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甲虫類(鞘翅目)は、35万種とも言われ、昆虫中、
いや「動物中」最大の目
として記載されているため、
昆虫食を追求するには避けては通れないのですが
「あまりに巨大」な分類群のために、
なかなか攻められないでいました。
食べてはいけない!猛毒の マメハンミョウツチハンミョウ アオバアリガタハネカクシ
とってもおいしく香りもよい カミキリムシ
味が極めて悪いカブトムシ
幼虫は食べられるが成虫は食べられない ツヤケシオオゴミムシダマシ
などなど。
分類によって
食べられるもの、
食べられないものの多様性が大きく
「種」をきちんと同定しないと危険なため、
気をつけていきたい分類群です。
今回はその中でも
分類が難しい「オサムシ亜目」に目をつけました。
世界に25000種いると言われているそうです。
というのも今年の夏、
先輩が「エゾカタビロオサムシはサフランの香りがする」
と教えてくれたのです。
むむむ これは…

エゾカタビロオサムシ Campalita chinense
日本に分布するオサムシの中でも大型で
その名の通り肩が広く、
オサムシにしては珍しい「飛べる」オサムシとして有名です。
他の同定が難しいオサムシは
オスの交尾器の一部「ゲニタリア」を取り出し、(通称ゲニ抜き)
その立体構造から同定するとのこと。
ううむ…恐ろしい世界だ…
私はオサムシ初心者ですので
そこらに手を出す前に、外形からわかりやすい
ものから攻めてみましょう。
もしイケたら、他のも…
というか
オサムシ科のハンミョウが美味しくなかったので
じつはあまり期待していません。よく見るオサムシは臭いし。
明らかに刺激臭なので、まず
サフランの香りをウォッカに移してみます。
(2013年8月29日)
そして半年後、
よく浸かったエゾカタビロオサムシウォッカ。

黄色みがかって
甘い香りがしますが、サフランとはちょっと異なった香り。
もしかしたら酸化したのかもしれません。
飲む前に、
「毒がないのか」文献調査です。
1979年出版「昆虫の生理と化学」


兼久勝夫 博士の章では、
ゴミムシ類(オサムシ含む)の忌避物質を、
ガスクロマトグラフィーという揮発性成分の測定装置で分離・同定し
その物質名と、解剖した時の分泌腺の形態的特徴を比較しています。
この中で、
「エゾカタビロオサムシ」は、
他のオサムシからは検出されない
「サリチルアルデヒド」を60%も含んでいることを示しています。

その他は他のオサムシにも含まれるメタクリル酸 35% チグリン酸 4.9% とのこと。
この物質は香料として、バター、カラメル。
シナモンナッツなどのフレーバーに使用されるとのこと。
それでいい匂いがしたんですね。
ちなみに、
「サフランの匂い」のサフラナールはこんな形。

同じくアルデヒドで、サフラナールはベンゼン環が開いたような形。
よく似ています。ヒトの鼻というのもなかなか侮れないですね。
引き続き検索していると
エゾカタビロオサムシのサリチルアルデヒドを鱗翅目害虫の忌避剤に
という2006年の特許に当たりました。
エゾカタビロオサムシは畑における鱗翅目害虫の天敵なので、
害虫の成虫に、エゾカタビロオサムシの匂いをかがせると、産卵しに来ない
という特許です。
害虫のうち、
特に作物の保存性や食味を著しく低下させるものに
特異的な忌避物質、
ということでエゾカタビロオサムシの匂い物質の一つ、サリチルアルデヒドが
使われるそうです。。
ここでは
「酸化しないよう微量噴霧する」との特許事項が。
やはりアルデヒド。酸化しやすいのでしょう。
すると、
このウォッカの中で何が起こっているのでしょうか。
アルデヒドですので、長期間放置しても酸化します。
考えられるのは
サリチル酸。

いわゆる頭痛薬。アスピリン(アセチルサリチル酸)の前駆体です。
鎮痛作用はアスピリンと同様に強いのですが、
酸が強く、胃に穴が空くことも。これは恐ろしいですね。
少量では…大丈夫だとおもいますが
3頭のエゾカタビロオサムシを375mlのウォッカに分散させました。
オサムシの1頭の体積を2mlとしましょうか。
6mlのオサムシをおよそ62倍に希釈したことになります。
中に含まれている防御物質は、
1頭をそのまま食べた時の62倍の薄さになっています。
まとめてみましょう。
エゾカタビロオサムシに特異的に含まれる
ニオイ成分はサリチルアルデヒド
半年漬け込んだので一部は酸化してサリチル酸に。
他に含まれるのは
メタクリル酸 チグリン酸
なんだか酸っぱそうです。 笑
いずれも
香料として使われていることから、
不快でない匂いの範囲であれば問題ないと判断。
ちょっと飲んでみます。
(責任持てないので真似しないでください。)
香り:ウォッカのアルコール臭にまじって甘ったるいにおい。
スズメバチの焼酎漬けにも似た、やや標本臭もある。酸味系の匂いはしない。
味:なまぐさい。いわゆるオサムシ臭。
酸味はなくただ不快。ほわっといい香りがする分イラッとする。
口に入れないと生臭さがこないので不意打ち。くやしい。
エゾカタビロオサムシのサフラン臭はあるのですが
その他メタクリル酸、チグリン酸のオサムシ共通成分が
邪魔をしてきます。
これは難しい。残念です。
彼らの戦略はなかなか巧妙です。
マメハンミョウやツチハンミョウが
血液中に毒物質カンタリジンをもち、
敵に襲われると「出血」するのに対し
オサムシ達は防御物質専用の分泌腺を持っています。
そのため、体内に毒物質を循環させること無く、
そして分泌寸前まで比較的毒性の低い物質で保管し
分泌時に混ぜあわせて危険物質をつくることで
オサムシ自身への中毒の危険を防ぎ
「致死量」に特化せず、
突然不快な匂いを敵に浴びせることで
最大限の防御効果をもたらすのです。
イメージでいうとコレですね。
「ヒトを感知して芳香剤を噴霧する」

