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なんやかんやでバレンタインデーから一週間が過ぎてしまいました。
一年間育てたバレンタインチョコ昆虫。
とうとう味見です。
一年間でどのくらい食べたのでしょうか。

当初が22gで、
食べられた結果の重さは16gです。
なので、一年間で6g食べたことになります。
体重、測っとけばよかったですね。
それでは味見しましょう。チョコフレーバーは
彼らに移行しているのでしょうか。
マダガスカルゴキブリ Princisia vanwerebeki
うまい!臭みはまったくなく、甘みが強いがチョコの味ではない。おどろくべきうまさ。ちょっと外皮が固いのが残念。

オレンジヘッドローチ Eublaberus prosticus
?オレンジ柑橘系の妙な香りがあってゴキブリ臭い?ようにも感じるが、
甘みがあって食べられそうな妙なかおり。なんだこれは。混乱。
通常飼料の味ではない。

アルゼンチンモリゴキブリ デュビア Blaptica dubia
さくさくして食べやすく、こちらもチョコの香りではないもののおいしい。なんだ。チョコに含まれないなんらかの成分がいいのか?

意外な結果となりました。
典型的な「ゴキブリ臭さ」がいずれからもせず、
妙な香りと旨味でした。また、チョコフレーバーはほとんどせず
香りを食用昆虫に移すことはなかなか難しいようです。
彼らは窒素代謝物の再利用系を持っているので
タンパク質などの何らかの経路に、「ゴキブリ臭さ」のフェロモンを作り分泌する
系があり、それがチョコ食により阻害されているのかもしれません。
なので、食餌制限によって「ゴキブリ臭くない」おいしいゴキブリを作ることは可能で
それらは一年間飼育しても致死的でない要因によって達成できることがわかりました。
これはこれでけっこう良い成果なのでは、と思ったり。
彼らは養殖昆虫としての可能性を大いに秘めています。
そして、ヒトの生息環境のまま繁殖し、
他の昆虫に比べて野外には大きな影響を与えていないように見えます。
(ヤマトゴキブリが駆逐されている、という話も聞きますが。)
南方系のペット用種は冬には加温しないと死んでしまうので
そのような種をヒトの生活圏内で残飯を使って飼育し、食べる行為は
高緯度地帯の先進国における一つの解なのでは、と思います。
ごちそうさまでした。
一年前の自分にお礼。意外なおもしろいけっかとなりました。

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皆様
ご無沙汰しております。
休眠中の蟲喰ロトワです。

最初に悪いニュースから。もう半年、休眠を続けなくてはなりません。

ほとほと昆虫学者としての実力と、将来性のなさを痛感しておりますが、
自分が言い出したことですし、
とにかく形にするべく、在籍期間満了の最後の半期をやり遂げようと思います。

休眠中ですが一つだけ、
一年がかりのプロジェクトがありましたので、
軽く記事にしておきます。

始まりは昆虫食仲間のムシモアゼルギリコさんが
つぶやいた一言からでした。


そうです。バレンタインデーです。

残念ながら私はギリコさんが期待するような
チョコをもらえませんでした。

生命保険の方が研究室にチラシと一緒に置いていったチョコを頂いただけです。
もちろん自分に保険などかけるはずもないので、
私は顧客・勧誘対象ですらありません。

そこで思いついたのです
「一年後の自分にチョコを贈ろう」

ギリコさんが納得するような、昆虫食研究者らしいチョコを。
友チョコ、ならぬ俺チョコといった感じでしょうか。

そこでこんな話を思い出しました。

昆虫食関係のどっかの本にあったと思うのですが。
「コオロギに食味の良い餌を食べさせて、フレーバーコオロギなどを作っても良いかもしれない」という話。(うろおぼえにつき出典ご存知のかた、おしえていただければ。)

