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さて、ビネガロンを捕まえてはしゃいでいたあと、村の村長さんから大きなセミをいただきました。虫の人として覚えてもらってるようです。ありがたい。

このときは、なんだか大きいなぁと思っていたのと、うっすら「テイオウゼミ」の模様が頭をよぎったのです。ん?クマゼミと同じくらいのボリュームだけどテイオウゼミっぽくないか。

翅の付け根の赤が差し色で美しい。

村から街に帰り、調べてみると世界最大のセミの属、Megapomponia (メガポンポニアって声に出して読みたくなりますね)であると教えていただきました。ラオスには小型のM.intermedia. 更にマレー半島の南には最大種、M.imperatoria テイオウゼミが住んでいるとのことです。

インドネシアからメガポンポニアの新種が記載された論文がありまして、そこから胸部の斑紋の写真を見比べ、Twitterのセミに詳しい方に教えていただきながら個体差なのか、種の特徴なのか、モヤモヤしながらこれではないかと。

さて、和名「ヒメテイオウゼミ」で気になってしまうのは「職位はなんなのか。」ですね。帝王なのか姫なのか。

「姫帝王」というツンデレのような新しいジャンルなのか。

小さいセミはチャクチャン、大きいこのセミはメンオーッというそうです。クマゼミが60mmから70mm これが体長59mmなので、さほど日本のセミより大きいわけでもないです。

ともかく茹でてたべてみましょう。

茹でると茶色い汁がでて木の香りがつよいが、味はとってもタンパク。ほとんど胸にしか肉がなく、腹部はスカスカで軽い。外皮も大きい割りに硬いわけでもない。 茹でると香ばしい木の香りがするが、茹で水に溶け出してしまって筋肉の味わいは普通だった。

チャクチャンのほうが身が小さい分詰まっていて、おいしいと思いました。もう一つやはり食べたいのがテイオウゼミの幼虫。どこかで食べられるでしょうか。マレー半島行きますか。

世界三大奇虫、と呼ばれる陸上節足動物がいます。サソリモドキ、ウデムシ、ヒヨケムシですが、まぁなにをもって「奇」か、と言われると、、うーん。楳図かずおが書きそう、といった感じでしょうか。クモ、サソリ、ゲジ、シャコとともに昆虫とエビカニの間に見えるので、さほど食べにくそうにも感じないです。

そしてこちらがビネガロンことサソリモドキ。サソリにシルエットが似ていますが、しっぽに針がなく、代わりに細い管から酢が出てくる。そしてハサミに見えるのは噛み込みのギアのようになっていて、コオロギを与えると左右からグリグリと巻き込んで口に運んでいく、一方通行の地獄のギアなのです。食べっぷりのかっこよさはすばらしい。SFっぽさではトップクラスではないでしょうか。

サソリモドキ ビネガロンの一種。

いきなり話は飛びますが、昆虫のレシピをラオス人スタッフと作っていたときに、「特に女性はラオス人でも昆虫がうねうねしているのを嫌がる人が多いので、すりつぶした料理はどうか」と提案され、「自分は昆虫が大好きなので、姿が美しいと思うし、かじったときの食感が失われてしまうのもあまりいい気がしない」と言ったところ「それはあなたの感覚でしょ?」と言われました。そうなのです。まさにそのとおりで、私のセンスは日本からも、そしてラオスからもまた遠く、好奇心というエンジンに駆動され、文化から乖離した明後日の方向にむかっているのです。おもしろいとは言われるけれども参考になるとは言われない。

話を戻しましょう。実はこのサソリモドキ、一度食べるチャンスがありました。

2015年4月、私は飼っていたのです。買ったのか頂いたのか、わすれてしまったので、もしいただいていたら大変申し訳無いんですが、しばらく飼い続けて結局死なせてしまったので、大変深い後悔の思い出があるのです。