おそらく毎日撒くよりエコです。
逆に言うと、鱗翅目成虫の飛来を
感知してサリチルアルデヒドを噴霧するセンサーを作れば
かなり低コストで病害虫を防止できる、と考えられます。
畑は広大で、
そしてサリチルアルデヒドは酸化しやすいので、
噴霧装置自体が移動すると、なおよいでしょう。
そこで思い出すのは、
身長15cm、3万円ほど(という設定)の
殺虫用ロボット
「一撃殺虫ホイホイさん」

マンガの世界では、
殺虫剤耐性をもつGが拡大した、
という設定のようですが、
現状の費用対効果を考えると
農業用「一撃防虫エゾカタビロオサムシさん」の
商品化がより近い未来かもしれません。
エゾカタビロオサムシに擬態し
サリチルアルデヒドを噴霧することで
好奇心旺盛なカラスやネコの襲撃にも
備えることができます。
空も飛べ、丸っこいフォルムが愛らしく
そしてちょっと生臭いのがチャームポイントの
「一撃防虫エゾカタビロオサムシさん」
 
商品化、いかがでしょうか。
特に農工大の特許をお持ちの方。ぜひ!

1

昨年のこと。
「話者として登壇して欲しい」と「虫cafe!」というイベントにお誘いいただきました。
渋谷のどまんなかのアイリッシュパブで、
虫のイベントがあるとのこと。
当時
昆虫食のため、
「昆虫学」をきちんと勉強し直していた折
とうとう
「虫屋」と呼ばれる世界に足を踏み入れたのです。
「商用に昆虫を扱うヒト」という単語ではありません。
ニュアンスとしては「茶人」に近いです。これもお茶の販売業者を指す言葉ではありません。


茶人(デジタル大辞泉)
ちゃ‐じん 【茶人】
1 茶の湯を好む人。茶道に通じた人。茶道の宗匠。
2 普通の人と違った好みのある人。物好き。風流人。


2ですね。圧倒的に2の意味で使います。
「虫屋」とは、虫好きのあまり、
人生の一部を献上してしまったひとのことを指します。
この時、プロかアマチュアかはあまり重要ではありません。
そこで、
昆虫食について、
そしてこれからの昆虫食には「昆虫学」が必要であることを力説してきました。
そんな中、TVチャンピオン 昆虫王の長畑さんのプレゼンのツカミのネタ。
「シラホシハナムグリとシロテンハナムグリの違いがわからない方はいないですよね 笑」
一同盛り上がる中、
分からなかった私は恥ずかしながら、決意したのです。
シラホシハナムグリとシロテンハナムグリの違いを味見を!
それから半年、
シロテンハナムグリを食べ
更に半年、
シラホシハナムグリProtaetia brevitarsis brevitarsisを手に入れることになったのです。

顔の先は丸く

大きな細長い「しらほし」が背中に見えます。
カブトムシの幼虫を他の実験に使う目的で採集していたところ
混獲されたコガネムシ科の幼虫を
室内で放置していたらいつの間にか蛹室を作って羽化していました。
脱皮後、
どうせシロテンハナムグリだと思い、どうしようか迷っていた所、
なんだかやけに手足が短く、ずんぐりしている。
これは!と思い

調べた所、シラホシハナムグリだとわかったのです。
この見た目ではほとんどわからない両者。
味でわかったら、、、味覚分類学の夜明けでしょうか。
半年前、というハンデを克服し、
いざ味覚による同定へ向け味見をしてまいりましょう。
味見
土の香があるがカブトムシのような強烈な臭さは全くなく、芋のように風味として楽しめレベル。けっこう美味しい。足が短いためか、そのまま食べても引っかからず食べやすい。やや翅が硬い。
シロテンハナムグリは


典型的なコガネムシ味。すこし外皮が薄く硬い感じ。土臭さはまったくなく、香ばしい。
マメコガネとよく似て、土臭さがなく香ばしい味ですが、若干固いですね。


と評していたので
残念ながら差はみられそうにありません。
道のりはまだまだ遠いようです。
ただ、季節が全く違うので、
ステージを揃えて来年、二種同時に食べ比べて
再挑戦したいと思います。
さて、
その虫cafe!。
今年も参加します。開催発表後、数時間で一杯になるという恐るべき集客率。
さすが虫屋、「旬に敏感」なのでしょう。
今年のテーマは「集え、虫人よ。」
今年もような「虫人むしびと」と集合できることを楽しみにしております。


虫人(デジタル大◯泉)
ちゅう‐じん むしびと 【虫人】
1 虫を好む人。虫道に通じた人。虫道の師匠。
2 普通の人と違った好みのある人。虫好き。風流人。


こんな項目が追加される日も近いでしょう。
「虫道=むしどう」早口でいうと武士道のようでカッコ良いです。
虫人も、
沖縄言葉のように「むしんちゅ」って読んでもかわいいですね。
ちなみに
虫人(見習)が楽しんだお茶の話はこちらにも。

