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ツマベニチョウ、Hebomoia glaucippe ラオスでもよく見るチョウなのですが。借家の庭で幼虫を初めてみました。以前にどこかの昆虫館で飼育されている幼虫をみて、この青い目付きの悪い眼状紋にときめいた記憶があります。

ラピスラズリのような眼状紋が美しい。

そして食べていたのが庭に生えていた木。ホストであるギョボクであることもわかりました。ラオスの亜熱帯の植物は私にとって分類が難しく、花がつく、実がつく、そして鱗翅目の昆虫が食うことで、かなり絞れるようになるので嬉しい発見です。しかしコガネムシ、お前は何でも食う悪食なので全然参考にならぬ。

そういえばツマベニチョウって毒があったような、と検索すると、猛毒イモガイと同じ神経毒を、幼虫の表皮と成虫の翅にもち、成虫の体には存在しない、という面白い論文がありました

気になるのは、やはり「茹でれば失活するのか」というところでしょうか。

低分子のペプチドは温度を上げても失活しにくい、と一般的に言われていますが、こちらはペプチドといえどもそこそこ大きそうですし、ウェスタンブロットで泳動できているのですから界面活性剤で失活しているのでしょう。イモガイの用途は「刺して」使うタイプですが、こちらは「食べられて」何らかの影響を及ぼすタイプなので、注意が必要です。とはいえヤモリとか普通に食べてるようですが。

こちらに来ると「何らかの毒は持っているけれどそれが効く濃度か」という部分が意識されます。なんらかの防御システムをもっていない植物、動物などない、という感じです。厳しい生存競争だ。

低温調理などで「75℃1分相当」を計算する式が公開されていましたが、界面活性剤による失活なども茹で時間とか温度で計算できないものでしょうか。

チラリと見える青い目。

さて、、、、食べてみようと思ったのですが、、、、死にました。

葉脈に沿って隠れている。

糸を吐き始めたので蛹化するのかと思い、様子をみてきたのですが、蛹化することなく死にました。幼虫の体表と、成虫の(体でなく)翅にのみ局在するのですから、蛹が最も安全なのでは?との期待がありました。しかし。

次回ツマベニチョウを見つけたら迷わず味見すると心に誓いました。早く来い来いツマベニチョウ。

 

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ブルキナファソで研究中のシャーロットさん、新しい論文をだしました。すばらしい。そして私達の活動とも関連するものです。食用昆虫が、「栄養」だけでなく「収入」の面からもフードセキュリティに貢献していることを鮮やかに示しています。本当にこの方はすばらしく賢い研究者だなぁ。

前作は同じ地域のこの研究。農地に着目して、シアの葉は芋虫に食べられる冗長性をもつことから食べられても収量は減少せず、そのぶん日光が樹の下に届くのとフンが落ちるのでそこで栽培されている主食のトウモロコシがより育ちやすくなる、というもの。

農業生態系に昆虫が入ることが、必ずしも悪ではない、というコンセプトは、殺虫剤を使うことを前提とした慣行農業と、殺虫剤をあえて使わない(旧来の)有機農業の概念をゆさぶります。これまで、農薬の使用と収量はトレードオフであり、有機農業は収量の低下を招くので、トータルの環境影響評価をすると、むしろ慣行農業のほうが低環境負荷だ、という結果になってしまっています。

この論文は偶発的に発生する昆虫をも含めた上で「最大効率」になるポイントがあるかもしれない、という文化に根ざした新しい農業モデルを提案しています。もっと有名になってほしい論文。

今回はフードセキュリティの季節的変化を測定する方法として、「アクセス」について重点的に評価をする指標を使っています。名前はHFIAS Household Food Insecurity Access Scale (HFIAS) for Measurement of Food Access 

主観的に本人が感じている変化をインタビューするという形式上、そもそもが「緊急時の」フードインセキュリティを測定する方法で、通常時と比較して食材へのアクセスが変化したかどうかを質問紙調査で評価できます。とてもいい指標なのですが、これが私の活動するラオスでどうか、そしてこの現場であるブルキナファソでも本当にそれでいいのか、といった指標と現場のマッチングについての考察の話はあとの方でしましょう。