さて今回は、絶対に死なす前に食べようと、写真撮影もそうそうに食べます。捕まえた時に酢の強い匂いがあり、わくわくです。

一緒に村に来ていたラオス人スタッフと匂いをかいで酸っぱ!とこれを見つけた集会所の裏ではしゃいでおりました。この容器はラオカオと言われるラオス焼酎の空き容器です。

かっこいい。
立体構造が複雑なのでなかなか写真にとりにくい。

立体的な複雑さと、ダンシが考える「かっこよさ」がなんだか相関しそうな気がするんですが、なかなか見ていて飽きない虫です。果たして酸っぱいのか。

実は以前に、「ビネガロンで酢飯をつくる」という企画案をいただいたのですが、量的に難しそうだ、と計算してお断りしたことがありました。実際にどれほど酸っぱいのか、茹でて食べてみましょう。

サソリよりだいぶうまい!ビネガロンの名前の通り茹でると酢の匂いがしたが、茹でたあとは少しの爽やかさをプラスする程度でバランスが良くまとまっている。捕まえる時に酢酸を放出させたのも効いたかも。酢飯に甘エビのようにうまみと甘みの強い体液が口に広がり、タランチュラのような毛もなく、食べやすい!

世界三大奇虫、食べ比べてみたいですね。

私はゾウムシの養殖指導、もう一つのチームは看護師が村へ訪問するアウトリーチ活動の途中でした。その行った先の村人から「バナナの葉に包まれたイモムシがいる」とのことで見せてもらいました。くるくるっとルマンドのように巻かれたバナナの葉の中には草大福のように粉まみれのやわらかそうな幼虫が。本当においしそう。調べてみるとバナナセセリErionota torusという虫で、日本では沖縄だけに住みおそらく外来種。日本最大のセセリチョウとのことです。確かに小さい印象のあるセセリチョウにしてはデカい。

ラオス人お墨付きの美味しい昆虫とのことで3頭もらい、活動を終えて街に帰るころには1頭が黄色みがかって前蛹になっていたので、幼虫状態と比較して食べてみました。

前蛹 粉は茹でると消えてしまった。 蒸した芋のようなそそる香り。口に入れて弾けるボディ。タケノコのような少しの渋みがあり爽やかで、コクとうまみのバランスも良く、ウマッと声が出るおいしさ。
幼虫 消化管内容物のため茹でても青い。 バナナの葉の香り!バナナの葉で包んで蒸した料理の香りがする。葉の粒感が気になってしまい自分は前蛹派だけれどどちらも美味い。

バナナの葉は色んな所に使われ、市場で昆虫を売るときの敷物や、蒸すときの包みなど、土に還る万能の梱包材です。そして蒸すとバナナの葉の独特のムレ臭がうつり、朴葉の包み焼きみたいな美味しい感じに仕上がります。それがバナナセセリの幼虫にはあった!これがなかなかおいしいです。

追記します!そして9月25日に蛹になり

クリーム色の美しい形。バナナの葉にくるまれている

そして10月4日、成虫へ。味見しましょう。これはオスですね。

香ばしい!鱗粉が口に残るものの、バナナの香りはなくなり茹でただけで焼き芋のような強い香ばしさ。 甘み、コク、旨味のバランスも良く、体重もしっかりあるので食べ応えもそこそこある。

以前に日本のツチハンミョウについて、毒が強すぎて食べるのに適さない虫として紹介しました。英語名Blister beetleと呼ばれるように、水疱ができるほど粘膜に刺激性があり、致死量もなかなか少ないようです。漢方では「斑猫」と呼ばれ、キオビゲンセイの一種はカンタリジンを虫体の25%も含み、水疱をあえて作って毒を吸い出すような手荒い治療目的で使われた、との記述があるそうです。

引用します。

本来の「斑猫の粉」の正体はその成虫の乾燥粉末です。中国産のそれはキオビゲンセイという種類で、 乾燥した成虫体に25%ものカンタリジンを含有しています。カンタリジンの用途は毒薬ばかりでなく、 おできのウミ出しの刺激発砲剤に多用されているほか、少量を内服(大変危険ですが)すれば催淫や利尿、 躁鬱病、性病、知覚麻痺などに効果があるとされています。

https://www.jataff.jp/konchu/hanasi/h14.htm

さて、「変な虫を見た」との通報(最近ラオスで虫ネットワークができつつあります。)で急行するとこちら。

ツチハンミョウの一種

キオビ、というよりもピンク帯ゲンセイなので、これが本当に漢方に使われてきた「斑猫」なのかはっきりしないですが、これは味見できないです。ラオス人も食べちゃダメ、触っちゃダメ昆虫と教えてくれました。薬用に使うという話は今のところ聞いていませんが、そのぐらい一般的で、そのぐらい毒であることが有名なようです。気をつけましょう。