これはすばらしい。
ということで、バレンタインデーらしくチョコフレーバー昆虫を作りましょう。

とはいえ、今までに揚げセミ幼虫のチョココーティングや
セミ成虫♂の鼓室へのチョコ注入、
クリムシチョコなど、チョコ昆虫はありふれた調理法です。

なので、もう一歩攻めてみることにします。
昆虫は養殖に大きな期待がかかっていますので、
一年がかりで、チョコで育てた昆虫を作るのです。

残念ながらコオロギは
チョコが体に合わないらしく、食べてくれません。

やはり、広食性のゴキブリが最適ではないか、と考えました。

一年前の開始時には、
マダガスカルゴキブリ アルゼンチンモリゴキブリ
オレンジヘッドローチの三種しか飼育していなかったので、
この三種、体格の近いものを1頭ずつ用意しました。
そして、22gのチョコと水を入れ、開始です。

そして一年後、どうなったでしょうか。それは後編で。

当ブログでは、
マダガスカルゴキブリ以外の味見を紹介していませんでしたが
ゴキブリはペットの生き餌として、ペットそのものとして、多くの種が輸入され、
飼育愛好されています。

チョコ作りにはとりあえず3種を選んだのですが、
数カ月前に、とあるブリーダーの方から理由があり

多くの種をお譲りいただき、味見をしました。
複数種を食べ比べることで、「ゴキブリの味」というものを概観し、
今後の指針にしようとおもいます。

マダガスカルゴキブリは以前に食べましたのでこちら(前編 後編

続いてオレンジヘッドローチEublaberus prosticusの羽化直後個体。

飼育環境下では臭いが味はどうか。羽;クニュっとした食感とシコシコした歯ざわりが美味しい。昆虫の羽ではかなり美味しいレベル。頭部、芋系の香りと粒感のあるタンパクな味。全くエグみがない。胸部かなり美味しい。やはりサツマイモ系の香り。見た目できになるトゲも柔らかく、問題なく飲み込むことが出来た。腹部。やはりゴキブリ臭。集合フェロモンの強い匂い。味というかニオイがダメ。調理前に腸を切除するか、揚げて揮発させる必要があり。

アルゼンチンモリゴキブリ(デュビア)Blaptica dubia

外皮が比較的柔らかく食べやすい。茹でると少しゴキブリ臭。揚げればいけそう
ちなみに、このデュビアは、
昨年の蟲フェスでデュビアジャパン http://dubia.jpさんが
料理コンテストに使用し、脱皮直後の虫をつかったアヒージョ「ゴキージョ」を
出品し、大変おいしくいただきました。
野菜メインの飼育をすることが、美味しさの秘訣だそうです。

オガサワラゴキブリ


オオモリゴキブリ


こちらは採集品、オオゴキブリ


カプチーナ、と呼ばれる種


そういえば、やきそばにトッピングするとなんたら、
という騒ぎもありましたね。


当然ですが、原材料に記載されていない素材が入っていた場合、
食品の製造工程になんらかの問題があることが示唆されるため、
保健所に通報し、検査することが妥当でしょう。
エビ・カニアレルギーのある方の交差反応も心配です。

ただ、同時期にチェーンファミリーレストランでのo-157食中毒があり
その混入経路が不明のまま、当該店舗のみ3日間の営業停止処分だったことを考えると

同社の商品を全回収することは、
その危険性と照らしあわせてみると大きすぎる反応にも見えます。

余談ですが、
彼らが本格的に嫌われたのは、ビル化と関連していると考えられます。
「害虫の誕生」という本は

ハエや蚊などの、衛生害虫の成立と、
政府の国力増強政策が関連していることを示した良書ですが、

オビに
「なぜゴキブリは嫌われるのか」と
あるような、ゴキブリの害虫としての成立過程には
ここ数十年の現代の歴史がフォローされておらず、
もう少し説明が必要に感じます。

彼らは昔から木造家屋への侵入はありましたが、
「コガネムシは金持ちだ」という歌のように
有機物が豊富な、金持ちの家にしか来ない昆虫で
とりたてて嫌われるものではなかったようです。

数十年前でもハエや蚊、その他迷いこんでくる雑多な昆虫のうちの一つでしかなく
室内温度が氷点下になるような隙間風の多い日本家屋においては、
虫達は冬にはいなくなったものでした。(越冬するカメムシなどはいたようです)