そして、フードインセキュリティのうち、昆虫が貢献しうるのは「アクセス」なのか。それとも。という話も後半でしましょう。

こちらが質問の内容。

Feelings of uncertainty or anxiety over food (situation, resources, or supply);
▪ Perceptions that food is of insufficient quantity (for adults and children);
▪ Perceptions that food is of insufficient quality (includes aspects of dietary diversity, nutritional adequacy, preference);
▪ Reported reductions of food intake (for adults and children);
▪ Reported consequences of reduced food intake (for adults and children); and
▪ Feelings of shame for resorting to socially unacceptable means to obtain food resources

http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/eufao-fsi4dm/doc-training/hfias.pdf

訳しますと

  • 食物への不確実性や不安(状況・リソース・供給)食物が量的に不十分であるという認識 (大人と子供向け)。
  • 食品が質的に不十分であるという認識 (食事の多様性、栄養の妥当性、嗜好性)
  • 食物摂取量の減少の証言(大人と子供向け)。
  • 食物摂取量の減少の影響の証言(大人と子供向け)。および
  • 社会的に容認されない手段に訴えて食料資源を取得することに対する恥の感情

すると「不足の感情・認識」が存在することが前提になりますね。

まずはイントロから。「世界の半分以上のカロリーがグローバルサウス(南半球から中緯度の途上国)の小規模農家から生産されている」とのこと。しらなかった。ラオスだけでなく自給自足で現金収入がない農家、というのは同緯度帯に世界中にいるんですね。彼らをターゲットにするビジネスがBOPビジネスと言われて注目されているのも納得です。この小規模自給自足農家をどうやって「よく」できるかが今後の世界の動向を握っているといえるでしょう。彼らの価値観に沿う形でありながら、資本を集中させている「グローバルノース」からの投資を引き出すために。

「フードインセキュリティは様々な要素の複合であり、食の主権、教育、および女性や少数民族のエンパワーメントが重要であろうと指摘されている。」うん。やれている。

「隠れた飢餓」カロリー以外の栄養素の不足から栄養不良の状態にあり、20億人が今でも影響をうけている。「病的な低体重」の解消はずいぶんと進んだ印象ですね。

そこで昆虫食は女性の貢献が大きく、栄養的にも優れていて、高単価で収入にもなる。今回のシアの葉を食べる毛虫Cirina butyrospermi は9ヶ月の休眠(!)でしょうね)があるがそれをホルモンの注射や薬剤を溶かした水へ浸すことで打破する方法が見つかったが、商業的な養殖方法は確立されていない。

話はそれますが、この論文いいですね。掲載されたのは2015年に創刊された昆虫の食利用・飼料利用をテーマにした専門誌で、昆虫学的には、「この昆虫でやった」以外に新しい知見はないです。他の昆虫で確認できていた方法で、同じような方法で休眠打破が確認されたという銅鉄研究です。しかし、「この昆虫が広く利用されている文化があり、この地域の栄養不良と戦う栄養源として有用である」という背景をもつことで、これが銅鉄研究であっても価値の高い論文となります。ホルモンの直接注射だけではなく、薬剤を溶かした水に浸すというやり方まで試したことは、商業ベースの大量養殖を見越してのことでしょう。

「これまでの学問分野では評価しずらかったこと」を積極的に評価するという専門誌としての矜持を感じる掲載です。すばらしい。

話を戻しましょう。

この論文以前の2018年の論文で、この毛虫を含む食卓のほうがカルシウムとタンパクが優位に増加することが検証されています。(論文を取り寄せているので、彼らに不足するのが本当にカルシウムとタンパクなのか、というプロファイルが今後わかると思います)これも私達のラオスの方法論と一緒ですね。ラオスの場合、脂質、ミネラル、ビタミンAとなりました。アフリカとアジアで食文化が違うので、栄養不良の改善のために推奨される栄養素も、それに対応する昆虫も変わることが当然だ、と考えて良さそうです。ここのマッチングシステムそのものが、新しい体系的知識となるでしょう、と予言しておきます。そしてそのマッチング次第によっては、「昆虫でない」結論に至ったとしても問題ありません。