「クリエイティブな仕事がしたい」ってさ
ずっと思ってきたし、これからもそうするつもり。
生活苦しいけど。
笑っちゃうけどさ、
はじめは学者とか目指したんだぜ?
論文とかぜーんぜん書けなくてあきらめたけどさ。
学者くずれなんて、今どきマトモなトコ雇ってくんないじゃん?
だからさ、
食うためだったら何でも引き受けたし、
とりあえず注目されたいから
カネもないのに最新のガジェットとかいちいち買ってレビューしてさ。
多少は修理できるようになったからまぁ良いけど。
ライターでもなんでもやったな
前に脚本の仕事も来てさ、
人形劇の。割に合わないし、本番とか全然客来ないの。
あれはしんどかったね。
一応さ、
コピーライターって名乗んのは
今までで一番ラクな仕事だったから。
たった数文字だけで食えたら理想だよね。
ひらめきは昔から誰にも負けなかったし。
そんなオイシイ仕事なんてほっとんど来ないけど。
不景気だし。
ぶっちゃけ俺、ゲイだからさ
どうせ結婚もできないし。今が一番大事なんだよ。
家業は妹につがせたし俺は用なし。
ここでやっと自由を勝ち取ったんだ。な?
あぁそうだ前さ、
めっちゃ好みの男と会っちゃって。お茶したの。
恰好もめっちゃ個性的でさ、俺好みの。
機能美あふれるっていうか?
なんかしかも短髪でガッチリしてて。ドストライク。
向こうもびびっと来たいみたいでさ、
目があった瞬間お互い固まっちゃったよ。
いやぁ運命的だと思ったね。
ついつい声かけちゃった。俺カレシいんのに。
んでさ、
立ち話もなんだからって早速お茶したんだけど
彼、何も言ってくんないんだ。黙っちゃって。
えらいカタブツ?なんか悩み事があるっていうか。
いまひとつもりあがんないし上の空っていうか。
そしたら深刻な顔して 「お願いがあるんだけど」ってさ。
ヤバいじゃん。宗教かカネって思うよねフツー。
「俺 借金あるからカネ以外なら」って
チャラけたらなんかそいつ「知ってる」て。全然笑わないの。
なんか気持ちわりいじゃん。ストーカー?なにそれって。
そしたらなんて言ったと思う?
「コピーライター辞めて欲しい」だってさ。
ワケ分かんないだろ?
さっきも言ったけどさ、
コピーライターあんま仕事ないけど、
ワリがいいのよ。ラクだし。
んで「タダではやめるわけにはいかない」って
もったいぶってみたの。
ちょっと下心もあったんだけどさ、
そしたら 
体で払う〜とはさすがに言ってくれなかったんだけど
「タダで、とは言わない」ってそいつ。
カネでもくれんのかと思ったら
すげえの、例のあのガジェットくれたの。
日本未発売だよ?すごくない?
ケースとか削り出しで高級感バリバリだし。
前のより相当バッテリー長持ちするらしいし。
あ、アンテナもよくなったって。
んでさ、仕方ねぇから。
そいつと約束したの。欲しいし。
「あぁわかったよ。もうコピーライターはやらない」ってさ
もう
とにかく使ってみたくて。
今レビューしたらめっちゃ人気アガんじゃん?
でもさ
持ち帰って線つないだらなんかぜんぜん動かないの。
充電できてないって感じ?
どこ触っても何も出てこないし。
まだ
中開けてないけど 騙されたのかな。
ちょっとキズあったから中古かも。
ウソつくような男には見えなかったんだけどな。
どうせパーツが出回ったら直すけどさ、
なんか今日
お前にも見せびらかしたかったじゃん。
え?理由?
よくわからねぇよ。
なんか?「ウナギが食べられなくなる」?ってさ、
こんなに店、すいてるのに。
大将!こんな空いててお店大丈夫!?
どうせウナギなんて夏売れないっしょ。
何なら俺 看板書いてやろっか!?
うーんと……
いやいいんだよ。
看板だからキャッチコピーじゃないし。
うーん
「本日…土用丑の日」ってのはどうだい?
売れそうな気がするだろ?
並2つでいいや。
こいつと二人前。
な、
ゼニもらってないし、
これならコピーライターじゃないだろ。


http://ja.wikipedia.org/wiki/平賀源内
元ネタ頂きました。

8

お待たせしました。
捌きます。
今回は卵用に長期間飼育されたもので、個人での飼育ですので、
サルモネラ菌を始めとする感染症について全く検査されていません。
サルモネラ菌は、食中毒を起こす代表的な細菌で
家畜やペット、特に両生類や爬虫類に保菌が多いようで
近縁の鳥類にも保菌者がいます。
ニワトリに関してはフンに含まれるほか、
生殖腺に感染することによる卵内部への侵入感染があるそうです。
そのため、卵の生食を行う文化圏は少なく、
日本の「卵かけごはん」は危険食品として
海外のニュスースサイトで話題になりました。
その対策として
卵の徹底洗浄や、ワクチンの投与が
行われているそうですが、
耐性菌の出現やコストの増加など、「本当に必要なのか」
きちんと判断する必要が有ると思います。


今回は安全性を優先させ
「圧力鍋でスープカレー」
を料理に選びました。
100度以上、高圧による殺菌は
細菌を利用した分子生物学実験においても
「滅菌操作」として利用されていますので
細菌感染はほぼ防げると思います。


さて。
ここからは
「屠殺者の主観」を重視しますので
再現性はないですし、客観性もありません。
ただ。個人の感覚ですので、
同様のことが起こりうる、として
読み進めてください。


飼い始め 1月9日
ニワトリを頂いた。メスのため
大変におとなしく、捕まえようとすると逃げるが、
掴んでダンボールに入れ、暗くすると落ち着いて動かなくなる。
大変扱いやすい。寒い中つかむと温かい。
トノサマバッタをやると活発になり、
頭を確実に突いて丸呑みする。とてもほほえましい。
家畜飼育者のアドバイスの通り、名前は付けない。
一日目、卵を産んでいた。これも後で頂く。
市販品に比べてフンにまみれていて汚らしい。
総排泄孔から出てくるのだから当然だが。


二日目
小型の出刃包丁を買う。
頸動脈を切るので切れ味がよいほうがよいだろう。
ニワトリの頸動脈を確認してみる。
捌き方をネットで確認する
夜に見に行く。
体を丸めて寝ており、ダンボールに入れてやる


土日
忙しくて割りと放置
朝にバッタとサトウキビをやる。
バッタを差し出すと間違えて突かれるが
攻撃として突くことはなさそう。あまり痛くない。


月曜午後
バッタの世話を終えた後、祝日だということで
日のあるうちに決行。先輩に補助と撮影をお願いする。
脚をガムテープで縛り、吊るす場所を近くの雑木林に決め、
決行


屠殺
羽根を押さえ、首元に出刃包丁を刺し、しっかりと骨に達するまで刃を滑らせる。
やはり暴れる。
一人では無理そうだったので補助は有りがたかった。
頸動脈が切れると黒みがかった血が たーっと出てくる。
勢いは1Lペットボトルのめんつゆを注ぐぐらい。
気管も傷ついているらしく、
口から泡を伴って血が出ており咳き込んだようになっている。
一分ほどで不規則に痙攣するようになる。
中枢が酸素不足により麻痺してくるので、
筋肉が不随意的に動くと思われる。
念のため3分間は押さえておく
静かになったら吊るして血抜きの続きを行う。
30分ほど放置する。
結果として目算で150mlほどの血が抜けた。