その他にも、ツチハンミョウ科の昆虫がいたので合わせて紹介しておきます。いずれも味見ダメです。ラオス人も知っていました。

車の点検修理に行っていたんです。先週に村に行ったあと、川の近くのルートが増水が激しくてそのままでは渡れず、クソ重くて車高の高い木材運搬車に牽引してもらいました。またこの車がかっこいい。

木材運搬車。かっこいい。

電気系統、エンジン系統に負担が少ないようエンジンを切り、牽引。深さは腰の高さぐらいでしょうか。

翌週点検にいくとエアフィルターが濡れ、その他負担の大きいブレーキ系がすり減りまくっていることが判明。

ということで、ちょっと点検をするつもりが 足回りガッツリ交換になってしまい、ヒマをしていたわけです。ぶらぶらと修理工場の裏にまわったり

たぶん井戸を掘るための車。

車道を闊歩するヤギをみたり。

そして歩道の脇にある東屋の柱に、見慣れぬ昆虫を発見。これはなんだ。

なぞの4匹

まず目についたのはショウジョウバエのように黄色い頭に赤い目。しかしそこから伸びるクビは細長く、腰から下になるほど奇妙なプロポーション。特に後脚が太く、腹部も棍棒のように先が膨らみ途中が細い。ボリューム感でいうと脚と腹部が同じくらいで、どれがどれだか、下半身が分身しているようにも見える。そして彼らが横歩きをしながら、何かのコミュニケーションをとっているようだけれどよくわからない。

写真にとってみるとショウジョウバエに似た顔つきに見えたのがちゃんとハチの顔になってるのがわかりますね。

茹でて味見 小さいのでなかなか味がわからない。寄生蜂らしい固く細い部分を口に感じるが、ほのかに香ばしさを感じるかどうか、という程度。うーん小さく細い昆虫は難しい。たくさん手に入ればいいのに。

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今日は昆虫をオススメしない蟲ソムリエの話です。

先週8月最終週、味の素ファンデーションの助成で行われてきた村落栄養ボランティア研修を開催しました。その中で私は「栄養教育の完了したボランティアに、次の段階として栄養を得る方法を教える役割」を果たしています。昨年はゾウムシを一期修了生におすすめし、無事彼らの期待に答えてすべての希望者が継続的に昆虫養殖ができるようになりました。

こちらが2017年スタート時の様子です。

さて、昨年と今年の2月に実施された栄養調査によって、活動地の村において、「ビタミンAと油脂を含む食材の頻度」が相対的に不足しているという結果が出て、日本国際保健医療学会で発表されました。これまで気にしていたタンパク質の豊富な貝、魚、昆虫、そしてタケノコなどの、昆虫を含む野生食材は相対的にわりとみなさん食べている、という結果でした。当初タンパク質リッチで脂質の少ないバッタの導入を計画していたので、この結果は予想外でしたが、我々の目標は栄養なので、地域の問題に沿った提案をしなくてはなりません。

なぜなら問題を抱えているのはあくまでこの村の人達で、昆虫をオススメすることが自己目的化してはダメだからです。

昆虫で栄養を、というプロジェクトや企業からいくつか相談を受けましたが、その導入先の地域がどんな栄養の問題を抱えているか、というリサーチ抜きにスタートしているグループがいくつかあります。現地に行ったあとで、その昆虫がミスマッチだったとしたら、彼らはどの程度、現地に合わせて方針を変えられるでしょうか。

昆虫の多様性を利用したり、現地の生態系を俯瞰して提案できる食材が昆虫以外であったときに、どう動けるか、そのフレキシビリティが試されるとおもいます。

これから始まるJICAのプロジェクトの目標には、昆虫が栄養に至る経路については2つ準備をしています。一つはわかりやすい、直接食べるルート、もう一つは積極的に昆虫を売って、そのお金で別の食材を買う。あるいは市場に売りに行ったアクセスを利用して、その家庭に足りない栄養豊富な食材を買って帰ることです。昆虫を売って設けたお金で清涼飲料水やスナック菓子を買っては本末転倒ですし、昆虫養殖にかまけて育児がおろそかになってもいけません。

