割合は半々ぐらいですが、次世代を生むメスに対してオスの比率はさほど必要ないです。なので、生ゴミ処理システムの効率的管理のためにも、オスの間引きをする必要があります。今回は46頭、50gのオスだけを使いました。

Boiled bubia.
Smoked dubia.

茹でた後に簡易燻製器で温燻にします。チップはサクラです。そのままだと少しゴキブリ臭さがあるので、それを曖昧にするために香りをつけます。スモークすると、飴色に色づいていきます。おいしそうですね。ベーコンを作る際にも表面が濡れていると酸味がでてしまうので、疎水性の表面をもち、その表面積の大きい昆虫は燻製に適した素材といえそうです。

Smoking system.

燻製と天日干しを何度か繰り返し、ミルで粉末にできるまでに乾燥させていきます。 粉末にした後、白玉粉50g ,タピオカ粉10g、トレハロース50gの割合で混ぜます。水を適量加えながらもう一度しっかりかき混ぜ、蒸し器で蒸します。
使った蒸し器はティファール。

Steamed dubia-cakes.

おいしそうですね。黒砂糖のういろうのようです。

味見。普通においしいです。少しのざらつきがごまの皮のようで、ゴキブリ臭さもまったくなく、しっとりとおいしいういろうのように仕上がっています。燻製の香りに対して、ゴキブリの優しい甘みがちょっとパンチが弱いので、少しアレンジしてみました。バターで表面を焼き、ココナッツミルクとあわせてみます。

Fried dubia-cake with coconut milk

おいしい! 燻製の香りとココナッツミルクの強い風味、バターの焦げた香ばしさと相まって美味しいスイーツに仕上がりました。これはうまい。この料理であれば貧困層のクーデターを抑えることができたかもしれません。逆に言うと、不味くて飽きる飯を提供してきたことで、意図的にクーデターを起こさせていた、とも考えられます。レシピ開発に余念がないスノーピアサーの開発者でありヒエラルキーの頂点に君臨するウィルフォード、すごいです。

さて、分解性のゴキブリは、廃棄物からタンパク質を再回収するシステムとしては優れているのですが、炭水化物を含んでいないこと、そして光合成ができないことから、食物の一次生産にはゴキブリだけではできません。前方の列車の富裕層は、2014年と変わらぬ贅沢な生活をしていたので、その廃棄物も相当な量になると考えられます。ステーキとブタの枝肉が登場しましたしスシも登場しました。光合成をつかった液肥栽培の車両もありました。車両が何両あるかは明示されませんでしたので、それらの廃棄物をゴキブリが処理しゴキブリのフンを堆肥としてもう一度栽培に回す、といった極めて優れた循環型の食糧生産が行われていたことが分かります。どうしても反乱側の貧困層のカーティスよりも、設計者と閉鎖系の食糧生産を17年も維持運営しているウィルフォードに感情移入してしまいますね。

さて、

2,クーデターが成功してしまったらどうなっていたか

カーティスはゴキブリが貧困層の食料であることを発見しましたが、そのことを仲間にすら隠していました。これは「クーデターが成功した後」を意識したと考えられます。そうでないと、2014年の食への価値観を持っている彼ら、とくにクーデター後に待遇が改善すると信じている貧困層に対して、彼らの価値観にとっておいしい食品を提供しないと、また革命が起こってしまいます。

聡明なカーティスは、のちの車両でヒエラルキー上位の人質、メイソンにデュビアういろうを食べさせるシーンがありましたので、「格差なく皆がデュビアを食べる社会」を想定したと考えられます。そして富裕層による「間引き」が行われなくなると、それだけ人口が増えてしまいます。教育による家族計画の重要性など、一両しかなかった教育ゾーンをもっとふやし、娯楽と薬物を制限した共産主義国家のようなものを作るしかないでしょう。

それを教育を受けていない元貧困者と、歪んだウィルフォード礼賛の教育を受けてきた元富裕層に「平等」に受けさせるとなると。なかなか前途多難です。先頭車両のウィルフォードもカーティスに次世代を引き継ぎたいみたいなことを言っていたので、メンテもできず先細りのスノーピアサーの管理に飽き飽きしてきたのでしょう。これは希望のない展開です。クーデターは成功しないほうがよかったのではないか。

これは革命側の老人、ギリアムも同様の思惑で、このクーデターの「理由」は貧困層の人数を間引きするためだった、との描写もありました。閉鎖系の食糧生産はなかなか大変です。ちょっとのバランスが崩れただけで持続可能性が損なわれてしまいます。いろいろと悩んだことでしょう。

3,ラストシーンのあと、生存者はどのように生きていけばよいか。

さて、クーデターは成功したわけでもなく、スノーピアサーそのものが壊れてしまいます。そこに残されたのは16歳のヨナと10歳未満の男児。外にホッキョクグマを見つけた彼らは、雪の中に歩みだしていきます。

まって、ちょっとまって!

ヨナの父、ミンスが言うには、だんだん氷が溶けて氷河期が終わりに向かっている、シロクマがいたのがその証拠だと言っていましたが、シロクマが生きていられるのは、2014年に大量に死んだ氷漬けの死体を食べているからと考えられます。終わりに向かっているとの証拠もなく、そして17年前の古くて冷たい凍結肉を食べてきたシロクマが、新鮮でやわらかい一組の男女を見つける。

そら喰いますよね。

彼らにできることはシロクマと同様にスノーピアサーに残された人肉を速やかに凍結し、スノーピアサー先頭車両に残ったエンジンの予熱で温めながらシロクマの襲撃に怯えながら暮らすことになるでしょう。あ、ゴキブリも熱帯出身のデュビアなので暖めておかないと死んじゃう。光合成をする車両も水循環のシステムも壊れてしまったので、ううん。

ええと。彼らの今後に期待しましょう。

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