写真
先輩に撮影をお願いしたにもかかわらず
ニワトリの「状態の悪い」写真
(血が滴っていたり目が半開きだったり)
を撮影されることに対して不快感が湧いてきた。
屠殺者は
ニワトリに対して少なからず感情移入してしまうようで
屠殺によって直後は強めのストレス状態になっていると思われる。
この時、
屠殺の事実を明らかにする行為=撮影に対する後ろめたさと
殺されたニワトリへ残酷な行為があったと誤解されかねない被写体の状況
そしてニワトリを弔うにあたって写真がそぐわない、
というヒトの葬儀に似た感情が湧いてきた。
「親族の墓を暴かれる」ような羞恥心と違和感。


これらの感情について
ちょっと考察してみましょう。
「写真」は、
「被写体」「撮影者」「閲覧者」の最低3名。
被写体が複数の場合は被写体間の関係が想定されます。
「閲覧者」は、基本的に被写体に感情移入します。
そのため撮影者の意図は無視され、被写体の強烈な感情と
閲覧者とが直接対峙したように感じます。
写真メディアの強いところは「撮影者の存在感の薄さ」です。
被写体となった私は、強烈に閲覧者を意識します。
気分的には「突然公衆の面前」に立たされているのです。
どう思われるか、誤解されないか、
批判されないか、様々な感情が沸き起こります。
公衆の面前に堂々と立つには、「一般化」という作業が必要でしょう。
その社会に
一般的に受け入れられている行為に見えるようにする、
受け入れられない場合は、
その違和感を利用したメッセージ性があると主張する
でしょうか。
なので
「撮影される」と「自己を一般化(正当化)」しようとする感情が湧き、
私の脳内で再生される
公衆イメージに合うように撮って欲しい、と
思うようなのです。
撮影技術や機材に一定以上の水準があると安心感があるのはこのためではないかと思います。
「取材に一眼レフ」というのは被写体との信頼関係の上で重要なのではないでしょうか。
「ケータイで写メ」の不快感はこの逆だと思います。
撮影技術も機材も撮影者もなんのポリシーもない写真で
勝手なイメージを作られることに不快感を覚えるのです。
これは昆虫料理の時にはほとんど沸き起こらない感情で、
大変興味深い体験でした。
そして、この
「一般化」できていない屠殺中の写真情報を
そのままこのブログで公開するのは相応しくない、
と今のところ判断しています。
少なくとも
「アクセス数を稼ぐため」だけであれば、
ニワトリの死体の写真を利用するのは「悪趣味」に分類されるでしょう。
残念なことに、そしてありがたいことに、
現在は屠殺の現場は日常から離れています。
もしかすると今食べている肉は、
地球の反対側で知らない誰かが屠殺した可能性も大いにあります。
ブラジル産もも肉なんかよく流通していますね。
もし、日本において、ニワトリを生きたまま各家庭で買うことが主流で
どこでも屠殺が行われていたら
当然公開します。一般的な「ありふれた光景」だからです。
ですが、
今回はニワトリ食の残酷性を訴え昆虫食へ勧誘するもの
ではありませんし
写真情報は、勝手にこのブログから切り離され独り歩きしてしまいます。
幸いなことに、
文章による表現はかなり刺激の強いところまで許容されていますので
このまま文章での公開にしたいと思います。


精肉
ニワトリのさばき方は
習った通り、初心者向けの「4つばらし」にて行います。
まずは血抜きしたニワトリを
65℃の湯にくぐらせ、羽根をとれやすくします。
丹念に羽根をとり除きます。
もも肉、胸肉、ササミを切り離し、
砂肝と肝臓、心臓、頭を残して捨てることにします。
消化管内容物との接触は感染症リスクを高めますので
できるだけクリーンな部位として確保したいものです。
内臓を傷つけないよう、そして感染症リスクを下げるため
決してケガをしないよう、最新の注意をはらいます。
羽をむしった1.32kgの鶏に対し
 
肉(もも・むね・手羽・肝臓・心臓・砂肝)は700g、
鶏ガラは640g
およそ半分が食肉になりました。


料理
すべての料理は死体写真です。
なので、調理は「死化粧」といってもいいかもしれません。
調理への気配りはその料理の姿として現れます。
そのため「料理写真」は調理者のメッセージが含まれていると言っていいでしょう。
刺し身や活き造りも「残酷」というのはたやすいですが
殺して活力を失った魚の魅力を、料理で再現し、みずみずしい新鮮な印象
復活させることに成功しています。それには料理人のプライドと技術が必要です。
私の目指すのもこのあたりだと気づきました。。
昆虫の生きていた当時の印象を守り
昆虫の命に思いを馳せる料理ができたら、と思います。


話はそれますが
「欧米では〜」という観点が押し付けられることがよくあります。
欧米は市民が議論を尽くし政治的な判断をすることが根付いています。
それは数多くの革命の失敗の教訓です。
そのため、欧米から論を輸入すると「一見根拠がしっかりしている」と感じます。
ですが「自らが議論に参加せず鵜呑みにすること」こそが、
彼らが最も恥ずべきこととして議論を研鑽してきたのですから、
当然、欧米から論を輸入する我々日本人は、大前提として、鵜呑みにしてはいけません。
そこを起点に、長期に渡る議論が展開できることが理想です。
活き造りやクジラ食など、欧米で議論が整理され「わかりやすく編集」された
論で批判されると納得しがちですし「他国の文化に口出すな」と感情論が起こるのも
その「わかりやすさ」のパワーへの反発といえるでしょう。
ですが、
「神に近いNo.2のヒト」が「他の生物のヒエラルキーを決めること」に
何ら違和感のない欧米に対し、(かつて黒人はヒトではないとヒエラルキーが定められました)
日本は八百万の神、と言われる「すべての事物に神が宿る」
という観点があり、私はこちらの観点が優れていると思っています。
そのため、
養殖用の家畜でも、植物でも、微生物でも、野生の動物でも
すべての命が神様であり、尊いのです。そして感謝しながら食べることが
「いただきます」なのです。
植物だけが欲しいからとムダに虫を殺戮したり
ゲテモノだからと筋肉以外の部分に口を付けなかったり
賢い神様の順番に勝手に序列をつけるような、無礼な真似はできないのです。
(いただきますの代わりに神に感謝する欧米とは決定的に異なりますね)
議論は「わかりやすい概念」だけを取り出すためのものではありません。
わかりやすい概念の奥にある、とても大事で言語化しにくい「わかりにくい概念」
をあぶりだすために使うべきだと思っています。。