「売るならば栄養豊富でなくてもいい」という言い方もできてしまいますが、村の栄養状況に合わせた食材の養殖を推奨する中で、たとえ満足に売れなかったとしても、売れ残りを食べて栄養に貢献できるだろう(逆に言うと売れ残りを食べて栄養状態が悪化しかねないのが炭水化物です)という消極的な栄養貢献の役割も、含めてあります。

なのであくまで「栄養の問題を意識させ、改善していくこと」を常に目標として掲げ、養殖希望者には必ず栄養教育を受けてもらうことことなどを徹底する仕組みにしていきます。もちろんISAPHが今後の栄養状態についても追跡しますので、「昆虫養殖を導入したら栄養状態が悪化した」なんてことが万が一あっても検出できる、ステキな緊張関係を保ちつつ進めていきます。

この、昆虫養殖ビジネスが保健NGOと連携する仕組みのパッケージを開発することで、「昆虫食が栄養に貢献する社会実装」を実現しようとしています。

話がそれました。ビタミンAの供給源を何にするか。そしてそれが昆虫ではないということ。

ざっと検索してみたところ、アフリカの聞いたことのないバッタがビタミンAを多めに持っているという文献を見つけましたが、植物質の食品に比べると安定的にビタミンAをもっている昆虫はみつかりませんでした。ビタミンAは有力な栄養不良の要因の一つなので、(だからといって夜盲症が頻発しているわけではないのであくまで候補の一つ)ニンジンやかぼちゃなどの栽培も検討してきました、が、ラオスの雨季と乾季の水供給の差は激しく、ニンジンは乾季にフカフカになるまで手をかけた土壌を使い、袋栽培をするとある程度育つことが確認できたものの、雨季は全く育たず、かぼちゃも雨季は受粉がうまく行かず、ウリハムシにやられて失敗してしまいました。食糧事情が不安定なときの補完的な食品としての活躍を期待したいので、これではいまひとつです。

2018年乾季には人参栽培に成功。しかし手間とコストが大きい。

そこで雨季と乾季の両方を耐えうる、つまり「多年草化・樹木化」する植物にフォーカスを移し、情報収集を進めていたところ、昨年7月にこちらにたどり着いたのです。

ガックフルーツ。聞き慣れない名前ですがビタミンA前駆体のβカロテンが豊富に含まれていて、なにしろ栽培に失敗しにくい。つる性で雨季の増水も、乾季の乾燥にも耐え、広く葉を広げ、ウリハムシにも強く、植え付けから8ヶ月で実がなり始め、安定的に成り続けるというすごい特徴があります。

食べたことのない食品だったので子供に与えていいか検索したところ、ベトナムの未就学児185人を対象にした30日投与の論文が見つかったので、ひとまず安全性については大丈夫かと判断しました。ちなみに日本の場合、「モクベツシ」という生薬としてタネが使われてきた経緯から薬事法で種子の経口摂取用途の販売には縛り(pdf)があります。ご注意を。

タネからはトリプシンインヒビター(pdf)が見つかっており、下手に食べると下痢をしてむしろ栄養にマイナスに働いてしまうので、「タネは食べない」としておきます。今回も希望者に苗木で渡しました。

肖像の関係で顔の掲載はISAPH公式だけになってます。

この植物については全く世話の必要がなく、土地さえマッチすればどんどん生育し、その土地に肥料が足りなくなれば身が小さくなるので、各家庭の菜園の状態を把握することも、この配布の目的の中にあります。

先にこの村の栄養の問題、そしてビタミンAの話をして、

調理実習。ガックフルーツの果肉をつかった魚のスープ、ガックフルーツのパルプをつかった赤いドーナッツ、そしてパルプを使った甘いジュースをつくりました。こちらは料理学校の先生から提案されたもの。ガックフルーツはあまり一般的な食品ではないので、そのレシピから「美味しい料理」として村への導入を提案していきます。