平行して、
1970年代以降かねてからオフィスにしか使われてこなかったビルが
多目的化し、飲食店や住居として使われ始めました。

ビルは木造一軒家に比べて気密性が高く、空調によって
常に乾燥し、一年中温度が安定している、膨大な空間といえます。
そこからは、その土地に生息していたほとんどの生物が追い出されたのです。

ヒトを由来とする湿潤な有機物は、
公衆衛生の観点から、滞留させないことで、下水を整備し、
ハエや蚊の発生を抑制しました。

そんな中、ゴキブリは乾燥に耐え、温かいビルに適応しながら
わずかな有機物を齧ってゆっくりと成長し、
ビル内の環境への適応を果たしたのです。

彼らはそもそも衛生害虫でないので、
ビル内で殺虫剤を使うことは本来の用途でありません。
そのため、ハエや蚊の発生が抑制されたビル内の王者となったのです。

その根拠として、
ゴキブリ用途の業務用(害虫駆除業用)
殺虫剤が登録されたのが昭和53年。

http://www.pref.chiba.lg.jp/eiken/eiseikenkyuu/kennkyuuhoukoku/documents/15-p1.pdf

殺虫剤は農薬ですので、薬事法により用途(=目的昆虫の名前)が決まっています。
ビルに適応したゴキブリは、おそらく、当初殺虫剤を使用できなかったのです。

そこから見えてくるのは
「ビル管理者がゴキブリの苦情を害虫駆除業者に言い始めてから」
ゴキブリは嫌われ始めたといえるでしょう。

はたして、ゴキブリは
ビルというゴキブリに適した環境を提供しておきながら
そこに増えたゴキブリを害虫認定するというマッチポンプによって
日本一嫌われる昆虫の座をヒトによって与えられたといえるでしょう。

そのため、彼らはハエや蚊のような重篤な感染症の中間宿主となることはなく
感染症の運搬者となる可能性が指摘されているものの、それは潜在的なもので
カラスやタヌキ以下の低いリスクしかないものです。

徹底して駆除し、殺虫剤耐性ゴキブリを産むほどではないといえます。
今や感染症発生時のハエや蚊の駆除と同等の徹底ぶりです。

これでは、いざ彼らを媒介とする感染症が蔓延したときに、
殺虫剤が有効な封じ込め手段ではなくなってしまいます。

例えば病院では、抗生物質の使用を制限しており、
最も強力なバンコマイシンの利用は「奥の手」でありかなり慎重です。
それは耐性菌の発生を助長するものであり、院内感染の蔓延原因となるからです。

幸いなことに、というか不幸なことに、
そもそもハエや蚊ほど感染症リスクが高くないので
殺虫剤耐性ゴキブリが発生している現在も、
直接的な感染症のひろがりはありません。

また、
ニューヨークのゴキブリは、味覚が進化している可能性も指摘されています。


そもそも、根拠の曖昧なまま始まったゴキブリ駆除の要求は
「ほどほど」を失い、もはや
ゴキブリそのものよりも怪物となっているような気がします。

おそらくですが、殺虫剤の広告において
虫への嫌悪感を煽るマーケティングは、
薬事法の「優良誤認」を防ぐため、と思われます。

薬剤は消費者に効果を誤認させるような広告を使うと、
厚生労働省から是正勧告が入り、回収を指導されてしまいます。

そのため薬剤の効果を広告するよりは、対象となる昆虫の嫌悪感を煽るほうが
効果的であり、薬事法の面からみても安全だったのでしょう。
業務用殺虫剤から、家庭用殺虫剤への変遷は又の機会に紹介します。

もしその煽りによって、極度のゴキブリ嫌いになってしまった人がいたとしたら
ゴキブリに対する加害者というより、ゴキブリと共に、被害者といえるのかもしれません。

さて この話は

仮説や妄想を多く含んでおり、検証が必要な「言い過ぎな話」が多くあります。
なので、今の段階で、この話をさも教科書に載っている正しいことのように、
引用を明記しないまま拡散しないでください。

紹介、引用する場合はこのページごと紹介して頂くと、
私に反論がきちんと返ってきますので助かります。

少し暗い話になりました。
後半は明日、書き上げます。チョコで一年育ったゴキブリたちは
はたしてどんな味に仕上がったのでしょうか。