話を戻します。
今回は衛生面に自信がなかったため
圧力鍋を使ったスープカレーにしました。


材料
玉ねぎ 2個
セロリ 1本
生姜  ひとかけ
トマトピューレ 一缶
ヨーグルト 150g
ギャバン カレー粉 適量

(これ、安くてかなり美味しいです。)

鶏肉(骨付き)
醤油
ナンプラー
エリンギ
野菜系の材料をすべてフードプロセッサーで破砕し
鶏を漬け込んだ後エリンギとゆでたまごを加え
圧力鍋で30分煮込みました。
ニワトリの力強い脚と、卵という恵みを
スープカレーで味わう料理になりました。
シンボルとして
トサカを真ん中にトッピングしています。
今までの昆虫料理写真と共通するのですが
「生きていた当時を思い起こさせる料理写真」
あることを重視しました。


味見
通常鶏ガラを使ってきちんとダシをとらないと
薄味で、味気なくなってしまうスープカレー。
年をとったニワトリは「丸鶏」と言われ
ラーメンスープにも使われるほど言いダシが
取れるとのことなので期待したのですが。
脚や手羽の骨しか入れていないのに
濃く、いい味のダシがとれています。

ウロコがあり、鶏が恐竜の子孫であることを再認識。筋張っており食べるところは少ない
もも肉
若鶏よりも筋張っており、昆虫も鶏も年をとると筋張るのは共通であることを確認。噛み切るのが難しいほど硬いが、とても味が良く旨味が強い。
通常食べている「鶏肉」が、
50日飼育したブロイラーというたった一日の味でしかないことを実感。
胸肉
やや硬いが味がしっかりしており、パサパサというかムッチリがっしりした肉。
筋張っているが弾力もあるので、胸肉のパサパサ感が苦手な人は年取らせたほうがいいかも。かなり食味が良好な部位。
手羽先
肉がだいぶ少ない。皮下に繊維が発達しており、肉と皮とが一体となったしっかりとした噛みごたえ。味も強く美味しい。羽根の取り残しが多く、食味を低下させるのできっちり羽根は取る必要がある。
トサカ
プリプリで食べやすく、味もしみており大変美味しい。もっと欲しいが貴重なので味見程度。
心臓
プリプリとしており食べやすい。やや血の匂いがするが市販品レベル。これも年寄りだからといって味が強いわけではなさそう。
肝臓
血なまぐさくなく、風味があってとても美味しい。いわゆるレバーの味。ここは若鶏とほぼ変わらない印象。
砂肝
内壁が肥厚して硬くなっており、ほのかな苦味がある。市販品よりもクセが強い印象。色もやや黒いかと。
噛みごたえはバツグン。

市販の卵も年寄りから生まれているので全く変わらず。


まとめます。
1,家畜の解体が一般的でない現代において、ニワトリの屠殺は昆虫に比べストレスが多く、屠殺者が動揺することがわかった。
2,大型の動物、しかもヒトに近縁の動物は共通感染症の危険が高く、可食部位も限られているので食べるまでの作業量が多い。(屠殺からカレーづくりまで3時間)
3,「一般的でないもの」特に動揺の大きいコンテンツに関しては、編集し一般化するか、メッセージ性を持たせてから社会に発信しないと逆効果であったり誤解を招くリスクがある
4,料理は死化粧である。日本の料理は「素材が生きていた姿」を想起させることで、
そのみずみずしさやありがたさを感じさせる調理法といえる。
5,料理研究家は、一般に違和感のある料理を発表、提供することで研究成果をメッセージとして発信する人物である。(平野レミさんは料理愛好家)