ビタミンAはガックフルーツに任せるとして、油についてはゾウムシの出番です。来月はゾウムシにフォーカスにして、オススメするレシピと栄養の講義をしようと思います。
本家のソムリエと同じように、「適切でない場合はオススメしない」というのもソムリエの大事な仕事です。蟲ソムリエが昆虫をオススメするときは対象者が問題やニーズをもつとき。そうでないときは、昆虫よりもふさわしい別の食品を提案します。

逆に言うと、問題もニーズもないのに「昆虫の押し売り」をするのはソムリエとして恥ずべき行為といえるでしょう。幸いここラオスでは昆虫食文化があり、昆虫も他の食材と同じように扱ってくれます。一方で昆虫学の専門家はほとんどいません。そのギャップを日本の昆虫学とラオスとをつないで埋めていくことで、昆虫食文化が地元のニーズに沿って発展していくことをサポートするのが蟲ソムリエのしばらくのメイン仕事になると思います。

その中で「蟲をオススメしない」という結論に至った今回の活動は、たとえ昆虫が最適でないとしても対応できる前例となったので、蟲ソムリエらしい仕事ができたと自負しています。

更にいうと、「昆虫じゃない」という結論に至れる冗長性をもたないプロジェクトは、必要のない昆虫を住民にゴリ押ししてしまうリスクがあります。

本当に現場に昆虫が必要なのか、ご都合主義で昆虫養殖を自己目的化していないか、昆虫食プロジェクトを行う人も、それに支援する人も、皆様適度な懐疑主義とともに、相互批判をしつつ健全な業界になっていくよう、進んでいきましょう。

8月9日、もう一ヶ月前になりますか。とある大学のつながりで、バンコクのトークイベントに参加すると旅費をいただけるというので行ってきました。なかなか厳しい台所事情ですが、それなりに楽しみつつ、研究費や経費を確保していこうと思います。

バンコクと日本のデザイナー、建築家の方々が集まる、だいぶアウェイなかんじがしましたが、とりあえず今回のテーマ「Exixtence=実在」 について、語りました。昆虫という「実在」によって、人がどう変化し、全体のプロジェクトのデザインがどう影響されていったのか、とか言う話をしたかと思います。観覧者にはバンコクの学生さんらもいて、昆虫食に対するバンコクの若者の印象も聞いてきました。

デザインという空論であり、実現していない以上「茶番」であることを、どこまで大事にし、深く、そして自由に発想できるかというのはとても重要な営みだと思います。そしてそこに「昆虫」が参加することはこれまでまずなかった。なので一種のスパイスとか「意図的なバグ」として、私が乱数発生器のように乱入して、かき回してみようかと思いました。デザインの世界のみなさんに投げ込んだ「実在の虫」のパワーはすごく、それでいて新しい概念を自分のデザインに反映させ、咀嚼していこうという適応力もすさまじく、スパークジョイな感じでした。

タイ東北部では昆虫食が普通なので、私の昆虫の話もさほど驚かれないかな、と心配したのですが、みなさん無事驚いてくれて、学生さんも女性の一人はロットドゥアン(タケムシ)だけ食べられるけどコオロギやバッタは脚があって無理、もうひとりの女性は全部無理、男性のひとりはサソリにチャレンジしたことはあるけれど。もうひとりはレシピ次第じゃないかなという消極的な感じ。いずれもバンコクの意識の高い、そして野心も高いデザインの学生なのでバイアスはあるかと思いますが、十分に「昆虫を食べる」というアイデアが敏感な若い世代にとって斬新に映るという手応えがあったので、ここバンコクも未来的昆虫食の展開のいい拠点になるだろうなと感じました。

またいっぽうで、ベテランのバンコク在住の先生方は伝統食として普通に食べていた時代を経験していて、ひと世代のあいだにジェネレーションギャップがギュッと詰まっていていい感じです。その年配の先生がこのようなスライドを用意してくださいました。

UNJUNK THE WORLD

Un-junkというのは検索してみると脱ジャンクフード的な書籍に使われたワードのようですが、この「ジャンク=役に立たない、安っぽい、価値が低い」といったものを価値観が同じママの社会で「役に立つもの」に変えていくリサイクルの発想ではなくて、その「役に立たないものという発想そのもの」をキャンセルしていこうという発想です。社会が変わることで、そのものが変わらなくてもコンセプトが変わる。これほど省エネなことはないでしょう。つまり昆虫にも同じことが言えます。ジャンクフードの代替として、安い、コスパのいい食べ物ではなくて、文化的な、先進的な、そして人の役に立つことのできる膨大なキャパシティをもつ尊敬すべきバイオマス。