雨季(毛虫のシーズン)よりも乾季のほうが、食物への不足感(アクセス)が遠ざかる実感があることが示され、同時に収入における毛虫の役割も大きいこと、また販売量と民族性に関連はなかったが、家庭における消費量と民族性に関連があったことを示しています。

結論としては「毛虫がなければ、この地域の食料安全保障は低下してしまうだろう」とくくられています。

さて、読み解けたところで、こちらのラオスの状況に沿わせて比較してみましょう。

彼女らとの比較は私が「NGOとして」現地にいることです。つまり介入が前提。「なくなると困るだろう」という論文の結論とは異なり「介入するとよくなるだろう」という見積もりが必要です。

そういう意味で「ラオスの昆虫食文化にないことを作り出そうとしている」という点で、今やっていることは研究者とは言えません。証拠の捏造、とまではいかないですが、ラオスの昆虫食文化に栄養に貢献する要素があったとしても(これまでの栄養調査の結果からそれは言えそうですが)、まだまだ低身長を解消するまでには力不足である、この昆虫食文化をエンパワーする、という戦略になっています。

彼女らの論文は「なくなったら困るだろう」という方式で昆虫食文化の栄養と収入の両面から評価していますが、逆に言うと「どう介入すべきか」という結論をもたらすものではありません。この毛虫の養殖技術はまだまだ未確立であり、もし休眠打破をしたとしてもシアの葉がなければ成立しません。そしてシアの木が十分に育つには多くの時間が必要でしょう。また、シアの木と実、そしてイモムシの所有権は土地の所有者にある、という点で、貧富の格差を解消するにあたって障壁があるといえます。

また、ラオスの栄養状況で言うと、「栄養が不足すると感じていないことが問題」というなかなか困難な状況にあります。おそらく先の指標では、彼らがフードインセキュリティにさらされている、という自覚がない限り検出されないように思います。低身長について話を聞くと、(栄養ではなく)家系的に身長が低い、とか、栄養のある食材を採ったり買いに行く時間がない、お金がないから買えない、と言われます。

村の中でも比較的ビジネスに成功してもスナックや清涼飲料水を買い与えて子供が喜ぶからいい親だ、といった、栄養への意識の低さが大きな障壁となっています。今後、昆虫養殖を所得向上の動機でスタートする人が、栄養を一層ないがしろにしてしまう、というリスクをどうコントロールするかが求められています。

具体的には栄養教育とセットで養殖普及をしていく、という点と、この論文が注目している「アクセス」ではなく「ユーティライゼーション」(村に「ある」のに利用されていない、利用しにくいバイオマスをバイオコンバーターとしての昆虫が転換する)に着目している点で少しの戦略の違いがあります。

南北問題と言われる貧富の格差は、今後しばらく続く地球温暖化によって将来的に、「南の農業を北が逆輸入する」未来が見えています。しかし現状の途上国の農業は、労働搾取が横行しており、殺虫剤の使用も多く、とても現状の先進国に逆輸入できるクオリティではないでしょう。そこで、「北」の先進国の市場や文化ではなく「南」の彼らの文化をもとに技術を開発し、先進国にない食糧生産の新しいシステムを開発することは、将来の地球全体への恩恵へとつながり、そしてここで開発された知的財産を「南」が「北」に提供するという形は、先進国が途上国の遺伝資源を搾取してきたこれまでの反省を踏まえた生物多様性条約の理念にのっとるものになるだろう、と予測しておきます。

この論文をみて、私が今やっているのは「活動家」であって、かつてあこがれた「研究者」ではないんだろうな、と改めて思えました。適切な人に適切な虫をオススメする「蟲ソムリエ」として、誰に何をどうやってオススメするのか、日々考えて実践していきたいと思います。