最後に
私の食べ残しは我が家のマダゴキたちが食べてくれました。
たった一晩で
骨格標本にできそうなほどいい仕事しています。

ごちそうさまでした。

1

ニワトリの食性と消化を見ることができたので、
次に
「ニワトリを食料として利用する」
ということを考えてみましょう。
ニワトリは高効率な動物として知られています。
食肉用のブロイラーでは、2kgのエサを与えると800gの体重増加します。
この割合を(0.4)「飼料要求効率」といいます。
同じニワトリ用のエサを使うコオロギも(バラつきますが)近い値を出します。
同じ指標でウシは 0.1以下と言われていますので、
ニワトリやコオロギは特に効率的な動物といえそうです。
また、
卵用のニワトリは性成熟までに100日飼育する必要がありますが、
飼料効率1.0、つまりエサを食べた分だけ卵になる、という
恐ろしい効率を示します。
(飲水と水分含量が含まれていないのであくまで目安ですが)
さて
ニワトリという動物の「戦略」について考えてみましょう。
原種はキジ科の「赤色野鶏」
と言われています。
キジといえば日本の国鳥、
近所でもけっこうな数がうろうろしています。
このあたりは元々昆虫の研究所だったことから、
圃場には殺虫剤が撒かれておらず
このブログで紹介してきた数々の昆虫が豊富にいますので
キジにとってもいい環境なのでしょう。
昆虫や穀物など何でも食べ
いつもトトトっと歩き
よっぽど驚かないと飛びません。
体も重そうです。
盛んに飛ぶ鳥と比較して
軽量化に重点を置いていないようですので
おそらく消化に特化しているのでしょう。
お腹もでっぷりとして重そうです。
鳥類の消化の大きな特徴といえば
「アンモニアの処理」
でしょうか。
生物は、窒素化合物の代謝に伴い、
毒性の強いアンモニアが発生してしまうので、尿素に変換し
我々哺乳類は尿として大量の水とともに
排出します。
ところが、爬虫類や鳥類は「尿酸」という
固体にして総排出口からフンとして排出します。
そのため、水の利用効率が高いのです。
ウシは一日に60リットルもの水を飲むとのことで、
水を節約する食肉生産には、鳥類はもってこいです。
(バッタも草だけで飲水する必要はないので、ウシよりも水の節約に向いています。)
体温の保持も脂肪ではなく「羽毛」
暖かい空気を保持し、冬の寒さの中でも代謝に適した高温を保つことができます。
冬にダウンジャケットを着てみると、羽毛の偉大さが身にしみることでしょう。
「体温の保持」は冬に成長できない変温動物には勝てない利点です。
そのため
豚やウシのように皮下脂肪が層状に貯まることはなく
硬い皮膚も要らないので
ニワトリの羽根をむしると、
黄色い脂肪がうっすらついた柔らかい
(取り除かなくても食べられる)皮膚が
ついています。
また、家畜化にあたって「飛ばない」個体を選抜することで
管理を容易にし、飛翔によるカロリーのロスを減らすことができます。
逆に、セキュリティは下がります。
イタチやヘビの襲撃に対し、飛翔して逃れることはできませんので
ヒトが何らかの方法で守ってやる必要があります。
エサは、10%~20%のタンパク質が必要とされ、
植物性タンパク質だけでは産卵率や孵化率が下がってしまい
卵や肉の味やニオイへの影響から、
肉骨粉や魚粉が最も多く利用されています。
肉骨粉はバイオマスの「再利用」ではあるのですが、同じ生物間
で何度も循環させると、感染症を培養する危険が高く、プリオン病の原因にもなります
「魚粉」に関しては、以前からふれているように 
「完全採集品」です。大規模な漁船で魚群を追い、
カタクチイワシなどの小魚を一気に捉え、ミンチにします。
海は広大なので、
その資源量がどれほどか、確実なことは言えません
ただ、年々ハイテクになる漁法に対し、漁獲量は年々減っているのです。
現状では確実なことは言えませんが
他の飼料原料が農産品=在庫管理が可能であることと比較すると
「採集品」は資源管理をずさんにし、乱獲したほうが楽に低コスト化に成功しますので、
経済的な指標ではなく、
行政としての国際的な管理が必要です。
逆に言うと、
魚粉以外の「おいしい動物性蛋白質」が農産物から作れたら
魚粉の高騰による経済的ダメージの回避や、禁漁などの強制力の強い
資源管理の発動も楽に行えるでしょう。
ここでは養殖昆虫の飼料化に期待したいところです。
温室効果ガスの計算も
なかなか難しいのですが
家畜による食肉生産を「エサを準備する段階」も含めた計算方法を取る場合
農産物を栽培する際に必要なエネルギーは算入するものの、
輸送や捕獲のエネルギー、エサ生物の代謝に伴う温室効果ガスなど
「数値予測が難しい」項目については、やむを得ず無視していることがあります。
なので、
エサに魚粉が含まれるコオロギやニワトリは、ウシ(穀物や牧草)やカイコ(桑)
よりも低く見積もられていることもあるのです。
魚粉は栄養価が高く、ミンチになっており消化効率もよいので、
それらが
「温室効果ガスゼロ」で供給されるとすれば、当然低い値になります。
一方、草を消化管内で発酵させ、
強固なセルロースからエネルギーを取り出すウシは、
多くの副産物(メタンなどの温室効果ガス)を発生させてしまいます。
脊椎動物にはセルロースの消化酵素をもつ種は居ないので、
微生物を利用する必要がありますし、ウシによって酵素効率の高い温度が保たれるわけですから
特に寒冷地においては、牧草をタンパク質に変える優秀な培養装置です。
このように
科学的な指標を用いても
「絶対的に汎用性のあるモノサシ」というのは存在しません。
モノサシの特徴を捉え、比較したい項目についてきちんと比較できているか、
考える必要があるのです。
思いの外
長くなりました。
すみません。
次回「後編」にて調理し、味見します。

2

昆虫食をやっていると言うと
「昆虫を食べるなんて可愛そう」

言われることがあります。
特に
昆虫を身近に感じている小学生が、
とても素朴な感性でレスポンスしてくれます。
真当な質問ですし、私も食べる時そう思います。
こういう時はチャンスです
「じゃあ鶏や魚はかわいそうだと思う?」
と聞いています。
ううん〜? と
首を傾げる小学生。
いまひとつピンときていないようです。
さて。今回は
昆虫の食べ方がそろそろわかってきたところで
「逆にニワトリを食べてみる」

に挑戦したいと思います。
昨年8月に、単位取得のため実習で
血抜き済みのニワトリの精肉方法を習いましたので
「失血死させるところから」きちんとやっておきたい。
そして、
昆虫食を作る時との「主観的な情動の動き=感情」を
比較してみたいと思いました。
ちょうど知り合いの方が高齢の雌鶏を
処分するとのことで
譲ってもらえることになりました。
年明けの1月9日に譲り受け、1月13日に食べました。
食肉処理は次回に報告しますので
前編として、ニワトリにトノサマバッタと、
バッタの食べ残しであるサトウキビの芯を与え
その消化の様子を観察しましょう。
そこから
「サトウキビのモノカルチャー経済における自給的バッタ(ニワトリ)飼育」
を考えてみます。
ニワトリにバッタを与えると
活発にバッタに食いつきます。

この時、確実に頭部を一回攻撃を加え、
バッタの動きが鈍くなってから頭から食べます。
バッタが抵抗した場合は、二度三度地面に打ち付けてから丸呑みします。
このニワトリは
飼育中にバッタを与えたことはないそうなので、本能行動だとすると、
キジ科を由来とするニワトリにとってバッタは生得的な食料であったといえそうです。
次に、
バッタの食べない硬い部分、サトウキビの芯を与えました。
まず、喉の下の方、「そのう」と呼ばれる消化管の膨らみに
丸呑みされたバッタやサトウキビが溜まります。
ニワトリを初め多くの鳥類は「丸呑み」ですので
かたちが残っています。90g入っていました。