そんな「UN-JUNKE THE INSECS」をこの世代で達成してしまわないと、バンコクの若者が昆虫食をジャンクな食べ物と誤認したまま次世代をつくってしまう。赤ん坊のころに植え付けられた食の価値観を変えるのは難しいですので、この世代のうちに、変えていきましょう。みなさま、ありがとうございました!

バンコク、今回は時間が少し余裕があったので色々見てきました。ミズオオトカゲが歩いていたり、スラムと高層ビルが対比されたり、他の都市と同じように、色んな面のある街なんだろうなと。

2018年に食べていたのですが、Twitterで報告したっきりブログに書いていませんでした。キョジンツユムシ Pseudophyllus titan です。

キョジンツユムシ Pseudophyllus titan

ちょうど一年ほど前ですね。ヨツモンヒラタツユムシ と同じように、昆虫採集目的でない日常生活でこのぐらいの驚きの昆虫に出会うと脳が気持ちのいいパニックになります。すごくメリハリがいい。以前にサソリを見つけて舞い上がって自転車をパクられたときもこんな感じなので身の回りには気をつけようと思います。

さて、養殖昆虫というと「大きな昆虫を食べたい」と思う人が多いようなのです。大きい方が効率的とか食べごたえとか。確かに大きなエビカニは高級品ですし、タカアシガニは大味、とかいう話もあるのである程度の味とのトレードオフはありそうです。

以前に5.4gの巨大トノサマバッタ系統の味見をしましたが、養殖がとても難しい系統でした。つまり大きいとしても養殖がしやすいとは限らないのです。また、昆虫は成虫になるともう2度と脱皮しないので、そこら辺のコントロールがむずかしいかと。しかし、徳島大学がそこら辺をハックする論文を出しました。

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この論文の巨大幼虫、夢がありますね。

しかしその夢、キョジンツユムシを見るとあまりうまくいかなそうです。

なんだか、巨大な昆虫はパサつくのです。味気ないというかなんというか。密度が足りない感じ。まだ数頭しか味見していないのでなんとも言えないですが、こんな論文を思い出します。

ツユムシも同様かどうかは言えないですが、巨大なほど解放血管系にたよっている昆虫の循環系の効率の低さが負担になっていきます。大きくなるほど呼吸系、循環系の占める割合が大きくなると予想されます。つまりスカスカ、パサつくという感じでしょうか。また過去の酸素濃度が高い石炭紀の昆虫は巨大だったことも知られていますので、人工的に酸素濃度が高い、たとえば水素ステーション(水分解のシステムが採用されればですが)の副産物の酸素を与えて巨大昆虫を、ということまで妄想が膨らみます。

さらにいうと、大きさはともかく高酸素濃度により気管系の空間をさほど必要としない、「身の詰まった昆虫」なんかも作れるのではないかと思います。夢が膨らみますね。プリップリの身詰まりのいい昆虫。食べたいです。

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すごい虫に出会いました。後ろにあるのはキャッサバ畑。5月に植えたキャッサバの様子を見に来たら、そこにいた。村の人が言うには木によくいるとのこと。キャッサバの葉にいたけどそれを食うかはよくわからず、しばらく飼育して試してみました。結局よくわからなかったので茹でて味見することに。

ヨツモンヒラタツユムシ Sanaa intermedia
ヨツモンヒラタツユムシ Sanaa intermedia

まずデザインがやばい。4つのモンに分断され、ヘリにはギザギザの意匠のあるグリーンとブラウンのツートンカラーの前翅。そしてグリーンの裏側に相当する部分は黄色。そして後翅のモダンなメンズ扇子のような紺と水色のデザイン。めっちゃかっこいいけれどモリモリ過ぎて情報過多。バッと翅を広げたときのインパクトはすばらしい。

ヨツモンヒラタツユムシ 伏せた状態は結構地味に見える。
裏側はビビッドカラーがすごい。背側からみるとグリーンの部分は裏から見ると黄色で
裏地が派手なヤンキーの学生服を思わせる。

