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甲虫類(鞘翅目)は、35万種とも言われ、昆虫中、
いや「動物中」最大の目
として記載されているため、
昆虫食を追求するには避けては通れないのですが
「あまりに巨大」な分類群のために、
なかなか攻められないでいました。
食べてはいけない!猛毒の マメハンミョウツチハンミョウ アオバアリガタハネカクシ
とってもおいしく香りもよい カミキリムシ
味が極めて悪いカブトムシ
幼虫は食べられるが成虫は食べられない ツヤケシオオゴミムシダマシ
などなど。
分類によって
食べられるもの、
食べられないものの多様性が大きく
「種」をきちんと同定しないと危険なため、
気をつけていきたい分類群です。
今回はその中でも
分類が難しい「オサムシ亜目」に目をつけました。
世界に25000種いると言われているそうです。
というのも今年の夏、
先輩が「エゾカタビロオサムシはサフランの香りがする」
と教えてくれたのです。
むむむ これは…

エゾカタビロオサムシ Campalita chinense
日本に分布するオサムシの中でも大型で
その名の通り肩が広く、
オサムシにしては珍しい「飛べる」オサムシとして有名です。
他の同定が難しいオサムシは
オスの交尾器の一部「ゲニタリア」を取り出し、(通称ゲニ抜き)
その立体構造から同定するとのこと。
ううむ…恐ろしい世界だ…
私はオサムシ初心者ですので
そこらに手を出す前に、外形からわかりやすい
ものから攻めてみましょう。
もしイケたら、他のも…
というか
オサムシ科のハンミョウが美味しくなかったので
じつはあまり期待していません。よく見るオサムシは臭いし。
明らかに刺激臭なので、まず
サフランの香りをウォッカに移してみます。
(2013年8月29日)
そして半年後、
よく浸かったエゾカタビロオサムシウォッカ。

黄色みがかって
甘い香りがしますが、サフランとはちょっと異なった香り。
もしかしたら酸化したのかもしれません。
飲む前に、
「毒がないのか」文献調査です。
1979年出版「昆虫の生理と化学」


兼久勝夫 博士の章では、
ゴミムシ類(オサムシ含む)の忌避物質を、
ガスクロマトグラフィーという揮発性成分の測定装置で分離・同定し
その物質名と、解剖した時の分泌腺の形態的特徴を比較しています。
この中で、
「エゾカタビロオサムシ」は、
他のオサムシからは検出されない
「サリチルアルデヒド」を60%も含んでいることを示しています。

その他は他のオサムシにも含まれるメタクリル酸 35% チグリン酸 4.9% とのこと。
この物質は香料として、バター、カラメル。
シナモンナッツなどのフレーバーに使用されるとのこと。
それでいい匂いがしたんですね。
ちなみに、
「サフランの匂い」のサフラナールはこんな形。

同じくアルデヒドで、サフラナールはベンゼン環が開いたような形。
よく似ています。ヒトの鼻というのもなかなか侮れないですね。
引き続き検索していると
エゾカタビロオサムシのサリチルアルデヒドを鱗翅目害虫の忌避剤に
という2006年の特許に当たりました。
エゾカタビロオサムシは畑における鱗翅目害虫の天敵なので、
害虫の成虫に、エゾカタビロオサムシの匂いをかがせると、産卵しに来ない
という特許です。
害虫のうち、
特に作物の保存性や食味を著しく低下させるものに
特異的な忌避物質、
ということでエゾカタビロオサムシの匂い物質の一つ、サリチルアルデヒドが
使われるそうです。。
ここでは
「酸化しないよう微量噴霧する」との特許事項が。
やはりアルデヒド。酸化しやすいのでしょう。
すると、
このウォッカの中で何が起こっているのでしょうか。
アルデヒドですので、長期間放置しても酸化します。
考えられるのは
サリチル酸。

いわゆる頭痛薬。アスピリン(アセチルサリチル酸)の前駆体です。
鎮痛作用はアスピリンと同様に強いのですが、
酸が強く、胃に穴が空くことも。これは恐ろしいですね。
少量では…大丈夫だとおもいますが
3頭のエゾカタビロオサムシを375mlのウォッカに分散させました。
オサムシの1頭の体積を2mlとしましょうか。
6mlのオサムシをおよそ62倍に希釈したことになります。
中に含まれている防御物質は、
1頭をそのまま食べた時の62倍の薄さになっています。
まとめてみましょう。
エゾカタビロオサムシに特異的に含まれる
ニオイ成分はサリチルアルデヒド
半年漬け込んだので一部は酸化してサリチル酸に。
他に含まれるのは
メタクリル酸 チグリン酸
なんだか酸っぱそうです。 笑
いずれも
香料として使われていることから、
不快でない匂いの範囲であれば問題ないと判断。
ちょっと飲んでみます。
(責任持てないので真似しないでください。)
香り:ウォッカのアルコール臭にまじって甘ったるいにおい。
スズメバチの焼酎漬けにも似た、やや標本臭もある。酸味系の匂いはしない。
味:なまぐさい。いわゆるオサムシ臭。
酸味はなくただ不快。ほわっといい香りがする分イラッとする。
口に入れないと生臭さがこないので不意打ち。くやしい。
エゾカタビロオサムシのサフラン臭はあるのですが
その他メタクリル酸、チグリン酸のオサムシ共通成分が
邪魔をしてきます。
これは難しい。残念です。
彼らの戦略はなかなか巧妙です。
マメハンミョウやツチハンミョウが
血液中に毒物質カンタリジンをもち、
敵に襲われると「出血」するのに対し
オサムシ達は防御物質専用の分泌腺を持っています。
そのため、体内に毒物質を循環させること無く、
そして分泌寸前まで比較的毒性の低い物質で保管し
分泌時に混ぜあわせて危険物質をつくることで
オサムシ自身への中毒の危険を防ぎ
「致死量」に特化せず、
突然不快な匂いを敵に浴びせることで
最大限の防御効果をもたらすのです。
イメージでいうとコレですね。
「ヒトを感知して芳香剤を噴霧する」

おそらく毎日撒くよりエコです。
逆に言うと、鱗翅目成虫の飛来を
感知してサリチルアルデヒドを噴霧するセンサーを作れば
かなり低コストで病害虫を防止できる、と考えられます。
畑は広大で、
そしてサリチルアルデヒドは酸化しやすいので、
噴霧装置自体が移動すると、なおよいでしょう。
そこで思い出すのは、
身長15cm、3万円ほど(という設定)の
殺虫用ロボット
「一撃殺虫ホイホイさん」

マンガの世界では、
殺虫剤耐性をもつGが拡大した、
という設定のようですが、
現状の費用対効果を考えると
農業用「一撃防虫エゾカタビロオサムシさん」の
商品化がより近い未来かもしれません。
エゾカタビロオサムシに擬態し
サリチルアルデヒドを噴霧することで
好奇心旺盛なカラスやネコの襲撃にも
備えることができます。
空も飛べ、丸っこいフォルムが愛らしく
そしてちょっと生臭いのがチャームポイントの
「一撃防虫エゾカタビロオサムシさん」
 
商品化、いかがでしょうか。
特に農工大の特許をお持ちの方。ぜひ!