次に、「砂嚢=筋胃」と呼ばれる、いわゆる砂肝の部分で
強力な筋肉をもってしっかりすり潰されます。

ここでは、繊維状ではあるものの、
バッタの姿は消えてしまいました。
ニオイは胃酸の酸っぱい臭いと、
バッタ由来と思われるエビ系、及び植物系のニオイがします。
フンに繊維は残っていますが、下痢をすることもなく、きちんと食べて分解しています。
そしてフン。ここにはもう
バッタの姿はありません。

以上から、
サトウキビを使ってトノサマバッタを飼育すると
サトウキビの芯とバッタを与えることで、
ニワトリの二次養殖ができる可能性が見えてきました。
(もちろん不足する栄養素を調べる必要があります。)
ここから、
さとうきび畑のあるモノカルチャー経済の地域において
具体的な提案ができるかもしてません。
さとうきびはC4植物で、
作物の中で最も光合成効率が高いため
熱帯の発展途上国における商品作物として
広大な畑がつくられ、安価な砂糖が先進国に輸出されています。
それらの畑には、
本来は自給用の作物が植えられていたのですが
現地の人々は、さとうきび畑に変えることで、現金収入を得ることを選びました。
彼らは、サトウキビ栽培で得られた現金を使って国内の市場で食料を買うのです。
畑は、光合成効率の高いサトウキビに換えられたことで
土中の栄養分がグングン消費されてしまいますので、
段々土壌が痩せていきます。
そのため、
一度サトウキビに換えられた畑は、
元の自給用作物を植えてもうまく育たないのです。


砂糖は先進国で大量に消費される「手堅い」食料源として
フィリピンやタイなどの温暖な発展途上国で盛んに採用されました。
ところが、
オーストラリア産の甜菜糖や
アメリカ産のコーンを原料とする異性化糖(果糖ぶどう糖液糖)
などの台頭により1985年、砂糖の国際的な価格が暴落し
大きな打撃を受けてしまいました。
サトウキビの現金収入だけでは
食料が十分に買えなくなった住民は
自給的農作物を求めたいところですが、
先ほど述べたように、一度サトウキビ畑にすると
自給的作物の栽培には戻せません。
そのため、経済的な打撃を受けてしまうと、
「豊かな畑の中で飢餓になる」という
危機的な状況を招いてしまったのです。
逆に言うと
「売れなくても食える・保存できる作物」
というのは、
飢餓リスクを考えると非常に安全だといえるのです。
「売れなくて高コストの米」を国内で作るかどうか、
日本の経済が暴落し、海外の米が買えなくなる可能性をどの程度見積もるか、
海外の気候が変動し、米の禁輸措置をとる可能性をどの程度見積もるか。
難しい話です。


今回の観察より、
砂糖が売れない時、
サトウキビ畑でバッタを養殖し、
そのバッタを自給的に食べていれば、
もしくは
サトウキビの芯とバッタを使って、ニワトリを二次養殖し卵を食べていれば
サトウキビを自給作物として利用出来たかもしれないのです。
ここから考えられる
植食性昆虫利用の優れた点として
時間がかかる、あるいは不可逆な転作を行うこと無く、
最終生産物を短期間で(バッタが成虫になるまで30日)変えられる点が、
不安定化する農産物価格のリスクを抑える方法として有効になるかもしれません。
今回は長くなったのでここまで。
次回はニワトリでスープカレーを作ります。
その時の
「屠殺者の主観的な情動」に注目して
昆虫とニワトリとを比較しました。
もちろん廃棄率も計算しています。
なかなかいい経験ですね。
では次回までお待ちください。

冬になると
昆虫はぐっと減ってしまいますが
皆死んでしまったわけではありません。
どんな昆虫も何らかの方法で越冬しています。
成虫越冬するツチイナゴやクビキリギス
卵越冬するカマキリなどなど
そして
朽木の中で
幼虫越冬しているのが今回のターゲット達です。
白っぽく朽ちたクヌギを手で割ると、
中から越冬中の幼虫が出てきます。
ユミアシゴミムシダマシ Promethis valgipes

ゴミムシダマシといえば
メジャーな食用昆虫「ジャイアントミールワーム」もこの一種です。
成虫ではキマワリもゴミムシダマシ科でした。
名前が似ていますが、
「ゴミムシ」とは異なる科なので注意が必要です。
このユミアシゴミムシダマシは
クワガタと一緒にいるのをよく発見されるそうです。
「同じ食性の違う種」の比較が楽しめそうですね。
いつものように塩ゆでしてポン酢で頂きます。
味見
芳しい木の香り。鼻に抜ける香りの強さもよい。
やや土臭さがあるものの、茹ででこの程度なので全く問題なし。
内部は水っぽく、すぐに殻だけになってしまい少々味気ないが臭みがなく良い味。
もしかしたら越冬虫は「ニオイ」による哺乳類の探索を避けるために
昆虫らしい臭みを隠しているのかも。要検討。
続いてコクワガタ Dorcus rectus

パエリアの製作時に成虫を二度揚げして食べたのですが
外皮が硬くて苦労しました。
今回は柔らかい幼虫。揚げると風味がよく美味しいのですが
茹でたらどうでしょうか。
味見
内部はほとんど液状。やや土臭いが旨味がある。シラカバ樹液のような味。
キノコ系の収斂味もあるのでカミキリに比べるとあまり美味しくない。
外皮は柔らかく口に残らない。頭部のカリッとした食感がアクセントに。
朽木の幼虫では
予想に反しコクワガタよりもユミアシゴミムシダマシの方が美味しい結果となりました。
冬の昆虫もなかなか奥が深いですね。

1

冬の雑木林を歩いていると
数枚の枯葉が
糸で紡がれぶら下がっていました。
なにか鱗翅目の繭だろうと思い
そっと中を見てみると。
レッド数の子!