さて、ここまで警戒色を出していて食えるのか?かるく文献を調べたものの、見つからず、捕まえたときに黄色い、青臭い体液を出していたので少なくとも全くの無毒ではないだろうと警戒しつつ、情報を集めながら飼育していました。しかし何も食べない。

キャッサバやツユムシが食べそうないくつかの葉っぱを試したけれど、そもそも食事行動をなかなかせずにじっとしている。

そしてふと試してみたら食ったのがなぜかモモの皮。北部高原地帯シェンクワンで育てられているとのこと。硬めだけど日本の白桃の仲間と思われ、とてもおいしい。けれどこいつの生息域と一致しない。謎。

結局キャッサバの萎びた葉っぱを食べたのを見たのを最後に味見をすることにした。茹でると胸部から黄色の体液が出てきて、少なくともてんとう虫程度の苦味物質だろうと思われる。飲み込まず口に入れて、味を見てみる。

そしてこの翅の模様をスキャンしたい。

この翅の模様を意匠として扇子とか発注したいなとおもいまして、味見の前に翅を外し、スキャンしました。

ヨツモンヒラタツユムシの後翅

うつくしい。藍染で再現できないだろうか。

味見  全体的に青臭い。渋みの強い黄色い体液が胸部を中心に全身にひろがり、美味しいとはいえない。腹部と足の筋肉はタンパクで柔らかく、食べやすいがはっきりと毒とも言い切れない微妙な味。胸部の渋みと臭み以外、味はキョジンツユムシと大差ない印象だが、今回は大事をとって飲み込まないこととした。全体に筋肉が少なく、図体のわりにコクが少ない。食べて一日が経ちましたが体調に変化はなし。うーん。毒とは言い切れないけれど美味しくはない。彩りとしてどこかに使いたいなぁ。パフェっぽさがある。

あれ、そういえばキョジンツユムシの味見のブログを書いていない。後で書きます。

虫展、まだやってますね。日本帰国時に行ってきたレポートです。

ハムシがトップを飾る。カブトムシ、クワガタが定番のなか攻めている。
最初の概説パネル。うるさすぎず、シンプルにデザインされている。
多様性の極みともいうべき標本群。あえて分類群をまとめず、対比的に多様性を見せる並べ方をしている。
ラオスで竹の子イモムシ、と呼ばれている大型のゾウムシ。いつか食べたい。
巨大なゾウムシの脚。びっくりさせる、ギョッとさせる目的でエントランス付近においてある。 逆に言うと、ギョッとさせる目的ではない場所で巨大な拡大模型は「過剰」なんだと思う普通の人にとっては。
ロクロクビオトシブミ。かなり小さい。深度合成写真のレベルが上ったので写真を見ると巨大な昆虫のように見えてしまうが 重力加速度の影響が少ない小さい昆虫のほうが人間が理解できない姿をしている。
カブトムシの飛翔筋の模型。
はにわや工房さんのマンマルコガネ。バンダイから出ましたがこちらが元祖ですよ。
広々とした大展示。
トビケラの巣からインスパイアされたといういくつかの作品。巨大化することで設計コンセプトが変わるだろうに、 そのまま相似拡大して「新しさ」を出しているように見える。うーん。華奢な構造のモジュール構造は人間用の建築には向かないだろう。
有名な建築家が参加。 デザインの「お手本」とするときに工学的な要素はあんまりいらないんだろうか。 バイオミミクリーというよりはインスパイアという感じ。
どれもキレイにしか見えなかったのでまぁ。メインターゲットではないんだろうなとあらためて思う。
和名のいろいろを組み合わせて新しい昆虫をつくる

話はそれますが、台湾が日本統治下にあった影響か、亜熱帯に広く住む昆虫の和名が「タイワンーーー」であることが多いように思います。 ラオスで見つけた昆虫がそのパターンである場合が多く、タイワン固有種と誤解を生みかねない不適切な和名ではないかと。実際私は誤解していました。
今後和名のルール化が目指される中で、地名が含まれるべきなのはその地域の固有種である場合ではないだろうかと思います。 (そういえば北海道にのみ生息するトウキョウトガリネズミなんてのも思い出しますね。)