調べた所、ジョロウグモの卵塊だそうです。

卵塊の周りはこんな感じ。
ジョロウグモ
以前に味見しましたが、枝豆のような風味のある味の良い虫で
秋の産卵直前がとても美味しいと紹介しました。
この卵ですので味に期待が持てます。
おせつ料理でも挑戦したバッタ数の子ですが、
予想に反して味がいまひとつだったので
冬にとれる貴重な食材として注目です。
味見:塩ゆですると赤から濃いオレンジに。ブラッドオレンジのような配色。
濃厚なチーズの香りをまとった数の子の食感+たらこの濃い味。
これは冬の珍味ですね。とても美味しいです。醤油とみりんに漬け込んでご飯に載せたい味。
貴重な冬の味覚ですが、
イクラの色と数の子の食感を持つ素晴らしい食材です。
以前に味見した「白キャビア」ともいえるジグモの卵も大変美味しかったので
「蜘蛛の卵にハズレなし!」と(今のところ)いえそうですね。
クモは基本的に肉食なので、
食料生産の観点から見るとややコストの大きい食料源です。
しかも卵塊を丸ごと食べてしまうと多くの個体数を殺してしまうことになります。
なので
この情報によって食べたくなった方は、
できればお腹いっぱい食べるのではなく、
嗜好品。味見程度におさえていただければと思います。
いやーしかし美味かった! 久々の大ヒットでした。

4

最後に
全てを盛りつけ
まとめてみましょう

お節足料理(おせつたしりょうり)
お品書き
エリサンの大陸海老
殿様飛蝗の紅白蒲鉾
ちょろぎ風エリサン蛹のなます
黒豆風毛深赤茶黄金の甘煮
鳶色雀の休眠雑煮
モパ煮付け
栗虫金団
小翅蝗と殿様飛蝗の田作り
殿様飛蝗と蟷螂の数の子


今回は昆虫が少ない冬に
ストックの冷凍昆虫を使って、限られた中、料理をしました。
本来のおせち料理もこんなものだったのだと思います。
寒く、
食料が不足しがちな冬に
新年を越すことが出来た喜びを
できるだけ美味しく
栄養が豊富で彩り良く
豊かな食事で迎えたい、
みんなが食卓に座って分かち合いたい。
そんな思いを感じました。
今回のおせちは
あくまで「ちょい足し」ですので
素材から作る手間はもっと大変だったと思います。
そのうち
全ての「おせつ料理」を
素材から作れたら、と思います。
このように、
郷土料理をなぞること
その料理に含まれている意義や知見
汲み取れたら
昆虫料理開発としては成功だと思います。
料理をすりつぶして機械にかけて、
栄養がああだこうだと解析できるのは、
文化のごくごく一部であることを
肝に銘じなければなりませんね。
今回の収穫は「保存」と「休眠」でしょうか。
ということで長いシリーズになりましたが
これにて「おせつ料理」シリーズは終わりです。
ごちそうさまでした。
喪中につきあけおめとは申しませんが
今年もよろしくお願い致します。
むしくろとわ

前回は
モパニワームの乾物を使い
傷みやすい昆虫の「保存」について考えました。
昆虫は死ぬと短期間で傷んでしまうので
食材としてきちんとした保存方法の確立が必要です。
塩漬け(タガメ)
水煮缶詰(アリの子)
佃煮(イナゴ)
乾燥(モパニワーム)
いずれも他の食材と同様に用いられてきた保存方法です。
更に
昆虫には未開拓の保存方法があります。
それは「休眠」です。
といってもヒトは休眠しないので
ピンとくるのは休眠の一種、「冬眠」でしょうか。
クマやヤマネは冬になると体温を下げ、代謝を抑制し
エネルギーを節約する「休眠状態」になります。
哺乳類の場合、寒さがきっかけとなりますが
他の生物はそうとも限りません。
トノサマバッタのメスは、
日の長さ・日長に応じて
休眠卵と非休眠卵を産み分けます。
本州のトノサマバッタは年2回発生します。
春先に孵化した幼虫は、6月後半に非休眠卵を産み
その後すぐに第二世代が孵化します。
一方で、
秋にさしかかり、日長が短くなってくると
それを察知して、冬眠用の「休眠卵」を作ります。
この休眠卵、室温に放置しても全く孵化しません。
ゆっくり温度を下げ、およそ一ヶ月4℃の低温にさらすと
休眠状態が解除されます。
その後室温に戻すときっかり10日後に孵化するのです。
また、4℃のまま保存すると、
半年から一年は80%以上の確率で孵化します。
卵だけでなく、
幼虫やサナギ、成体も休眠状態になるのが昆虫のスゴイところです。
以前紹介したエビガラスズメ
日長をきっかけにサナギで休眠するので、
15℃の部屋で半年以上保存できます。
幸いなことにサナギのエビガラスズメは大変おいしく、
「食べごろ」が保存できる点で、他の生物より
昆虫の休眠の食品保存への利用価値は高いと思われます。
鱗翅目は前蛹がおいしいので、
「前蛹で休眠」する都合の良い鱗翅目がいればいいな
と思っていた所、
以前に紹介した激ウマのトビイロスズメがなんと、
前蛹越冬するとのこと。
越冬させてみました。

写真上、家庭用冷蔵庫で 10月中旬から3ヶ月保存したもの。
冷凍焼けして茶色くなってしまったトビイロスズメです。
写真下、同じ期間を湿度を管理して常温保存した前蛹
だいぶシナシナですが、「生きています」
触るとピクピク動きます。
これを雑煮に仕上げました。

味見
冷凍トビイロスズメ
冷凍によって劣化しているかとおもったが、多少脂質のニオイがするが味は相変わらずよい。
上手に作った卯の花と同じぐらいの旨味とコク
休眠トビイロスズメ
外皮がかためになっているが相変わらずうまい!大豆の香りと濃厚な旨味。
歯切れがよく口に残らない外皮も美味しくいただける。
冷凍保存の電力エネルギーを考えるとこの美味しさは見事。
食品保存の新たな地平、「休眠」
昆虫を使って切り拓いてみたいと思います。
冷凍冷蔵技術が未発達な地域における
食品廃棄、及び
遠隔地への食料調達労働の頻度を
減らせるのでは、と考えています。
市場への食品の買い出しを行う
児童や女性の労働時間を減らし、教育へと向けることができれば
昆虫食がそれこそ「世界を救う」事になるかもしれません。