昆虫食も売られてるやん!このスペースで将来、大昆虫食展を開きたいなぁとおもった。

さて、見に行く前から、うすうす気づいていましたが、そしてこの文章を読んだ方も気づいてきたかもしれないですが 、
この虫展は私はストライクゾーンに入っていません。外れ値だ。 もちろんブワーッと昆虫あふれる大昆虫展のほうがお気に入りだけれども、だがしかし。
気に入るということと、展示として興味深いことは別なのです。おそらく 展示学的にすごい判断が行われていたのではないか、と読み解きたい。それでは参りましょう。


はじめに提示するのは「世界一美しい昆虫図鑑」 クリストファーマーレー

レビューも投稿しました。そしてこちらが原著。

これは原著はアートワークなのですが、写真がたくさん入って情報が入っている分厚い本を「世界一美しい〇〇図鑑」と 名付けて売ることが一時的に流行したことを受けてのことでしょう。翻訳版が原著よりも安い、ということはそれだけ印刷したということで、一般向けに売れる方針をとらなければならないのでしょう。それは仕方ない。はたしてこれを学術的な文脈をもつ「図鑑」と位置づけていいものでしょうか。

だいたい昆虫の社会的位置づけが揺らぐと見に行くのは丸山先生、こんなことをおっしゃってました。

なるほど。学術の文脈を借りるのであれば、その文脈に対して侵害的であるのはマナーが悪い。
いくつかのアートワークでは折りたたみ、隠されている脚がいくつかの作品では取り除かれてしまっている。
丸山先生はただ批判だけして終わらない。(批判することはもちろん大事なのだが、そればかりでは外野から見ると息苦しくなってしまう) そのアンサーとして美しい書籍を送り出した。

その名もきらめく甲虫。
撮影技術、標本のクオリティ、そして角度を変えることで初めて「きらめく」はずの昆虫が 白い紙に平面に印刷されているのに、「きらめく」というそのすごさ。 大きい虫も、小さいむしもおなじぐらいに「きらめいて」いる撮影技術の一貫性 (同じように撮ってしまうと、サイズによってバラバラな写真になってしまうはずだが、そこが注意深く揃えられている。)
そして 次作

「とんでもない昆虫」
からの、共著者である東京芸大の福井さん作製のこの展示台につながるわけです。

多様性の極みともいうべき標本群。あえて分類群をまとめず、対比的に多様性を見せる並べ方をしている。
おわかりいただけただろうか。
ハムシの下の台紙の下になにかあるのを。

あえて昆虫の名前を隠すことで姿かたち、多様性に注目させ、ホワイトのバックにより清潔感をもたらす。 そしてラベルを「取り除く」という事もできたが今回は取り除かず、体の下に隠す、という方法をとった。
つまりこれは 学術標本の価値を全く損なうことなく、展示用に転用してみせたという意味ですごいのです。
更にいうと、ラベルを見せた展示もできたでしょう。 しかし見てわかるようにラベルというのは 採集当時に作られたもので、標本によっては黄ばみ、これまでの多様な昆虫標本では様々な時代、様々な人の字のクセが前に出てしまう。 このようなノイズを丹念に取り除く過程で、「ラベルを取り除く」のではなくて隠す、という選択をしたのでしょう。


この展示に敬意を送りたい。すごい。
しかし、生きた虫がいてほしかった。と「いろんな床材に苦しむカブトムシの映像展示」に釘付けになっている男の子をみて 思うのだった。生きた虫はすごい。強すぎて他の創作物を邪魔しかねない可能性を考えて、あえてここに置かなかったんだろうと思う。 生きた虫はラオスで楽しもう。そうラオスで。

ヨツボシヒラタツユムシ

以前にTwitterでテングビワハゴロモを評して「色彩構成でゼロ点」とコメントを頂いたけれど、これもまたそう。すごい。キャッサバの栽培状況を見に行っていきなりこれが現れるとインパクトがすごい。

人間の創造物だとしたら悪趣味で売り物にならない、と言われそうなデザインセンスを 「このデザインで生き残っている」という圧倒的存在感でねじ伏せる生き様!かっこいい! この虫の話もまた後でしましょう。